富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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佐野と「アドヴェロス」 Ⅲ

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 エレベーターで上に上がると、やっと普通の空間に出た。
 多分とんでもなく部屋数もあるのだろうが、ここは普通でちょっと安心した。
 先日お会いした雪野さんが出て来て、俺たちに挨拶してくれた。
 怜花ちゃんと久留守くんもいる。
 緊張していた女房が、今度は笑みを零して二人のお子さんに挨拶する。

 恥ずかしかったが土産の菓子折りを渡し、紅茶を頂いた。

 「早乙女さんがこんなとんでもない豪邸に住んでらっしゃるとは知りませんで」
 「ああ、石神から突然渡されて俺も参ってるんですよ。いまだに自分の家のことが把握出来て無くて」
 「そうなんですか?」
 「石神からは、2000巻の仕様書を貰ってるんですけどね」
 「「2000巻!」」
 「雪野さんと一緒に読んではいるんですけど」
 「大変ですね」

 なんちゅうことだ。

 「でもね、石神本人は全部頭に入ってるんですよ」
 「「えぇ!」」
 「しかも第何巻のどこにちゃんと書いてあるって。後から確認すると全部その通りで」
 「はぁ」

 トラの奴、本当にとんでもねぇ。
 きっと、この早乙女さんたちのために、あいつ自身がいろいろと考えて作ったんだろう。
 だから全部頭に入ってる。
 早乙女さんの家族のために精一杯にやったのだ。
 まったく、トラの愛情っていうのはとんでもなく深い。
 昔からそうだった。
 
 「石神にはね、最初から助けてもらってばかりなんです」
 「そうなんですか」

 早乙女さんが、トラとの出会いを話してくれた。
 俺が想像もしていなかった、壮絶なものだった。
 前に和久井さんが俺に話してくれた、あの公安の《ゼロ》の中の「銀狼部隊」に関わるものだった。

 「俺の父と姉が赤星綺羅々の「銀狼部隊」によって殺されました」
 「それは!」
 「父は綺羅々の正体を暴こうとして、そして姉はその見せしめで」
 「そんな……」

 早乙女さんが「銀狼部隊」の実態を話してくれた。
 同じ警察組織の中に、そんな鬼畜な連中がいるとは思いも寄らなかった。
 警察官というのは、市民を守るための組織じゃないか!

 「俺もずっと「銀狼部隊」を追っていました。だから多分、俺も殺されていたことでしょう」
 「トラがやったんですね!」
 「はい。赤星綺羅々が石神に目を付けまして。石神を攫って自分のものにしようとしていたようです」
 「だから……」
 「それで俺に連絡を取ってくれました。俺は自分じゃどうにもならない限界に来ていた。石神を信用し、力を借りようと思いました。実際襲われて、石神に助けられています」
 「そうなんですか」
 
 早乙女さんが泣きそうな顔になっていた。
 思い出しているのだろう。

 「石神は、俺を戦いの現場に連れて行ってくれました。俺の父と姉の話を聞いて、俺に仇を討たせてくれると。そして石神は本当にそうしてくれた。俺はあの日から、石神のために残りの人生を使おうと考えているんです」
 「そうですか」

 早乙女さんが、赤星綺羅々が怪物に変じたことを話した。
 俺も女房も驚いたが、もう世の中は変わった。
 今まで誰も想像もしなかったライカンスロープや妖魔などの怪物が跋扈する世界になったのだ。

 「道間家が綺羅々に妖魔を埋めこんだらしいんです。三人の子どもにそれを行ない、一人は直後に死にました。そして綺羅々も死んだ」
 「はい」
 「残る一人が「業」です」
 「「!」」

 とんでもない話だった。

 「俺の上司の西条さんが、ずっと俺に協力してくれてました」
 「警察庁警備局長の!」
 「はい。実は雪野さんは、西条さんの姪でして」
 「そうなのか!」
 
 早乙女さんは、今度は雪野さんとの出会いを話し出した。

 「西条警備局長から、「銀狼部隊」を潰した後に、見合い話を持って来られまして」
 「ああ、それが!」
 「はい。でも俺は結婚をするつもりもなくて」
 「そうなんですか?」
 「でも、しないつもりも特になくて。雪野さんの写真を見て、素敵な人だなぁって」
 「あなた!」

