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第一部
15 エレナと婚約発表の準備
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殿下の誕生パーティーでエレナを婚約者として公式に発表する。
そのための準備として、殿下は朝から屋敷にいらして、応接室でお父様とずっと話し合いをされている。
わたしは自室にこもって、刺繍をしながら話し合いが終わるのを待つ。
エレナは刺繍が趣味だったみたいで、やり始めたら手が止まらない。引きこもりご令嬢生活に飽きていたので、没頭できる趣味があるのはありがたい。
「ずっとお話しされているのね」
「そりゃあ、エレナお嬢様との婚約を発表するんですから、段取りも多くて確認する事がたくさんございます」
メリーの言う通りではあるのだけど……
婚約するのはわたしなのに蚊帳の外に置かれていて、わたしはみんなに指示されたままに動けばいいお人形だと暗に言われている気がする。
「近くにいらっしゃるのに、遠くにいらっしゃるみたい」
「大丈夫ですよ。エレナお嬢様。この後シリル殿下がお越しになって衣装の確認がございます。その時に必ずお会いできますから」
メリーは新しいお茶を用意して励ましてくれた。
「ありがとう。メリー」
そうね。
殿下のことが大好きなエレナなら、近くにいるのにまだ逢えないの悲しくなっちゃうよね。
近くて遠い……
近くにいるのにまだ逢えない事よりも、名目ばかり殿下に近づいただけで、気持ちが遠い事が悲しいよ。
エレナは殿下の気持ちが遠いことに気がついていたのかな。
気がついてなくて、ただただ殿下の事が大好きだったのかな。
気がついていて、それでも殿下が大好きだったのかな。
深いため息をつくと、メリーが抱きしめてくれた。
コンコンコン。
ノック音が聞こえる。
「恐れ入ります」
扉の外から聞こえる声はランス様だ。
慌ててメリーが扉を開ける。
「エレナ様。先程話し合いを終え、殿下と侯爵夫妻は談笑されていらっしゃいます。この後衣装の確認がございますので、先にお召し替えいただけませんか」
ランス様の他、殿下の専属侍従のウェードや従者達がわたしの部屋と続き間になっている支度部屋に大きな箱を運び込む。
続き間の扉を開けて部屋から覗いていると、いくつもいくつも箱が運び込まれて、終いには支度部屋が箱だらけになっている。
どれだけ豪華なドレスなのかしら。
「それでは、お願いいたします」
ランス様達はそれだけ言うと去っていった。
「すごい箱の数ね……」
「これだけあると時間がかかりますから、早速取り掛かりましょう」
メリーやメイド達が手際よく箱をあけ、着替えの準備をはじめる。
一番大きな箱から出てきた豪華なドレスにメイド達から感嘆の声が漏れる。
「素敵……」
わたしも近づいてうっとり眺める。
手触りのいい白い絹生地に金糸や銀糸で丁寧に刺繍が施されている。
たっぷりのレースやフリル。
白を基調としながらもブルーリボンのパイピングが、デザインを引き締めている。
「まるでウェディングドレスみたい」
小さく呟く。
「えぇえぇ。本当に。あんなに小さかったエレナお嬢様がこんなに素敵なドレスを着てシリル殿下と婚約の発表するなんて」
極まったメリーが泣き出して、今度はわたしがメリーを抱きしめる。
メリーやみんなを悲しませる事にならない様にしなくっちゃ。
わたしはそう決意した。
「苦しいわ。メリー」
「我慢なさってください。まだまだですからね」
そう言うと、メリーはコルセットの紐をもう一度締め上げた。
今まで、エレナの衣装部屋にあったドレスはスリップとドロワーズの上に着る豪華なワンピースの様なものばかりだった。
コルセットを締め上げパニエを仕込むお姫様が着るみたいなドレスはこれがはじめて。
……うぅ。
ドレスってやっぱり苦しいのね。
お兄様とダンスの練習はいっぱいしたけれど、このドレスで優雅にパーティーでダンスしてって、結構大変かも……
メリーやメイド達が話す内容からわかったのは、この世界では十六歳で社交界デビューするって事。
社交界デビューと同時に、正式な婚約を結ぶことも解禁される。
そこで貴族の子女達は交友関係を広げたりお相手を探したりするみたい。
十八歳で成人するから、それまでに結婚相手を見つけたくて、貴族の子女はシーズンになるとみんなたくさんのパーティーに参加されるそう。
そうそう。
お兄様はもうすぐ十八歳になるのに決まったお相手もいないし、たくさんお誘いが来るパーティーにもあまり顔を出さないものだから、メイド達が心配していた。
わたしがもうすぐ十六歳を迎えて、社交界に出られる歳になる事。
殿下も半年後には十八歳になって成人を迎えられる事。
そこで殿下の誕生日パーティーをわたしの社交界デビューの場にして、正式に婚約者として発表するのがいいだろうとなったみたい。
メイド達はおしゃべりしたりドレスやアクセサリーに感嘆の声をあげながらもどんどんわたしの着替えを進めていく。
「お嬢様。これで最後ですよ」
普段はつけない指輪にネックレス……
これって……本物のダイヤモンド? サファイア? これ何カラットあるの? 宝石の輝きに目がチカチカする。
こんな豪華な衣装を用意してもらったら舞い上がってしまうけど、きっともうこのドレスを着る事はない。
殿下の誕生日までにわたしは婚約破棄される、悲しいストーリーが待っている。
ううん。違う。
