白銀の城の俺と僕

片海 鏡

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五章

55話

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 全てを飲み込めるはずが無く、シャングアは心がざわついていた。

「……それなら、Ω居住区やこの建物へ貴族達が侵入した原因は?」
「内殻は平民と貴族の居住区、そして内殻と心殻には、不祥事を起こさない様に往来を監視する平民のαが配属されている。三か月前に高齢になった監視官達が20代後半のα達へ交代したんだ」

 内殻の平民の居住区は外殻に近く、貴族の居住区は神殻に近い。犯罪や不祥事を未然に防ぐために、三者の間には門が存在する。平民の希少なαを採用する事で、その媚香による貴族β達の牽制を行っている。
 しかしΩとは違い、訓練を積まなければαには精神攻撃に対する耐性はつかない。もし洗脳が本当であれば、高齢の監視官達は長年の経験と耐性から、正常に取り締まっていた。幼い頃から洗脳がなされた若者へと変更させ、貴族達の出入りをしやすいように変更した。
 その為、貴族の子供達が易々と平民達の仕事場に入り、若者が心殻の皇族の住む建物へと侵入した。

「……センテル兄さんの発言に対する証拠はあるの」
「リルの証言と各分野に所属する平民計53名、貴族計37名を拘束、尋問、そして宝玉の一部破壊によって判明した。聖皇の子飼いによる調査も行われ、報告書が製作されている。あぁ、この宝玉の欠片からも奇蹟の痕跡は出ているよ」

 地道に行うと言っていたのはこれか。
 センテルシュアーデが証拠を集める為にいったい何年前から調査を行っているのか、裏で何を見ていたのか、想像がつかない。だが、発言した人数は結果が出た人であって、出なかった人もいるのをシャングアは察した。

「これを知った時には、私も驚いたよ。奇蹟を使えは少なからず痕跡が残る。見つけさせない為に、宝玉の中へと隠すなんてね。しかも体の一部であり、日常ではなかなか割れる事なんて無い代物だ」

 センテルシュアーデは宝玉の破片を手の中で転がしながら言う。

「……俺は、何をさせられていたんですか? どこからが、操られていたのですか?」

 記憶が混濁とするリュクは許しを請うように、皇太子に尋ねる。

「エンティーさんとの接触している時間を除き、全て操られ行動していた。エンティーさんのありとあらゆる情報を吐かされ、被害を受けるよう仕向ける為に働かされていた」
「そ、そんな……」

 エンティーの心身の状態、禁止薬物によって引き起こされる症状を報告し、内殻の年上のβ達や貴族達の誘導を行っていた。
 エンティーの生活や健康状態が酷いから、改善して欲しいと管理者に言ったはずだった。
 年上のβ達をエンティーから離そうと誘導したはずだった。
 内殻へ視察に来た貴族を案内したはずだった。
 本来の思考は覆い隠され、行動が別の結果を生み、リュクは今にも泣きそうな顔で頭を押さえる。

「安心しなさい。君自身の行いではない。君は何も知らない。悪事を企て、操った者が悪い」
「でも、俺は」
「無意識下ではあるが、君もかなり抵抗していたのだろう。特にエンティーさんの身に危険が及ぶとなれば、必ず誰かが来るように仕向けていた」

 センテルシュアーデは静かに微笑む。
 どこまで見ていたのか尋ねたくなる程であり、シャングアは疑念を抱く。

「私とは知らなかったようだが、ワザと扉の鍵を開けっぱなしにしていたね。シャングアがすぐに駆け付けると思っての行動だろう」
「……もし、それが本当だったら、どうしてセンテル兄さんは今まで動かなかったの?」

 いつからその状況か、シャングアには分からない。だが、何年も前から続いていたならば、その間に対策を練り、犯人を捜索し拘束出来る。ずっと前に解決できたはずだ。

「大切な弟が人質に取られていたら、動けるはずが無いだろう」

 センテルシュアーデはそう言うと、シャングアの額の宝玉を軽く突く。
 シャングアは其れを理解し、血の気が引く。
 一部の記憶が余りにも曖昧で、第二の性判明後からエンティーと出会うまでの約4年間を明確に思い出せない。
 宝玉が割れた直後から、霧がかっていた意識がハッキリとした。
 リュク達とは違い洗脳と言い難い面はあるが、確かに何らかの支配を受けていた。

「君は神力の生成が他のαに比べて多いから、それが抵抗を生み、知らず知らずに相手の思い通りに動かなかったようだ。最後にはαの性に助けられたね」

 内殻の平民たちの間でシャングアが変人扱いされている、とエンティーから聞いていた。洗脳による行動を行っていないのはおかしい、と言う意味合いがあったのだろう。エンティーにそう吹き込むことで、両者を離そうとしていた。
そして、見合いの理由が嫌でも判明する。奇蹟の使用者が、皇子を傀儡として利用するだけでなく、種子をばらまかせようとしていた。
 シャングアは吐き気がするようだった。同時に、何も知らず守られていた事が不甲斐なく、余りにも悔しかった。

「僕は守ろうとするくせに、どうしてエンティーを危険な目に遭わせるんだ」

 何より、被害を最も受けている人が守られていない状況が悲しかった。

「あの子を動かさないと、犯人は隠れたままだからね。それに、あの子は絶対に殺されないと確証がある」

 2人が別行動を取れば、必ずエンティーは何かの被害を受ける。それを見越して、フェルエンデを使ってセンテルシュアーデは2人を離した。

「確証があった所で、助けに行かなければ無事かどうか分からないだろ」

 シャングアは踵を返す。

「どこへ行くのかな?」
「エンティーを助けに行く」
「どうやって?」

 センテルシュアーデは、シャングアの腕に先程までいなかったはずの10匹ほどの蜂を見つける。それは青白く、自然界では見た事が無い種だ。まるでシャングアの腕を巣にするかのように、大人しく蜂たちは留まっている。

「こちらにも考えがある。どうせ、僕の行動も考慮して、あなたは作戦を立てているだろう」

 シャングアの言葉に、センテルシュアーデはそれ以上何も言わなかった。

「リュクはここで待っていて。僕がエンティーを助ける」

 そう言うとシャングアは再び走り出した。

「……嫌われてしまったかな」
「兄弟なのだから、ケンカ位するだろう。おまえは、謝り方をさっさと覚えろ」

 今まで静観していたトゥルーザはそう言い、待機している暗部へと手を使い指示を送る。

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