秋月の鬼

凪子

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六、

39

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春日は頭をかいて、

「困ったなあ。私に何とかできるわけもないし」

「ご無理を言って申し訳ありません。ただ、真覚様が春日様ならどうにかできるやもとおっしゃったものですから」

春日の顔色が変わった。

驚いている常盤の側に近づき、壁に手を突いて退路を断つ。

「真覚って誰?」

先程の無邪気な様子とは打って変わった、覇気のある声で凄む。

平坦な口調が余計に恐ろしかった。

「真覚様は、真覚様です。容花様の侍女の」

常盤はうろたえて、思わず本音が出てしまった。

「調べていたのなら分かるでしょう?簪の件で部屋を回って、候補者たちを探っていたのだから」

背の高い春日に見下ろされながらも、常盤は一歩も引かなかった。

春日は口元を緩める。

「ははっ、面白いお嬢さんだな。分かったよ。簪拾ってくれたお礼に、いいことを教えてあげる。

……天守閣の内奥、内宮の中庭に、鳥が翼を広げたような形の薬草が生えている。それを煎じて飲ませれば、大抵の喉の疾患は治るだろう」

「ありがとうございます」

常盤は踵を返して敏捷に走り去っていく。

颯爽とした後姿を眺めながら、春日は不敵な笑みを浮かべた。

「分かっているのかな。内宮は氏族以外立ち入りを許されない禁域……見つかれば失格どころか、打ち首だってこと」

自分にはそれを教えてやる親切心も、大した喉の病気でないのなら放っておけば治ると忠告してやる老婆心もない。

秋月の嫁になりに来るくらいだ。

鬼とも蛇とも対峙する心の準備はできているのだろう。

「夕霧姐さん、か」

他の候補者のために自らの身を危険に晒す。

愚かな少女だ。だが面白い。

彼女がこの試練をどうくぐり抜けていくのか、見てみたいような気がした。




























































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