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第五部
63 エレナは殿下の宣言を阻止したい
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「まだ芝居の途中だが私の話を聞いてもらいたい」
突然殿下が現れたことに客席のざわめきは大きくなる。
「私は民意を確かめるために本日この場を訪れた」
殿下は私をつれて舞台装置として置かれた玉座らしき椅子に手をかけると、そう高らかに宣言した。
周りはその言葉に割れんばかりの拍手と歓声で応える。
民意。ここにいる多くの人達の願い。
それは、小太りで醜女の癇癪持ちの我儘なご令嬢が王太子殿下の婚約者として公表される前に破棄されることだ。
物語のようにわたしが糾弾されるのを期待しているのか、観衆のボルテージは最高潮だ。
なのに、殿下はわたしのことをしっかりと抱き寄せている。
どういうつもりだろう。
殿下は、わたしに「好きだ」と言ってくれた。
熱のこもった瞳に見つめられ、優しく触れられて……ふるまいから嘘は感じない。
幼いころからの思いを込めた言葉がつづられている沢山の手紙はわたしの宝物だ。
本当に好意を向けてくださっているってわかるし、疑ってなんかいない。
じゃあ……どうして?
前に殿下は「エレナを悪く言うような者はすべてとらえて処罰してもよい」「二人の障害になるものはちり芥一つ許すつもりはない」なんて言っていた。
まるでヤンデレヒーローだ。
え……もしかして……本当に処罰する気なんじゃ……
そうだ。殿下は「民意を確かめる」とは言ったけど、「民意に沿う」とは言っていない。
たくさんいる護衛達は民を捉えるために呼んでいるの?
だめよ!
「殿下、待って! やめた方がいいわ」
「何を心配してるんだい? 大丈夫だよ」
優雅な笑顔を向けられて、一瞬うっとりしてしまうけどだめよ。気を確かに持って。
殿下をじっと見つめる。
いくら前世の記憶を持っていることをすっかり忘れちゃっただけで、もともとエレナが小さい頃から前世の記憶を覚えていたなんてことを理解しても、前世の恵令奈も、今のエレナも殿下の顔にめちゃくちゃ弱い。
でもいまは絆されちゃいけない。イケメンの笑顔に騙されちゃ絶対にだめ。
「大丈夫じゃないです。このお芝居はどんな内容か殿下もご存じなんですよね」
「もちろん。この芝居は『ある国の王子が恋を知り、最愛の少女の協力を得て成長する物語』だろう?」
なるほど。って自信満々に回答されて納得しかけている場合じゃない。
確かにそういう切り取り方もできるかもしれないけれど、どう考えたって平民ヒロインと王子様のラブストーリーか悪役令嬢を追放する勧善懲悪物として楽しんでいるのよ。
王子様の成長物語として楽しんでいるわけない。
「そんな都合のいい解釈許されるわけないわ」
冷静に伝えるよう心がける。
「最近は私の都合がいいように事が運んでいるよ? だから任せて」
耳元でささやき笑顔を崩さない。殿下はわたしのおでこに唇を落とす。
断末魔のような悲鳴が客席から上がる。
「私も皆が夢中になる物語の王子の様に最愛の少女の協力を得て、我が国の繁栄に寄与できればと思っている。ここにいる最愛の少女はすでに私に寄り添い私の背中を押してくれる存在だ。私に養殖真珠事業の不正や密貿易を暴くようにと助言してくれた。今まで交易が途絶えていたイスファーンとの貿易を活性化のために通訳を買い外交官のような活躍をしてくれた。まだ婚約者として紹介できないのは心苦しいが、二人で手を取り合い──」
「それは、殿下や皆さんがご尽力されたことよ。わたしはなにもしていないわ」
断末魔を聞いて殿下はわたしを少しでもよく見せようと必死に説く。
でも、話を盛りすぎだ。
わたしは騒いだだけで、殿下やお兄様……多くの領主や役人たち。たくさんの人の力で成し遂げたことなのに。
嘘をついてはいけない。
「私の治世に協力してくれないのか?」
顔がぐっと近づく。捨てられた子犬のような瞳で見つめるのはやめてほしい。
殿下の顔に弱いのに……
「それは……もちろん協力しますけど、そういうことではなくて……そうだわ。わたしのこと最愛の少女だなんて紹介したら取り返しがつかなくなります」
本題に戻す。
「取り返しがつかない? なぜ?」
「なぜって、とにかくこんなにたくさんの人の前でそんなこと言っちゃいけないことくらい殿下だってお判りでしょう?」
「多くの者を証人として宣誓することの何がいけない」
「──っ! お待ちくださいっ!」
声がした方に顔を向ける。
客席とロビーを仕切るカーテンが勢いよく開く。逆光で顔が見えなくても誰が来たかすぐにわかった。
「王太子殿下に、トワイン侯爵家が嫡男、エリオット・トワインが申し上げますっ!」
お兄様がいつもより怒りがこもった声を上げると、観客席から大ブーイングが巻き起こった。
突然殿下が現れたことに客席のざわめきは大きくなる。
「私は民意を確かめるために本日この場を訪れた」
殿下は私をつれて舞台装置として置かれた玉座らしき椅子に手をかけると、そう高らかに宣言した。
周りはその言葉に割れんばかりの拍手と歓声で応える。
民意。ここにいる多くの人達の願い。
それは、小太りで醜女の癇癪持ちの我儘なご令嬢が王太子殿下の婚約者として公表される前に破棄されることだ。
物語のようにわたしが糾弾されるのを期待しているのか、観衆のボルテージは最高潮だ。
なのに、殿下はわたしのことをしっかりと抱き寄せている。
どういうつもりだろう。
殿下は、わたしに「好きだ」と言ってくれた。
熱のこもった瞳に見つめられ、優しく触れられて……ふるまいから嘘は感じない。
幼いころからの思いを込めた言葉がつづられている沢山の手紙はわたしの宝物だ。
本当に好意を向けてくださっているってわかるし、疑ってなんかいない。
じゃあ……どうして?
