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第四部
43 エレナと女神様風ドレス
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ネリーネ様の演説かと思わせるほどの熱がこもった説明が終わると拍手が巻き起こる。
メアリさんはまだしもコーデリア様たちまで拍手するなんて……と思ってたら、ネリーネ様の侍女が壁際で誰よりも大きな拍手をしていた。
きっと雰囲気にのまれたのね。
確かに繁華街にこの変身ドレスを披露したら噂にはなるかもしれない。
でも。わたしは、そんな作戦に乗りたくない。
そりゃ、衣装は女神様みたいかもしれないけれど、中身は市井でも悪評高いエレナのままだ。
領地の子供たちや孤児院の子供たちは、きちんと並んだのを褒めてお菓子を配れば女神様だって思ってくれるけど、大人はそうはいかない。
噂はいい噂として広まるわけがない。
悪評高い侯爵令嬢が癇癪を起こしてまわりに自分を「女神様扱い」させるために騒ぎを起こしたと思われるのが関の山だもの。
「ただ、無理をされる必要はないですわ。このデイ・ドレスはエレナ様を勇気づけられればと思って作らせただけでございますもの」
わたしの反応が悪いからかネリーネ様はそう言ってわたしの手を取る。
「わたくしは自身の悪評なんて気にしておりませんのよ。噂なんて勝手に流せばいいと思っていますし、わたくしに好き勝手に立てられた噂を、もっと大きな噂でかき消そうなんてしておりませんもの。エレナ様にも強制しませんわ」
ネリーネ様の派手でキツく見えるアイメイクの下で優しげな瞳がわたしを捉える。
「わたくしがどんな噂を立てられても気にせずいられるのは、家族がわたくしのことを大切に思ってくれるのをわかっているからですわ。それにステファン様がわたくしに『ネリネの花は毒花に似ているだけで、毒花ではない』とおっしゃってくださいますの」
そう言ってネリーネ様は派手な装飾品の中でひとつだけ可愛らしくて浮いているブローチを握りしめる。
ネリネの花──ダイヤモンドリリィのブローチだ。
初めてお会いした時にステファン様がアクセサリーを贈ってくださったって惚気ていたから、そのブローチだろう。
ネリーネ様の名前の由来であるネリネの花は、毒性のある彼岸花に似ている。
忌み嫌われる毒花に似ているからというだけで、ネリネの花もこの国ではあまり見かけない。
みんながネリネの花を毒花扱いする中で、婚約者から違うと言われたら嬉しいだろう。
なんでネリーネ様がステファン様と結婚をして、貴族籍を抜けて平民になってもいいと思っているのか腑に落ちる。
転生者だから貴族じゃなくても平気だからだと思っていたけど違う。
噂に惑わされずに、本当の自分を大切にしてくれる人だからだ。
「ですから、わたくしもエレナ様の勇気づけられるようにと、わたくしもトワインの民のようにエレナ様のことを『恵みの女神様』だと思っているとお伝えしたくて作らせただけなんですの。エレナ様。わたくしたちはエレナ様の味方ですわ」
今度は自然に拍手が巻き起こった。
***
わたしはネリーネ様が贈ってくれたデイ・ドレスを着たまま帰路につく。
馬車の中ではユーゴが大興奮している。
「明日、女神様の礼拝堂へ慰問に行く時に着ていきましょうよ! 最近はずっとただのエレナ様しか訪問してなかったし、久しぶりに女神様が来れば子供達が喜びますよ!」
「喜ぶのは子供達じゃなくてユーゴじゃないの? みんな、お菓子が欲しかったり本を読んで欲しいだけなんだから、わたしが普段と変わらない格好だろうが、女神様の衣装を着ようが変わらないわよ」
「もちろん僕も喜びますけど、絶対に子供達も喜びますって! 絶対に明日はこのドレスを着てください! 馬子にも衣装で似合ってますから絶対大丈夫ですって!」
「ユーゴも適当ね。適当なユーゴに絶対なんて言われても説得力はないし、そもそも世の中に絶対はないのだからそんなに連呼したりしないのよ」
呆れたわたしはユーゴの唇に人差し指を押し付ける。モゴモゴまだ何か言おうとしているのを睨むとようやく黙った。
全くもう。
ネリーネ様はわたしを勇気づけるために贈ってくださっただけで、ユーゴを喜ばせるために贈ってくださったわけじゃないっていうのに。
チラリとメリーを見ると、ユーゴを叱るでもなく、お任せくださいとばかりに胸を叩いていた。
帰宅したら明日の準備が入念に始まるに違いない。
こうなったら絶対に逃げられない。
