【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

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第五部

47 エレナ、お兄様に相談する

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 ──潮時。

 ランス様が発したその言葉が、ここ数日ずっと頭の中でリフレインしている。

 ランス様は殿下の側近だ。ランス様の発言は殿下の意向と思われる可能性もある。側近候補なのにいつも適当な事ばっかり言っているお兄様と違ってランス様の発言は常に慎重だ。
 プラスな意味にもマイナスな意味にもとれるような意味深な発言になってしまうのは致し方ないのはわかってる。
 ランス様の奥方であるリリィさんとお話しする機会が増えて、勝手にランス様とも打ち解けたつもりでいたけれど……。
 別にランス様はわたしの味方ではない。
 殿下がたとえ「エレナが好きだ」と言ってくださっていても民意からは程遠い。
 早く公表して民意を抑えるべきだと言う進言にも、早く婚約を破棄して民意に沿うべきだと言う進言にもとれる。
 どちらの意味だったんだろう。
 考えてもわからないのだから、直接聞けばいいのに勇気は出ない。

「ねえ、お兄様。殿下のご様子に変わった事はない?」

 帰ってきたばかりのお兄様の私室を訪ねる。
 正装とまでは行かなくてもジャケットにブラウスをきっちり着こなしている姿はまさに貴公子だ。
 王立学園アカデミーに行かずに今日もバイラム王子にお会いしていたお兄様に尋ねても何も知らない事はわかっているけど。
 殿下やランス様に聞く勇気のないわたしはお兄様に聞くしかない。
 だってほら万が一があるかもしれないじゃない。

「ご様子に変わった事? なんで? そもそもエレナは殿下と王立学園アカデミーで一緒に過ごしたり、女神様の礼拝堂に一緒に行ってトビーのお見舞いしてるんだから、僕よりもエレナの方がわかってるんじゃないの? だいたい僕は殿下に大使館の設立の仕事を押し付けられて忙しくしてるんだよ。報奨金は諦めたけど勲章の一つや二つ……ううん五個くらいもらわないと割に合わないよね」
「お兄様とアイラン様のためになる事業なのだから、それだけで十分なご褒美じゃない。不満ばかり言っては良くないわ」
「エレナは僕にばかり厳しい」
「そんな事ありません」

 お兄様はあははと声を上げて笑うと、ブラウスの首元を緩めてリラックスモードになった。
 ソファに座ると隣に座るようにポンポンと座面を叩く。わたしはお兄様の隣に座る。

「あ、そういえば殿下の様子で思い出した」
「なんです?」
「まぁ、なんで言えばいいのかなぁ、うーん説明が難しい」

 もったいぶっているのか肩をすくめて首を振っている。

「お兄様!」
「僕が自主的に言ったんじゃなくて、エレナが聞いたのに答えただけなんだからね」
「それでいいです。で、なんですか」

 お兄様に顔を近づける。キラキラした美しい顔がニヤニヤと嬉しそうに歪む。

「今後、イスファーン王国について学びたい人が増えるだろうから王立学園アカデミーでイスファーン語の授業や歴史の授業をしたらどうかって進言したんだよね」
「まぁ! それはいい案ですね」
「でしょう? で、バイラム王子殿下に特別講師を頼もうって言ったら、自分の目の届かない場所でバイラム王子がエレナに近づける場を設けるなど許可できないって猛反対してさ。で、じゃあイスファーン王国に関する論文書いてたしステファンに頼もうか? って言ったらステファンなんてもっと許可できないなんて言い出しちゃってさ。そりゃステファンは最初エレナに手を出そうとしてたかもだけど、もう結婚してネリーネ嬢……じゃなくて夫人に夢中でエレナになんてこれっぽっちも眼中にないのにね。心が狭くて困っちゃうよね」
「いくら殿下でもそんな事おっしゃるわけないわ。バイラム王子殿下は大使としてのお仕事もあるのでご多忙なのをご配慮されたのでしょうし、ステファン様は優秀だから王立学園アカデミーに取られないようにご自身で囲って置かれたいんでしょう」

 お兄様は相変わらず大袈裟で話を盛り過ぎる。
 冷ややかな視線を送っても困ったような笑顔のまま顔を横に振る。

「……まぁ、いいや。とにかく僕が知ってる限りではエッグスタンドもびっくりな狭量っぷりを発揮してる姿しか見ていないから相変わらずだよ」

 お兄様はわたしの眉間に指を伸ばすと「可愛い顔が台無しだから」と優しくもみほぐした。

「ほら、用が終わったら自分の部屋に戻りなさい。エレナが戻ってくれないと僕は着替えができないんだけど。それとも僕の着替えを見たいのかな?」
「──! もうっ! 見たいわけありません」

 わたしが立ち上がるとお兄様は入り口まで見送りに来てくれる。

「そんな気になって殿下に聞けなら、いつもそばにいるランスにでも聞いてみたらいいよ」

 頭を撫でられ、扉が閉まる。

「……それができたら苦労しないわ」

 わたしはつぶやいてその場を去った。
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