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第一部
43 エレナとツンデレ公爵令嬢と溺愛無自覚の騎士
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「殿下! エリオット様! エレナ様! ありがとうございます! 無事にコーデリア様にお渡しできました!」
コーデリア様に拒否されずにイヤリングを渡せた事に浮かれたダスティン様が、四阿の裏に隠れていたわたしたちに向け拳をつきあげて勝ち鬨をあげた。
やっぱりダスティン様にはついていけない……
隠れている事を思い切りばらされ、気まずくなって立ち上がったわたしとお兄様を、真っ赤になったコーデリア様が睨みつけた。
「貴方達はいったいいつからどこから見ていましたの⁈」
「最初からこの場で見ていたに決まっているだろう」
殿下は冷静にそう伝えて立ち上がると、何事もなかったかのように四阿の中に入り、備え付けのベンチに堂々と座る。
わたしとお兄様も目配せして殿下の後について行き、四阿の端で立ち尽くす。
「どうりでおかしいと思いましたわ! ダスティンのような朴念仁がこんな気の利いた事ができるわけありませんものね。貴方の入れ知恵ね⁈」
「おや。入れ知恵とはなんのことかな? 私はダスティンにきちんと自分の考えている事を伝えないと後悔するよと伝えただけで……まぁ、少しはどんなイヤリングがいいかの相談は乗ったけど、ダスティンが『自分で考えて自分で用意』したものだよ。なぁダスティン」
ダスティン様は深く頷く。
ダスティン様の紡いだ言葉は本心から出ている言葉なのだろうけど……
その言葉を伝える様に言ったのは殿下の差し金だったり、プレゼントもロマンチックで素敵だけど殿下がどこまで口出ししてるか計りかねてコーデリア様は素直に喜べずにいる。
もう。
ダスティン様がわたしたちにアピールしなかったら丸く収まっていたのに!
「あぁ。それとも口づけのことかな? それはエリオットの入れ知恵みたいだからなぁ」
急に殿下に話を振られたお兄様は、コーデリア様の眼光が鋭くなったのを見て、借りてきた猫のように身を縮める。
「や、まぁ、その……そういう意味で言ったわけじゃなかったんですけど、そう伝わる様な言い方だったかもなぁ? って、今猛烈に反省して……」
コーデリア様はこれ見よがしに深いため息をつき、しどろもどろに弁明するお兄様に向かって何も言わずに侮蔑の視線を送る。
怖っ。
でも、お兄様が適当な事をダスティン様に吹き込んだんだから仕方ない。
「……で? エレナ様は何の入れ知恵をしたのかしら」
「ふぇっ? へぇっ? あっ! いえ、わたしは別に……入れ知恵なんて……そんなそんな……滅相もないことで……」
お兄様を攻め続けると思っていたわたしは、油断していたので急に振られて変な声が出るし、返事がしどろもどろになる。
「コーデリア様。エレナ様は私に御守りを下さっただけですよ」
「まぁ! 御守りですって⁈ ダスティン! 貴方は加護を授ける様な気持ちのこもった物を、婚約者以外の女性から受け取るような軟派な男だったのね!」
「何をおっしゃっているのですか? エレナ様は殿下の婚約者でいらっしゃいます。きっと私に対して主君として加護を授けようとしてくださったのですよ」
わたしが慌てているのを見かねて、ダスティン様が助け舟を出してくれたつもりなんだろうけど……
火に油を注いだだけにしか思えない。
渡す時にはちゃんと「御守りに代わる様なもの」って伝えたんだけどな。
コーデリア様がおっしゃる様に、この国で女性が贈るお守りと言ったら、装飾品に贈る相手を思いながら刺繍を刺したものが一般的だ。
エレナだって刺繍が楽しいからと、誰彼構わず作ったものを渡したりはしていない。
想いを込めて刺した刺繍が入ったあれこれを贈っているのは、家族や、兄の様に慕ってるって言い訳が出来る殿下。もう一人の母の様な存在のメリー、後は領地にいる家族の様に育った使用人の子供達くらいだ。
いくらエレナが未来の王妃様でダスティン様の主君になる可能性があっても、ダスティン様に御守りを渡すのは無理がある。
「貴方が本当に朴念仁だっていうことがよく分かりました! その御守りとやらを見せてみなさい!」
そう言われたダスティン様は、わたしが御守り代わりとしてお渡ししていたものをコーデリア様に見せるために、手首をご自身の顔に近づける。
「ダッ……ダスティン! どっどっどういうつもりでそんな物つけておりますの⁉︎」
今朝わたしがダスティン様にお渡しした御守り代わり──ダスティン様が勘違いして送ったコーデリア様カラーのイヤリングをリメイクしたカフスボタン──が手首に輝いているのをコーデリア様は確認すると、再び顔を真っ赤にして叫んだ。
ダスティン様はコーデリア様が真っ赤になっているのも気に留めずに、うっとりとした笑顔でカフスボタンに優しく触れる。
「これがエレナ様にいただいた御守りです。これを身につけると誇り高きコーデリア様が私の手を取り励まして頂いている様に感じられて、何事も万事達成できる様な万能感を与えてくれるのです」
