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第四部
24 エレナと王太子付き秘書候補の婚約者
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メアリさんの話では、ハロルド様の妹であるネリーネ・デスティモナ伯爵令嬢は、メアリさんや殿下にお兄様たちの一歳年上で社交界では知らない人がいないくらい有名で、とにかく派手でけばけばしくって目立ってて誰もが見かけただけで目を丸くするような方らしい。
わたしは聞いたことがない。相変わらず噂に疎いにしても知らない方があり得ないそうだ。
噂のネリーネ嬢は家業が高利貸しで荒稼ぎしたお金を湯水の如く使う金食い虫で、性格も悪辣で傲慢で平気で人を蔑む「毒花令嬢」なんて社交界で噂をされている。
毒花令嬢と呼ばれるネリーネ嬢が本当に悪辣なのかはわからないけど、もちろんデスティモナ伯爵家は高利貸しで荒稼ぎなんてしていない。
建国以来の忠臣でもあり、真っ当に銀行業を営んでいる。
王国の北東に連なる山脈の麓に位置するデスティモナ伯爵領には、いまも真っ白な噴気をあげる火山があり、何十年も前に起きたイスファーン王国との争いで需要が増した爆薬の原料になる硫黄の一大産出地として名を馳せた。
戦争中軍事費としてデスティモナ伯爵家に大量に流れ込んだ資金を元に貸付事業を行っている。それが戦争で金儲けができなかった大半の貴族たちにとって面白くなかったんだろう。
わかりやすいやっかみだ。
ハロルド様の、あの大げさでわざとらしいつかみどころのない振る舞いは、きっとやっかみだらけの社交界で生き延びるための処世術なのね。
殿下と偶然同い年に生まれた侯爵家の嫡男というだけで、幼馴染として殿下と親しくさせていただいているお兄様のあの振る舞いも、やっかみだらけの社交界で身についたのでしょうし。
「お兄様とハロルド様はそっくりだと思ってましたけど、妹が悪名高いことまでそっくりだなんて皮肉な話だわ」
ため息しか出ない。
「そんな、エレナ様が噂みたいなご令嬢じゃないことは、エレナ様にお会いしたことがある人間ならみんなわかってますよ」
「気を使わないでいいわ。でも……それなら、ハロルド様の妹さんも噂とは違うかもしれないわ。まだ確実ではないとしてもステファン様の婚約者の可能性が高いのでしょう? あの仕事が恋人みたいな真面目なステファン様が恋焦がれてらっしゃるんだから、きっとお会いしたらとても素敵な方なんじゃないかしら」
「うーん」
わたしの返事にメアリさんは眉を顰めた。ステファン様のことを褒めると、ことさら嫌そうな顔をする。
「わたしはハロルド様の妹のネリーネ嬢とは学年も違いますし興味のある分野も違うので王立学園の授業で会うこともなかったですし、夜会とかでお会いすることもないので、正直なんとも言えないんですけど。エリオット様なら同じ授業を受けてらっしゃったんじゃないですかね? 確か毒花令嬢は地政学に随分と傾倒されてらしたはずですよ。女性で政治関係の講義を取る方なんて滅多にいないからめちゃくちゃ目立ってましたから」
「そうなのね」
「それがまた、二年前の王太子様とコーデリア様の婚約話に暗雲が立ち込めた時期なものだから、女だてらに政治に興味を持つなんて王太子妃の座でも狙ってるんじゃないかって揶揄されたりして。なのに王太子殿下の婚約者探しの茶会は年頃な有力貴族のご令嬢なら誰彼構わず呼ばれてるなんて噂だったのに呼ばれなかったことも拍車をかけて、悪い噂が広がったんですよね」
「まあ。でもわたしもその茶会には呼ばれていないわ」
「あ……でも、ほらまだエレナ様はその頃はまだ十四、五歳ですし……」
「いいのよ別に事実だから」
慌てて弁解するメアリさんにわたしは肩をすくめてみせる。
エレナに負けないくらい悪評高いご令嬢か……
