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第二部
19 エレナと晩餐会前の準備
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歓迎式典は昼と夜の二部制になっていて、夜になったら盛大な晩餐会なのだそうだ。
盛大な昼の部が終わって招待客が客室に戻っても、お屋敷の中は晩餐会の準備で活気付いている。
晩餐会に参加しない……というかできない私はお留守番。
お気に入りのワンピースに着替え直して、ようやく人心地つく。
始まるまではと、お兄様がわたしのお借りしてる客室に居座ってくつろいでいるのは、きっと私が寂しくないようにと、お兄様なりの配慮なんだと思う。
そう思いながら絶え間なく喋り続けるお兄様の話を流し聞きして過ごしていると、ランス様がいらした。
「エリオット様、エレナ様。殿下が部屋に来て欲しいとの事です」
殿下が?
目を見合わせたわたしとお兄様はランス様に連れられて殿下のお部屋に向かった。
ただでさえ豪華で豪勢な公爵家のお屋敷の中でも、飛び抜けて豪奢な扉が開いて部屋に入ると、ソファに座るように促される。
出迎えて下さった殿下はブラウス姿でくつろいでいらした。
ギャー!
襟っ! 襟が、めっちゃ開いてる!
喉仏! 首筋! 鎖骨!
カフスもしめてないから、腕もめっちゃ見える!
前腕も筋張ってて……いい。
殿下はいつもはボタンというボタンは全てしっかりとめて、なんならタイもしっかり結んでいるからこんなラフなかっこ見たことない。
くつろぐイケメンいいな。
そりゃまぁ、さっきまで、妹にスルーされてるのも気にもとめず、くつろいで喋り続けるイケメンを眺めていたけど、お兄様はラフな格好してる時よりも、普段見ない真面目な格好の時の方がときめく。
真面目な格好しか見た事がない殿下のラフな姿は尊いどころじゃない。
私が殿下のラフな姿にときめく間に、お兄様と殿下は明日からのアイラン王女のエスコートについて確認をしていた。
そうだ。うっかり役割を忘れるところだった。
「それにしても、王女様、もうちょっとだったのに惜しかったなぁ」
確認が終わり、お兄様がそう感想を漏らした。
「もうちょっと? なにが?」
「最初、野良猫なみに僕達に威嚇してきたから、頑張って僕にときめいてもらおうって思ったんだけど、お付きの人に連れ去られちゃったからさぁ」
「……十分ときめいていたと思うわ」
「そうかなぁ? 結局最後は殿下とお近づきになるって息巻いてたじゃない? ごめんね、エレナ。王女様が殿下に接近しようとしてたら邪魔するって約束だったのにちょっと失敗しちゃった」
「え?」
「えっ?」
わたしが驚いてお兄様を見つめると、お兄様も驚いてわたしを見つめ返す。
「やだ! お兄様ったらわたしのために『素直で天真爛漫な向日葵みたいな可愛い王女様』だなんて調子のいい事おっしゃったの?」
「あ、それはイスファーンの人が言ってたのを少し脚色したんだよ。でも確かに素直でちょろくて可愛いかったよね。もう少し時間があったら落せたのになぁ」
「……王女様相手に失礼なことばかりおっしゃらないの! そもそも落としてどうするおつもりなの?」
お兄様は外交のお仕事したいはずなのにこんな失礼なこと平然と言い退けて、いつかどこかの国で不敬罪で罰されないか心配だわ。
