限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

待鳥園子

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19 悲劇

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「まあ、イーサン。貴方ってもしかして、おとぎ話の終わりにある、二人はそうして幸せに暮らしましたを信じているの? 人として生活していれば、誰だって悩んだりするわ。それに、衣食住の悩みがなければないで、新しい悩みが出来るものよ。人はきっと、お金があろうと何があろうと永遠に満たされることがないのではないかしら」

 私は特に、彼に嫌味も言ったつもりもない。ただ自分の思ったことを言っただけなんだけど、イーサンは楽しそうに笑った。

「ははは。悪かったよ。ローレン。嫌な言い方をした。だが、生きるか死ぬかの貧乏生活からのし上がった俺は、どうしても貴族の抱えている悩みが小さく思えるんだ。生存に関する悩みがないなら、抱えている小さな悩みを大きくしてしまうのかもしれないな」

「そうね……私はきっと恵まれているのよね。親が作った巨額の借金を背負い、後妻の話を受ける寸前に王太子の婚約者の振りを一年続ければ借金は帳消し、弟の侯爵位も保証してくれると言われた」

「それに、俺のような世界を股にかけるほどの若い大富豪の初婚の妻になれるし? ローレン。そんな暗い顔をするな。俺の妻になれば、君が今まで見たことのないものを、いくらでも見せてあげられる」

 もっと不幸な誰かに比べれば幸せに思うべきなのだという私の言葉の先を取ると、イーサンは面白そうにそう言った。

 そんな彼を見て、どうしても不思議になってしまったのだ。

「……どうして。イーサンは爵位を欲しいと思ったの? 貴方はもう、何か欲しいものなんてそうないでしょうに」

「君がさっき、言っていた通りだ。運よく金は儲かったが、俺は産まれながらの貴族ではない。だが、何の不満もないような特権階級の貴族になりたいと長い間思っていた。お金があれば、確かになんでも買える。誰かの心も妻も……それに、貴族の爵位もだ」

「そうね。貴方の言う通りだわ」

 彼の言葉に同意したはずなのに、イーサンは変な顔をした。望んでいる対応ではなかったのかもしれない。やっぱり私と彼は合わない。

 王妃に爵位が欲しいと望んだイーサンに、私は買われてしまうのだろう。ここまで来て他の道なんて、選べるはずもない。

 けれど、やはり先のことを思うと憂鬱だった。

 優しく純粋なギャレット様を傷付けてしまうことが、やはり嫌だった。いっそ嫌われてしまいたいと思うけれど、状況的に無理だし。

 心から望んでいるかというと、それもまた、何か違う気がする。

 ベルセフォネ様の社交界デビューは迫り、悲劇へと向かう道すじは、刻一刻と近づいて来ていた。
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