血の契約

吉村巡

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1:ふたつの人影

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 海岸沿いの道を黙々と歩く、ふたつの人影があった。
 双方とも行商というには荷を持たず、旅芸人というには地味な格好をしていた。

 ふたりが目指しているのは街外れの岬。そこには鐘楼のある大きな建物があるという。
 夜には鐘楼に明かりを灯して灯台の代わりになるというその建物は、親が育てられないらしい子供たちが身を寄せていると町で耳にしていた。

 ふたつの人影のうち小さな方が少し立ち止まる。
 目を閉じて耳を澄ませている小さな方には、波の音の合間に子供特有の甲高い声も聞こえていた。
 しかし、本当に耳を傾けていたのはそんな音ではなかった。

「あそこで待てばいいみたい。少し騒がしそうだけど、しばらく静かな場所ばかりだったからちょうどいいわね。ファラル」

 その声は少女のものだった。彼女が口にしたファラルというのは共に歩く者の名前だろう。

「あまり感覚を研ぎ澄ませていれば疲れるぞ、レイ」

 レイと呼ばれた少女に、隣を歩くファラルという青年の忠告が下る。
 ふと、緩やかな風が吹く。
 レイの被っていたフードはその風に煽られその顔を露わにした。
 小柄な体に新緑の瞳。そして、薄茶色の髪。整っているのにどこか地味な印象を与えるのは飾り気がないせいか。
 外に晒されたの前髪が風になびく。
 空は雲一つなく澄み切っていた。

「最近は森の奥や夜ばかりだったから、久しぶりにこんな空を見るわね」

 ふと思い立って、レイは隣を歩くファラルのフードも風を操って外してみた。
 現れたのは艶やかな紫紺の髪に輪郭を縁どられた、冷たい印象を与える秀麗な美青年だった。髪と同じ色の瞳が怪訝そうにレイを見おろしている。
 青空の下で目にするファラルの相貌に、レイはふふっと小さく笑みを漏らす。

「やっぱり、ファラルって昼間の青空が全然似合わない」

 言ったが勝ちで自分のフードを被り直すと、レイは今までより軽快な足取りで道を進む。

(あと少しで目的地)

 ファラルは「くだらない」と溜息を吐く気すら起きず、フードを被りなおして歩調を速めたレイの後を追った。
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