ユーゴに絶対なんてないなんて言ったけど、心の中で前言撤回する。
メリーが逃してくれるわけがない。
わたしは馬車の中でため息をついた。
メアリさんはまだしもコーデリア様たちまで拍手するなんて……と思ってたら、ネリーネ様の侍女が壁際で誰よりも大きな拍手をしていた。
きっと雰囲気にのまれたのね。
確かに繁華街にこの変身ドレスを披露したら噂にはなるかもしれない。
でも。わたしは、そんな作戦に乗りたくない。
そりゃ、衣装は女神様みたいかもしれないけれど、中身は市井でも悪評高いエレナのままだ。
領地の子供たちや孤児院の子供たちは、きちんと並んだのを褒めてお菓子を配れば女神様だって思ってくれるけど、大人はそうはいかない。
噂はいい噂として広まるわけがない。
悪評高い侯爵令嬢が癇癪を起こしてまわりに自分を「女神様扱い」させるために騒ぎを起こしたと思われるのが関の山だもの。
「ただ、無理をされる必要はないですわ。このデイ・ドレスはエレナ様を勇気づけられればと思って作らせただけでございますもの」
わたしの反応が悪いからかネリーネ様はそう言ってわたしの手を取る。
「わたくしは自身の悪評なんて気にしておりませんのよ。噂なんて勝手に流せばいいと思っていますし、わたくしに好き勝手に立てられた噂を、もっと大きな噂でかき消そうなんてしておりませんもの。エレナ様にも強制しませんわ」
ネリーネ様の派手でキツく見えるアイメイクの下で優しげな瞳がわたしを捉える。
「わたくしがどんな噂を立てられても気にせずいられるのは、家族がわたくしのことを大切に思ってくれるのをわかっているからですわ。それにステファン様がわたくしに『ネリネの花は毒花に似ているだけで、毒花ではない』とおっしゃってくださいますの」
そう言ってネリーネ様は派手な装飾品の中でひとつだけ可愛らしくて浮いているブローチを握りしめる。
ネリネの花──ダイヤモンドリリィのブローチだ。
初めてお会いした時にステファン様がアクセサリーを贈ってくださったって惚気ていたから、そのブローチだろう。
ネリーネ様の名前の由来であるネリネの花は、毒性のある彼岸花に似ている。
忌み嫌われる毒花に似ているからというだけで、ネリネの花もこの国ではあまり見かけない。
みんながネリネの花を毒花扱いする中で、婚約者から違うと言われたら嬉しいだろう。
なんでネリーネ様がステファン様と結婚をして、貴族籍を抜けて平民になってもいいと思っているのか腑に落ちる。
転生者だから貴族じゃなくても平気だからだと思っていたけど違う。
噂に惑わされずに、本当の自分を大切にしてくれる人だからだ。
「ですから、わたくしもエレナ様の勇気づけられるようにと、わたくしもトワインの民のようにエレナ様のことを『恵みの女神様』だと思っているとお伝えしたくて作らせただけなんですの。エレナ様。わたくしたちはエレナ様の味方ですわ」
今度は自然に拍手が巻き起こった。
***
わたしはネリーネ様が贈ってくれたデイ・ドレスを着たまま帰路につく。
馬車の中ではユーゴが大興奮している。
「明日、女神様の礼拝堂へ慰問に行く時に着ていきましょうよ! 最近はずっとただのエレナ様しか訪問してなかったし、久しぶりに女神様が来れば子供達が喜びますよ!」
「喜ぶのは子供達じゃなくてユーゴじゃないの? みんな、お菓子が欲しかったり本を読んで欲しいだけなんだから、わたしが普段と変わらない格好だろうが、女神様の衣装を着ようが変わらないわよ」
「もちろん僕も喜びますけど、絶対に子供達も喜びますって! 絶対に明日はこのドレスを着てください! 馬子にも衣装で似合ってますから絶対大丈夫ですって!」
「ユーゴも適当ね。適当なユーゴに絶対なんて言われても説得力はないし、そもそも世の中に絶対はないのだからそんなに連呼したりしないのよ」
呆れたわたしはユーゴの唇に人差し指を押し付ける。モゴモゴまだ何か言おうとしているのを睨むとようやく黙った。
全くもう。
ネリーネ様はわたしを勇気づけるために贈ってくださっただけで、ユーゴを喜ばせるために贈ってくださったわけじゃないっていうのに。
チラリとメリーを見ると、ユーゴを叱るでもなく、お任せくださいとばかりに胸を叩いていた。
帰宅したら明日の準備が入念に始まるに違いない。
こうなったら絶対に逃げられない。
ユーゴに絶対なんてないなんて言ったけど、心の中で前言撤回する。
メリーが逃してくれるわけがない。
わたしは馬車の中でため息をついた。
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