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第四部
42 エレナと毒花令嬢からの贈り物
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「ネリーネお嬢様がたをお呼びして参りますのでこちらで少しお待ちください」
ネリーネ様の侍女はそう言って部屋を出る。
わたしとメアリさんは部屋に残された。
「ねえ、メアリさん。やっぱりネリーネ様は転生者だと思いますよね?」
「え?」
あんなに約束したのに、聞かれるなんて思ってもみなかったみたいな反応をするメアリさんを睨む。
「すみません。転生者かどうか一緒に判断するお約束でしたものね」
「そうよ。忘れられちゃったと思ったわ。あのね、わたしは疑惑が確信に変わったと思うの」
メアリさんは腕を組んでうーんと唸る。
「だって、伯爵家のご令嬢が貴族籍に拘らずに役人の妻になるなんて普通は考えられないわ。転生者だからだと思わない?」
「えぇ⁈ ちょっと待ってくださいよ。前までエレナ様はネリーネ様はあの性格悪そうな役に……ステファン様に恋する乙女だとかおっしゃってだと思うんですけど」
「そうだけど、恋する気持ちだけで平民になるのを甘んじて受け入れたりできるものかしら。ねえ、メアリさんはどうなの?」
「えっ? どうって? どういうことです?」
「メアリさんだって子爵家のご令嬢だったのに、平民になってしまったでしょう? 転生者だから受け入れられたんじゃない?」
「別に……受け入れられたのは転生者だからとかじゃないですよ。いいですか? 貧乏子爵家の平凡な顔した娘なんて、そもそもまともな貴族男性からは相手にされないんです。それなのに国内有数の大商会と縁を築けるなんて願ってもないことですよ。我が家なんてわたしがジェームズ商会に嫁ぐのが決まった時は狂喜乱舞してましたからね。わたしだけじゃなくて同じくらいの立ち位置のお嬢様方も一緒ですって。侯爵家から嫁ぐわけじゃないんですから」
メアリさんは呆れた顔でわたしを見ている。
そうだった。わたしは恵まれた立場の人間だった。
神代の時代まで遡る由緒正しき侯爵家のお嬢様で、王太子殿下の婚約者に内定している。
わたしが破滅フラグに怯えているだけ。
でも、それでも……
「もし、万が一ネリーネ様が転生者だったとしても、エレナ様の座を脅かすことはないんじゃないですかね」
「それは、わかっているわ。もし、転生者で物語の先行きがわかっているなら教えて欲しいだけだもの。わたしは……」
話中にノック音が聞こえる。私たちは慌てて居住まいを正す。
返事をするや否やドアが開く。
「きゃあぁっ! 想像通りですわ! ほら、皆様も早くご覧になってくださいまし!」
ドアを開け放ったネリーネ様は鼻息荒く叫ぶ。耳元で甲高い叫び声を聞いたコーデリア様は眉を顰めている。
その後ろから、ひょこっとベリンダさんとミンディさんが顔を出した。
「清楚な中に可愛らしさがあって、エレナ様にとってもお似合いですね」
「ええ。とっても可愛いです!」
口々に褒めてくれるのでちょっと恥ずかしい。
「よろしいんではなくて? わたくしがお茶会を主催しますからその時に着て来ればいいわ。今までにないデイ・ドレスですから話題にはなるんではなくて?」
コーデリア様はそう言ってわたしに社交界の居場所を作ってくださろうとしてくれている。
その恩にわたしは答えることができるんだろうか。
「お茶会に着て行かれるのもよろしいですけど、このデイ・ドレスは街中を観察して、王都の繁華街を歩いても目立たないようにと作らせましたの。市井風のデイ・ドレスですわ」
私たちは近くで見ているから綺麗にシボが入った白い縮緬生地や、紺のスカート部分の生地は織り込まれた柄が光のあたる加減で見えるようになっていたのを知っている。かなり上質な生地を用意して作られたものだとわかるから普通にデイ・ドレスとして受け入れていた。
でも確かに、言われてみれば遠目からは街中で商家のお嬢さんだったり王宮の下働きくらいのちょっと身なりがいい女性が着ていそうにも見える。
「この市井風デイ・ドレスでお忍びで街に出かけますの。みんなきっとエレナ様だとは気が付きませんわ。そこにエレナ様を知る人が現れてエレナ様の名を呼びますと、市井の人々はみな噂のエレナ様を見たがるはずですわ!」
まるで舞台女優のようなネリーネ様は楽しそうだ。でも、わたしは街中で注目なんて浴びたくない。
「人々の注目を浴びた時にこのドレスはエレナ様に魔法をかけてくれますわ」
そう言ってネリーネ様はわたしに抱きついた。
「ほら!」
ネリーネ様はわたしを抱きしめたままデイ・ドレスの肩についたリボンを解く。
みんなの息をのむ音が聞こえた。
ネリーネ様の身体が離れると白と紺のデイ・ドレスは白のドレスに変化していた。
今までブラウスとリボンに見えていたのは二重構造になっていたスカートの上の生地部分だった。
解けたリボンとブラウスの生地が紺色のスカートを覆い隠す。
肩でリボンにするかしないかで全く別のドレスになる。
白と紺のドレスが市井風だとすれば白のドレスは……
