【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
93 / 276
第二部

43 エレナとアイラン王妃殿下の提案

しおりを挟む
「エレナ!」

 お兄様は、ちゃんとわたしを追いかけて来てくれていた。

 流石にもう殿下に抱き付いてはいなかったけれど、わたしが殿下と一緒にいるなんて思ってもいなかったのか、お兄様は驚いた表情を見せた。

 私たちのことを探してくれていたらしいアイラン様も合流すると、お兄様の私室に向かうことになり、促されるままにソファに座る。

「申し訳ありません」

 お兄様が、突然殿下に頭を下げる。

「エリオット、頭を上げろ。何が起こってるのか説明してくれ」

 ソファにお兄様が座るとその隣にアイラン様が座る。
 わたしもお兄様の隣に座ろうとしているのを見て、殿下は自分の隣に座る様に指示した。
 殿下に泣いて縋ったのを思い出して恥ずかしくなったわたしは、殿下から離れてソファの端に小さくなって座る。

 呆れたように殿下は小さくため息をつきお兄様を見つめる。

 お兄様が口を開いた。



 ***



 お兄様のかいつまんだ説明に殿下はため息をつく。

 ユーゴが起こした事件は監督不行き届きだ。

 お兄様はひたすら謝罪を繰り返し、わたしもまだソファの端で小さくなったまま。

『ねぇ。さっきから何言ってるかわからないんだけど、結局エレナは駆け落ちするの?』

 状況が掴めないアイラン様から質問されお兄様が改めて説明をはじめる。

『しませんよ。駆け落ちというより、女神として領地に残るべきだなんて好き勝手な事言ってるだけです。僕も父上達も認めません』
『ふーん? で、どうしてみんながエレナを女神様扱いしているわけ?』
『えっと、三十年くらい前にトワイン領は日照りや水害の被害が立て続けに起きて、農地が壊滅的な打撃を受けたことでうちは没落しかけたんです』
『あんな一面に麦畑や果樹園が広がってるのに?』
『はい。その後十年近くかけて、父上やお祖父様が堰堤や水路などの灌漑設備の整備に奔走して、やっと収穫が見込める様になったんです。だけど、今度は返済もできないくらい借金が嵩んでしまって、納税もできなくなっていたんです。方々に頭を下げて今度は金策に奔走したらしいんですけど、没落しかけてる我が家に投資はおろか、金を貸すなんて慈善事業みたいな事、誰も首を縦に振ってくれなくって、最後父上が恥を偲んで王妃様に借金を申し込んだんですよ。そこで父上と王妃様の女官をしていた母上が出会って恋に落ちて、結婚したんです』
『まぁ!』
『最初は、王妃様に借金を申し込むなんてとんでもない事だから、母上は、父上の事訝しんでいたんですけど、父上の熱心なアプローチに母上が絆されて──』
「ゴホン」

 お兄様によるお父様たちの長大なロマンス話が始まりそうなのを察したのか、殿下は咳払いをする。

『えっと、で、灌漑設備の効果が出た後に僕とエレナが産まれたんです。今まで没落しかけていたのに、エレナが産まれた頃からずっと豊作つづきで、直系の女の子が生まれたのは久しぶりなものだから、領地の高齢者達はエレナが女神様の生まれ変わりだって信じてるんです』
『お父様やお祖父様が苦労されたのよ。わたしは何もしていないわ』

 わたしはそう言って、やっと顔を上げる。

『エレナは駆け落ちしないのね?』

 アイラン様の言葉にわたしは力強く頷く。

『なんだ。最初はね、駆け落ちなんてちょっといいなって思ったの。わたしと一緒で偉そうな大人たちの都合で決めた政略結婚をするはずのエレナには、好きな人が助けに来てくれるんだって。でも全然羨ましくなかったのか』

 そう言ってアイラン様が笑うので、わたしはまた頷いた。

『とりあえずあの少年が優勝さえしなきゃ、どうってことないんでしょ? 貴族の使用人よりも日頃牧場で働いている平民たちの方が勝つに決まってる』
『それが……余興の様な競争で、みんな必死になって勝とうとしてないんです。皆んなで譲り合って優勝者を決めるような競争だから、このままだと決勝に残った人たちが、みんなユーゴに譲って、ユーゴが優勝しちゃうんです』
『優勝しても、エリオットが認めなければいいだけではないの?』
『そうしたいのは山々なんですけど、あんなに盛り上がってしまうと認めないと暴動が起きかねないし、かと言って認めてしまえば王室に顔向けできないし……』
『エリオットが出て優勝しちゃえばいいんじゃないの?』
『褒美を渡す側が出て優勝しちゃうなんてそんなとんでもないこと……』
『つまり、エリオットが参加したくなる様な褒美を用意すればいいんでしょ?』
『え?』
『わたしは? わたしなら──』

 アイラン様が余裕たっぷりの笑みを浮かべてそう言いかけた途端、けたたましくドアを叩く音が聞こえる。

『アイラン様っ! ここにいるのはわかってるんです! 出ていらっしゃい!』

 怒鳴り声と共にドアが開け放たれ、アイラン様の侍女のネネイが部屋に入ってくる。
 殿下とわたしもいる事に気がつき、想定していた事態が起きていなかった事にホッとした表情を見せる。

『んんっ。失礼いたしました。ほら、アイラン様お昼をいただきに参りましょう』
『嫌よ! まだ話してる最中よ』
『い、い、か、ら、行、き、ま、す、よ!』

 ネネイは怒りに任せてアイラン様の腕を引っ張り、退出していった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...