173 / 276
第四部
23 エレナと王太子付き秘書候補の婚約者
しおりを挟む
「ねえ、メアリさん。女性の投資家ってこの世界では珍しいかしら?」
メアリさんと文書室で書類の仕分けをしながら雑談をする。慣れたもので話していても仕分けの手が止まることはない。
「女性の投資家も数人はいらっしゃいますけど少ないですね」
「やっぱり」
「それがどうかしたんですか?」
「ほら、特設部署にステファン様っていらっしゃるじゃない?」
「はいはい。あのエレナ様狙いの役人ですね」
「やだ。メアリさんったら。ステファン様に失礼よ。ステファン様は随分年上だもの。わたしみたいな子供なんて歯牙にも掛けないわ」
「えぇ? そうですか? わたしが書類を届けに行くとあからさまに落胆されるからエレナ様狙いかと思ってました」
メアリさんはそう言ってちょっと嫌そうな顔をする。
ステファン様は愛想が悪いから、勘違いされやすいのね。わたしも最初無愛想で感じが悪いと思ったもの。
でもそれは誤解で、とてもいい人だった。
「それは、ステファン様はわたしに本を貸してくださろうとして準備をされてた日だったんではないかしら? ステファン様はわたしのことを生徒のように思ってくださっていて私が興味をもちそうな本を貸してくださったりしてたのよ。前にお兄様がメアリさんと同じように勘違いして騒いだものだから、最近は本を貸していただくことも減っちゃったけど」
「……勘違いじゃないと思いますけど。まあ、いいです。で、そのステファン様がなんですか?」
メアリさんはあまり納得していない。
でも、きっとそのうち理解してくれるはず。
「そう、それで、そのステファン様が、お見合いをして婚約した相手が女性投資家なんですって」
わたしは仕分けした書類をケースに仕舞いながら話を元に戻す。
「ステファン様は婚約者様になかなかお会いできなくて辛い思いをされてるって伺ったから、今度王宮にお呼びして領地に作る工場に投資してもらえないかお願いすることなったの。それでどんな方か気になって。メアリさんなら情報通だからご存知じゃないかと思ったのよ」
「え? トワイン領に工場建てるんですか?」
「ええ」
「どんな工場ですか? 内容によってはジェームズ商会にも一枚かませてくださいよ」
前のめりなメアリさんは好奇心でいっぱいだ。わたしは勢いに飲まれる。
「えっと、ニットの編立工場よ。領地で有り余る毛糸で水着を作ってイスファーン王国に輸出しようと思って」
「えー! イスファーン王国向けだけですか? 国内は?」
「国内はすでに羊毛の需要は十分あるじゃない。イスファーン王国で羊毛の需要を喚起させるために流通させようと思ったのよ」
「じゃあ、じゃあ、国内で水着を売ることにしたら、卸はうちに任せてくださいよ。ボルボラ諸島のリゾート計画もあるんですから水着なんて作ったら絶対儲かるじゃないですか!」
そうか。肥料にするしかないくらい領地で有り余る毛糸をイスファーン王国に売ることばかり考えていたわたしは、国内需要のことなんて考えてなかった。
「そうね。お兄様が計画してることだからお兄様に進言しておくわ」
「是非!」
書類ケースの蓋を閉め、話を逸らしたままホクホク顔でいるメアリさんを半眼で見つめる。
「あ! 失礼しました。あのステファン様の婚約者の話でしたよね? 独身の若い女性投資家だと、一人しか思いつかないんですけど……」
「どなた?」
「いや、違うと思いますよ」
「なんで?」
「あの無駄にプライド高くて性格の悪い男が、なかなかその女性に会えないからって辛い思いをしてるんですよね? 絶対に違います」
メアリさんは何やら自信ありげだ。
「その女性投資家ってどんな方なの?」
「銀行を経営し国内一の資産を有すると言われているデスティモナ伯爵家のご令嬢です」
「デスティモナ家の……ってことは」
「ハロルド様の妹ですね」
「まあ! そうなのね! ハロルド様が『可愛い妹』って言ってたもの。ステファン様が会いたがってもおかしくないわね」
「……本当にエレナ様の耳に余計な噂話が入らないように徹底されてるんですね」
なぜか憐憫の眼差しがわたしに刺さる。
「いいですか。有名な若手女性投資家のネリーネ・デスティモナ伯爵令嬢の別称は『社交界の毒花令嬢』です」
悪意のある蔑称にわたしは妙なシンパシーを感じた。
