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佐野と「アドヴェロス」 Ⅱ
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翌週の月曜日。
俺は和久井社長に会い、トラと会ったことを伝えた。
「本当かぁ! 良かったなぁ!」
トラが元気だったことを話し、またトラの現在のことをいろいろ聞かれた。
「はい。それで、本当に申し訳ないのですが……」
俺は和久井社長に、トラに頼んで「虎」の軍に入れてもらうことになったと話した。
トラから、和久井社長であればトラが「虎」の軍の最高司令官であることを明かしても構わないと言われていた。
和久井社長は大層驚かれていたが、すぐに納得された。
「そうか、あのトラがなぁ。やっぱりな」
「え?」
「私はちょっと考えていたんだよ。小島将軍があれほどに準備を整えていたんだ。どれほど特別な人間かと思っていたんだよ」
「ああ、そうですよね」
言われて俺も気付いた。
そうだ、トラは尋常じゃない環境を用意されていたんだ。
「まさか、「業」のような敵が出て来ることまで知っておられたのかまでは分からんが。でも、私はもしかしたらと思っていたんだ。「業」はあまりにも異常だ。ライカンスロープのことだって、巨大な怪物たちだって。あんなもの、誰も想定していないぞ」
「そうですね」
「業」はただのテロリストではない。
これまでのような通常戦力での破壊活動ではないのだ。
まるでこの世の常識が引っ繰り返ったかのような異常な戦力だった。
小島将軍は、こんなことまで考えていたのだろうか。
「業」の驚異的な戦力は軍隊でも対抗出来ず、人類の壊滅もあり得るものだ。
「しかし、「虎」の軍が即座に対応した。多くの犠牲者が出たことはあるが、必ず「虎」の軍が勝利してきた」
「はい。あの「渋谷HELL」などでも、通常の警官では対応出来なかったはずです」
「その前のフランス外人部隊の攻撃だってな。戦闘ヘリや装甲車まで出たんだ」
「そしてあの御堂総理の実家への襲撃ですね」
「そうだ。ジェヴォーダンというとんでもない巨大生物兵器だ。それに強力な妖魔まで出て来た」
「それをトラが撃退した」
「ああ。「業」のああいう戦力に、対抗出来る手段を積み上げて来たということだ。想像も出来ないが、途轍もないことだぞ」
「そうですよね!」
俺は和久井社長に公安の「アドヴェロス」という組織に入ることも話した。
それもトラから話す許可を得ていた。
「公安か。前にキャリアの先輩から聞いたことがあるんだ」
「なんですか?」
「公安の《ゼロ》には機密の「銀狼部隊」という組織があって、警察を裏から支配しているのだと」
「え!」
公安には《ゼロ》と呼ばれる謎の部署があるのは知っている。
同じ警察官といえども、その内容はまったく知らされない。
「それがどうやら、潰されたらしい。詳しいことは分からんが、相当硬い組織で、誰も手を出せなかったそうなんだ。それをある公安の男が潰したらしい」
「そうなんですか」
「そして公安が、いや警察組織が生まれ変わった。多分な、それをやったのが佐野の上司になる早乙女久遠という男じゃないかと思うぞ」
「えぇ!」
俺には分からない。
でも、俺の印象ではあの早乙女さんならばやるかもしれないと思った。
会った時には優しさが前面に出ていたが、あの人は芯が堅い。
何か硬く熱いものが、あの人の優しさになっているのだ。
「まあ、分かった。佐野がいなくなるのは寂しいし厳しいが、お前は思い通りに生きろよ。何しろあのトラだからなぁ。私にも止められん」
「ありがとうございます。今まで本当にお世話になりました!」
「私の方こそな。でもこれからも私的な身分では付き合ってくれよ」
「もちろんです! 和久井社長は自分にとっていつまでも最高の上司です!」
「アハハハハハ、ありがとう。本当に宜しくな」
「はい!」
俺は引継ぎもあるので、8月一杯での退職ということになった。
最後の仕事として、俺は目一杯に会社のために働いた。
有難いことに、部下たちからは盛大な送別会まで開いてもらった。
和久井社長からも今まで以上に誘われて一緒に食事や酒を飲んだ。
9月の初旬に引っ越しをした。