「そうだな。外交問題を起こすような事は控えるんだ」
わたしがため息をつくと、話しているのを見守っていた殿下も同時にため息をついてお兄様にそう告げる。
「子供相手にどうもしないよ。異国で素敵な紳士に優しくされたなって思い出を胸に帰国して頂くだけだって」
「素敵な紳士は自分のこと『素敵な紳士』なんて言わないわ」
「あはは。最近エレナは言うことが厳しいね」
わたしに何言われても気にしないお兄様はあっけらかんと笑ってる。
「エリオット。お前はそうやって寄ってくる女性に調子のいい事ばかり言ってるから、後で痛い目を見るんだ」
「別に思ったことを素直に言っているだけなんだけどな。それに、一昨年で懲りたから最低限しか社交の場は出てないでしょ」
思い出した。
一昨年社交界デビューしたお兄様はこの調子で茶会や舞踏会で寄ってきたご令嬢達に甘い言葉を吐き続けた。
そのせいで年頃のご令嬢達からお兄様への情熱的な恋心書き綴った手紙がひっきりなしに届いたり、ご令嬢の親達がこぞってうちに訪問したりと、てんやわんやだったんだ。
そのくせお兄様はまだ誰とも婚約するつもりがないからと今度は急に最低限しか社交の場に出なくなって、それならばとアカデミーで親密になろうと虎視眈々と狙うご令嬢方に暮らしていた寮に押しかけてきた。
殿下の警護だって大変なのにお兄様が無駄に負担をかけるからと退寮させらたりして、お母様がお兄様にさっさと婚約者を決めて落ち着いてもらいたがっていた。
イケメンはイケメンなりに苦労があるんだろうけど、お兄様のは自業自得だ。
「そういえば殿下は正装似合うね。さっき壇上で挨拶していた時にエレナも『おとぎ話の王子様がそのまま出てきたみたい』ってうっとりしてたよ」
「もう! お兄様恥ずかしいから言わないで!」
私と殿下の冷ややかな視線を感じて、自分に都合が悪くなっているのを察したお兄様は話を逸らす。
エレナの恥ずかしい事を暴露して話題を逸らすなんて酷い。
「はは。おとぎ話の王子様か……」
殿下が困ったようにお兄様に笑いかける。
「殿下はおとぎ話の王子様じゃなくて、王太子殿下な事くらいはわかってるわ!」
つい声を上げて頬を膨らましてしまい、慌てて表情を取り繕う。
悪役令嬢にならないようにだけじゃなく、咄嗟に子供じみた振る舞いをしてしまうのもどうにかしないといけないわ。
盛大な昼の部が終わって招待客が客室に戻っても、お屋敷の中は晩餐会の準備で活気付いている。
晩餐会に参加しない……というかできない私はお留守番。
お気に入りのワンピースに着替え直して、ようやく人心地つく。
始まるまではと、お兄様がわたしのお借りしてる客室に居座ってくつろいでいるのは、きっと私が寂しくないようにと、お兄様なりの配慮なんだと思う。
そう思いながら絶え間なく喋り続けるお兄様の話を流し聞きして過ごしていると、ランス様がいらした。
「エリオット様、エレナ様。殿下が部屋に来て欲しいとの事です」
殿下が?
目を見合わせたわたしとお兄様はランス様に連れられて殿下のお部屋に向かった。
ただでさえ豪華で豪勢な公爵家のお屋敷の中でも、飛び抜けて豪奢な扉が開いて部屋に入ると、ソファに座るように促される。
出迎えて下さった殿下はブラウス姿でくつろいでいらした。
ギャー!
襟っ! 襟が、めっちゃ開いてる!
喉仏! 首筋! 鎖骨!
カフスもしめてないから、腕もめっちゃ見える!
前腕も筋張ってて……いい。
殿下はいつもはボタンというボタンは全てしっかりとめて、なんならタイもしっかり結んでいるからこんなラフなかっこ見たことない。
くつろぐイケメンいいな。
そりゃまぁ、さっきまで、妹にスルーされてるのも気にもとめず、くつろいで喋り続けるイケメンを眺めていたけど、お兄様はラフな格好してる時よりも、普段見ない真面目な格好の時の方がときめく。
真面目な格好しか見た事がない殿下のラフな姿は尊いどころじゃない。
私が殿下のラフな姿にときめく間に、お兄様と殿下は明日からのアイラン王女のエスコートについて確認をしていた。
そうだ。うっかり役割を忘れるところだった。
「それにしても、王女様、もうちょっとだったのに惜しかったなぁ」
確認が終わり、お兄様がそう感想を漏らした。
「もうちょっと? なにが?」
「最初、野良猫なみに僕達に威嚇してきたから、頑張って僕にときめいてもらおうって思ったんだけど、お付きの人に連れ去られちゃったからさぁ」
「……十分ときめいていたと思うわ」
「そうかなぁ? 結局最後は殿下とお近づきになるって息巻いてたじゃない? ごめんね、エレナ。王女様が殿下に接近しようとしてたら邪魔するって約束だったのにちょっと失敗しちゃった」
「え?」
「えっ?」
わたしが驚いてお兄様を見つめると、お兄様も驚いてわたしを見つめ返す。
「やだ! お兄様ったらわたしのために『素直で天真爛漫な向日葵みたいな可愛い王女様』だなんて調子のいい事おっしゃったの?」
「あ、それはイスファーンの人が言ってたのを少し脚色したんだよ。でも確かに素直でちょろくて可愛いかったよね。もう少し時間があったら落せたのになぁ」
「……王女様相手に失礼なことばかりおっしゃらないの! そもそも落としてどうするおつもりなの?」
お兄様は外交のお仕事したいはずなのにこんな失礼なこと平然と言い退けて、いつかどこかの国で不敬罪で罰されないか心配だわ。
「そうだな。外交問題を起こすような事は控えるんだ」
わたしがため息をつくと、話しているのを見守っていた殿下も同時にため息をついてお兄様にそう告げる。
「子供相手にどうもしないよ。異国で素敵な紳士に優しくされたなって思い出を胸に帰国して頂くだけだって」
「素敵な紳士は自分のこと『素敵な紳士』なんて言わないわ」
「あはは。最近エレナは言うことが厳しいね」
わたしに何言われても気にしないお兄様はあっけらかんと笑ってる。
「エリオット。お前はそうやって寄ってくる女性に調子のいい事ばかり言ってるから、後で痛い目を見るんだ」
「別に思ったことを素直に言っているだけなんだけどな。それに、一昨年で懲りたから最低限しか社交の場は出てないでしょ」
思い出した。
一昨年社交界デビューしたお兄様はこの調子で茶会や舞踏会で寄ってきたご令嬢達に甘い言葉を吐き続けた。
そのせいで年頃のご令嬢達からお兄様への情熱的な恋心書き綴った手紙がひっきりなしに届いたり、ご令嬢の親達がこぞってうちに訪問したりと、てんやわんやだったんだ。
そのくせお兄様はまだ誰とも婚約するつもりがないからと今度は急に最低限しか社交の場に出なくなって、それならばとアカデミーで親密になろうと虎視眈々と狙うご令嬢方に暮らしていた寮に押しかけてきた。
殿下の警護だって大変なのにお兄様が無駄に負担をかけるからと退寮させらたりして、お母様がお兄様にさっさと婚約者を決めて落ち着いてもらいたがっていた。
イケメンはイケメンなりに苦労があるんだろうけど、お兄様のは自業自得だ。
「そういえば殿下は正装似合うね。さっき壇上で挨拶していた時にエレナも『おとぎ話の王子様がそのまま出てきたみたい』ってうっとりしてたよ」
「もう! お兄様恥ずかしいから言わないで!」
私と殿下の冷ややかな視線を感じて、自分に都合が悪くなっているのを察したお兄様は話を逸らす。
エレナの恥ずかしい事を暴露して話題を逸らすなんて酷い。
「はは。おとぎ話の王子様か……」
殿下が困ったようにお兄様に笑いかける。
「殿下はおとぎ話の王子様じゃなくて、王太子殿下な事くらいはわかってるわ!」
つい声を上げて頬を膨らましてしまい、慌てて表情を取り繕う。
悪役令嬢にならないようにだけじゃなく、咄嗟に子供じみた振る舞いをしてしまうのもどうにかしないといけないわ。
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