【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
172 / 276
第四部 

22 エレナと王太子付き秘書候補の婚約者

しおりを挟む
「戻りました」

 殿下宛の急ぎの書類を届ける。
 特設部署の書類は再び山積みになっている。落ち着いてきたと思ったのに。
 わたしが両手いっぱいに書類を抱えてるのを見つけてくれたニールスさんが受け取りに来てくれた。
 普段なら仕事熱心なステファン様が我先にと書類を受けとりにきてくれるのにため息をついていた。

 仕事中毒のステファン様らしくない態度。それにこの書類の量。何かトラブルがあったのか心配になる。

「あら。ステファン様。どうされたの? 浮かない顔されてらっしゃるわ」
「あれ、ご存じありませんでしたか? こいつ、少し前に気の乗らない見合いをしてきたんですよ」
「ニールス。余計なこと言うなよ」
「まぁ」

 ステファン様はニールスさんを睨んだ。

 よかった。仕事のトラブルがあったわけじゃないのね。
 そうか。優秀な文官だもの。きっとお見合い話なんて引く手あまたよね。
 気乗りのしないお見合いってことは仕事上のしがらみで断りきれなくてとかそういうことかしら。

「それで浮かない顔をされているのね」

 顔も知らないステファン様のお見合い相手に同情する。
 どなたか知らないけれど、優秀な役人とお見合いだなんて喜んだに違いない。
 それなのにこんなに嫌そうな顔をして。ステファン様は仕事が恋人みたいな方だし、きっと相手にしなかったんだろうな。
 殿下から相手にされてないわたしなら、きっとステファン様のお見合い相手と傷の舐め合いができるわ。

「違いますよ。見合い相手に簡単に絆されて、贈り物を準備したのに忙しくて会えないもんだから、渡せてないんですよ。それでこんな顔になってるんです」
「ニールスッ!」

 わたしが妄想の世界に耽っていたらニールスさんに引き戻される。
 なんだ。お見合い相手から相手にされない可哀想な少女はエレナだけか。

「ふふっ。ご婚約者様は幸せね」
「そうでしょうか」

 わたしの言葉にステファン様が目を見開く。

「そうよ。お見合いや政略結婚でお相手に結婚前から思いやっていただけるなんて滅多にない事だわ。結婚してからだって表面を繕うだけがほとんどだもの」

 まあ、なんだかんだ言って実際にはそうではないんだけどね。
 周りのカップルを思い出す。
 コーデリア様とダスティン様はコーデリア様のツンデレがひどいだけでダスティン様は無自覚に溺愛していて両思いだし。
 お兄様とアイラン様も、アイラン様からしてみたら自国のすけべジジイに嫁がされることから救ってくれたヒーローだし、お兄様はあんな性格だから隙あらばイチャイチャと構いだす。
 メアリさんは激重執着系の腹黒糸目男子と結婚相手を呼ぶように、貴族院を言いくるめて結婚時期を早められてしまうくらい愛されている。
 リリィさんとランス様が職場で嫌味の言い合いをしてるのだって仲が悪いわけじゃない。周りから生暖かい目で見守られているくらいだ。
 結局みんな仲良し。
 表面を取り繕っているのなんてわたし達くらいだわ。

 ゴホン。書類が山積みになった殿下の机から咳払いが聞こえた。

 えっ⁈ いま殿下がいらっしゃるの?

 朝来た時にはいなかったから、今日も一日中議会だなんだと忙しくされているのかと思っていた。
 あの日以来、殿下とはすれ違いだったから、顔を合わせるのは久しぶり。
 胸がドキンと高鳴る。

「まぁ、殿下いらしたのね。議会に出てらっしゃるのかと思ったわ」
「……議会に出ていた方が都合がよかったかな?」

 わたしの呟きに殿下は顔も上げずに呟きを返す。
 眉間に入った皺を揉みほぐすような迷惑そうな仕草に心が冷えていく。

「そんなことないわ。殿下に至急見ていただきたいとお預かりした書類があるの。早くお渡しできてよかったわ」

 殿下が嫌そうな表情をしているのを目の当たりにしたくない。書類を渡してすぐに後ろを振り返った。

「有能でいつもお仕事のことばかり考えていらっしゃるようなステファン様でも、婚約者様のことを思われるとお仕事が手につかなくなってしまわれるのね」
「はは。そうかもしれませんね」
「そうかステファン。仕事が手につかないのか。それなら帰ったらどうだ」

 冷ややかな殿下の声にステファン様は焦っている。
 わたしが余計な声をかけたから、ステファン様がサボりたがっていると思われちゃった?
 殿下の表情を見たくなくて顔を背けている場合じゃない。
 フォローしようと殿下を見る。ステファン様に向けた表情は声ほど冷たくない。
 どちらかというとお兄様と気軽に言い合っているときのような……
 お兄様は殿下に「言いたいことあるなら言いなよ」と言うけれど、確かにそうだわ。
 圧倒的に言葉が足りない。
 これじゃあ殿下は誤解されてしまう。

「殿下。言葉が足りないわ。ステファン様がびっくりされているじゃない。きちんとご説明なさらないと誤解されるわ。気を悪くなさらないでね。殿下はステファン様がご婚約者様に贈り物を渡しに行く暇がないのを気にされていらっしゃるのよ」

 わたしのフォローに、ステファン様は慌ててかぶりを振る。

「気を悪くするなどありません。私のことを思っていってくださったのだと理解しております」

 ステファン様はわたしと、殿下に頭を下げた。
 よかった。ステファン様の誤解が解けて。
 殿下を見ると、すでに書類に目を向けて知らん顔だ。
 もう!

「そうだわ! お仕事がお忙しくて会えないのなら、こちらにお呼びしてみたらいかがかしら」

 仕事中毒のステファン様だもの。また書類が増えてきているし、このままじゃ休みを取らずに働き詰めになってご婚約者様に会えない日が続いちゃう。

「いや、あちらも忙しいと思いますし……」
「あら。何かされてらっしゃる方なの?」
「投資家だと聞きましたけど」

 投資をしている女性がいるの? 珍しい! 会ってみたい!
 それに、アイラン様が嫁入り道具として持ってきてくれた編み機を参考にして領内に編立工場を建設しようかって話も出ているのよね。
 婚約破棄されたら女官もいいけど、領地の工場でバリバリ働くのもいいわ。
 選択肢は多いに越したことはない。

「まぁ! ちょうどいいわ! 我が家で新しい事業をしたいと思っているから投資してもらえないかお話をしたいわ! ステファン様ご仲介お願いしますね」

 新たな出会いに期待する。書類ケースを抱え足取り軽く部屋を出た。
 
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...