メアリさんと文書室で書類の仕分けをしながら雑談をする。慣れたもので話していても仕分けの手が止まることはない。
「女性の投資家も数人はいらっしゃいますけど少ないですね」
「やっぱり」
「それがどうかしたんですか?」
「ほら、特設部署にステファン様っていらっしゃるじゃない?」
「はいはい。あのエレナ様狙いの役人ですね」
「やだ。メアリさんったら。ステファン様に失礼よ。ステファン様は随分年上だもの。わたしみたいな子供なんて歯牙にも掛けないわ」
「えぇ? そうですか? わたしが書類を届けに行くとあからさまに落胆されるからエレナ様狙いかと思ってました」
メアリさんはそう言ってちょっと嫌そうな顔をする。
ステファン様は愛想が悪いから、勘違いされやすいのね。わたしも最初無愛想で感じが悪いと思ったもの。
でもそれは誤解で、とてもいい人だった。
「それは、ステファン様はわたしに本を貸してくださろうとして準備をされてた日だったんではないかしら? ステファン様はわたしのことを生徒のように思ってくださっていて私が興味をもちそうな本を貸してくださったりしてたのよ。前にお兄様がメアリさんと同じように勘違いして騒いだものだから、最近は本を貸していただくことも減っちゃったけど」
「……勘違いじゃないと思いますけど。まあ、いいです。で、そのステファン様がなんですか?」
メアリさんはあまり納得していない。
でも、きっとそのうち理解してくれるはず。
「そう、それで、そのステファン様が、お見合いをして婚約した相手が女性投資家なんですって」
わたしは仕分けした書類をケースに仕舞いながら話を元に戻す。
「ステファン様は婚約者様になかなかお会いできなくて辛い思いをされてるって伺ったから、今度王宮にお呼びして領地に作る工場に投資してもらえないかお願いすることなったの。それでどんな方か気になって。メアリさんなら情報通だからご存知じゃないかと思ったのよ」
「え? トワイン領に工場建てるんですか?」
「ええ」
「どんな工場ですか? 内容によってはジェームズ商会にも一枚かませてくださいよ」
前のめりなメアリさんは好奇心でいっぱいだ。わたしは勢いに飲まれる。
「えっと、ニットの編立工場よ。領地で有り余る毛糸で水着を作ってイスファーン王国に輸出しようと思って」
「えー! イスファーン王国向けだけですか? 国内は?」
「国内はすでに羊毛の需要は十分あるじゃない。イスファーン王国で羊毛の需要を喚起させるために流通させようと思ったのよ」
「じゃあ、じゃあ、国内で水着を売ることにしたら、卸はうちに任せてくださいよ。ボルボラ諸島のリゾート計画もあるんですから水着なんて作ったら絶対儲かるじゃないですか!」
そうか。肥料にするしかないくらい領地で有り余る毛糸をイスファーン王国に売ることばかり考えていたわたしは、国内需要のことなんて考えてなかった。
「そうね。お兄様が計画してることだからお兄様に進言しておくわ」
「是非!」
書類ケースの蓋を閉め、話を逸らしたままホクホク顔でいるメアリさんを半眼で見つめる。
「あ! 失礼しました。あのステファン様の婚約者の話でしたよね? 独身の若い女性投資家だと、一人しか思いつかないんですけど……」
「どなた?」
「いや、違うと思いますよ」
「なんで?」
「あの無駄にプライド高くて性格の悪い男が、なかなかその女性に会えないからって辛い思いをしてるんですよね? 絶対に違います」
メアリさんは何やら自信ありげだ。
「その女性投資家ってどんな方なの?」
「銀行を経営し国内一の資産を有すると言われているデスティモナ伯爵家のご令嬢です」
「デスティモナ家の……ってことは」
「ハロルド様の妹ですね」
「まあ! そうなのね! ハロルド様が『可愛い妹』って言ってたもの。ステファン様が会いたがってもおかしくないわね」
「……本当にエレナ様の耳に余計な噂話が入らないように徹底されてるんですね」
なぜか憐憫の眼差しがわたしに刺さる。
「いいですか。有名な若手女性投資家のネリーネ・デスティモナ伯爵令嬢の別称は『社交界の毒花令嬢』です」
悪意のある蔑称にわたしは妙なシンパシーを感じた。
6
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる