193 / 276
第四部
43 エレナと女神様風ドレス
しおりを挟む
ネリーネ様の演説かと思わせるほどの熱がこもった説明が終わると拍手が巻き起こる。
メアリさんはまだしもコーデリア様たちまで拍手するなんて……と思ってたら、ネリーネ様の侍女が壁際で誰よりも大きな拍手をしていた。
きっと雰囲気にのまれたのね。
確かに繁華街にこの変身ドレスを披露したら噂にはなるかもしれない。
でも。わたしは、そんな作戦に乗りたくない。
そりゃ、衣装は女神様みたいかもしれないけれど、中身は市井でも悪評高いエレナのままだ。
領地の子供たちや孤児院の子供たちは、きちんと並んだのを褒めてお菓子を配れば女神様だって思ってくれるけど、大人はそうはいかない。
噂はいい噂として広まるわけがない。
悪評高い侯爵令嬢が癇癪を起こしてまわりに自分を「女神様扱い」させるために騒ぎを起こしたと思われるのが関の山だもの。
「ただ、無理をされる必要はないですわ。このデイ・ドレスはエレナ様を勇気づけられればと思って作らせただけでございますもの」
わたしの反応が悪いからかネリーネ様はそう言ってわたしの手を取る。
「わたくしは自身の悪評なんて気にしておりませんのよ。噂なんて勝手に流せばいいと思っていますし、わたくしに好き勝手に立てられた噂を、もっと大きな噂でかき消そうなんてしておりませんもの。エレナ様にも強制しませんわ」
ネリーネ様の派手でキツく見えるアイメイクの下で優しげな瞳がわたしを捉える。
「わたくしがどんな噂を立てられても気にせずいられるのは、家族がわたくしのことを大切に思ってくれるのをわかっているからですわ。それにステファン様がわたくしに『ネリネの花は毒花に似ているだけで、毒花ではない』とおっしゃってくださいますの」
そう言ってネリーネ様は派手な装飾品の中でひとつだけ可愛らしくて浮いているブローチを握りしめる。
ネリネの花──ダイヤモンドリリィのブローチだ。
初めてお会いした時にステファン様がアクセサリーを贈ってくださったって惚気ていたから、そのブローチだろう。
ネリーネ様の名前の由来であるネリネの花は、毒性のある彼岸花に似ている。
忌み嫌われる毒花に似ているからというだけで、ネリネの花もこの国ではあまり見かけない。
みんながネリネの花を毒花扱いする中で、婚約者から違うと言われたら嬉しいだろう。
なんでネリーネ様がステファン様と結婚をして、貴族籍を抜けて平民になってもいいと思っているのか腑に落ちる。
転生者だから貴族じゃなくても平気だからだと思っていたけど違う。
噂に惑わされずに、本当の自分を大切にしてくれる人だからだ。
「ですから、わたくしもエレナ様の勇気づけられるようにと、わたくしもトワインの民のようにエレナ様のことを『恵みの女神様』だと思っているとお伝えしたくて作らせただけなんですの。エレナ様。わたくしたちはエレナ様の味方ですわ」
今度は自然に拍手が巻き起こった。
***
わたしはネリーネ様が贈ってくれたデイ・ドレスを着たまま帰路につく。
馬車の中ではユーゴが大興奮している。
「明日、女神様の礼拝堂へ慰問に行く時に着ていきましょうよ! 最近はずっとただのエレナ様しか訪問してなかったし、久しぶりに女神様が来れば子供達が喜びますよ!」
「喜ぶのは子供達じゃなくてユーゴじゃないの? みんな、お菓子が欲しかったり本を読んで欲しいだけなんだから、わたしが普段と変わらない格好だろうが、女神様の衣装を着ようが変わらないわよ」
「もちろん僕も喜びますけど、絶対に子供達も喜びますって! 絶対に明日はこのドレスを着てください! 馬子にも衣装で似合ってますから絶対大丈夫ですって!」
「ユーゴも適当ね。適当なユーゴに絶対なんて言われても説得力はないし、そもそも世の中に絶対はないのだからそんなに連呼したりしないのよ」
呆れたわたしはユーゴの唇に人差し指を押し付ける。モゴモゴまだ何か言おうとしているのを睨むとようやく黙った。
全くもう。
ネリーネ様はわたしを勇気づけるために贈ってくださっただけで、ユーゴを喜ばせるために贈ってくださったわけじゃないっていうのに。
チラリとメリーを見ると、ユーゴを叱るでもなく、お任せくださいとばかりに胸を叩いていた。
帰宅したら明日の準備が入念に始まるに違いない。
こうなったら絶対に逃げられない。
ユーゴに絶対なんてないなんて言ったけど、心の中で前言撤回する。
メリーが逃してくれるわけがない。
わたしは馬車の中でため息をついた。
メアリさんはまだしもコーデリア様たちまで拍手するなんて……と思ってたら、ネリーネ様の侍女が壁際で誰よりも大きな拍手をしていた。
きっと雰囲気にのまれたのね。
確かに繁華街にこの変身ドレスを披露したら噂にはなるかもしれない。
でも。わたしは、そんな作戦に乗りたくない。
そりゃ、衣装は女神様みたいかもしれないけれど、中身は市井でも悪評高いエレナのままだ。