そのご令嬢が本当にステファン様の婚約者かどうかはさておき、ハロルド様の妹がどんなご令嬢なのか気になる。
お兄様がご存じかもしれないなら、後でお兄様に聞いてみよう。
わたしは、急ぎの書類がないことを確認して、帰る準備にとりかかった。
わたしは聞いたことがない。相変わらず噂に疎いにしても知らない方があり得ないそうだ。
噂のネリーネ嬢は家業が高利貸しで荒稼ぎしたお金を湯水の如く使う金食い虫で、性格も悪辣で傲慢で平気で人を蔑む「毒花令嬢」なんて社交界で噂をされている。
毒花令嬢と呼ばれるネリーネ嬢が本当に悪辣なのかはわからないけど、もちろんデスティモナ伯爵家は高利貸しで荒稼ぎなんてしていない。
建国以来の忠臣でもあり、真っ当に銀行業を営んでいる。
王国の北東に連なる山脈の麓に位置するデスティモナ伯爵領には、いまも真っ白な噴気をあげる火山があり、何十年も前に起きたイスファーン王国との争いで需要が増した爆薬の原料になる硫黄の一大産出地として名を馳せた。
戦争中軍事費としてデスティモナ伯爵家に大量に流れ込んだ資金を元に貸付事業を行っている。それが戦争で金儲けができなかった大半の貴族たちにとって面白くなかったんだろう。
わかりやすいやっかみだ。
ハロルド様の、あの大げさでわざとらしいつかみどころのない振る舞いは、きっとやっかみだらけの社交界で生き延びるための処世術なのね。
殿下と偶然同い年に生まれた侯爵家の嫡男というだけで、幼馴染として殿下と親しくさせていただいているお兄様のあの振る舞いも、やっかみだらけの社交界で身についたのでしょうし。
「お兄様とハロルド様はそっくりだと思ってましたけど、妹が悪名高いことまでそっくりだなんて皮肉な話だわ」
ため息しか出ない。
「そんな、エレナ様が噂みたいなご令嬢じゃないことは、エレナ様にお会いしたことがある人間ならみんなわかってますよ」
「気を使わないでいいわ。でも……それなら、ハロルド様の妹さんも噂とは違うかもしれないわ。まだ確実ではないとしてもステファン様の婚約者の可能性が高いのでしょう? あの仕事が恋人みたいな真面目なステファン様が恋焦がれてらっしゃるんだから、きっとお会いしたらとても素敵な方なんじゃないかしら」
「うーん」
わたしの返事にメアリさんは眉を顰めた。ステファン様のことを褒めると、ことさら嫌そうな顔をする。
「わたしはハロルド様の妹のネリーネ嬢とは学年も違いますし興味のある分野も違うので王立学園の授業で会うこともなかったですし、夜会とかでお会いすることもないので、正直なんとも言えないんですけど。エリオット様なら同じ授業を受けてらっしゃったんじゃないですかね? 確か毒花令嬢は地政学に随分と傾倒されてらしたはずですよ。女性で政治関係の講義を取る方なんて滅多にいないからめちゃくちゃ目立ってましたから」
「そうなのね」
「それがまた、二年前の王太子様とコーデリア様の婚約話に暗雲が立ち込めた時期なものだから、女だてらに政治に興味を持つなんて王太子妃の座でも狙ってるんじゃないかって揶揄されたりして。なのに王太子殿下の婚約者探しの茶会は年頃な有力貴族のご令嬢なら誰彼構わず呼ばれてるなんて噂だったのに呼ばれなかったことも拍車をかけて、悪い噂が広がったんですよね」
「まあ。でもわたしもその茶会には呼ばれていないわ」
「あ……でも、ほらまだエレナ様はその頃はまだ十四、五歳ですし……」
「いいのよ別に事実だから」
慌てて弁解するメアリさんにわたしは肩をすくめてみせる。
エレナに負けないくらい悪評高いご令嬢か……
そのご令嬢が本当にステファン様の婚約者かどうかはさておき、ハロルド様の妹がどんなご令嬢なのか気になる。
お兄様がご存じかもしれないなら、後でお兄様に聞いてみよう。
わたしは、急ぎの書類がないことを確認して、帰る準備にとりかかった。
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