秋月の鬼

凪子

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三、

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常盤の細い喉から、ほう、と声にならない感嘆の吐息が漏れた。

それもそのはず、目の前に広がるは、都で見上げた時とは比べものにならないほどの絢爛豪華な白亜の御殿。

――ここが、陰謀渦巻く伏魔殿。

内実を知らぬ者からすれば、理想郷とも神々たちの宮とも呼ぶべき、それは美しい荘厳たる城郭であった。

瀬戸内の海を背にした天然の要塞とも呼ぶべきその楼閣は、水面が弾いた光が白亜の壁面に反射し、鏡のように輝く。ゆえに明鏡城めいきょうじょうとも呼ばれていた。

城門を一歩くぐれば幾重にも巡らした濠、そこには極彩色に塗られた橋が架けられている。

黒い甍の並ぶ堅牢な擁壁。積まれた石垣は天を貫くほど高く、粛然とそびえ立っている。

さらにもう一巡り城壁があり、細い堀があって、その上には風雅と堅固さにおいて他国の追随を許さない、世にも名高い天守閣。

緑の釉薬を塗られたいらかの波は、さながら海底にある竜宮の城のよう。

屋根の突端には黄金の鳥、鳳凰が気高く大きな羽を広げている。

破璃の嵌めこまれた窓、柱に打ちつけられた鉄の鋲、欄干に彫られた精緻な細工。

まさに美と技の粋を尽くした御殿であった。

いたるところに巡らされた濠や引かれた水路には海水が流れ、城郭を縦横無尽に走っている。

これは城下町と同じで、物資の運搬や伝達の主力を担うのは船だ。

背後が海に面しているため、この城は戦乱時には堅牢な要塞へと姿を変える。

吉野の国は強力無比な水軍を誇っている。

さらに交通と貿易の要衝という土地柄、追い剥ぎや山賊、海賊の類がひきもきらないゆえ、民を守るため国軍が商人の護衛の任にあたっている。

朱雀・青龍・白虎・玄武の四軍は、領主の私兵であると同時に、国を守るための職業軍人でもある。

よって農民は、非常時に徴兵されるだけで事足りている。

それらのことを教えてくれたのは、亡き父であった。

一度だけ幼い頃に訪れた都は、今や薫り立つほどの栄華を誇っている。
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