領地の子供たちや孤児院の子供たちは、きちんと並んだのを褒めてお菓子を配れば女神様だって思ってくれるけど、大人はそうはいかない。
噂はいい噂として広まるわけがない。
悪評高い侯爵令嬢が癇癪を起こしてまわりに自分を「女神様扱い」させるために騒ぎを起こしたと思われるのが関の山だもの。
「ただ、無理をされる必要はないですわ。このデイ・ドレスはエレナ様を勇気づけられればと思って作らせただけでございますもの」
わたしの反応が悪いからかネリーネ様はそう言ってわたしの手を取る。
「わたくしは自身の悪評なんて気にしておりませんのよ。噂なんて勝手に流せばいいと思っていますし、わたくしに好き勝手に立てられた噂を、もっと大きな噂でかき消そうなんてしておりませんもの。エレナ様にも強制しませんわ」
ネリーネ様の派手でキツく見えるアイメイクの下で優しげな瞳がわたしを捉える。
「わたくしがどんな噂を立てられても気にせずいられるのは、家族がわたくしのことを大切に思ってくれるのをわかっているからですわ。それにステファン様がわたくしに『ネリネの花は毒花に似ているだけで、毒花ではない』とおっしゃってくださいますの」
そう言ってネリーネ様は派手な装飾品の中でひとつだけ可愛らしくて浮いているブローチを握りしめる。
ネリネの花──ダイヤモンドリリィのブローチだ。
初めてお会いした時にステファン様がアクセサリーを贈ってくださったって惚気ていたから、そのブローチだろう。
ネリーネ様の名前の由来であるネリネの花は、毒性のある彼岸花に似ている。
忌み嫌われる毒花に似ているからというだけで、ネリネの花もこの国ではあまり見かけない。
みんながネリネの花を毒花扱いする中で、婚約者から違うと言われたら嬉しいだろう。
なんでネリーネ様がステファン様と結婚をして、貴族籍を抜けて平民になってもいいと思っているのか腑に落ちる。
転生者だから貴族じゃなくても平気だからだと思っていたけど違う。
噂に惑わされずに、本当の自分を大切にしてくれる人だからだ。
「ですから、わたくしもエレナ様の勇気づけられるようにと、わたくしもトワインの民のようにエレナ様のことを『恵みの女神様』だと思っているとお伝えしたくて作らせただけなんですの。エレナ様。わたくしたちはエレナ様の味方ですわ」
今度は自然に拍手が巻き起こった。
***
わたしはネリーネ様が贈ってくれたデイ・ドレスを着たまま帰路につく。
馬車の中ではユーゴが大興奮している。
「明日、女神様の礼拝堂へ慰問に行く時に着ていきましょうよ! 最近はずっとただのエレナ様しか訪問してなかったし、久しぶりに女神様が来れば子供達が喜びますよ!」
「喜ぶのは子供達じゃなくてユーゴじゃないの? みんな、お菓子が欲しかったり本を読んで欲しいだけなんだから、わたしが普段と変わらない格好だろうが、女神様の衣装を着ようが変わらないわよ」
「もちろん僕も喜びますけど、絶対に子供達も喜びますって! 絶対に明日はこのドレスを着てください! 馬子にも衣装で似合ってますから絶対大丈夫ですって!」
「ユーゴも適当ね。適当なユーゴに絶対なんて言われても説得力はないし、そもそも世の中に絶対はないのだからそんなに連呼したりしないのよ」
呆れたわたしはユーゴの唇に人差し指を押し付ける。モゴモゴまだ何か言おうとしているのを睨むとようやく黙った。
全くもう。
ネリーネ様はわたしを勇気づけるために贈ってくださっただけで、ユーゴを喜ばせるために贈ってくださったわけじゃないっていうのに。
チラリとメリーを見ると、ユーゴを叱るでもなく、お任せくださいとばかりに胸を叩いていた。
帰宅したら明日の準備が入念に始まるに違いない。
こうなったら絶対に逃げられない。
ユーゴに絶対なんてないなんて言ったけど、心の中で前言撤回する。
メリーが逃してくれるわけがない。
わたしは馬車の中でため息をついた。
38
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw
さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」
ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。
「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」
いえ! 慕っていません!
このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。
どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。
しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……
*設定は緩いです
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる