【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

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第四部 

7 エレナともう一人の転生者

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 わたしの顔を見て、メアリさんはハッとした表情をする。

「あ、ごめんなさい、なにを訳のわかんないこと言ってるんだって感じですよね! やだもう! アイザックのやつに腹を立てていたものだから興奮しすぎちゃいました。すみません、忘れてください」
「無理よ。忘れられないわ」

 わたしは首を振る。メアリさんに真剣な眼差しを返し、周りから注目を浴びてないか見回す。
 大勢の役人達でごった返す食堂は、わたし達が騒ぐくらいじゃ誰も気にとめていない様子だった。
 よかった。あまり人に知られていい話じゃないもの。

 わたしは深呼吸して冷静さを取り戻す。

 思い返してみれば、家柄ばかり気にする貴族達の中で、メアリさんはちょっと変わっていた。

 王立学園アカデミーに通うご令嬢達は、結婚相手を探しにきていることがほとんどで、少しでも家格が上の御令息か、将来有望そうな相手を捕まえるのに躍起になっている。
 だからお兄様がモテたり、お兄様以上にチャラくて女たらしなオーウェン様でも公爵家のご令息だからってモテたり、将来は佐官が確定してるなんて言われているキリアン少尉がモテたりする。
 でも、ご令嬢達は同性相手だと自分と同じか下の立場の人を取り巻きにしようと画策していることが多い。
 だってグループのトップにいないと目立たないから、いいご縁にはありつけないもの。
 うまく立ち回れずに取り巻きその1みたいになってしまうことはあっても、自分から取り巻きに飛び込んでくる人は少ない。
 もし取り巻きになっても、下剋上を夢見て足の引っ張りあいだ。
 それなのに、メアリさんは家格が上であるコーデリア様に、わたしや伯爵家のご令嬢であるミンディさんベリンダさんに対して自主的に取り巻きになりにきていた。
 婚家のジェイムズ家が大きな商会だからコネ作りのためだと思っていたけれど……

 転生者だから、貴族らしくないって言われれば納得よ。

 そうか、そうよね。
 転生者は一人だけじゃないのも転生悪役令嬢物語のよくあるシナリオだわ。
 そういえば、いま教会で保護されている聖女様だって異世界から渡ってきたなんて言われてるし。
 アイラン様の持ってきた編み機だって、異世界からの遺物だ。

 この世界には、思ったよりも転生者は多いんだわ!

「……メアリさん『も』転生者なのね」

 確信を持ったわたしは小声でメアリさんに告げる。
 メアリさんは眼鏡の向こうで目を見開いた。

「……メアリさん『も』って、もしかして」

 わたしは頷き、机の上のメアリさんの手を握る。
 メアリさんの瞳はキラキラと輝いた。

「──やっぱり! エリオット様も転生者ですよね? 怪しいと思ってたんですよ。エリオット様って行動が貴族っぽくないし、普通に考えてポジションおかしいですよね? トワイン侯爵家はほら、侯爵家の中では下の方の位置付けじゃないですか。なのに王太子様とは公爵家のオーウェン様や他の侯爵家のご子息を差し置いてエリオット様が一番親しくされてるし、妹であるエレナ様は王太子妃に内定してるし、いつのまにか隣国のお姫様を婚約者にしてるし、ずっとエリオット様まわりのパワーバランスおかしいと睨んでたんですよ! そっかー! 転生者だからか! うまいことやってるなぁ! なるほどなるほど。それで、エレナ様が驚かないんですね!」

 ええ? メアリさんったらお兄様が転生者だと勘違いして納得してしまった。
 ……確かにお兄様のパワーバランスはおかしい。チートだと言われても納得がいく。
 トワイン侯爵家は二十年以上前に災害に見舞われて農地に打撃を受けた上、その後も天候不順で不作続きだったりして借金まみれで没落の憂き目にあった。
 エレナが生まれた頃には灌漑設備や水路の整備といった投資が実を結んで借金にあえぐことはなかったけれど、当時は領地を親族に売り払うしかなくて、領地だった村もかなり減ったと聞く。
 名ばかり侯爵家なんて言われて馬鹿にされているけれど、お兄様は強かに立ち回り、同世代の中では殿下に次ぐ有力者と目されている。

 けれど、お兄様は転生者ではない。
 ゆびきりげんまんも歌を知らなかったし、日本語がわかれば使えそうな編み機も操作方法はわかってなかった。
 貴族っぽくない……気もするけど、ハロルド様と言ったりやったりすることは似てるし、一定数はああいうタイプはいると思う。

「……違うの。お兄様じゃなくて、わたしが転生者なの」
「……マジですか?」
「……マジです」

 メアリさんは目だけじゃなく、口も開いてわたしを見つめた。
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