俺は都内のことなどまるで分らないので、トラにマンションを世話してもらった。
忙しいだろうにトラがお子さんたちと一緒に引っ越しの手伝いに来てくれた。
なんかみんな力持ちで、あっという間に引っ越しが済んだ。
「今、手ごろな一軒家を探してます」
「おい、マンションでいいよ」
俺が警戒してそう言うと、トラは真剣な顔で俺に言った。
「そういうわけには。佐野さんの勤める「アドヴェロス」は機密扱いで、しかも非常に危険な部署なんです」
「あ、ああ」
「だから防衛システムを入れなきゃいけませんし」
「おい、そんなかよ?」
「大丈夫ですよ。防衛システムさえ入れれば安全です。デュールゲリエという護衛のアンドロイドも付けますから、奥さんも完璧に護られます」
「そ、そうか。そこは宜しく頼む」
「はい! そういうことですので、マンションでは具合が悪くて」
「そうかぁ。でも、都内の一軒家は高いだろう?」
「ああ、佐野さん。「アドヴェロス」は特別な部署なんで、住居は支給されるんですよ」
「そうなのか!」
「はい。先日会った早乙女も、そういう特別な防衛システムを備えた家に住んでます」
「そうだったか! なんか申し訳ないな。俺がどれだけ働けるのか分からないのに」
「そんなことは! でもまあ、そういうことなんで安心して下さい」
「ああ、分かった。何から何まで、宜しくお願いします」
「はい!」
トラが明るく笑っていた。
あいつの笑顔はやっぱり最高だ。
こっちまで嬉しくなってしまう。
そうか、そういうことなら、申し訳ない気持ちはあるが、女房と一緒に世話になろう。
9月の中旬から、俺は「アドヴェロス」に入った。
新宿の富久町に本部があり、そこへ出頭した。
早乙女さんが主だった人間に紹介してくれた。
ハンターの全員にも紹介され、挨拶出来た。
神宮寺磯良は本当に中学生で、とにかく顔が綺麗だった。
まるで子どもの頃のトラのようだ。
トラは成長するともう少し精悍な顔になっていったが、磯良はまるで女の子のように綺麗だった。
90歳を超えた高齢の十河さん、明るく豪快な早霧さんと葛葉さん、中国出身の美人の愛鈴さん、ひょうきんな鏑木さん。
それに「虎」の軍から派遣されている羽入と紅という男女。
そして真面目で知的な成瀬さんが、取り敢えず俺の直属の上司になるようだ。
俺の仕事は、妖魔やライカンスロープの情報を捜査してしていくというものになると聞いた。
「でも、佐野さんは有能な刑事さんだったということで、もっといろいろと仕事を頼むことになると思います」
「はい、何でも命じて下さい」
みんな気の良い人たちだった。
俺が剣道をちょっとやっていたと知り、早霧さんが是非一緒に鍛錬しようと言ってくれた。
ハンターのみなさんは、いつも時間があると、ここで鍛錬をしているらしい。
俺は一度ちゃんと挨拶したくて、女房と一緒に早乙女さんのお宅へ行かせてもらうことになった。
最初は遠慮されていたのだが、俺は快く俺を引き受けてくれた早乙女さんにどうしてもきちんと礼を言いたかった。
9月の下旬の土曜日。
俺は早乙女さんのお宅へ伺った。
トラの家のすぐ近くだったので驚いたが、いろいろ連携することもあるのだろうと納得した。
トラの家が近いので、帰りにでも寄ってみるかと女房に話すと喜んだ。
「でもよ、あいつの家ってやけに立派ででかいんだよ」
「そうなんですか! まあ、とんでもない出世をしましたものね」
「まあ、そうだよな」
俺はトラの家がどれほどでかくて立派なのかを話しながら、早乙女さんのお宅へ歩いた。
「「……」」
なにこれ……
表札には「早乙女」と書いてある。
住居表示もここだ。
トラの家よりもすげぇ……
門の所で女房と呆然としていると、どこかの城のような建物からメイドさんが出て来た。
まだチャイムも押していなかったのだが。
「佐野様ですね。お待ち申し上げておりました」
「は、はぁ」
大きな門が開かれ、中へ案内された。
玄関で、早乙女さんが出迎えてくれた。
「あ、あ、あ、あの……」
「ああ、驚かれたでしょう? 石神に無理矢理押し付けられたんですよ。なんでも、ケルン大聖堂を模したとか」
「そうなんですか!」
「最初は雪野さんと驚いたなんてものじゃなかったですけどね。もう諦めてます」
「はぁ……」
あの野郎!
