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第四部
9 エレナは悪役令嬢じゃないの?
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どういうこと?
恵玲奈の記憶を思い出してから、ずっとわたしは何か物語の世界に転生して巻き込まれたと思っていた。
「メアリさんは、今いる世界はなんの世界だって思ってたの?」
「なんの……って、わたしの前世で暮らしていた二十一世紀の日本とは別の世界としか。死んだと思って目が覚めたら西洋風の部屋の天井が見えて身動き取れなくて、時間が過ぎて行くうちに、あっこれは異世界でわたしは赤ちゃんなんだって理解したって感じです。むしろ、なんでエレナ様は物語の世界に転生したなんて思ったんですか?」
なんでって言われても……
「……だって異世界転生なのよ? 悪役令嬢に転生してシナリオを知っていることを活用しながら生き抜くのが王道だと思わない? だからわたしもゲームとか漫画とか小説の世界に転生したと思ったの」
「……そっか。確かに悪役令嬢転生ものもあるっちゃありますね。思いもよらなかったです」
「……だってメアリさんは悪役令嬢なんかじゃないもの。わたしはスペックから何から何までどうあがいても悪役令嬢でしょ?」
メアリさんは、わたしを見つめ、そのあと上から下へと視線を動かす。
「えっと……どこがですか?」
「どこがって……全部よ。殿下のこと子供のころから一方的に大好きで、妹みたいに扱ってくださっていたのをいいことに近づいて、誰からも歓迎されていないのに婚約者の座に執着してるのよ? 悪役令嬢そのものじゃない」
「……一方的って、エレナ様は王太子殿下から『マーガレットの妖精』って呼ばれてたんですよね? 王太子殿下はエレナ様のことを特別に思っていらしたからじゃないんですか?」
「特別と言っても兄妹みたいなものよ。お兄様だっていつも『僕の小さなレディ』とか『僕の可愛いエレナ』とか言うわ。妹みたいに思ってたら言ってもおかしくないでしょう?」
「さすがエリオット様ですね……」
感心されて、少し気恥ずかしく思う。
「メアリさんもお兄様やジェレミー様からそんな感じに呼ばれない?」
「うちの兄もジェレミーもわたしに向かってそんな呼び方しませんよ。もしそんな呼ばれ方したら……」
メアリさんは目を瞑ると身震いする。
「想像しただけで、寒気がしますね」
心の底から嫌そうに首を振るメアリさんを見て、メアリさんの言うことが普通なのか、ドロドロに甘いお兄様がおかしいのかわからなくなる。
「お待たせ」
頭の上からお兄様の暢気な声が聞こえて思考が止まる。
見上げると、お兄様とハロルド様の笑顔だ。キラッキラなお兄様とギランギランなハロルド様で眼前がチカチカする。
わたしはメアリさんに目配せをした後、二人に座るように勧めた。
「随分と楽しそうだったけど何話してたの?」
「お兄様こそ、私たちを置き去りにして何をしてらしたの?」
話を逸らす。
「ああ、先に昼ごはんを食べに行っていた大先輩に、僕もう留守番できないから早く戻ってってお願いしてきたんだ」
「……お兄様。権力を笠にきて仕事を押し付けてはいけませんよ」
「エレナってば厳しいな」
半目で見つめるわたしに、お兄様は肩をすくめた。
「いやいや。仕事中毒が部屋に戻ってきたから大丈夫ですよ。休めって言われても休みたくないやつがいるんです。入れ替わりを告げる時に仕事に戻る口実ができたって喜んでましたから、お気になさらずに」
ハロルド様はそう言って片目を瞑ったのを見て、お兄様まで「ほらね」なんて言って片目を瞑る。
メアリさんはくすくす笑っていた。
「で、二人は何話していたの?」
お兄様は逸らした話を蒸し返す。
……流石に異世界転生の話をしていたなんて言えない。
「世のお兄様という生き物は妹に『小さなレディ』とか『僕の可愛いエレナ』なんて言わないって話です」
「ええ⁈ 何言ってるんですか。普通は言いますよ! だって、この世でたった一人しかいない自分の妹ですよ? 可愛いに決まってるじゃないですか」
信じられないって顔をしたハロルド様が、話を合わせて頷いていたメアリさんとわたしの顔を交互に見る。
確かにさっき感じの悪い役人2に「可愛い妹を紹介してやろうか」とかそんなこと言っていたわ……
「まあ、普通はどうか僕は知らないけれど、僕がエレナをそういう風に呼ぶのはエレナが理由だからね?」
「理由……わたしが可愛いからですか?」
お兄様がキョトンとした顔でわたしを見つめた。
違ったの? やだ! 恥ずかしい。
「小さな頃エレナに対して僕が注意したりするたびに『シリルお兄ちゃまなら、可愛いエレナのしたことなら仕方ないねって言って許してくれるわ』とか『シリルお兄ちゃまなら、小さなレディは大切に扱わなくちゃねって言ってくれるわ』って僕に殿下の真似をさせてたんじゃない。都合よく記憶からなくなっちゃった?」
……そんなこと覚えてない!
