【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
158 / 276
第四部 

8 エレナともう一人の転生者

しおりを挟む
「ええっ! エレナ様が転生者なんですか⁈ えっと、エレナ様はどこから? わたしは二十一世紀の日本からなんですけど」
「……わたしの前世も日本人だったわ」
「本当⁈」

 わたしはメアリさんに人差し指を立てて小さな声で話すようにとジェスチャーをする。

「あっ……失礼しました。それにしても、全然気がつかなかったです。いやぁ。エリオット様があまりにパワーバランスぶち壊して人生謳歌してらっしゃるし、キャラ強すぎたから盲点でした。言われてみればエレナ様はこの世界の貴族と比べると異質ですもんね。妹のエレナ様が転生者だからエリオット様に影響が及んでるんですね」

 わたしよりも明らかに異質なメアリさんから異質と言われると、ちょっと釈然としない気持ちになる。
 じっと見つめていると気まずそうにメアリさんは肩をすくめた。

「まあ、うちの双子の弟ジェレミーは平凡で間抜けな男なので、転生者が兄弟にいたくらいじゃそんな影響もないって先入観があったのかも」
「そういえば双子なのよね? ジェレミー様も日本からの転生者なの?」

 わたしの疑問にメアリさんは腕を組んで考え込む。

「……うーん。ジェレミーの前世は日本人ではないと思います。かまをかけても通じないんで。ただ個人的にはジェレミーの前世は犬か、犬の獣人だと思ってますけど」
「獣人がいるの⁈」

 大ヒントだわ! 獣人もいる世界に異世界転生したのなら、少しは転生先の作品が絞れる気がする!

「あ、いや、その、わたしが日本で死んでこの世界に転生したくらいだから、ジェレミーが獣人のいる世界からこの世界に転生してもおかしくないかなって思ってるってだけです。獣人は聞いたことないですね。ジェレミーは平凡で間抜けだけど、異様なまでに鼻が効いて、馬鹿みたいに力が強いんです」

 なんだ。この世界に獣人はいないのか。
 それに、異様なまでに鼻が効いて馬鹿みたいに力が強いなら、もはやそれは平凡ではないんじゃない?
 期待が外れたわたしは、ツッコミたいのを我慢する。

「しかもお気に入りへの執着は強いし、ああ見えて上下関係しっかり守って忠誠心強いし。あいつの前世は赤毛の犬なんです。エレナ様もそう思わないですか?」

 メアリさんはわたしが同じ日本人の転生者だと知ったからか、今まで以上にいたずらっ子みたいに親しげに話しかける。
 周りから見ればわたしたちは、仲の良い女官見習いの同僚にしか見えないはず。

「エレナ様はいつ転生者だって気がつかれたんですか?」
「今年の春よ」
「今年の春って……もしかしてあの事件がきっかけで……」

 そう言って顔を曇らせたメアリさんを見て、エレナが階段から落ちた事はわたしが思っている以上に噂になっていることを理解する。
 それに事故ではなく事件として扱われているってことも。

 わたしはもう気がついている。
 エレナと殿下の婚約は周りから批判されていて、市井ではネガティブな噂ばかりされていたことを。
 ただあの時の記憶はやっぱり思い出せないままだから、その噂で精神的に追い詰められて階段から落ちてしまったのか、ただ不注意で階段から落ちてしまっただけなのか、それはわからない。

「確かに階段から落ちた弾みで色々なことを思い出したけど、あれは事故でしかないわ」

 わたしの断言に、メアリさんが「それでエレナ様には、どうしようもない噂話が耳に入らないようになってるんですね」と呟く。

「メアリさんはいつ自分が転生者だと気がつかれたの?」

 重たい雰囲気に耐えきれずに、笑顔でメアリさんに話しかける。

「赤ちゃんの頃です。死んだって思って目が覚めたら赤ちゃんでした」
「そんな前から……ねえ、メアリさんはこの世界がなんの物語の世界かわかっているの?」
「なんのことですか?」

 わたしよりも前からこの世界が異世界だってわかってるメアリさんは、きっとこの世界の真実に気がついているはず。
 物語の題名も、内容も、登場人物も。そして話がどれくらい進んでいるかも。

 メアリさんはわざとらしく小首を傾げたままだ。
 そりゃそうよね。面と向かって破滅する悪役令嬢ですとは言いづらいものね。

「いいの。わたしに気を遣わないで。わたしは殿下の婚約者だもの、悪役令嬢なんでしょう? 子供みたいな見た目の名ばかり侯爵家の娘なんて役不足のくせに、小さな頃から兄のように振る舞ってくださる殿下のことが大好きで、妹みたいに可愛がってもらえるだけじゃ満足もせずに婚約者の座に執着しているのよ。本物のヒロインが現れて捨てられるのはわかっているわ。せめて穏便に捨てられたいじゃない。なんの物語かわかれば破滅フラグを回避することは可能だと思うの」
「えっと……」
「もしかして、もう手遅れなの?」

 わたしの質問にメアリさんは忙しなく瞬きをする。

「あの、この世界は物語の中なんですか?」
「え?」

 今度はわたしが忙しなく瞬きをする番だった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...