222 / 276
第五部
16 エレナの噂はお兄様のせい?
しおりを挟む
「お兄様ったらご自身と懇意にされていたご令嬢の皆さまに何の口添えなさったの?」
「えっ? なんのこと?」
キョトンとした顔のお兄様を見上げながら、休憩中の賑やかな廊下をステファン様の待つ部屋に向かって歩く。
お兄様の話を聞いた殿下からわたしも行く必要があると断言されてしまったから着いて行かないわけにはいかないけれど。イケメン二人に挟まれて歩くのは注目の的になって肩身が狭い。
わたしは周りを極力気にしないふりをして話を続けた。
「しらばっくれなくても、わかってるわ」
「またエレナのいつものが始まった。だから、なんのことなのかをきちんと説明してくれないと、いくら僕でもわからないよ?」
頭を撫でて誤魔化そうとするお兄様の手をかわす。
冷静になったわたしはもう誤魔化されたりしない。
「こないだお兄様が森ばかり見ないで木を見るんだっておっしゃっていたでしょう? 近くをよく見れば、噂にとらわれずにわたしの味方になってくれる方がもっといる。なんて言ってしまった手前わたしの味方になってくださる方を増やさなくてはいけませんものね。大丈夫よ。お兄様の仕込みだってわかってるわ。皆さんお兄様の信奉者なのでしょう?」
「ええ? 僕の? エレナの信奉者じゃなくて?」
「違うわ。だって、わたしは皆さんにお菓子を配ってないもの。針仕事中にお菓子を食べるなんてもってのほかですから」
わたしは刺繍を教える立場なのだもの、油汚れや菓子カスのついた指で布と針を持つなんて許すわけにはいかない。
布や糸は汚れるし、タンパク質の汚れは汚いだけじゃなくて虫食いの原因になるし、水分がつけば針が錆びる原因にもなる。
そうよ。アイラン様に刺繍を教える時だって、お菓子はダメだって言ってるのに練習だからなんていっていつもお菓子を召し上がるのを、お兄様にご注意していただかないと。
本当はお茶だってよくないと思ってるのに……
「やだなぁエレナったら。ご令嬢たちは領地や礼拝堂の子供達じゃないんだから、お菓子を配ったくらいでエレナのことを女神様だなんて信じたりすることはないよ」
思考が飛んでいたわたしは、お兄様の暢気な声で現実に引き戻される。
「……ですから、そもそもわたしは女神様しゃないし、お菓子も配ってないのにわたしなんかの信奉者になるきっかけなんてないじゃない」
「だとしてもあの発言は彼女たちの本心だよ。僕の信奉者で僕の仕込みだなんていうのは誤解だ」
「いいえ。お兄様の信奉者だとしか思えません。だって、お兄様のことあんなに評価されてらっしゃるなんて普通じゃないもの。お兄様はただ外面がいいだけなのに過大評価が過ぎるわ」
「もうぅ。ねえ、殿下もなんか言ってよ」
「エリオットがエレナに信じてもらえないのは日頃の行いのせいだろう」
すげない返事の主にお兄様は不満そうな視線を送る。
「殿下ったら酷い。こんな時に意趣返しするなんて」
「意趣返しって何のこと?」
「んー。殿下がエレナの信用を得られないのは殿下の日頃の行いのせいだって話」
「ちょっと! お兄様ったらなんてことを言うの⁈ わたしはいつも殿下のことを信じているわ」
お兄様がわたしを巻き込もうとするのを慌てて回避する。
「……そう。エレナは殿下を信じてるんだね。殿下、よかったね。エレナは殿下の言うことを信じているってよ。ほら、殿下の目を見てもう一度言ってあげたら?」
自分の思う通りにならなかったからってこれみよがしに肩を落としたお兄様は、殿下の背中をを押してわたしの前に立たせた。
殿下は顔を片手で隠し、指の隙間からわたしを見下ろす。
「エレナ。私を信じてついてきてもらえないだろうか」
「えっ? ええ、もちろんよ。わたしも行く必要があるという殿下のお言葉を信じて一緒に執務室に向かってますわ!」
「……そうか」
わたしの力いっぱいの返事を聞いて、指の隙間から見える表情は複雑そうだ。
お兄様が殿下の肩を抱いて「ごめんごめん。エレナはやっぱりなんもわかってないからさ」なんて言ってるのが聞こえる。
「お兄様ってばひどいわ!」
「怒らない怒らない。ほら扉の向こうでステファンが待ってるから」
そう言っていつのまにかついていた執務室の扉を開けた。