って言いたいけれど、お兄様にそう言われると恥ずかしいくらいにリアルに思い出す。
王妃様が儚くなられて殿下があの王室の別荘で過ごしていたあの頃、エレナはとても可愛がってもらっていた。
殿下が王宮に戻ってしまって、寂しくて泣いてばかりいたエレナに対して、代わりにお兄様がそれまで以上に甘やかしてくれるようになったんだった。
真っ赤になったわたしをメアリさんはいつもみたいなおどけた雰囲気じゃなく、優しい顔で見つめる。
「なんてね僕はエレナのこと、ちゃんとこの世で一番可愛いって思ってるよ」
お兄様まで優しい顔でわたしを見つめていた。
恵玲奈の記憶を思い出してから、ずっとわたしは何か物語の世界に転生して巻き込まれたと思っていた。
「メアリさんは、今いる世界はなんの世界だって思ってたの?」
「なんの……って、わたしの前世で暮らしていた二十一世紀の日本とは別の世界としか。死んだと思って目が覚めたら西洋風の部屋の天井が見えて身動き取れなくて、時間が過ぎて行くうちに、あっこれは異世界でわたしは赤ちゃんなんだって理解したって感じです。むしろ、なんでエレナ様は物語の世界に転生したなんて思ったんですか?」
なんでって言われても……
「……だって異世界転生なのよ? 悪役令嬢に転生してシナリオを知っていることを活用しながら生き抜くのが王道だと思わない? だからわたしもゲームとか漫画とか小説の世界に転生したと思ったの」
「……そっか。確かに悪役令嬢転生ものもあるっちゃありますね。思いもよらなかったです」
「……だってメアリさんは悪役令嬢なんかじゃないもの。わたしはスペックから何から何までどうあがいても悪役令嬢でしょ?」
メアリさんは、わたしを見つめ、そのあと上から下へと視線を動かす。
「えっと……どこがですか?」
「どこがって……全部よ。殿下のこと子供のころから一方的に大好きで、妹みたいに扱ってくださっていたのをいいことに近づいて、誰からも歓迎されていないのに婚約者の座に執着してるのよ? 悪役令嬢そのものじゃない」
「……一方的って、エレナ様は王太子殿下から『マーガレットの妖精』って呼ばれてたんですよね? 王太子殿下はエレナ様のことを特別に思っていらしたからじゃないんですか?」
「特別と言っても兄妹みたいなものよ。お兄様だっていつも『僕の小さなレディ』とか『僕の可愛いエレナ』とか言うわ。妹みたいに思ってたら言ってもおかしくないでしょう?」
「さすがエリオット様ですね……」
感心されて、少し気恥ずかしく思う。
「メアリさんもお兄様やジェレミー様からそんな感じに呼ばれない?」
「うちの兄もジェレミーもわたしに向かってそんな呼び方しませんよ。もしそんな呼ばれ方したら……」
メアリさんは目を瞑ると身震いする。
「想像しただけで、寒気がしますね」
心の底から嫌そうに首を振るメアリさんを見て、メアリさんの言うことが普通なのか、ドロドロに甘いお兄様がおかしいのかわからなくなる。
「お待たせ」
頭の上からお兄様の暢気な声が聞こえて思考が止まる。
見上げると、お兄様とハロルド様の笑顔だ。キラッキラなお兄様とギランギランなハロルド様で眼前がチカチカする。
わたしはメアリさんに目配せをした後、二人に座るように勧めた。
「随分と楽しそうだったけど何話してたの?」
「お兄様こそ、私たちを置き去りにして何をしてらしたの?」
話を逸らす。
「ああ、先に昼ごはんを食べに行っていた大先輩に、僕もう留守番できないから早く戻ってってお願いしてきたんだ」
「……お兄様。権力を笠にきて仕事を押し付けてはいけませんよ」
「エレナってば厳しいな」
半目で見つめるわたしに、お兄様は肩をすくめた。
「いやいや。仕事中毒が部屋に戻ってきたから大丈夫ですよ。休めって言われても休みたくないやつがいるんです。入れ替わりを告げる時に仕事に戻る口実ができたって喜んでましたから、お気になさらずに」
ハロルド様はそう言って片目を瞑ったのを見て、お兄様まで「ほらね」なんて言って片目を瞑る。
メアリさんはくすくす笑っていた。
「で、二人は何話していたの?」
お兄様は逸らした話を蒸し返す。
……流石に異世界転生の話をしていたなんて言えない。
「世のお兄様という生き物は妹に『小さなレディ』とか『僕の可愛いエレナ』なんて言わないって話です」
「ええ⁈ 何言ってるんですか。普通は言いますよ! だって、この世でたった一人しかいない自分の妹ですよ? 可愛いに決まってるじゃないですか」
信じられないって顔をしたハロルド様が、話を合わせて頷いていたメアリさんとわたしの顔を交互に見る。
確かにさっき感じの悪い役人2に「可愛い妹を紹介してやろうか」とかそんなこと言っていたわ……
「まあ、普通はどうか僕は知らないけれど、僕がエレナをそういう風に呼ぶのはエレナが理由だからね?」
「理由……わたしが可愛いからですか?」
お兄様がキョトンとした顔でわたしを見つめた。
違ったの? やだ! 恥ずかしい。
「小さな頃エレナに対して僕が注意したりするたびに『シリルお兄ちゃまなら、可愛いエレナのしたことなら仕方ないねって言って許してくれるわ』とか『シリルお兄ちゃまなら、小さなレディは大切に扱わなくちゃねって言ってくれるわ』って僕に殿下の真似をさせてたんじゃない。都合よく記憶からなくなっちゃった?」
……そんなこと覚えてない!
って言いたいけれど、お兄様にそう言われると恥ずかしいくらいにリアルに思い出す。
王妃様が儚くなられて殿下があの王室の別荘で過ごしていたあの頃、エレナはとても可愛がってもらっていた。
殿下が王宮に戻ってしまって、寂しくて泣いてばかりいたエレナに対して、代わりにお兄様がそれまで以上に甘やかしてくれるようになったんだった。
真っ赤になったわたしをメアリさんはいつもみたいなおどけた雰囲気じゃなく、優しい顔で見つめる。
「なんてね僕はエレナのこと、ちゃんとこの世で一番可愛いって思ってるよ」
お兄様まで優しい顔でわたしを見つめていた。
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