【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

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第五部

46 エレナと女神様の礼拝堂での騒動

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 慌てて向かった孤児院の中庭では、子ども達だけじゃなく祭司様やシスター達まで集まっていた。
 突然現れたトビーは血まみれで、顔中殴られた跡が痛々しい。
 
 意識はしっかりしているようで、祭司様に担がれて治療室に連れて行かれる際には、私を見て「エレナさま……」と小さな声をこぼした。

 どうして? 何があったの?

 トビーと仲の良かった子ども達は不安で目に涙を溜めている。
 わたしは子ども達に「大丈夫よ」と伝えて抱きしめるしかできなかった。




「鼻血が出ていたので血まみれでしたが、思ったよりも顔の傷は軽いものでした。全身に怪我をしているのでしばらくは礼拝堂で保護して治療を続けることになると思います」

 トビーの手当てが終わり部屋に呼ばれる。
 シスター達に手当てをしてもらったトビーは、治療室のベッドに座っていた。

 顔だけじゃなくて腕や足もいろんな場所に包帯が巻かれていて痛々しい。

「どうしてこんな姿に……」

 トビーは孤児院を出て王都の商店で働いていたはずだ。いくらなんでもこんなボロボロな姿になるなんておかしい。

「だって、だって……あっあいつらが、あいつらが悪いんだ」

 そう口にすると、傷だらけでも泣かずに我慢していたトビーの瞳から涙が溢れる。孤児院の中でも年長のトビーはぶっきらぼうでも優しくて子ども達のいいお兄ちゃんだった。
 そんなトビーが泣くなんて……

 近づいてそっと抱きしめる。
 嗚咽をあげるトビーが落ち着くまで背中をなでる。
 肩の揺れがおさまったのを待って体を離し、トビーの顔を覗き込む。

「……エレナさまはこんなに優しいのに、店で働いてる奴らはエレナさまのこと不細工でわがままで最低なお嬢様だなんて悪口ばっかり言うんだ!」

 市井の噂は変わらない。わたしは相変わらず嫌われ者だ。

「だから奴らにオレはエレナさまは女神さまなんだって、どれだけエレナさまが素晴らしいかを説明したのに『ダマレ』って殴られたから殴り返しただけだ! そしたらあいつらオレのこと『生意気だ』って大勢でよってたかって殴ったり蹴ったりしやがったんだ!」
「なるほど。トビーいいですか。もっと鍛えてそんな奴らは完膚なきまでに叩き潰さなくてはいけません」
「ユーゴ! なんて事言うの!」
「いえ。ユーゴさまの言う通り、オレは鍛えてあいつらにギャフンと言わせてやります」
「トビーやめて! わたしのために争わないで!」

 口に出した昔の歌謡曲みたいな台詞にハッとする。
 恥ずかしさからトビーから目を逸らす。

「ああ、本当にもう。こんな優しくて可愛らしいエレナ様に暴言を吐くような害虫は駆除しないといけません」
「リリィさんまでやめて……」

 祭司様とシスター達に目配せで助けを求めると、みんな口々に「女神様を悪様に言うような場所で敬虔なる女神の信徒が働くなんてあってはならない」「あんな店に二度と奉公に出すわけにはいかない」「まずはトビーをあの店から引き取りましょう」なんて騒いでいる。
 わたしの頭上ではギリリと歯を噛み締める音が鳴り続けていて、わたしの後ろに立っているはずの殿下の顔を見上げるのも恐ろしい。

 だめだ。ここは女神様の礼拝堂だ。領内とおじいちゃんおばあちゃん達と一緒で、トワイン侯爵家の令嬢というだけでエレナを「恵みの女神」と同一視している。
 正気の人が誰もいない。わたしがどうにか落ち着かせないと。

「トビーが喧嘩なんかで怪我をしたら礼拝堂のみんなも、わたしも悲しいのよ?」
「それでも、オレは本当はエレナさまをお守りする騎士になりたかったんだ。だからこれからもエレナさまを悪く言うやつとは戦わないといけない」

 トビーは傷だらけの顔をあげ決意のこもった表情をする。

「そうだわ。平民から騎士になるには貴族の後ろ盾が必要けど、治安部隊なら誰でも入隊できるし功績によっては騎士に取り立ててもらうこともできるわ。早く怪我を治して治安部隊に入隊したらどう?」

 前にトビーが騎士になりたいと言っていた時に何か方法がないか調べたのを思い出す。
 なのに、トビーは「治安部隊」という単語に顔をしかめた。

「あんな腐ったとこ行けません! あいつらは治安維持なんてせずに、エレナさまの悪口言って昼間っから酒場で飲んだくれてる奴らの言い分ばっかり聞いてるんだ」
「そうなのね……」

 王立学園アカデミーの生徒や王宮の役人達がわたしに聞こえるように悪口をいうような事は無くなってきたけれど。
 一人一人では口に出せないことも集団になると途端に強気になる。
 民衆にとっては「侯爵家のご令嬢」なんて苦労も知らないと思われていて当然で、日々抱える鬱憤を晴らす矛先にピッタリなんだろう。
 わたしはため息をつく。

「シリル殿下。そろそろ潮時では?」

 部屋の中で唯一正気なランス様が、そう殿下に耳打ちしたのが聞こえた。
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