「王都の繁華街で人々の注目の中、女神様が現れますのよ? これは大きな噂になりますわ! 恵みの女神風デイ・ドレスですのよ!」
ネリーネ様はそう叫んで両手を広げた。
ネリーネ様の侍女はそう言って部屋を出る。
わたしとメアリさんは部屋に残された。
「ねえ、メアリさん。やっぱりネリーネ様は転生者だと思いますよね?」
「え?」
あんなに約束したのに、聞かれるなんて思ってもみなかったみたいな反応をするメアリさんを睨む。
「すみません。転生者かどうか一緒に判断するお約束でしたものね」
「そうよ。忘れられちゃったと思ったわ。あのね、わたしは疑惑が確信に変わったと思うの」
メアリさんは腕を組んでうーんと唸る。
「だって、伯爵家のご令嬢が貴族籍に拘らずに役人の妻になるなんて普通は考えられないわ。転生者だからだと思わない?」
「えぇ⁈ ちょっと待ってくださいよ。前までエレナ様はネリーネ様はあの性格悪そうな役に……ステファン様に恋する乙女だとかおっしゃってだと思うんですけど」
「そうだけど、恋する気持ちだけで平民になるのを甘んじて受け入れたりできるものかしら。ねえ、メアリさんはどうなの?」
「えっ? どうって? どういうことです?」
「メアリさんだって子爵家のご令嬢だったのに、平民になってしまったでしょう? 転生者だから受け入れられたんじゃない?」
「別に……受け入れられたのは転生者だからとかじゃないですよ。いいですか? 貧乏子爵家の平凡な顔した娘なんて、そもそもまともな貴族男性からは相手にされないんです。それなのに国内有数の大商会と縁を築けるなんて願ってもないことですよ。我が家なんてわたしがジェームズ商会に嫁ぐのが決まった時は狂喜乱舞してましたからね。わたしだけじゃなくて同じくらいの立ち位置のお嬢様方も一緒ですって。侯爵家から嫁ぐわけじゃないんですから」
メアリさんは呆れた顔でわたしを見ている。
そうだった。わたしは恵まれた立場の人間だった。
神代の時代まで遡る由緒正しき侯爵家のお嬢様で、王太子殿下の婚約者に内定している。
わたしが破滅フラグに怯えているだけ。
でも、それでも……
「もし、万が一ネリーネ様が転生者だったとしても、エレナ様の座を脅かすことはないんじゃないですかね」
「それは、わかっているわ。もし、転生者で物語の先行きがわかっているなら教えて欲しいだけだもの。わたしは……」
話中にノック音が聞こえる。私たちは慌てて居住まいを正す。
返事をするや否やドアが開く。
「きゃあぁっ! 想像通りですわ! ほら、皆様も早くご覧になってくださいまし!」
ドアを開け放ったネリーネ様は鼻息荒く叫ぶ。耳元で甲高い叫び声を聞いたコーデリア様は眉を顰めている。
その後ろから、ひょこっとベリンダさんとミンディさんが顔を出した。
「清楚な中に可愛らしさがあって、エレナ様にとってもお似合いですね」
「ええ。とっても可愛いです!」
口々に褒めてくれるのでちょっと恥ずかしい。
「よろしいんではなくて? わたくしがお茶会を主催しますからその時に着て来ればいいわ。今までにないデイ・ドレスですから話題にはなるんではなくて?」
コーデリア様はそう言ってわたしに社交界の居場所を作ってくださろうとしてくれている。
その恩にわたしは答えることができるんだろうか。
「お茶会に着て行かれるのもよろしいですけど、このデイ・ドレスは街中を観察して、王都の繁華街を歩いても目立たないようにと作らせましたの。市井風のデイ・ドレスですわ」
私たちは近くで見ているから綺麗にシボが入った白い縮緬生地や、紺のスカート部分の生地は織り込まれた柄が光のあたる加減で見えるようになっていたのを知っている。かなり上質な生地を用意して作られたものだとわかるから普通にデイ・ドレスとして受け入れていた。
でも確かに、言われてみれば遠目からは街中で商家のお嬢さんだったり王宮の下働きくらいのちょっと身なりがいい女性が着ていそうにも見える。
「この市井風デイ・ドレスでお忍びで街に出かけますの。みんなきっとエレナ様だとは気が付きませんわ。そこにエレナ様を知る人が現れてエレナ様の名を呼びますと、市井の人々はみな噂のエレナ様を見たがるはずですわ!」
まるで舞台女優のようなネリーネ様は楽しそうだ。でも、わたしは街中で注目なんて浴びたくない。
「人々の注目を浴びた時にこのドレスはエレナ様に魔法をかけてくれますわ」
そう言ってネリーネ様はわたしに抱きついた。
「ほら!」
ネリーネ様はわたしを抱きしめたままデイ・ドレスの肩についたリボンを解く。
みんなの息をのむ音が聞こえた。
ネリーネ様の身体が離れると白と紺のデイ・ドレスは白のドレスに変化していた。
今までブラウスとリボンに見えていたのは二重構造になっていたスカートの上の生地部分だった。
解けたリボンとブラウスの生地が紺色のスカートを覆い隠す。
肩でリボンにするかしないかで全く別のドレスになる。
白と紺のドレスが市井風だとすれば白のドレスは……
「王都の繁華街で人々の注目の中、女神様が現れますのよ? これは大きな噂になりますわ! 恵みの女神風デイ・ドレスですのよ!」
ネリーネ様はそう叫んで両手を広げた。
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