【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

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第五部

67 エレナ、舞台に立つ

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「殿下! なんてことおっしゃるの!」

 唇を塞ごうと伸ばした手は避けられ掴まれる。

「なんてこと? ああ、エレナが女神様だということ?」
「どうして言っちゃうんですかっ! 何度も言ったら取り返しがつかないわ‼︎」

 殿下だってトビーが暴行を受けたのを見ているのに。
 そりゃ、普通なら王太子殿下相手に暴動を起こすなんて考えられないけど……
 わたしを婚約者に据えようとしていることで反感を買っているのよ?
 何をきっかけに暴徒化するかわからない。

「どうしてって。隠し立てる必要があるの? なあ、エリオット。エレナは多くの領民から女神として崇められているのだろう? 女神信仰が盛んなトワイン領ではエレナに似た姿絵を家に飾り祈りを捧げているのだろう?」
「ええ。もちろんです。民は皆エレナのことを女神だと信じております。エレナが通ればみな胸の前で手を組みこうべを垂れるほどです」

 イケメン二人が長い手足を活かして大袈裟な身振り手振りで話を進める。観客にもキラキラエフェクトの幻覚が見えるのかため息が漏れた。
 ダメダメ。わたしだけでも正気でいなきゃ。

「お兄様までなんてこと言うの! そもそも領主の妻や娘がお祭りで女神様の格好をして労うのが風習なだけで、わたしのことを本当に女神様と信じてるわけじゃないわ。領民にまで累が及ぶような発言は次期当主としてお控えください!」
「僕は領民の信仰心を説明しているだけだよ。エレナは領主の娘として、領民の信仰心を無碍にしていいの?」
「だから、信仰心も何も、子どもたちがお菓子が欲しくてわたしのことを女神様扱いしてくれるだけよ」
「そうだろうか? 私がトワイン領を訪問した際、老若男女問わずエレナを『女神様』と呼んでいたよ? エレナが生まれてからトワイン侯爵領では不作を知らず豊作続きだからではないか?」
「豊作続きなのは、領民のためにと水路や灌漑設備の整備にご尽力されたお父様やお祖父様の功績です」

 わたしは首を振る。
 それに羊の毛刈り競争の時わたしを「女神様」って呼んで騒いでいたのだって、ユーゴが領地のおじいちゃんたちを扇動していただけだもの。
 そういえばユーゴもどこかにいるのかしら。一番騒ぎそうなのに。

「では、羊毛の使い道に困るほど羊が生まれ、その羊毛は領内の工場で製品化され今後我が国の特産品としてイスファーン王国へ輸出される。天災により没落寸前とまで言われたトワイン領がここまで栄えたのはエレナが女神だからではないの?」

 わたしが考え事をしてる隙に殿下は話を勝手に進める。

「領内の工場はイスファーン王国から嫁いで来られる際に秘宝であった編み機をアイラン様が嫁入り道具としてお持ちくださらなければ実現できなかったことです」
「ああ、わたしの最愛の少女はどうしてこうも謙虚なのだろうな」
「事実を述べただけです」

 殿下はため息をつく。
 あ。これは本気で呆れている。
 でも、でも、殿下がそんなこと言うから……

「私も事実を述べただけなのにな。いいかい? エレナはわたしの女神なんだよ? 前にも言ったろう? 幼い頃にトワイン領で過ごしていた時。病み上がりだった私が湖のほとりで遊び疲れて、エレナに膝枕をしてもらったことがあった。あの時エレナに私を癒す力が発露したと。不眠で悩んでいた私は昼間エレナに膝枕をしてもらうことで救われていたのだ。エレナは女神と同様、癒しの力を備えている」
「前もお伝えしたように、わたしには魔力もありませんし癒しの魔法も使えません。あの頃は王妃様が身罷られたばかりで殿下も心労がたまってらしたのと、日を浴びて運動した肉体的な疲れが重なって眠くなられたのよ? わたしが膝枕をしたからじゃないわ」

 不服そうな殿下の顔はあまり見かけたことのない表情でドキッとする。
 そんな目で見つめられると頷きたくなるけれど……

「昔のお話だけでなく、今でも王太子殿下がご公務でお忙しいなかお時間を作られて、エレナ様の膝枕でお休みされて癒されてらっしゃいます」

 殿下に気を取られていたら、思ってもないところから声が上がる。
 あのポニーテールは……

「ミンディさん?」

 そうだ、ブライアン様とご結婚されたばかりのミンディさんだ。

「エレナ様の膝枕で心を許してお寛ぎになる王太子殿下のお姿は見てる私たちにまで癒しの効果があります!」
「ベリンダさんまで……」

 それはイケメンの癒し効果じゃない?
 ツッコミしたいのを我慢する。
 それにしても、王立学園アカデミーで仲良くしてくれているお二人までいらしてるなんて……

「気持ちは嬉しいのですけど、あまりわたしを庇うと立場が悪くなるからおやめになられた方が……」
「庇う? 真実を伝えてくれているだけだ。みんな本心だよ。そうだろう?」

 殿下の呼びかけに小屋内で割れんばかりの歓声が巻き起こった。
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