 雪野さんが恥ずかしそうに早乙女さんの肩を叩いた。
 いい夫婦だ。

 「だから石神に相談したんです。自分はどうすればいいのかって」
 「はぁ」

 早乙女さんは正直に話してくれているのだが、少々恥ずかしい話だ。
 自分が優柔不断と誤解されるかもしれない内容だったのだが。

 「そうしたら石神がね、とにかく一度会ってみろと。それでちゃんと決めて返事をしろと言ってくれました」
 「なるほど」

 俺は上司の人間からそんな話を聞かされて困っていたが、女房は興味をもって聴いていた。

 「トラちゃんは真直ぐですね」
 「そうなんです! その日のうちに雪野さんと会って! 雪野さんが俺と結婚してくれるって!」
 「もう! その話はいい加減にして下さい」
 「アハハハハハ!」

 その後結婚し、この家に住むようになったということか。

 「結婚式に、石神家全員を呼びましてね」
 「そうですか」
 「御祝儀が大変でした」
 「はい?」
 「10億円の現金です」
 「「!」」

 俺は一気に不安が立ち上って来た。

 「この家もトラの奴なんですよね!」
 「ええ、そうです」
 「今、トラが俺たちの家を建ててるんです!」
 「「えぇ!」」

 早乙女さんと雪野さんが、今度は驚いた。

 「佐野さん、すぐに確認した方がいい!」
 「はい!」
 「佐野さん、それはいつ決まったことなんです?」
 「はい、8月にトラと再会してすぐです」
 
 早乙女さんと雪野さんが顔を見合わせた。

 「佐野さん」
 「はい!」
 「残念ながら、もう遅いですね」
 「「えぇ!」」
 「石神はやることがとにかく早いんです。もう一ヶ月以上前でしたら、ほぼ家は完成しているかと」
 「そんな!」
 「多分、数日後には高木さんという凄腕の不動産屋さんが土地を手配し、即座に大手ゼネコンを動かして、千万グループの人間を中心に集められて」
 「「えぇ!」」
 
 俺は早乙女さんに断って、すぐにトラに電話した。

 「トラぁ!」
 「ああ、佐野さん!」
 「今早乙女さんのお宅に来てんだよ!」
 「そうなんですか! じゃあ後でまたお会いしましょうよ!」
 「ああ、そうか。そうじゃねぇ! お前、俺たちの家ってどうなってんだ!」
 「ようやく土地が見つかって、建設中ですよ?」
 「おい! とんでもねぇ家にすんじゃねぇぞ!」
 「大丈夫ですよ。佐野さん、派手なのは御嫌いでしょ?」
 「その通りだぁ!」
 
 俺は思わず怒鳴った。

 「都内は土地が少ないし、高いですからね。ちょっと手狭になるかもしれませんが、我慢して下さい」
 「それはほんとかぁ!」
 「アハハハハハ、何言ってんですか。俺が佐野さんを困らせるわけないでしょう」
 「だってだな! 早乙女さんのこのお宅はなんなんだよ!」
 
 トラが電話の向こうで大笑いしていた。

 「早乙女は「アドヴェロス」の長官ですからね。真っ先に敵に狙われますし、防備も大掛かりになっちゃったんですよ」
 「そんな問題かよ!」
 「そうです。まあ、俺も初めてのことで、少々はっちゃけちゃった部分もありますけどね」
 「おい、トラぁー!」
 「佐野さんはあそこまで大規模なものは必要無いと思いますから。ああ、でも十二分な設備は置きますからご安心下さい」
 「ほんとに頼むぞー!」
 「はい。まだ時間は掛かりますが、完成したらお見せしますよ」
 「いや、今出来てるものも見せてくれよ!」
 「えー、だってまだ基礎工事も終わってないですよー」
 「そうなのか?」
 「建物の設計もまだ検討段階で。先に防衛システムの設置を優先してますから」
 「ああ、そうなのかよ」
 「まあ、俺に任せて下さいよ。狭いかもしれませんが、佐野さんに満足してもらえるようにしますから」
 「そ、そっか」
 「土地が広くないんで、どうしても建物の方が難しくって」
 「いや、小さくて構わんよ。どうせ俺と女房しか住まないんだ」
 「そうですよね?」
 「じゃあ、ほんとに頼むぞ」
 「はい! ああ、今晩は早乙女の家でバーベキューですから。佐野さんと奥さんも是非ご一緒に」
 「あ、ああ。早乙女さんに聞いてみるよ」

 電話を切った。

 「なんだか、狭い土地になるようです」
 「そうなんですか!」
 「まだまだ建設中のようで」
 「それは良かった。じゃあ、うちみたいにはなりませんね」
 「安心したぁー!」

 みんなが笑った。





 後に400坪の土地に13LDKの家だと分かった。
 おい、トラ!
 お前の話ってどうなってんだよ!
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