富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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吹雪の友だち Ⅳ

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 俺は病院内の患者のことは全て把握している。
 特に小児科は時々関わっているので、カルテは詳細に頭の中に入っていた。
 内田恭介君は六花の言った通りで、今は眼球摘出の上で火傷と創傷の治療と、義眼を埋め込むための準備をしているところだ。
 これから目が見えない暮らしをするために、徐々にリハビリと歩く訓練もしている。
 吹雪はその最中に出会って仲良くなったようだ。
 六花もそういう状況は聞いていたのだが、吹雪が恭介君のリハビリを手助けしていたようで、良いことだと考えていた。
 確かにその通りで、恭介君がやる気になってくれたことは確かなのだ。
 もちろん六花は自分の責任と言っているが、ちゃんと吹雪に患者さんとの接し方を教えているのは知っている。
 病気のことは聞いてはいけないし、話してもいけない。
 基本的に自分が手助けしてはいけないし、何かあったらナースに知らせること。
 素直で頭も悪くない吹雪は、今まできちんと守って来た。
 ただ、恭介君へは少し違ったようだ。
 近い年の子と接する機会も少なく、多分逆境にめげない恭介君のことが大好きになったのだろう。
 六花もそんな吹雪の境遇を考えていて、恭介君と仲良くなったことを喜んでいたに違いない。
 だから、まさか治療出来ると吹雪が請け負うとは思いもしなかった。
 吹雪には患者に話し掛けないように教えていたが、恭介君に関してはリハビリを手伝う吹雪を喜び、そのまま放置してしまった。
 仕方のないことだ。
 六花も吹雪も愛情からのことなのだ。

 「トラ、どうしましょう。私から恭介君に話してみます」
 「いや、俺に任せてくれ、医者の俺が言った方がいいだろう」
 「でも、吹雪のことは!」
 「吹雪は俺の子どもでもあるんだ。これは病院としての問題だ。ナースのお前よりも俺が言った方がいい」

 六花が頭を下げて泣いていた。
 愛情と共に、責任感の強い人間なのだ。

 「トラ、ごめんなさい」
 「吹雪にも厳しくは言うなよな。あいつも精一杯の愛情で約束してしまったんだ」
 「はい……」

 俺は吹雪を呼んだ。
 吹雪は六花に叱られたせいで、しょんぼりしていた。
 頬が赤くなっていた。
 六花が強くはたいたのだろう。
 これまで吹雪はあまり本気で叱られたことは無かった。
 吹雪が本当にまっすぐに育っていたからだ。
 決して甘やかすことも無かったが、六花は吹雪への愛情でずっと接している。
 言い聞かせればちゃんとやる子どもだったので、今回のようなことは初めての経験だっただろう。
 吹雪は六花のことが大好きで、六花の言うことは素直に従っていたのだ。

 「吹雪、そんなに落ち込むな」
 「お父さん、ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい!」
 「吹雪……」

 六花も辛そうだ。

 「おい、お前が約束してしまったことが、間違いだともう分かったか?」
 「はい。僕は何も分かってなくて、恭介君の目が治らないのに……」
 「そうだな。でももっと大きな問題がある」
 「え?」
 
 泣きそうな顔をしていた吹雪が俺を見た。

 「いいか、約束というのは、自分が果たすものだけなんだ。していい約束というのはそういうものだ。だけどお前は俺を動かそうとした。それが唯一の間違いだ」
 「!」
 「お前は恭介君の目を治せない。だから約束してはならなかった。分かるか?」
 「はい!」
 「お母さんが怒ったのはそのことだ。まあ、お母さんの立場で言えば、もっとあるけどな。お母さんは病院の看護師なんだよ」
 「はい、そうです!」
 「だからな、病院の患者さんに対してお母さんは自分の責任で働いている。看護師という立場で、患者さんのケアをする仕事だ。治療することじゃない。響子と一緒にいても、そうだろう? 響子の世話をするのがお母さんの仕事だ。でも治療は俺の責任だ」
 「はい!」
 
 吹雪はもう泣いていなかった。
 後悔や反省はあっても、もう暗い顔はしていない。

 「だから子どものお前が勝手に治療の約束をしてしまったことを怒っている。お前は六花の子どもだ。だからお母さんの立場では、患者さんにとんでもないことをしてしまったことになるんだよ」
 「はい、僕が間違ってました! お母さん、本当にごめんなさい!」

 六花が吹雪を抱き締めて泣いた。

 「もういいよ。分かってくれたら、それでいい」
 「お母さん!」
 
 吹雪も泣いた。

 「いいか、吹雪。患者さんはみんな治りたいんだ。でもな、どうしても治せないこともあるんだよ。それは俺たちの力不足でもあるが、どうしようもない。だからな、それでも人間は死ぬまで生きなきゃならん。どんな病気や怪我でも、それを背負っていくしかねぇ。それが人生ってものだ。恭介君は死ぬまで目が見えない。それでも何とか精一杯生きればいいんだよ」
 「はい! 恭介君もそう言ってました!」
 「そうか、立派な人だな」
 「はい! 自分で花火を爆発させたから、誰のせいでもないって! ああ、そうだった!」
 「じゃあ、明日、俺が恭介君に謝るよ」
 「お父さん! 僕が謝ります!」
 「お前が俺の名前を出したんだ。だから俺が話す。お前は責任を取れない約束をしたんだ。親の俺が始末をつけるしかない」
 「お父さん!」
 「まあ、その後でお前も謝れ」
 「はい!」