前に殿下は「エレナを悪く言うような者はすべてとらえて処罰してもよい」「二人の障害になるものはちり芥一つ許すつもりはない」なんて言っていた。
まるでヤンデレヒーローだ。
え……もしかして……本当に処罰する気なんじゃ……
そうだ。殿下は「民意を確かめる」とは言ったけど、「民意に沿う」とは言っていない。
たくさんいる護衛達は民を捉えるために呼んでいるの?
だめよ!
「殿下、待って! やめた方がいいわ」
「何を心配してるんだい? 大丈夫だよ」
優雅な笑顔を向けられて、一瞬うっとりしてしまうけどだめよ。気を確かに持って。
殿下をじっと見つめる。
いくら前世の記憶を持っていることをすっかり忘れちゃっただけで、もともとエレナが小さい頃から前世の記憶を覚えていたなんてことを理解しても、前世の恵令奈も、今のエレナも殿下の顔にめちゃくちゃ弱い。
でもいまは絆されちゃいけない。イケメンの笑顔に騙されちゃ絶対にだめ。
「大丈夫じゃないです。このお芝居はどんな内容か殿下もご存じなんですよね」
「もちろん。この芝居は『ある国の王子が恋を知り、最愛の少女の協力を得て成長する物語』だろう?」
なるほど。って自信満々に回答されて納得しかけている場合じゃない。
確かにそういう切り取り方もできるかもしれないけれど、どう考えたって平民ヒロインと王子様のラブストーリーか悪役令嬢を追放する勧善懲悪物として楽しんでいるのよ。
王子様の成長物語として楽しんでいるわけない。
「そんな都合のいい解釈許されるわけないわ」
冷静に伝えるよう心がける。
「最近は私の都合がいいように事が運んでいるよ? だから任せて」
耳元でささやき笑顔を崩さない。殿下はわたしのおでこに唇を落とす。
断末魔のような悲鳴が客席から上がる。
「私も皆が夢中になる物語の王子の様に最愛の少女の協力を得て、我が国の繁栄に寄与できればと思っている。ここにいる最愛の少女はすでに私に寄り添い私の背中を押してくれる存在だ。私に養殖真珠事業の不正や密貿易を暴くようにと助言してくれた。今まで交易が途絶えていたイスファーンとの貿易を活性化のために通訳を買い外交官のような活躍をしてくれた。まだ婚約者として紹介できないのは心苦しいが、二人で手を取り合い──」
「それは、殿下や皆さんがご尽力されたことよ。わたしはなにもしていないわ」
断末魔を聞いて殿下はわたしを少しでもよく見せようと必死に説く。
でも、話を盛りすぎだ。
わたしは騒いだだけで、殿下やお兄様……多くの領主や役人たち。たくさんの人の力で成し遂げたことなのに。
嘘をついてはいけない。
「私の治世に協力してくれないのか?」
顔がぐっと近づく。捨てられた子犬のような瞳で見つめるのはやめてほしい。
殿下の顔に弱いのに……
「それは……もちろん協力しますけど、そういうことではなくて……そうだわ。わたしのこと最愛の少女だなんて紹介したら取り返しがつかなくなります」
本題に戻す。
「取り返しがつかない? なぜ?」
「なぜって、とにかくこんなにたくさんの人の前でそんなこと言っちゃいけないことくらい殿下だってお判りでしょう?」
「多くの者を証人として宣誓することの何がいけない」
「──っ! お待ちくださいっ!」
声がした方に顔を向ける。
客席とロビーを仕切るカーテンが勢いよく開く。逆光で顔が見えなくても誰が来たかすぐにわかった。
「王太子殿下に、トワイン侯爵家が嫡男、エリオット・トワインが申し上げますっ!」
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