あ! 今、俺たちの家を建築中じゃねぇか!
「どうぞ中へ」
「あの、建物の脇のあれは?」
さっきから一番気になっている。
でかいロボットが立ってるぞ!
「あれは「武神ぴーぽん」です」
「ぶしん?」
「とても強力なロボットでしてね。ジェヴォーダンが群れで来ても瞬時に撃退出来るそうです」
「「……」」
「まあ、今まで動いたことは殆どありませんけどね」
「「……」」
玄関が開き、とんでもねぇでかい吹き抜けの廊下が目の前に続いていた。
そのまま女房ときょろきょろしながら、早乙女さんの後ろに付いて行った。
女房は土産のあけぼのの菓子折りを持っているが、そんなものじゃ済まねぇ。
買い直しに行きたかったが、もう遅い。
廊下の突き当りにエレベーターがあった。
トラの家にもあったが、ここのは個人宅の小さな者では無くオフィスビルに備わっているような大きさだ。
そしてその前に、なんかの彫刻が置いてあった。
なんだ、こりゃ?
4本の足の生えた円柱。
お金持ちのやることは理解出来ない。
「こちらは「柱」さんと「小柱」ちゃんです」
「え?」
足の生えた柱が動いた!
「きゃ!」
女房が思わず悲鳴を漏らした。
柱が女房に向かって顔の前で手を振って頭(?)を下げていた。
驚かせてしまったことを謝っているのか。
「これも石神からもらったんですよ! この家を護ってくれているんです!」
「そ、そ、そうなんだ……」
女房もしきりに驚いてしまったことを謝っていた。
エレベーターのドアが開いて中に乗り込むと、柱が手を振っていた。
なんだよ、この家!
俺は和久井社長に会い、トラと会ったことを伝えた。
「本当かぁ! 良かったなぁ!」
トラが元気だったことを話し、またトラの現在のことをいろいろ聞かれた。
「はい。それで、本当に申し訳ないのですが……」
俺は和久井社長に、トラに頼んで「虎」の軍に入れてもらうことになったと話した。
トラから、和久井社長であればトラが「虎」の軍の最高司令官であることを明かしても構わないと言われていた。
和久井社長は大層驚かれていたが、すぐに納得された。
「そうか、あのトラがなぁ。やっぱりな」
「え?」
「私はちょっと考えていたんだよ。小島将軍があれほどに準備を整えていたんだ。どれほど特別な人間かと思っていたんだよ」
「ああ、そうですよね」
言われて俺も気付いた。
そうだ、トラは尋常じゃない環境を用意されていたんだ。
「まさか、「業」のような敵が出て来ることまで知っておられたのかまでは分からんが。でも、私はもしかしたらと思っていたんだ。「業」はあまりにも異常だ。ライカンスロープのことだって、巨大な怪物たちだって。あんなもの、誰も想定していないぞ」
「そうですね」
「業」はただのテロリストではない。
これまでのような通常戦力での破壊活動ではないのだ。
まるでこの世の常識が引っ繰り返ったかのような異常な戦力だった。
小島将軍は、こんなことまで考えていたのだろうか。
「業」の驚異的な戦力は軍隊でも対抗出来ず、人類の壊滅もあり得るものだ。
「しかし、「虎」の軍が即座に対応した。多くの犠牲者が出たことはあるが、必ず「虎」の軍が勝利してきた」
「はい。あの「渋谷HELL」などでも、通常の警官では対応出来なかったはずです」
「その前のフランス外人部隊の攻撃だってな。戦闘ヘリや装甲車まで出たんだ」
「そしてあの御堂総理の実家への襲撃ですね」
「そうだ。ジェヴォーダンというとんでもない巨大生物兵器だ。それに強力な妖魔まで出て来た」
「それをトラが撃退した」
「ああ。「業」のああいう戦力に、対抗出来る手段を積み上げて来たということだ。想像も出来ないが、途轍もないことだぞ」
「そうですよね!」
俺は和久井社長に公安の「アドヴェロス」という組織に入ることも話した。
それもトラから話す許可を得ていた。
「公安か。前にキャリアの先輩から聞いたことがあるんだ」
「なんですか?」
「公安の《ゼロ》には機密の「銀狼部隊」という組織があって、警察を裏から支配しているのだと」
「え!」
公安には《ゼロ》と呼ばれる謎の部署があるのは知っている。
同じ警察官といえども、その内容はまったく知らされない。
「それがどうやら、潰されたらしい。詳しいことは分からんが、相当硬い組織で、誰も手を出せなかったそうなんだ。それをある公安の男が潰したらしい」
「そうなんですか」
「そして公安が、いや警察組織が生まれ変わった。多分な、それをやったのが佐野の上司になる早乙女久遠という男じゃないかと思うぞ」
「えぇ!」
俺には分からない。
でも、俺の印象ではあの早乙女さんならばやるかもしれないと思った。
会った時には優しさが前面に出ていたが、あの人は芯が堅い。
何か硬く熱いものが、あの人の優しさになっているのだ。
「まあ、分かった。佐野がいなくなるのは寂しいし厳しいが、お前は思い通りに生きろよ。何しろあのトラだからなぁ。私にも止められん」
「ありがとうございます。今まで本当にお世話になりました!」
「私の方こそな。でもこれからも私的な身分では付き合ってくれよ」
「もちろんです! 和久井社長は自分にとっていつまでも最高の上司です!」
「アハハハハハ、ありがとう。本当に宜しくな」
「はい!」
俺は引継ぎもあるので、8月一杯での退職ということになった。
最後の仕事として、俺は目一杯に会社のために働いた。
有難いことに、部下たちからは盛大な送別会まで開いてもらった。
和久井社長からも今まで以上に誘われて一緒に食事や酒を飲んだ。
9月の初旬に引っ越しをした。
俺は都内のことなどまるで分らないので、トラにマンションを世話してもらった。
忙しいだろうにトラがお子さんたちと一緒に引っ越しの手伝いに来てくれた。
なんかみんな力持ちで、あっという間に引っ越しが済んだ。
「今、手ごろな一軒家を探してます」
「おい、マンションでいいよ」
俺が警戒してそう言うと、トラは真剣な顔で俺に言った。
「そういうわけには。佐野さんの勤める「アドヴェロス」は機密扱いで、しかも非常に危険な部署なんです」
「あ、ああ」
「だから防衛システムを入れなきゃいけませんし」
「おい、そんなかよ?」
「大丈夫ですよ。防衛システムさえ入れれば安全です。デュールゲリエという護衛のアンドロイドも付けますから、奥さんも完璧に護られます」
「そ、そうか。そこは宜しく頼む」
「はい! そういうことですので、マンションでは具合が悪くて」
「そうかぁ。でも、都内の一軒家は高いだろう?」
「ああ、佐野さん。「アドヴェロス」は特別な部署なんで、住居は支給されるんですよ」
「そうなのか!」
「はい。先日会った早乙女も、そういう特別な防衛システムを備えた家に住んでます」
「そうだったか! なんか申し訳ないな。俺がどれだけ働けるのか分からないのに」
「そんなことは! でもまあ、そういうことなんで安心して下さい」
「ああ、分かった。何から何まで、宜しくお願いします」
「はい!」
トラが明るく笑っていた。
あいつの笑顔はやっぱり最高だ。
こっちまで嬉しくなってしまう。
そうか、そういうことなら、申し訳ない気持ちはあるが、女房と一緒に世話になろう。
9月の中旬から、俺は「アドヴェロス」に入った。
新宿の富久町に本部があり、そこへ出頭した。
早乙女さんが主だった人間に紹介してくれた。
ハンターの全員にも紹介され、挨拶出来た。
神宮寺磯良は本当に中学生で、とにかく顔が綺麗だった。
まるで子どもの頃のトラのようだ。
トラは成長するともう少し精悍な顔になっていったが、磯良はまるで女の子のように綺麗だった。
90歳を超えた高齢の十河さん、明るく豪快な早霧さんと葛葉さん、中国出身の美人の愛鈴さん、ひょうきんな鏑木さん。