 吹雪は失敗をした。
 だが、人間はそこからどうするかだ。
 吹雪はそれをきっと学ぶだろう。
 六花の愛情を降り注ぐように浴びて来た子どもだ。
 きっと何とかする。
 
 俺が夕飯を作り、一緒に食べた。
 吹雪の好きなオムライスを作ってやった。
 吹雪は、笑顔でそれを食べていた。
 もう大丈夫だろう。



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 
 俺は翌日、六花と一緒に小児科長に報告して謝罪し、恭介君と面会させてもらった。
 恭介君は朝食を終えてベッドにいた。

 「こんにちは、石神高虎です」
 「あ! 吹雪君のお父さん!」
 「そうだよ、吹雪と仲良くしてくれて、どうもありがとう」
 「いいえ、僕の方こそ! 吹雪君のお陰で随分といろんな場所を覚えることが出来ました!」
 「そうか、でも吹雪も本当に楽しそうだったよ。それでな、昨日吹雪が君に約束したことなんだが」
 「ああ、僕の目のことですね。でもいいんです。もう治らないことは分かっているんで、そのお話ですよね?」
 「!」

 驚いた。
 恭介君は既に自分の視力のことは分かっていたのだ。

 「昨日吹雪君が言ってくれて、そりゃ嬉しかったです。でも、無理なのも分かってます。僕の目はもうないんだから。手術でどうにかすることも出来ないでしょう」
 「その通りなんだ。でも吹雪は君に治せると約束してしまった。本当に申し訳ない」

 俺は立ち上がって頭を下げた。

 「いいんです。吹雪君が僕のためを思って言ってくれたんだって分かってます。これは元々自分のせいなんですから、仕方ありませんよ」
 
 吹雪の言ったとおり、本当に立派な子どもだった。

 「そうか。でも君は全然諦めていないね?」
 「はい。自分でやったことは誰のせいでもありません。これから目が見えなくたって、ちゃんと生きて行かないと」
 「君は立派だね」
 「そんなことは、バカなことをしただけです」
 「君の人生は終わってない」
 「はい!」
 
 俺は一つの話をした。

 「実はね、今、ある技術を開発しているんだ」
 「え?」
 「もちろんすぐに実現するものでは無い。でも、将来は実用化することを目指している。恭介君に一度、その技術を体験してもらおう」
 「本当ですか!」
 「今のものでも、君にはその可能性が分かるはずだ。退院したら必ず連れて行くよ」
 「はい! ありがとうございます!」

 俺は脳波を測定しながら仮想現実を体験出来るのだと説明した。

 「目が見えなくても大丈夫だ。きっと驚くよ」
 
 恭介君は楽しみにしていると言った。





 2週間後、恭介君の義眼も出来てここでのリハビリも終えて、退院した。
 俺は栃木の「リッカランド」に恭介君を招待した。
 よしこが迎えに来て、恭介君とご両親と共に案内した。
 三人で仮想現実の遊園地を楽しんでもらう。
 ご両親は驚き、恭介君は涙を流して感動していた。

 「見えたよ! 僕もちゃんと見えた!」
 「そうだね、一緒に遊んだよね!}
 「うん! こんな技術があるなんて! 本当になんてすばらしいんだ!」

 よしこが三人に説明した。

 「この技術は石神さんたちが開発したんです。まだ大きな機械が必要になりますが、いずれは今のヘッドセットを被ってもっといろいろなことが出来ると思います」
 「!」

 恭介君は大興奮だった。
 素晴らしいと言い続けた。

 「お父さん、お母さん! 僕はこの技術を開発したいよ!}
 「え。お前が?」
 「そうだ、本当に素晴らしい技術だ! 僕はもう決めた! これから一生懸命に勉強するよ!」
 「そう! 頑張ってね!」
 「うん!」

 その後、恭介君の一家は紅市に引っ越した。
 恭介君は専門学校に通いながら、技術者としての教育も受けるようになった。
 蓮花研究所の通信教育だ。
 アンドロイド型のデュールゲリエに担当させた。
 今後はこのような形で様々な技術者を育てられるかもしれない。
 恭介君には専用のヘッドセットを貸与し、様々な基礎技術を学ぶようになった。
 特別にヘッドセットにより、《クリムゾン》に接続し、紅市内であれば自由に歩けるようになった。
 時々里帰りする六花たちとも会って、吹雪と仲良くしてくれている。
 この技術が確立すれば、将来は様々な障碍を持った人たちに役立つだろう。
 きっといつの日か、恭介君がそれを実現してくれるに違いない。
 
 「トラ」
 「あんだよ?」
 「恭介君と吹雪が数学の話ばかりしてまして」
 「そうか」
 「話に入っていけません」
 「ワハハハハハハハハハ!」

 吹雪にいい友だちが出来た。
 二人は親友となり、戦士と研究者の立場であったが、本当に仲が良くなっていった。
 まだしばらく先の話だ。
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