56 / 276
第二部
6 エレナはお茶会の招待客か否か
しおりを挟む
「そういえば、お兄様は外交のお仕事を目指されていたのね」
「あれ? エレナに言ったことなかったっけ?」
やばい。
まだまだ終わらない殿下とコーデリア様の言い合いに待ちくたびれて、お兄様に暢気に声をかけてしまったけど、大切なことを覚えていないなんて、エレナの記憶が抜け落ちていることがバレてしまう。
エレナの記憶が朧げで前世の記憶を思い出したなんて知られたら何が起こるかわからない。
バレないようにしなくちゃ。
「あっ……あら? 伺ってましたっけ? もっもしかして本に夢中になってる時か編み物に夢中になってる時に伺ったのかしら?」
「そうだったっけ? まぁ、いいや」
お兄様の適当なところは、本当に都合がいい。
「だから、エレナ協力してね? エレナはイスファーン語、僕よりも得意でしょ?」
陸続きの隣国は言語体系が同じなので日本でいう方言くらいの違いでなんだかんだ言葉が通じる。
でも海を挟んだ隣国のイスファーン王国は言語体系が全く違う。
ヴァーデン王国内でも王室仕えの文官なら読み書きができる人材はいるだろうし、イスファーンと商取引をする様な商家や船乗り達は話せる人達もいるだろうけど、王女様滞在中のもてなしの案内役が出来るような貴族女性で話せる者は少ない。
エレナは王国内で数少ないイスファーン語が話せるご令嬢だ。
エレナはチートなんじゃないかと思うくらいすごく賢い。
でも、チートなわけじゃなくて、めちゃくちゃ勉強家だ。
毎年エレナの誕生日に殿下から贈られるのは、歴史や地理や政治などの専門書や論文ばかりだったみたい。
きっと妹の様に思ってくれていたはずなので、勉強するようにってことだったのかな?
時には何冊もまとめて送られてきた専門書や論文はエレナ一人では理解できないものばかりだった。
それでもエレナは殿下に感想の手紙を書きたい一心で、贈られた専門書を理解しようと関連する書物をお父様に手に入れてもらったり、家庭教師を雇って勉強したりを毎年繰り返していた。
イスファーン語に関しても、ヴァーデン王国と他国との関係性を知るために、イスファーン王国の歴史書にヴァーデン王国がどう書かれているかを現地の言葉で読むという論文が送られてきた時に、イスファーン人の家庭教師を雇って言葉を習い、日常会話はおろか論文の元になった原文の歴史書を読みこなせるレベルまで到達している。
その時にせっかくだからとお兄様も一緒にイスファーン語を習ったので、お兄様もそれなりにイスファーン語が話せる。
きっとお兄様がしゃしゃり出て「僕とエレナに王女様のお世話は任せてよ」なんて調子よく殿下やコーデリア様に言ったに違いない。
「お兄様は、私の為に社交の場につれだすフリして、自分の補佐のためにイスファーン語が話せる私を連れてこうとしていらっしゃるのね?」
お兄様のせいで私がお茶会に参加する羽目になったことに気がつく。
「やだなぁ、エレナに社交の場で活躍して欲しいだけだって」
白々しい弁明をするお兄様を私はキッと睨みつけた。
お兄様は基本的にエレナの事をめちゃくちゃ可愛がってくれるし、甘いし、エレナ贔屓だと思うけど、それ以上に自分のことが大好きだ。
油断してるとエレナを蔑ろにして自分の利益を優先する。
お兄様は流石にバツが悪いのか、睨んでる私を無視してダスティン様とお喋りをはじめた。
「ねぇ、ダスティンは殿下とコーデリア様が口論してるの見てなんとも思わないの?」
「何がですか?」
「僕は、このギスギスした雰囲気にいると居た堪れない気持ちになるんだけど、ダスティンもそう思わない?」
「そうですか?」
ダスティン様はそう言って人差し指を顎に当てて小首を傾げて考え込む。
「……確かに一国の王太子殿下がお相手でも臆することなく自分の意見をおっしゃるコーデリア様の崇高さと比べてしまうと、自分の卑小さに居た堪れない気持ちになりますね」
コーデリア様の婚約者でいらっしゃるダスティン様は、基本的にコーデリア様のされる事を肯定的に捉えている。
一種の才能だと思う。
「……そう。なんかダスティンと話していると、この場から逃げようと思ってる僕が卑小な人間に思えてくるよ……」
お兄様がため息混じりにそう呟いて、殿下とコーデリア様を見つめる。
「失礼します。殿下とコーデリア様の議論は終わりそうもございませんので、私から説明いたします」
諦め顔のランス様から説明が始まった。
「あれ? エレナに言ったことなかったっけ?」
やばい。
まだまだ終わらない殿下とコーデリア様の言い合いに待ちくたびれて、お兄様に暢気に声をかけてしまったけど、大切なことを覚えていないなんて、エレナの記憶が抜け落ちていることがバレてしまう。
エレナの記憶が朧げで前世の記憶を思い出したなんて知られたら何が起こるかわからない。
バレないようにしなくちゃ。
