秋月の鬼

凪子

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七、

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「これより、皆様には本丸へ入城していただきます」

朝の慌ただしい身支度を終えたところで、控えの間にやってきた使者は粛々と告げた。

まるで図ったようなタイミングである。これも容花は予測していたのだろうか。

内宮は城の内奥にある。忍び込むには、まず本丸へ足を運ぶ必要がある。

今自分たちのいる離れからの侵入は厳しいが、試練が本丸で行われるというのなら、隙を見て忍び込むことができる
かもしれない。

「ただし、皆様方は試練が終わり次第、離れの部屋へ戻っていただきます。悪しからずご了承ください」

そう釘を刺された後、姫君達は大広間に集められ、そこから丹塗りの浮橋を渡り、堀を越え、とうとう安曇城に入城することとなった。

誰もが不安を隠せない様子で周りを窺っている。疑心暗鬼とはこのことだ。

もう既に誰もが昨夜、末乃が惨たらしい死に方をしたことを知っている。

秋月の鬼、という言葉がまことしやかに囁かれだした。

お姫様やお嬢様は、死の穢れを見ることさえ心に打撃を受ける。

常盤は病や飢え、乾きや寒さに死んでいく者を幼いころから数多く目にしてきたため、他の人々よりも動揺は少なかった。

どれだけ人が死んでも平然としていられること。

それが、上様の正室たりうる条件の一つなのだろうか。

「常盤さんは怖くないのですか」

尋ねられて顔を上げると、隣を歩いていたのは福部清子だった。

福部というのは都の豪商「万福屋」の主人の姓だと噂で聞いた。

ということは、この娘も富豪の家に育った令嬢。

さすがに、怯えの色を隠せないように見える。

「人死にがですか?」

いいえと清子は首を振り、抑えた声で、

「秋月の鬼が」

今まさにその事を考えていたところだったので、常盤は少々目をみはった。

清子は不安げな面持ちで、

「みんな噂しています。秋月の当主様が嫁御を探しているというのは嘘で、この試練はただの見せかけ、囮にすぎないと」

とっぴな推論に、常盤は首をかしげた。

「どういうことです」

清子はいっそう声をひそめ、

「あなたも知っているでしょう、秋月に棲む鬼のことを。鬼は際限なく人を喰らうものです。その鬼が暴れるのを飼いならし、城内の者が殺されるのを防ぐために、わたくし達のような若い娘を集め、人身御供として鬼に捧げているのではないか――と」

呆気にとられた常盤の頭を、末乃の死に様がよぎった。
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