富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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モスクワ侵攻作戦 X

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 《マルドゥック》は「エクスタームドタイプ」が上空で集まって来る妖魔を砲棘で迎撃し、「アサルトタイプ」が比較的近い場所の強力な妖魔たちを選別して攻撃して行った。
 その間に、デュールゲリエたちが注意深く路面を削り取って、地下度へ潜って避難民たちを探して行く。
 柏木さんの指示が正確で、避難民たちはすぐに見つかった。
 デュールゲリエの視点の映像で俺は確認していたが、最初はデュールゲリエの姿に驚いていた市民も、優しくロシア語で救出に来たことを告げられると安心した。
 何しろ外ではとんでもない戦闘が起きていることがもう分かっており、自分たちの安全に一刻の猶予も無いことは分かっている。
 だから発見されても殺すことなく脅しもしない相手を信頼したのだろう。
 そうは言ってもデュールゲリエたちは見たことも無い異様な外見だ。
 恐らく、高度な状況判断の出来るリーダーがいると思われた。
 13名の人間が、デュールゲリエたちに抱えられて飛んだ。
 10歳に満たない幼い子どももいたようだ。
 俺は別途「タイガーファング」を呼んで、安全な場所に救助者たちを降ろしてからアラスカへ運ばせた。
 俺たちの姿は見せなかった。
 20分程でデュールゲリエ10体が戻り、俺に報告した。
 短い時間で、避難民たちから情報を得ていたようだ。

 「モスクワ大学の心理学部の教授を中心とした人間たちのようです。家族や知人たちの集団でした」
 「心理学?」

 意外な背景を持つ人間と感じた。

 「はい、心理学の中でも「超心理学」つまり、超能力を研究していたと言っていました。バクーニン教授が中心となり、教授の被験者がいて、その人物が「能力」で全員を守っていたそうです」
 「超能力か」
 「はい。1年以上、地下の下水道に作られた居住区に潜伏していたと」
 「おい、そんなに長期間かよ!」

 やはりデュールゲリエは短い時間で実に的確な状況を聞き出していた。
 バクーニン教授たちの一行は事前にモスクワが「業」によって支配されることを知って、自分たちが避難して潜伏する場所を準備していたのだと。
 居住区を極秘裏に用意し、食糧や日用品をそこへ運び込み、長期間の潜伏が可能になるようにしたのだと言う。

 「何故逃げなかったんだ?」
 「〈予言〉があったと言っておりました」
 「予言?」
 「はい、その〈予言〉はサイキックである被験者とは別な者のようです。詳細は聞き出せませんでしたが、〈予言者〉はバクーニン教授が信頼する人物であり、彼が言うには逃げても捕らえられるので、モスクワに留まって救出を待つようにと。1年以内に救出されると言い、教授たちは準備していたようです」
 「なんだ……」
 「現場にいた被験者のイキックは「透視:クリアボヤンス(clairvoyance)」の能力者のようです。危険を察知し、避難者たちを導いていたと。それに若干のテレバシー能力もあり、居住区の隠蔽も出来たのだということです」
 「……」

 考えたいことは多いが、今は戦場だ。
 《マルドゥック》はそのまま殲滅戦に協力していた。
 ルイーサが《マルドゥック》の力を認め、そのまま戦場での活動を許可したためだ。
 集中し迷走していた柏木さんが言った。

 「レジーナ様、大きな者たちが来ます」
 「あい分かった」

 ルイーサに付いていた通信係が何かの指示を送ったようだ。
 「グレイプニル」たちの動きが再び変化する。
 「ゲート」から出て来る《地獄の悪魔》に対する攻撃陣形を取り始めた。
 それぞれに各個撃破をしていた「グレイプニル」たちが、少人数で集まり出した。
 やはり《地獄の悪魔》は「グレイプニル」たちにも相応の準備が必要なのだろう。

 予想はしていたが、《地獄の悪魔》たちが続々と「ゲート」から出て来た。
 やはりロシア国内は「業」にとって特別な土地なのだ。
 「業」の能力が遺憾なく発揮されている。
 以前は《地獄の悪魔》の召喚に膨大な人間や妖魔たちの生贄が必要だった。
 しかし今は恐らくは「業」の中に取り込まれた者たちが出て来る。
 つまり、何ら手順を踏むことなく、「業」は強大な妖魔を送り出せるのだ。
 現在はロシア国内の一部だろうが、モスクワは重要な土地であり、「業」も備えてはいたのだろう。
 高い戦闘力を持つ「グレイプニル」も、《地獄の悪魔》は容易く撃破出来る相手ではないようだ。
 それでもフォーマンセルで対応し、次々と《地獄の悪魔》を屠って行く。
 4人がかりであれば、難なく斃せるようだった。
 それでも、時折《地獄の悪魔》の攻撃でやられる者もいる。
 大した負傷ではないようで、短い時間で復活していくのが分かった。

 「《地獄の悪魔》も対応できるか」
 「当然だ」

 ルイーサは言ったが、予想よりも不満があるようだった。
 ルイーサの苛立ちを感ずる。
 その一方で《マルドゥック》の「アサルトタイプ」は安定した性能で《地獄の悪魔》を撃破して行った。
 そのことが、一層ルイーサの不満となったようだ。
 通信兵が立ち上がって叫んだ。

 「物共! レジーナ様が御不快である! 不甲斐なさを嘆いておられるぞ!」

 次の瞬間、「グレイプニル」たちの動きが変わったのを感じた。
 迎撃のスピードが格段に上がって行く。

 「おい、凄ぇな」
 「情けない。美獣、無様を見せた」
 「とんでもねぇよ。流石は「グレイプニル」」だぜ」
 「……」

 ルイーサは黙って戦場を見ていた。
 開始から3時間を経過し、モスクワの6割が崩壊した頃、「グレイプニル」は「ゲート」の全てを破壊し趨勢は決まった。
 残りの都市を30分程で蹂躙し、モスクワ侵攻作戦は終了した。

 「終わったぞ、美獣」
 「ああ」

 もう何も無かった。
 巨大な都市の跡形すらも無くなっていた。
 大地は破壊だけが残り、膨大な量の粉塵だけが堆積し、それがどこからか吹く風に散って行った。
 あれほどの建物の瓦礫も、凄惨であったはずの遺体すらない。
 全ては黒い粉塵と化していた。
 自然の荒野ですらなく、ただ、何もない平穏な地獄。
 余りにも何も無さすぎて、涙すら残っていない。
 嘆きすらここには無いのだ。
 これが「グレイプニル」の戦いだ。

 敵の攻撃も止んでいた。
 無数の「ゲート」も全く効果が無いことが分かり、反撃をやめたのだろう。




 ともかく、俺たちは勝利したのだ。
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