「あっ……あら? 伺ってましたっけ? もっもしかして本に夢中になってる時か編み物に夢中になってる時に伺ったのかしら?」
「そうだったっけ? まぁ、いいや」
お兄様の適当なところは、本当に都合がいい。
「だから、エレナ協力してね? エレナはイスファーン語、僕よりも得意でしょ?」
陸続きの隣国は言語体系が同じなので日本でいう方言くらいの違いでなんだかんだ言葉が通じる。
でも海を挟んだ隣国のイスファーン王国は言語体系が全く違う。
ヴァーデン王国内でも王室仕えの文官なら読み書きができる人材はいるだろうし、イスファーンと商取引をする様な商家や船乗り達は話せる人達もいるだろうけど、王女様滞在中のもてなしの案内役が出来るような貴族女性で話せる者は少ない。
エレナは王国内で数少ないイスファーン語が話せるご令嬢だ。
エレナはチートなんじゃないかと思うくらいすごく賢い。
でも、チートなわけじゃなくて、めちゃくちゃ勉強家だ。
毎年エレナの誕生日に殿下から贈られるのは、歴史や地理や政治などの専門書や論文ばかりだったみたい。
きっと妹の様に思ってくれていたはずなので、勉強するようにってことだったのかな?
時には何冊もまとめて送られてきた専門書や論文はエレナ一人では理解できないものばかりだった。
それでもエレナは殿下に感想の手紙を書きたい一心で、贈られた専門書を理解しようと関連する書物をお父様に手に入れてもらったり、家庭教師を雇って勉強したりを毎年繰り返していた。
イスファーン語に関しても、ヴァーデン王国と他国との関係性を知るために、イスファーン王国の歴史書にヴァーデン王国がどう書かれているかを現地の言葉で読むという論文が送られてきた時に、イスファーン人の家庭教師を雇って言葉を習い、日常会話はおろか論文の元になった原文の歴史書を読みこなせるレベルまで到達している。
その時にせっかくだからとお兄様も一緒にイスファーン語を習ったので、お兄様もそれなりにイスファーン語が話せる。
きっとお兄様がしゃしゃり出て「僕とエレナに王女様のお世話は任せてよ」なんて調子よく殿下やコーデリア様に言ったに違いない。
「お兄様は、私の為に社交の場につれだすフリして、自分の補佐のためにイスファーン語が話せる私を連れてこうとしていらっしゃるのね?」
お兄様のせいで私がお茶会に参加する羽目になったことに気がつく。
「やだなぁ、エレナに社交の場で活躍して欲しいだけだって」
白々しい弁明をするお兄様を私はキッと睨みつけた。
お兄様は基本的にエレナの事をめちゃくちゃ可愛がってくれるし、甘いし、エレナ贔屓だと思うけど、それ以上に自分のことが大好きだ。
油断してるとエレナを蔑ろにして自分の利益を優先する。
お兄様は流石にバツが悪いのか、睨んでる私を無視してダスティン様とお喋りをはじめた。
「ねぇ、ダスティンは殿下とコーデリア様が口論してるの見てなんとも思わないの?」
「何がですか?」
「僕は、このギスギスした雰囲気にいると居た堪れない気持ちになるんだけど、ダスティンもそう思わない?」
「そうですか?」
ダスティン様はそう言って人差し指を顎に当てて小首を傾げて考え込む。
「……確かに一国の王太子殿下がお相手でも臆することなく自分の意見をおっしゃるコーデリア様の崇高さと比べてしまうと、自分の卑小さに居た堪れない気持ちになりますね」
コーデリア様の婚約者でいらっしゃるダスティン様は、基本的にコーデリア様のされる事を肯定的に捉えている。
一種の才能だと思う。
「……そう。なんかダスティンと話していると、この場から逃げようと思ってる僕が卑小な人間に思えてくるよ……」
お兄様がため息混じりにそう呟いて、殿下とコーデリア様を見つめる。
「失礼します。殿下とコーデリア様の議論は終わりそうもございませんので、私から説明いたします」
諦め顔のランス様から説明が始まった。
9
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw
さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」
ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。
「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」
いえ! 慕っていません!
このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。
どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。
しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……
*設定は緩いです
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる