【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
92 / 276
第二部

42 エレナと昼下がりの屋敷

しおりを挟む
 女神様の衣装を身にまとったまま、わたしは屋敷の中をあてもなく歩く。

 窓の外は騒がしいのに、屋敷の中はしんと静かだ。

 祭りの最終日は期間中も働いてくれていた使用人達に暇をだして、みんな祭りに参加して盛り上がる。 
 いつもならそばにいてくれるメリーも、いまは出払っている。
 ユーゴが起こした事件はきっと耳に入っているはずなのに、使用人達はみんな知らぬ存ぜぬを決め込んでいるのか、屋敷の中は必要以上に静まり返っている。
 使用人達はエレナに甘いから、ユーゴと同じように殿下に対してあまりいい感情を持ってないんだろうな。

 でも、わたしが転生したのが、アイラン様がヒロインの小説の世界だったら……
 悪役令嬢のエレナは、殿下の気を引くために、自分が意のままに操れるユーゴを使って騒ぎを起こした。屋敷の使用人達はエレナが怖くて何もいえなかった。
 なんて筋書きに書かれていてもおかしくない。

 顔を上げると、木陰に面した窓に、女神の格好をしたわたしが映りこむ。

 ──偽物だ。

 ユーゴがいくら女神様扱いしてくれてもわたしは、金メッキの冠を被った偽物の女神。
 正式に公表もされていない、殿下に婚約破棄される予定の偽物の婚約者。

 そして、エレナの記憶を無くして、前世の記憶を思い出したわたしは、階段から落ちる前のエレナとは違う、偽物のエレナ。

 ボロボロと涙がこぼれるのに任せると、窓ガラスに映りこんだわたしが滲む。

 このままわたしも滲んで、消えちゃえばいいのに。

 ねぇ、わたしが消えたら、エレナは幸せになれる?

 ううん。動き出した歯車は止まらない。

 いつもだったら追いかけてきてくれるお兄様も、今日は追いかけてきてくれない。
 わたしに愛想をつかしたのかな。どんどん破滅に向かっているみたい。

 異世界転生って言ったら乙女ゲームと漫画とか小説の世界に転生するのが定番だと思うのに、わたしはいまだに、どんな物語の世界に転生したのかわからないまんま。
 定番の悪役令嬢に転生したんだろうってことしかわからない。
 異世界転生につきもののチート能力も何もない。

 それでもエレナを救ってあげられるのはわたしだけだもん。

 わたしは、再び廊下を歩き始める。

 廊下には大きな窓がいくつも並ぶ。
 明るい日差しが入る窓にはわたしの姿は映らなかった。



 どれくらい時間が経ったんだろう。

 まるでお城のように広い屋敷の中を行くあてもなく泣きながらさまよっていると、ドンと壁に何かがぶつかる音が聞こえた。

 音に驚いて顔をあげると、殿下が壁に寄りかかったところだった。
 俯いて壁に体を預ける殿下はまるで美術品のようだ。

「……でん……かぁ……」

 心細かったわたしは、つい声を上げてしまった。泣いていたわたしの声はか細い。
 きっと殿下には聞こえない。

 そう思ったのに……

 顔をあげた殿下がわたしを見つめている。
 わたしの声に気づいてくれたの?

 わたしから視線を離さず、壁から離れた殿下はこちらに向かって一歩歩み寄る。

 わたしを見つめる、湖のような深い深い碧の瞳。
 その瞳は走り出したわたしを見た瞬間閉ざされる。
 飛び込んできたわたしを拒絶するだろうか。
 それでもわたしは吸い込まれるように殿下の元へ走り出し、立ち尽くしていた殿下の胸に飛び込んで子供のように泣きじゃくるしかなかった。

 嗚咽を上げて泣いていると、背中に回った大きな手がエレナの小さな背中を力強く抱き寄せる。

 えっ!

 驚いてわたしの身体が跳ねると慌てたように殿下の腕の力が緩む。
 目が合うと困ったような顔をした殿下が、今度はわたしの頬を両手で包みこんで親指で優しく涙を拭う。

「……っ……んうっ……でんっ……かぁ……」

 ひとしきり泣いて、ようやく落ち着いたわたしは、包み込んでくれた殿下の手に、そっと自分の手を添える。
 びくりと反応した殿下の手は強張り、深いため息が聞こえる。

 いつまでも甘えてはいけない。
 わたしは添えた手を離し、呼吸を整える。

「落ち着いたかい? 何か悲しい事があったのか? ……妹の様に大切なエレナが悲しそうな顔をしているのを見るのは私も辛い。エリオットほど、うまくは慰められないと思うが、出来ることがあるなら頼っておくれ」

 そう言って殿下はわたしに笑いかける。

 妹か。
 ううん。妹でも大切に思ってくださるなら…… 

 わたしが笑うと、殿下は小さな少女を愛おしむように、エレナの頭をそっと撫で、もう一度優しく抱きしめてくれた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...