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第三部
38 エレナと殿下と殿下の運命の番(つがい)と道ならぬ恋
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「いやぁっ! いやらしいわっ!」
わたしは、たまらず駆け出した。
やだ! やだやだ!
エレナの破滅フラグを回避するために、殿下の恋を応援しようってずっと思ってきたけれど、いくら前世の記憶を思い出してたからつて、小さい頃からのエレナの気持ちはしっかり残ってる。
大好きなお兄様がこの物語のヒロインだったとしても、それでも殿下のことは譲れない。
やっぱり、殿下とお兄様の恋路を応援するなんて無理よ!
破滅フラグが目の前にあっても、それでも二人が結ばれるのを黙って見ているなんてわたしにはできない。
「エレナ待って!」
お兄様がわたしを呼ぶけれど、走り続ける。
でも、残念ながら足の長さも違うし、それなりに鍛えてるお兄様と本を読んだり手芸をして過ごしてるエレナじゃ、結果は火を見るより明らかだった。
肩を掴まれたわたしは、逃げるのは諦めて立ち止まった。
「お兄様の顔なんて見たくないわ! けがらわしい!」
お兄様の手を振り払う。
二人の恋を邪魔するなんて、悪役令嬢だわ。
なんて思っても、昂った感情は抑えきれない。
「けがらわしいって……えっと。ねえ、エレナ、あれはその、殿下だって年頃の男としてああいう話をしたりするわけで、僕は何度も止めたんだよ、なのに──」
「やめて! なにも、聞きたくないわ!」
「聞きたくない気持ちはわかるけど、でもエレナは殿下の気持ちはわかってるんでしょ」
「わかってるけど、いくら公表されてないからといっても、殿下の婚約者はわたしだわ」
「うん」
悪びれずにうなづくお兄様に、苛立ちが募る。
「……お兄様にいたっては、あんなに大々的にアイラン様と婚約式をしたのよ。周りからも盛大に祝福されていたでしょう?」
「うん。そうだね」
「なのに、まわりに誰もいなくて二人きりになったからって、いちゃつくなんて」
「いちゃつく? なんの話?」
目を丸くするお兄様に、わたしは怒りの鉄槌をくだす。
「ひどいわ! 裏切りよ。アイラン様だって悲しむわ! アイラン様はお兄様のこと大好きなのよ⁈ ご自身の誕生日にお兄様に自分で刺繍したリボンを贈って、身につけてもらうんだなんておっしゃって、苦手な刺繍をわたしにこっそり習っていらっしゃるのよ」
「えっ? なにそれ! 初耳なんだけど! めちゃくちゃ可愛くない?」
「そうよ! めちゃくちゃ可愛いでしょ? なのにお兄様はそんなアイラン様を裏切ってるのよ!」
わたしの叫びにお兄様は言い返すこともなく「え。本当に可愛い」「どうしよう。可愛すぎるんだけど」なんてぶつぶつと呟く。
「……どう? ご自身の心に尋ねて見てください。後ろめたいでしょう? お兄様はわたしの幼い頃から殿下に対する気持ちだってご存知なはずなのに、わたしとアイラン様を裏切って──」
「エレナ。僕はいま、アイラン様の可愛さにひたってるから邪魔しないで」
お兄様はわたしの唇に人差し指を押し付けて黙らせる。
人差し指をどかして見上げると、お兄様はニヤけていた。
どういうつもりなの? お兄様は殿下のヒロインじゃないの?
え? もしかして、お兄様が主人公でハーレムルートを目指してるの?
王太子殿下と隣国のお姫様を手玉に取ろうなんて、破滅の道しか見えないわ。
お兄様はお二人のことをお好きかもしれないけれど、殿下もアイラン様もお兄様のことを、真剣に愛してらっしゃるのに。
「博愛主義は良くないわ!」
「なに急に。今度はどうしたの」
「殿下とアイラン様のどちらを選ばれるの」
「選ぶって? どっちにつくのかってこと? まあ、確かにあの不備だらけの契約書の山を僕の権限で修正していいなら、ヴァーデン王国に都合がいいようにもイスファーン王国にも都合がいいようにもできるもんね。どっちに恩を売るべきかなぁ。まあ、でも僕も貴族の端くれとして自国の利になるように動こうかな」
「お兄様! 話をはぐらかさないでください」
「え。違うの? っていうか、はぐらかすも何も、エレナの言いたい意味がわからないんだけど」
お兄様が半眼でわたしを見つめる。
「だいたいさ、いつもエレナは頭の中で会議を重ねて自分で納得してるからいいんだろうけど、僕はエレナの考えて考えてこねくり回した結論だけ聞かされるから困ることも多いんだよ。いくら僕がエレナの大好きなお兄様でもなんでもかんでも理解してあげられるわけじゃないんだからね」
なんでわたしが注意されないといけないの?
「殿下とアイラン様のどちらとの愛を貫くかと聞いているのです」
わたしはお兄様にわかるようにはっきりと告げ、決断を迫る。
「……はあ? 何言ってるの」
お兄様の心底呆れたような顔に、肩透かしをくらった。
わたしは、たまらず駆け出した。
やだ! やだやだ!