ダスティン様の無自覚な甘い囁きが、コーデリア様の疑心暗鬼に駆られた心に突き刺さったんだろう。
コーデリア様は気を失って倒れ込んでしまった。
コーデリア様に拒否されずにイヤリングを渡せた事に浮かれたダスティン様が、四阿の裏に隠れていたわたしたちに向け拳をつきあげて勝ち鬨をあげた。
やっぱりダスティン様にはついていけない……
隠れている事を思い切りばらされ、気まずくなって立ち上がったわたしとお兄様を、真っ赤になったコーデリア様が睨みつけた。
「貴方達はいったいいつからどこから見ていましたの⁈」
「最初からこの場で見ていたに決まっているだろう」
殿下は冷静にそう伝えて立ち上がると、何事もなかったかのように四阿の中に入り、備え付けのベンチに堂々と座る。
わたしとお兄様も目配せして殿下の後について行き、四阿の端で立ち尽くす。
「どうりでおかしいと思いましたわ! ダスティンのような朴念仁がこんな気の利いた事ができるわけありませんものね。貴方の入れ知恵ね⁈」
「おや。入れ知恵とはなんのことかな? 私はダスティンにきちんと自分の考えている事を伝えないと後悔するよと伝えただけで……まぁ、少しはどんなイヤリングがいいかの相談は乗ったけど、ダスティンが『自分で考えて自分で用意』したものだよ。なぁダスティン」
ダスティン様は深く頷く。
ダスティン様の紡いだ言葉は本心から出ている言葉なのだろうけど……
その言葉を伝える様に言ったのは殿下の差し金だったり、プレゼントもロマンチックで素敵だけど殿下がどこまで口出ししてるか計りかねてコーデリア様は素直に喜べずにいる。
もう。
ダスティン様がわたしたちにアピールしなかったら丸く収まっていたのに!
「あぁ。それとも口づけのことかな? それはエリオットの入れ知恵みたいだからなぁ」
急に殿下に話を振られたお兄様は、コーデリア様の眼光が鋭くなったのを見て、借りてきた猫のように身を縮める。
「や、まぁ、その……そういう意味で言ったわけじゃなかったんですけど、そう伝わる様な言い方だったかもなぁ? って、今猛烈に反省して……」
コーデリア様はこれ見よがしに深いため息をつき、しどろもどろに弁明するお兄様に向かって何も言わずに侮蔑の視線を送る。
怖っ。
でも、お兄様が適当な事をダスティン様に吹き込んだんだから仕方ない。
「……で? エレナ様は何の入れ知恵をしたのかしら」
「ふぇっ? へぇっ? あっ! いえ、わたしは別に……入れ知恵なんて……そんなそんな……滅相もないことで……」
お兄様を攻め続けると思っていたわたしは、油断していたので急に振られて変な声が出るし、返事がしどろもどろになる。
「コーデリア様。エレナ様は私に御守りを下さっただけですよ」
「まぁ! 御守りですって⁈ ダスティン! 貴方は加護を授ける様な気持ちのこもった物を、婚約者以外の女性から受け取るような軟派な男だったのね!」
「何をおっしゃっているのですか? エレナ様は殿下の婚約者でいらっしゃいます。きっと私に対して主君として加護を授けようとしてくださったのですよ」
わたしが慌てているのを見かねて、ダスティン様が助け舟を出してくれたつもりなんだろうけど……
火に油を注いだだけにしか思えない。
渡す時にはちゃんと「御守りに代わる様なもの」って伝えたんだけどな。
コーデリア様がおっしゃる様に、この国で女性が贈るお守りと言ったら、装飾品に贈る相手を思いながら刺繍を刺したものが一般的だ。
エレナだって刺繍が楽しいからと、誰彼構わず作ったものを渡したりはしていない。
想いを込めて刺した刺繍が入ったあれこれを贈っているのは、家族や、兄の様に慕ってるって言い訳が出来る殿下。もう一人の母の様な存在のメリー、後は領地にいる家族の様に育った使用人の子供達くらいだ。
いくらエレナが未来の王妃様でダスティン様の主君になる可能性があっても、ダスティン様に御守りを渡すのは無理がある。
「貴方が本当に朴念仁だっていうことがよく分かりました! その御守りとやらを見せてみなさい!」
そう言われたダスティン様は、わたしが御守り代わりとしてお渡ししていたものをコーデリア様に見せるために、手首をご自身の顔に近づける。
「ダッ……ダスティン! どっどっどういうつもりでそんな物つけておりますの⁉︎」
今朝わたしがダスティン様にお渡しした御守り代わり──ダスティン様が勘違いして送ったコーデリア様カラーのイヤリングをリメイクしたカフスボタン──が手首に輝いているのをコーデリア様は確認すると、再び顔を真っ赤にして叫んだ。
ダスティン様はコーデリア様が真っ赤になっているのも気に留めずに、うっとりとした笑顔でカフスボタンに優しく触れる。
「これがエレナ様にいただいた御守りです。これを身につけると誇り高きコーデリア様が私の手を取り励まして頂いている様に感じられて、何事も万事達成できる様な万能感を与えてくれるのです」
ダスティン様の無自覚な甘い囁きが、コーデリア様の疑心暗鬼に駆られた心に突き刺さったんだろう。
コーデリア様は気を失って倒れ込んでしまった。
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