【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
14 / 276
第一部

14 エレナ、湖への小旅行

しおりを挟む
 規則的な揺れが止まって、わたしはハッと目を覚ます。

 わっ! やばい! 寝てた! 降車駅乗り過ごした⁈
 やばい! やばい! 隣の人に寄りかかってた!
 可愛いギャルじゃなくてすいません!
 どうしよう。オタバレしてるかな。
 キモがられてたらどうしよう!

 とにかくわたしは謝ろうと勢いよく姿勢を正して迷惑をかけただろう人物に向き合うと、緑色の瞳と目が合う。

「エレナ、よく寝てたね」

 エメラルドみたいな瞳をした人物は目を細め、わたしに笑顔を向ける。

 お兄様っ!

 考え事をしていたら、いつの間にかお兄様に寄りかかって、うとうと眠ってしまったらしい。

 そっか、そうだった。

 わたしはなんかの作品の中に転生してるんだった。
 だからここは通学電車の中じゃなくて馬車の中。

 くっ。お兄様に寄りかかってたなら、もっと堪能したかった。
 イケメンに甘えるチャンスだったのに……

「大丈夫? まだ体調良くない?」

 わたしの反応があまりよくないからか、お兄様は心配そうにわたしの顔を覗き込む。

「体調は大丈夫です! 日差しが気持ちよくてつい」
「ならよかった」

 お兄様はホッとした顔をしてわたしの頭をポンポンする。
 せっかくの頭ポンポンも邪な事を考えていたので超絶後ろめたい。

「ほら、着いたよ」

 お兄様に言われて、窓の外を見る。
 湖だ。
 森の木々の隙間から見えていたきらめく湖も素敵だったけれど、近くで見る湖はまるで海みたい。
 
「見て! お兄様! 大きくて海みたいよ!」
「あはは! 小さい頃と同じ事をいうね。もうエレナは小さな女の子ではなかったんじゃないの?」

 はしゃいでいるわたしに向かって、お兄様はそう言っていたずらっ子の様にウィンクをする。
 イケメンにイケメンっぷりを発揮されて、キュンキュンが止まらない。

「おいで、僕の可愛いレディ。もっと景色のいい場所まで少し歩こう」
 
 わたしはお兄様に差し出された手を取り、馬車を降りる。

 歩きやすいようにとメリーが選んでくれた編み上げブーツで、お兄様と湖畔を散策する。

 エレナのお気に入りだったこの靴は、足に馴染み、不安定な砂利の道も足を取られる事なくしっかりと歩ける。

 あい変わらず選ばれたのは青い綿のワンピースだけど、今日のワンピースは軽やかな膝下丈で歩きやすい。

 お兄様と手を繋ぎながら湖畔を歩く。

 新緑の季節の湖畔では花が咲き、若草の匂いが風に乗り、耳をすませば小鳥のさえずりが聞こえる。

 懐かしいな。

 小さい頃から遊びに来ていた湖。

 少しづつ思い出してきたエレナの記憶に浸る。

 夏になるとこの湖畔で毎日のように水遊びをして、疲れたら木陰でお昼寝をする。
 メリーやメイド達が用意してくれたお茶を飲んで、お菓子を食べて……

 そうそう。

 お兄様達と木の実を取るために木登りをしていたら、メリーがお転婆にしてるとお嫁にいけなくなると心配してたわ。

 ──大丈夫だよ。メリー。そしたらエレナは僕のお嫁さんになればいい。

 そう言って屈託なく笑う美少年……サラサラの淡い色の金髪に、深い湖の様な青色の瞳……

 幼い頃の殿下だ!
 
 急に思い出した幼い頃の記憶に胸の奥がキュンッとする。

 そんな事言われたら意識するよ。
 大好きになっちゃうよ。
 だって、王子様からのプロポーズだもん。

 まぁね、客観的に考えれば子供の思いつきの戯言だけど、恋を意識するには充分な威力だわ。

 そうかエレナは小さい頃に殿下に恋に落ちたんだ。



 王都に近くて、王国内で一番大きなこの湖のほとりはトワイン領だけど王族が避暑地として使う別荘もある。
 小さい頃避暑にいらしていた殿下やランス様とわたしたち兄妹はこの湖畔で遊んで過ごした。

 優しい殿下のことが小さい頃から大好きで、後ろをいっつもくっついて歩いてたわたしの事を、殿下は「妹ができたみたい」と可愛がってくれていた。

 そうそう!

 湖が見える丘の上まで鬼ごっこを何度もした。
 一度、みんなに追いつけずに転んで泣いていたら、殿下がわたしを背負って丘の上まで連れて行ってくれたのよね……

 昔、何度も殿下達と走り回った道、そして殿下に背負ってもらった道を、いまはお兄様に手を引かれながら歩く。

 「着いたよ」

 お兄様に、声をかけられ顔をあげる。

 あの時に背負ってくれていた殿下の背中越しに見たのと同じ、キラキラ輝く湖面と一面に咲き誇る純白のマーガレットの花畑が広がっていた。

 ──わたし、マーガレットだーいすき!
 ──可愛い花だね。まるでエレナみたい。

 あの時たしかに殿下とそんな会話をした……

 お見舞いの花束をいただいた時に「殿下がエレナ様にと選ばれた花束です」そうランス様は言っていた。
 殿下は「マーガレットの花の精みたい」と言っていた。
 
 もしかしてマーガレットの花束を下さったのは、殿下もこの思い出を大切にしてくださっているからかしら……

 ダメよ。

 仮に殿下がエレナとの思い出を大切にしてくれていたとしても、あくまでも殿下がエレナの事を妹の様に可愛いがってくださっていたというだけ。

 恋愛対象として見てもらえてるわけじゃない。
 ちゃんと冷静にならないと。

 淡い期待を振り払う様に、かぶりを振った。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...