エレナの破滅フラグを回避するために、殿下の恋を応援しようってずっと思ってきたけれど、いくら前世の記憶を思い出してたからつて、小さい頃からのエレナの気持ちはしっかり残ってる。
大好きなお兄様がこの物語のヒロインだったとしても、それでも殿下のことは譲れない。
やっぱり、殿下とお兄様の恋路を応援するなんて無理よ!
破滅フラグが目の前にあっても、それでも二人が結ばれるのを黙って見ているなんてわたしにはできない。
「エレナ待って!」
お兄様がわたしを呼ぶけれど、走り続ける。
でも、残念ながら足の長さも違うし、それなりに鍛えてるお兄様と本を読んだり手芸をして過ごしてるエレナじゃ、結果は火を見るより明らかだった。
肩を掴まれたわたしは、逃げるのは諦めて立ち止まった。
「お兄様の顔なんて見たくないわ! けがらわしい!」
お兄様の手を振り払う。
二人の恋を邪魔するなんて、悪役令嬢だわ。
なんて思っても、昂った感情は抑えきれない。
「けがらわしいって……えっと。ねえ、エレナ、あれはその、殿下だって年頃の男としてああいう話をしたりするわけで、僕は何度も止めたんだよ、なのに──」
「やめて! なにも、聞きたくないわ!」
「聞きたくない気持ちはわかるけど、でもエレナは殿下の気持ちはわかってるんでしょ」
「わかってるけど、いくら公表されてないからといっても、殿下の婚約者はわたしだわ」
「うん」
悪びれずにうなづくお兄様に、苛立ちが募る。
「……お兄様にいたっては、あんなに大々的にアイラン様と婚約式をしたのよ。周りからも盛大に祝福されていたでしょう?」
「うん。そうだね」
「なのに、まわりに誰もいなくて二人きりになったからって、いちゃつくなんて」
「いちゃつく? なんの話?」
目を丸くするお兄様に、わたしは怒りの鉄槌をくだす。
「ひどいわ! 裏切りよ。アイラン様だって悲しむわ! アイラン様はお兄様のこと大好きなのよ⁈ ご自身の誕生日にお兄様に自分で刺繍したリボンを贈って、身につけてもらうんだなんておっしゃって、苦手な刺繍をわたしにこっそり習っていらっしゃるのよ」
「えっ? なにそれ! 初耳なんだけど! めちゃくちゃ可愛くない?」
「そうよ! めちゃくちゃ可愛いでしょ? なのにお兄様はそんなアイラン様を裏切ってるのよ!」
わたしの叫びにお兄様は言い返すこともなく「え。本当に可愛い」「どうしよう。可愛すぎるんだけど」なんてぶつぶつと呟く。
「……どう? ご自身の心に尋ねて見てください。後ろめたいでしょう? お兄様はわたしの幼い頃から殿下に対する気持ちだってご存知なはずなのに、わたしとアイラン様を裏切って──」
「エレナ。僕はいま、アイラン様の可愛さにひたってるから邪魔しないで」
お兄様はわたしの唇に人差し指を押し付けて黙らせる。
人差し指をどかして見上げると、お兄様はニヤけていた。
どういうつもりなの? お兄様は殿下のヒロインじゃないの?
え? もしかして、お兄様が主人公でハーレムルートを目指してるの?
王太子殿下と隣国のお姫様を手玉に取ろうなんて、破滅の道しか見えないわ。
お兄様はお二人のことをお好きかもしれないけれど、殿下もアイラン様もお兄様のことを、真剣に愛してらっしゃるのに。
「博愛主義は良くないわ!」
「なに急に。今度はどうしたの」
「殿下とアイラン様のどちらを選ばれるの」
「選ぶって? どっちにつくのかってこと? まあ、確かにあの不備だらけの契約書の山を僕の権限で修正していいなら、ヴァーデン王国に都合がいいようにもイスファーン王国にも都合がいいようにもできるもんね。どっちに恩を売るべきかなぁ。まあ、でも僕も貴族の端くれとして自国の利になるように動こうかな」
「お兄様! 話をはぐらかさないでください」
「え。違うの? っていうか、はぐらかすも何も、エレナの言いたい意味がわからないんだけど」
お兄様が半眼でわたしを見つめる。
「だいたいさ、いつもエレナは頭の中で会議を重ねて自分で納得してるからいいんだろうけど、僕はエレナの考えて考えてこねくり回した結論だけ聞かされるから困ることも多いんだよ。いくら僕がエレナの大好きなお兄様でもなんでもかんでも理解してあげられるわけじゃないんだからね」
なんでわたしが注意されないといけないの?
「殿下とアイラン様のどちらとの愛を貫くかと聞いているのです」
わたしはお兄様にわかるようにはっきりと告げ、決断を迫る。
「……はあ? 何言ってるの」
お兄様の心底呆れたような顔に、肩透かしをくらった。
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