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二、
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今にも折れそうに細い手足をした貧相な小娘のはずが、その声には無視できぬだけの覇気が宿っていた。
「わたくしも、身分の違いは重々承知しております。分を弁えず、畏れ多くもこのような場所へ来てしまった愚かな娘を、どうぞお笑いください」
落ちつき払った物言いに、門番二人はぎょっと口をつぐむ。
常盤は膝をつき、額づくように頭を下げた。
「しかしながら、立札には『身分を問わず』と書かれてありました。上様直々のお触れである以上、あのお言葉は上様のお言葉。ここで身分を理由にわたくしを追い返し、退かせればどうなりましょう」
物憂げな白い顔が、うっすらと翳りを帯びる。
「上様の御意志に背くことになりはしないかと、危惧する次第にございます」
門番は息を飲んだ。
こんな年端もいかぬ小娘が、賤しい身分で、武士に対して賢しらに口応えをしたのだ。大変な無礼者である。
しかし、反駁しようにも喉が詰まって言葉が出てこない。
大の大人がいいように言いくるめられている様子を見て、夕霧は痛快な思いだった。
「……むう」
四十がらみの男が若いほうの男を見れば、相手も困惑したように見返してくる。
常盤は従順に頭を垂れ、許しを乞うようにひざまずいている。
その小さな頭を見下ろし、男は盛大に嘆息した。
「致し方あるまい」
ぱっと顔を上げた常盤に、
「だが、これは上様の格別なるご温情であること、ゆめゆめ忘れるでないぞ。畏れ多くも上様に拝謁の機会を賜るかもしれんのだ。無礼な真似をしようものなら、その首で贖うことになると肝に銘じておけ」
「かしこまりましてございます」
常盤の顔に得意気な色はない。ただおとなしやかに頭を下げる。
――不気味な娘よ。
背筋にうすら寒さを感じながら、門番は野太い声を張り上げる。
「門を開けい!」
ぎ、ぎ、ぎいいいい……と厳めしい音を立て、今、星陵門が開く。
「わたくしも、身分の違いは重々承知しております。分を弁えず、畏れ多くもこのような場所へ来てしまった愚かな娘を、どうぞお笑いください」
落ちつき払った物言いに、門番二人はぎょっと口をつぐむ。
常盤は膝をつき、額づくように頭を下げた。
「しかしながら、立札には『身分を問わず』と書かれてありました。上様直々のお触れである以上、あのお言葉は上様のお言葉。ここで身分を理由にわたくしを追い返し、退かせればどうなりましょう」
物憂げな白い顔が、うっすらと翳りを帯びる。
「上様の御意志に背くことになりはしないかと、危惧する次第にございます」
門番は息を飲んだ。
こんな年端もいかぬ小娘が、賤しい身分で、武士に対して賢しらに口応えをしたのだ。大変な無礼者である。
しかし、反駁しようにも喉が詰まって言葉が出てこない。
大の大人がいいように言いくるめられている様子を見て、夕霧は痛快な思いだった。
「……むう」
四十がらみの男が若いほうの男を見れば、相手も困惑したように見返してくる。
常盤は従順に頭を垂れ、許しを乞うようにひざまずいている。
その小さな頭を見下ろし、男は盛大に嘆息した。
「致し方あるまい」
ぱっと顔を上げた常盤に、
「だが、これは上様の格別なるご温情であること、ゆめゆめ忘れるでないぞ。畏れ多くも上様に拝謁の機会を賜るかもしれんのだ。無礼な真似をしようものなら、その首で贖うことになると肝に銘じておけ」
「かしこまりましてございます」
常盤の顔に得意気な色はない。ただおとなしやかに頭を下げる。
――不気味な娘よ。
背筋にうすら寒さを感じながら、門番は野太い声を張り上げる。
「門を開けい!」
ぎ、ぎ、ぎいいいい……と厳めしい音を立て、今、星陵門が開く。
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