悲しいストーリーなんかじゃない。
それが今考えうる最善のルートだもの。
わたしは決意を固くした。
そのための準備として、殿下は朝から屋敷にいらして、応接室でお父様とずっと話し合いをされている。
わたしは自室にこもって、刺繍をしながら話し合いが終わるのを待つ。
エレナは刺繍が趣味だったみたいで、やり始めたら手が止まらない。引きこもりご令嬢生活に飽きていたので、没頭できる趣味があるのはありがたい。
「ずっとお話しされているのね」
「そりゃあ、エレナお嬢様との婚約を発表するんですから、段取りも多くて確認する事がたくさんございます」
メリーの言う通りではあるのだけど……
婚約するのはわたしなのに蚊帳の外に置かれていて、わたしはみんなに指示されたままに動けばいいお人形だと暗に言われている気がする。
「近くにいらっしゃるのに、遠くにいらっしゃるみたい」
「大丈夫ですよ。エレナお嬢様。この後シリル殿下がお越しになって衣装の確認がございます。その時に必ずお会いできますから」
メリーは新しいお茶を用意して励ましてくれた。
「ありがとう。メリー」
そうね。
殿下のことが大好きなエレナなら、近くにいるのにまだ逢えないの悲しくなっちゃうよね。
近くて遠い……
近くにいるのにまだ逢えない事よりも、名目ばかり殿下に近づいただけで、気持ちが遠い事が悲しいよ。
エレナは殿下の気持ちが遠いことに気がついていたのかな。
気がついてなくて、ただただ殿下の事が大好きだったのかな。
気がついていて、それでも殿下が大好きだったのかな。
深いため息をつくと、メリーが抱きしめてくれた。
コンコンコン。
ノック音が聞こえる。
「恐れ入ります」
扉の外から聞こえる声はランス様だ。
慌ててメリーが扉を開ける。
「エレナ様。先程話し合いを終え、殿下と侯爵夫妻は談笑されていらっしゃいます。この後衣装の確認がございますので、先にお召し替えいただけませんか」
ランス様の他、殿下の専属侍従のウェードや従者達がわたしの部屋と続き間になっている支度部屋に大きな箱を運び込む。
続き間の扉を開けて部屋から覗いていると、いくつもいくつも箱が運び込まれて、終いには支度部屋が箱だらけになっている。
どれだけ豪華なドレスなのかしら。
「それでは、お願いいたします」
ランス様達はそれだけ言うと去っていった。
「すごい箱の数ね……」
「これだけあると時間がかかりますから、早速取り掛かりましょう」
メリーやメイド達が手際よく箱をあけ、着替えの準備をはじめる。
一番大きな箱から出てきた豪華なドレスにメイド達から感嘆の声が漏れる。
「素敵……」
わたしも近づいてうっとり眺める。
手触りのいい白い絹生地に金糸や銀糸で丁寧に刺繍が施されている。
たっぷりのレースやフリル。
白を基調としながらもブルーリボンのパイピングが、デザインを引き締めている。
「まるでウェディングドレスみたい」
小さく呟く。
「えぇえぇ。本当に。あんなに小さかったエレナお嬢様がこんなに素敵なドレスを着てシリル殿下と婚約の発表するなんて」
極まったメリーが泣き出して、今度はわたしがメリーを抱きしめる。
メリーやみんなを悲しませる事にならない様にしなくっちゃ。
わたしはそう決意した。
「苦しいわ。メリー」
「我慢なさってください。まだまだですからね」
そう言うと、メリーはコルセットの紐をもう一度締め上げた。
今まで、エレナの衣装部屋にあったドレスはスリップとドロワーズの上に着る豪華なワンピースの様なものばかりだった。
コルセットを締め上げパニエを仕込むお姫様が着るみたいなドレスはこれがはじめて。
……うぅ。
ドレスってやっぱり苦しいのね。
お兄様とダンスの練習はいっぱいしたけれど、このドレスで優雅にパーティーでダンスしてって、結構大変かも……
メリーやメイド達が話す内容からわかったのは、この世界では十六歳で社交界デビューするって事。
社交界デビューと同時に、正式な婚約を結ぶことも解禁される。
そこで貴族の子女達は交友関係を広げたりお相手を探したりするみたい。
十八歳で成人するから、それまでに結婚相手を見つけたくて、貴族の子女はシーズンになるとみんなたくさんのパーティーに参加されるそう。
そうそう。
お兄様はもうすぐ十八歳になるのに決まったお相手もいないし、たくさんお誘いが来るパーティーにもあまり顔を出さないものだから、メイド達が心配していた。
わたしがもうすぐ十六歳を迎えて、社交界に出られる歳になる事。
殿下も半年後には十八歳になって成人を迎えられる事。
そこで殿下の誕生日パーティーをわたしの社交界デビューの場にして、正式に婚約者として発表するのがいいだろうとなったみたい。
メイド達はおしゃべりしたりドレスやアクセサリーに感嘆の声をあげながらもどんどんわたしの着替えを進めていく。
「お嬢様。これで最後ですよ」
普段はつけない指輪にネックレス……
これって……本物のダイヤモンド? サファイア? これ何カラットあるの? 宝石の輝きに目がチカチカする。
こんな豪華な衣装を用意してもらったら舞い上がってしまうけど、きっともうこのドレスを着る事はない。
殿下の誕生日までにわたしは婚約破棄される、悲しいストーリーが待っている。
ううん。違う。
悲しいストーリーなんかじゃない。
それが今考えうる最善のルートだもの。
わたしは決意を固くした。
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