それに「虎」の軍から派遣されている羽入と紅という男女。
そして真面目で知的な成瀬さんが、取り敢えず俺の直属の上司になるようだ。
俺の仕事は、妖魔やライカンスロープの情報を捜査してしていくというものになると聞いた。
「でも、佐野さんは有能な刑事さんだったということで、もっといろいろと仕事を頼むことになると思います」
「はい、何でも命じて下さい」
みんな気の良い人たちだった。
俺が剣道をちょっとやっていたと知り、早霧さんが是非一緒に鍛錬しようと言ってくれた。
ハンターのみなさんは、いつも時間があると、ここで鍛錬をしているらしい。
俺は一度ちゃんと挨拶したくて、女房と一緒に早乙女さんのお宅へ行かせてもらうことになった。
最初は遠慮されていたのだが、俺は快く俺を引き受けてくれた早乙女さんにどうしてもきちんと礼を言いたかった。
9月の下旬の土曜日。
俺は早乙女さんのお宅へ伺った。
トラの家のすぐ近くだったので驚いたが、いろいろ連携することもあるのだろうと納得した。
トラの家が近いので、帰りにでも寄ってみるかと女房に話すと喜んだ。
「でもよ、あいつの家ってやけに立派ででかいんだよ」
「そうなんですか! まあ、とんでもない出世をしましたものね」
「まあ、そうだよな」
俺はトラの家がどれほどでかくて立派なのかを話しながら、早乙女さんのお宅へ歩いた。
「「……」」
なにこれ……
表札には「早乙女」と書いてある。
住居表示もここだ。
トラの家よりもすげぇ……
門の所で女房と呆然としていると、どこかの城のような建物からメイドさんが出て来た。
まだチャイムも押していなかったのだが。
「佐野様ですね。お待ち申し上げておりました」
「は、はぁ」
大きな門が開かれ、中へ案内された。
玄関で、早乙女さんが出迎えてくれた。
「あ、あ、あ、あの……」
「ああ、驚かれたでしょう? 石神に無理矢理押し付けられたんですよ。なんでも、ケルン大聖堂を模したとか」
「そうなんですか!」
「最初は雪野さんと驚いたなんてものじゃなかったですけどね。もう諦めてます」
「はぁ……」
あの野郎!
あ! 今、俺たちの家を建築中じゃねぇか!
「どうぞ中へ」
「あの、建物の脇のあれは?」
さっきから一番気になっている。
でかいロボットが立ってるぞ!
「あれは「武神ぴーぽん」です」
「ぶしん?」
「とても強力なロボットでしてね。ジェヴォーダンが群れで来ても瞬時に撃退出来るそうです」
「「……」」
「まあ、今まで動いたことは殆どありませんけどね」
「「……」」
玄関が開き、とんでもねぇでかい吹き抜けの廊下が目の前に続いていた。
そのまま女房ときょろきょろしながら、早乙女さんの後ろに付いて行った。
女房は土産のあけぼのの菓子折りを持っているが、そんなものじゃ済まねぇ。
買い直しに行きたかったが、もう遅い。
廊下の突き当りにエレベーターがあった。
トラの家にもあったが、ここのは個人宅の小さな者では無くオフィスビルに備わっているような大きさだ。
そしてその前に、なんかの彫刻が置いてあった。
なんだ、こりゃ?
4本の足の生えた円柱。
お金持ちのやることは理解出来ない。
「こちらは「柱」さんと「小柱」ちゃんです」
「え?」
足の生えた柱が動いた!
「きゃ!」
女房が思わず悲鳴を漏らした。
柱が女房に向かって顔の前で手を振って頭(?)を下げていた。
驚かせてしまったことを謝っているのか。
「これも石神からもらったんですよ! この家を護ってくれているんです!」
「そ、そ、そうなんだ……」
女房もしきりに驚いてしまったことを謝っていた。
エレベーターのドアが開いて中に乗り込むと、柱が手を振っていた。
なんだよ、この家!
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