「えっ? なんのこと?」
キョトンとした顔のお兄様を見上げながら、休憩中の賑やかな廊下をステファン様の待つ部屋に向かって歩く。
お兄様の話を聞いた殿下からわたしも行く必要があると断言されてしまったから着いて行かないわけにはいかないけれど。イケメン二人に挟まれて歩くのは注目の的になって肩身が狭い。
わたしは周りを極力気にしないふりをして話を続けた。
「しらばっくれなくても、わかってるわ」
「またエレナのいつものが始まった。だから、なんのことなのかをきちんと説明してくれないと、いくら僕でもわからないよ?」
頭を撫でて誤魔化そうとするお兄様の手をかわす。
冷静になったわたしはもう誤魔化されたりしない。
「こないだお兄様が森ばかり見ないで木を見るんだっておっしゃっていたでしょう? 近くをよく見れば、噂にとらわれずにわたしの味方になってくれる方がもっといる。なんて言ってしまった手前わたしの味方になってくださる方を増やさなくてはいけませんものね。大丈夫よ。お兄様の仕込みだってわかってるわ。皆さんお兄様の信奉者なのでしょう?」
「ええ? 僕の? エレナの信奉者じゃなくて?」
「違うわ。だって、わたしは皆さんにお菓子を配ってないもの。針仕事中にお菓子を食べるなんてもってのほかですから」
わたしは刺繍を教える立場なのだもの、油汚れや菓子カスのついた指で布と針を持つなんて許すわけにはいかない。
布や糸は汚れるし、タンパク質の汚れは汚いだけじゃなくて虫食いの原因になるし、水分がつけば針が錆びる原因にもなる。
そうよ。アイラン様に刺繍を教える時だって、お菓子はダメだって言ってるのに練習だからなんていっていつもお菓子を召し上がるのを、お兄様にご注意していただかないと。
本当はお茶だってよくないと思ってるのに……
「やだなぁエレナったら。ご令嬢たちは領地や礼拝堂の子供達じゃないんだから、お菓子を配ったくらいでエレナのことを女神様だなんて信じたりすることはないよ」
思考が飛んでいたわたしは、お兄様の暢気な声で現実に引き戻される。
「……ですから、そもそもわたしは女神様しゃないし、お菓子も配ってないのにわたしなんかの信奉者になるきっかけなんてないじゃない」
「だとしてもあの発言は彼女たちの本心だよ。僕の信奉者で僕の仕込みだなんていうのは誤解だ」
「いいえ。お兄様の信奉者だとしか思えません。だって、お兄様のことあんなに評価されてらっしゃるなんて普通じゃないもの。お兄様はただ外面がいいだけなのに過大評価が過ぎるわ」
「もうぅ。ねえ、殿下もなんか言ってよ」
「エリオットがエレナに信じてもらえないのは日頃の行いのせいだろう」
すげない返事の主にお兄様は不満そうな視線を送る。
「殿下ったら酷い。こんな時に意趣返しするなんて」
「意趣返しって何のこと?」
「んー。殿下がエレナの信用を得られないのは殿下の日頃の行いのせいだって話」
「ちょっと! お兄様ったらなんてことを言うの⁈ わたしはいつも殿下のことを信じているわ」
お兄様がわたしを巻き込もうとするのを慌てて回避する。
「……そう。エレナは殿下を信じてるんだね。殿下、よかったね。エレナは殿下の言うことを信じているってよ。ほら、殿下の目を見てもう一度言ってあげたら?」
自分の思う通りにならなかったからってこれみよがしに肩を落としたお兄様は、殿下の背中をを押してわたしの前に立たせた。
殿下は顔を片手で隠し、指の隙間からわたしを見下ろす。
「エレナ。私を信じてついてきてもらえないだろうか」
「えっ? ええ、もちろんよ。わたしも行く必要があるという殿下のお言葉を信じて一緒に執務室に向かってますわ!」
「……そうか」
わたしの力いっぱいの返事を聞いて、指の隙間から見える表情は複雑そうだ。
お兄様が殿下の肩を抱いて「ごめんごめん。エレナはやっぱりなんもわかってないからさ」なんて言ってるのが聞こえる。
「お兄様ってばひどいわ!」
「怒らない怒らない。ほら扉の向こうでステファンが待ってるから」
そう言っていつのまにかついていた執務室の扉を開けた。
53
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる