富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,356 / 3,215

「般若」オープン計画 Ⅴ

しおりを挟む
 「般若」のホームページのことが決まり、俺が次にヤマトテレビの話をした。

 「週明けには連絡が行くはずだ。もう大体の方針は固まっているからな」
 「赤虎、お前ヤマトテレビにも伝手があったんだな」
 「あ、ああ。まあ、一応大株主っていうか、傘下っていうか」
 「なんだ?」

 俺は簡単に、御堂の衆議院選での顛末を話した。
 青と涼ちゃんが驚く。

 「一度はスポンサーの各企業とかから総スカンを喰らってなぁ。株価は毎日ストップ安でよ。だから双子がガンガン買い集めて、うちが経営陣を総入れ替えして俺たちのものにしたの」
 「「!」」
 「まあ、そういうことでさ。割と自由に出来るんだよ」
 「赤虎、お前……」
 「……」

 青と涼ちゃんが呆然としていた。
 俺は構わずに話を続けた。

 「それでな、お前の店の紹介はさっきのホームページの内容でほぼ大丈夫だろう。ああ、刺青の話はどうすっかなー」
 「それも入れてくれ」
 「まあそうだな。ホームページに載せるんだもんな。正直に行くかぁ。それと店の外観や料理の映像。ああ、誰か感じのいいキャスターとかに食レポしてもらうか」
 「あ、ああ」

 青は段々と落ち着いて来た。

 「そうだ、カスミと涼ちゃんの制服ってどうすんだ?」
 「え、エプロンを掛ければいいかと」
 「そうは行かんだろう。まあ、急いで用意すっかぁ。ルー、ハー!」
 「「任せて!」」

 双子が返事をし、青が不思議そうな顔をした。

 「おい、どうするんだ?」
 「ああ、こいつら「RUH=HER」のオーナーだからな。服飾は任せてくれよ」

 「マスター! ちょ、超有名なブランドのお店ですよ!」
 「そうなのかよ!」

 涼ちゃんが驚き、双子がニコニコして言った。

 「すぐに用意するね!」
 「カスミさんと涼ちゃん、後で採寸させてね!」
 「え!」

 涼ちゃんが驚く。

 「涼ちゃんもテレビに出るんだからさ。制服があった方がいいだろう?」
 「えぇ! 私も出るんですかぁ!」
 「当たり前だろう。「般若」の大事なスタッフなんだからさ」
 「そうなんですかぁ!」
 
 今は驚いているが、どうにかなるだろう。
 基本的に肝が据わっている子だ。

 「それよりも、青。お前がテレビで語る内容だな」
 「ああ」

 事前にインタビューの内容は教えてもらって、答えを俺と一緒に用意する。
 中でも重要なのは、店に押し寄せる人間に対することだ。

 「ローマ教皇の談話も入れてな、そこからの話だ」
 「でも、ローマ教皇庁に許可がいるだろう?」
 「そこは任せろ、何とかする」
 「ああ、頼むな」
 「それから長崎の犬浦聖堂教会が流しているお前の店の評判だ」
 「ああ」
 「好意でやってくれたことだから否定は出来ないよな。だからお前は連日押し寄せて来る人たちを見て困惑していると」
 「その通りだからな」
 「お前は「般若」をどういう店にしたいのか語れよ。その上でしばらくは予約制を敷かなければならないことと、でも、お前が本当はどう思っているのかということだ」
 「ああ、分かってる」

 それを語ってどうなるのかは分からない。
 「般若」に来たいと思っている人間は全国にいるだろう。
 その気持ちは有難いことだし、変えることも出来ない。
 何しろローマ教皇が絶賛し、そして自ら実際に足を運んだ場所なのだ。
 だが、その人たちの心の中に、青の心が入ってくれればと思う。
 どうなるのかは全く分からないが、その心を入れることはやりたいと考えていた。

 テレビの方の大体の打ち合わせも終わった。
 カスミと涼ちゃんは採寸のために双子に連れて行かれ、その後で亜紀ちゃんに誘われて部屋を観るのだろう。
 柳も一緒に付いて行き、ロボも何か楽しそうなのでそっちへ行った。

 青と二人になった。

 「赤虎、また世話になった」
 「いいって」

 青がグラスに注いだワイルドターキーをやっと口へ持って行った。
 酒は出したが、やはり青は一口も飲まなかった。

 「美味いな」
 「俺が好きな酒なんだ。聖と飲むときはいつもこれだよ」
 「あいつか」
 
 青も懐かしく思い出しているようだった。

 「どうだよ、ちょっとは落ち着いて来たか?」
 「ああ。お前のお陰でな。カスミがとにかく凄いからなぁ。あいつがいなかったらと思うと怖くなるぜ」
 「そうだな」
 「涼ちゃんも頑張ってくれる。一生懸命に店のことを考えてくれてるよ」
 「いい子だよな」
 
 青が酒を飲みながら俺に聞いて来た。

 「ところでよ。カスミはどうしてあんなに若いんだ?」
 「ああ、それか。お前に話したかったんだが、ローマ教皇が来たりあの騒ぎだったりで話す機会が無かったな」
 「なんだ?」

 俺は明穂さんとのことを話した。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 明穂さんが入院し、数週間が経った頃だった。
 青が帰り、俺は遅くなったオペの帰りに明穂さんの病室へ顔を出した。
 9時くらいで、まだ明穂さんは起きているはずだ。

 「こんにちは」

 ノックをして、声を掛けた。
 明穂さんはいつものようにラジオを聴いていた。
 俺に気付いてラジオを消して微笑んだ。
 温かそうな薄いグリーンのガウンを羽織っている。
 青が明穂さんの入院と共に買って来たものだ。
 寒くなる季節に、明穂さんのために。
 自分がもう温めてやれないから。

 「ああ、石神さん! 今お帰りですか?」
 「ええ、ちょっとまた顔を出したくなって」
 「ありがとうございます」

 明穂さんが微笑んだ。
 椅子を勧められたので、少し座って話した。
 毎回そうだが、青の話ばかりだ。
 
 「青児さんには何も残してあげられなくって」
 「そんなことはないですよ。青はもう十分に明穂さんにしてもらってる」
 「一番は、子どもを生んであげられなかったこと……」

 明穂さんの一番の心残りであることは分かっている。
 しかしガンに冒された明穂さんが子どもを生むわけにはいかなかった。
 
 「どっちが良かったですか?」
 「え?」
 「ほら、男の子と女の子」
 「ああ!」
 
 俺が明穂さんが重くならないように話題を導いた。
 明穂さんは明るく笑った。

 「女の子ですね」
 「え、どうして?」
 「男の子だと、青児さんと喧嘩しそうで」
 「そうか!」
 
 明穂さんがまた笑った。

 「私がいればいいんですけど。二人になったらきっと喧嘩ですよ」
 「そうですね」
 「だから女の子がいいです」
 「なるほどね!」

 他愛無い夢でしかない。
 それも絶対に実現できない夢。
 だが、どうして夢を見てはいけないことがあろうか。
 
 「名前は?」
 「そうですね。「霞」なんてどうでしょうか?」
 「ああ、いいですね! 綺麗な名前だ!」
 「そうですか! 369の『霞』という曲が好きでしてね。歌詞も良くって、子どもの名前に付けたいって思っていたんです!」
 「本当にいい名前ですよ」

 明穂さんもやはり子どもが欲しかったのだ。
 俺はその心を思って辛かった。
 明穂さんの楽しそうに語る顔が戻った。

 「青児さんには黙っていて下さいね」
 「ええ、あいつ泣いちゃいますからね」
 「フフフ」

 思わず語ってしまったのだろう。
 本当に青のことを思う心が、つい。

 「今日は遅いんでまた明日。あんまり夜更かししてはいけませんよ?」
 「はい、すいません」

 明穂さんは笑って見送ってくれた。
 




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 


 青が顔をしかめて泣いていた。
 
 「もしもよ、お前と明穂さんに子どもが生まれてたら、中学生くらいかな。でもそれじゃ働けないからよ、JKにした」
 「赤虎……」
 
 採寸を終えたか、カスミだけが戻って来た。
 涼ちゃんは亜紀ちゃんに連れられただろう。

 「マスター、戻りました」

 青が立ち上がってカスミを抱き締めた。

 「あの、マスター?」
 「……」
 「どうなさったんですか?」

 カスミは微笑んで青に抱き締められていた。

 「カスミ、俺はお前を幸せにする」
 「え?」
 「必ず幸せにする」
 「はい! 私もマスターを幸せにしますよー!」
 「俺はもう十分だ」
 「何言ってんですか!」
 「俺は、お前が来てくれたから、もう十分に幸せだ」
 「もう! 今日のマスターはちょっとおかしいですね」
 「そうだな」

 カスミも青の腰に手を回した。

 「もっと幸せにしますから」
 「そうか」
 「期待してて下さい!」
 「ああ」

 
 


 青が笑っていた。
 目に涙を光らせながら、青は笑っていた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

Lucia(ルシア)変容者たち

おまつり
恋愛
 人は、ときに自分の中に「もう一人の自分」を抱えて生きている。  それがもし、感情の揺らぎや、誰かとの触れ合いによって、男女の姿を入れ替える存在だったとしたら――。  カフェ『リベラ』を営むリアと、雑誌編集者の蓮。  二人は、特定の感情を抱くと性別が変わる「性別変容者」だった。  誰にも明かせない秘密を抱えながら生きてきた彼らは、互いの存在に出会い、初めて“同類”として心を通わせていく。  愛が深まるほど、境界は曖昧になる。  身体と心の輪郭は揺らぎ、「自分とは何者なのか」という問いが、静かに迫ってくる。  一方、過去に囚われ、自分自身を強く否定し続けてきたウェディングプランナー・景子と、まっすぐすぎるほど不器用な看護学生・ユウ。  彼らもまた、変容者として「変わること」と「失うこと」の狭間で、避けられない選択を迫られていく。  これは、誰の記憶にも残らないかもしれない“もう一人の自分”と共に生きながら、 それでも確かに残る愛を探し続けた人々の、静かなヒューマンドラマ。 ※毎日20時に1章ずつ更新していく予定です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...