富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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吹雪の友だち Ⅲ

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 恭介君とは仲良くなり、駐車場やいろんな場所に行った。
 屋上にも上がったし、お庭も少しずつ歩いた。
 時々響子さんやお母さんと一緒になった。
 屋上で響子さんのセグウェイにも触らせてもらった。
 ちょっとお母さんが恭介君を乗せて走ったら、とても喜んでくれた。
 恭介君はどんどん場所を覚えて行って、自分の足でちゃんと歩けるようになって行く。
 ある日、お庭のベンチに座って一緒に休んでいたら。恭介君が、どうして目が見えなくなったのかを話してくれた。

 「悪戯でね。花火の火薬を一杯集めてたんだ」
 「え、危ないよ!」

 花火は僕もよくやる。
 お父さんの別荘ではみんなで楽しく遊ぶし、お母さんが時々買って来てマンションの前でもやる。
 たまにお父さんと響子さんも一緒に、病院の屋上でやったこともある。
 一度沢山の花火を一遍にやったら綺麗じゃないかと話したら、お母さんに止められた。
 花火は一本ずつやらなければいけないのだと教えられた。
 そうじゃないと危ないそうだ。

 「そうだったよ。お父さんとお母さんと一緒に花火大会に行って、凄く綺麗だったんだ。だから自分でも大きなものを作りたくてね」
 「え、作ったの!」
 「うん。ガラスのビンの中に一杯火薬をほぐして入れてね。でもね、火を点けたら爆発して。割れたガラスが飛び散って、それが目の中に入って見えなくなったんだ」
 「そうなの……」

 そういうことだったのか。
 恭介君は目の周りの包帯をしているが、顔に幾つもの小さな傷や火傷の痕があった。
 お母さんから、患者さんの病気や怪我のことは自分から聞いてはいけないのだと言われている。
 でも、恭介君は僕に聞いてもらいたいようだった。

 「もう二度と見えないんだって」
 「そんな!」
 「しょうがないよ。自分でやったことだから諦めてる。僕が悪いんだからね」
 「でも!」
 「いいんだよ、僕は見えなくてもちゃんと生きていきたい。だからこうやって歩けるように練習してるんだ」
 「……」

 恭介君が立派なのは知ってる。
 でも、もう二度と見えないなんて可哀想だ。
 恭介君は目が見えないことを何とも思っていないようにしている。
 それでも僕は、本当は見えるようになりたいんじゃないかと思った。

 「もう少ししたらね、ここを退院するんだ」
 「え!」
 「今度は目が見えない人のための施設に行ってね、そこでまた歩ける訓練や見えなくても暮らしていけるような勉強をするんだよ」
 「もう会えなくなっちゃうの?」
 「ごめんね、折角吹雪君とは仲良くなれたのに」
 「……」
 「でも僕もきっと自由に歩けるようになってさ、またここに来て吹雪君に会いに来るよ」
 「恭介君!」

 会えなくなるのは寂しいけど、仕方のないことだ。
 でも、恭介君のために何かもっとしてあげたい。
 そうだ!

 「そうだ! 僕がお父さんに頼んであげる!」
 「え?」
 「お父さんはこの病院で一番の外科医なんだって、お母さんがいつも言ってる!」
 「そうなんだ」
  「お母さんは世界一のお医者さんだって言ってる。だからきっと……」
 「でもさ、吹雪君!」

 僕が思いついてそう言うと、恭介君は慌てていた。
 でも、嬉しそうな顔になっていた。
 やっぱり恭介君も、また目が見えるようになりたいんだ。

 「ね、ちょっと待ってて、お父さんなら絶対に治せるよ! きょ、あ、いや、あのね、ある女の子がいてね。その子は絶対に助からない病気だったの」
 「え?」
 「でもね、お父さんが治したんだよ! えーと、81時間の手術だったって! 世界最長の手術だよ、えーと、まる三日以上! ね、スゴイでしょ?」
 「そうだね!」
 「世界中で誰も治せなかったんだって! お金持ちの子で、もしも失敗したら殺されるって言われたんだって!」
 「それでも吹雪君のお父さんはやったの!」
 「うん! お父さんは絶対に治すって思ってたんだって。だから奇跡が起きたんだってお母さんが言ってた!」
 「凄いね! 本当に凄い人だよ!」

 恭介君も段々興奮して来た。

 「そうでしょ? だから恭介君の目だって、絶対にお父さんが治せるよ!:
 「そうか! じゃあ吹雪君、お願いします!」
 「うん、任せて!」

 僕は恭介君に約束した。
 お父さんなら絶対に治せる。
 恭介君が嬉しそうに笑った。

 「本当に見えるようになるのか」
 「大丈夫だよ!」

 恭介君と別れて響子さんのお部屋に戻って、お母さんに話した。
 お母さんが物凄く怒った。

 「吹雪! お前はなんてことをしたの!」
 「!」

 お母さんから叩かれた。
 びっくりして痛かったけど、それよりも心が痛かった。
 お母さんが僕に僕のやったことを泣きながら説明し、本当に心が痛かった。
 恭介君、ごめんなさい……
 お母さん、ごめんなさい……
 お父さん……



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 
 話を聞き、六花のマンションに行き、話を聞いた。
 六花は必死に俺に頭を下げていた。

 「トラ、ごめんなさい! 私の責任です! 吹雪に患者さんとの接し方を教えていなくて!」
 「そう言うな。子どもなんだから仕方ないだろう。それに吹雪は優しさから約束してしまったんだ」
 「でも、絶対にしてはいけないことです!」
 「まあな。でも俺が何とかするよ。内田恭介君だったか、花火の爆発で失明した子だよな」
 「はい、眼球が破損して、もう治す手立てがないと」
 「そうだな」

 六花は本当に憔悴していた。
 看護師としての六花の立場からはその気持ちはもちろん分かる。
 病院の特別な措置として吹雪を同行し、一日中一緒にいられる立場だ。
 だから吹雪がやったことを、心底から申し訳ないと思っている。
 だが、起きてしまったことは仕方がない。
 子どもがやったことだ、こういうこともある。
 ここからは俺の責任だ。
 吹雪は俺の子どもだ。
 
 六花を抱き締めると、六花は苦しそうに泣いた。
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