異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第175話 意識高すぎくん

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 ドリルというものがある。宿題の話ではない。加工用ドリルである。

 物体に穴を開ける加工に、これほど便利なものはない。ただそれを作ろうと思うと、難易度が高杉くんである。

「それは意識高すぎ、高杉くんだと思うノだ」

 だからとても無理だと一度は諦めたのだが、今回は加工相手が木である。木なら俺が想定するようなドリルでなくても、ある程度の加工ならできるはずだ。0.1mmぐらいの精度が出せれば充分である。

「それは細かすぎだよ、細杉くんノだ」

 そう考えて図面(マンガだけど)を引いたのだ。完璧でなくていい。いままでよりも加工しやすくなれば良いのだ。それが改善だ。

 ドリルを作ることの難しさは、その美しい螺旋形状にある。先端で削ったカスを螺旋の溝を通して外に排出するための構造である。

 それを固い金属で作るには、もっと固いもので削らないといけないというジレンマがある。しかも螺旋形状という複雑な模様は、簡単に手作業でできるようなしろものではない。

 この世界の技術でできるはずはない。そう思っていた。

 だが、今回削る対象はカバノキである。木としては固い材料だが、それでも金属(鉄)に比べればはるかに柔らかい。

 だからそれを加工するドリルは、少々不細工な螺旋であってもそれなりの機能は果たしてくれるだろう。少なくともキリよりはマシだろう、と。

「そう思ってのは発案だったのだが、ゼンシンのおかげで意外な伏兵がでてきたな」
「そうだ。魔鉄は鉄が斬れるのだから、削ることだって」
「当然、できるだろうな」

 まさかドリルが異世界でできるとは吉田裕もびっくりだろう。あんな固いものを加工できる魔鉄って異世界パネェッす。……あっ、待て待て、それならまだあるぞ?

「そういえば、あのクロム鉱山でタングステンが見つかったって聞いたが?」
「ああ、そういえば俺もそんなことを聞いたな。ミノウ様が見つけたとか。それがどうかしたのか?」

「炭を入れた窯の中でタングステンを1,500度くらいに加熱してやると、炭化タングステンというものができるはずなんだ」
「鉄と似ていますね」
「鉄なら900度くらいで炭化するけど、タングステンはもっと温度を高くする必要がある。しかしそれをすると、鉄と同じ現象が起きるんだ」

「え? 鉄と同じって。もしかして硬くなるのですか?」
「その通り。しかも炭化タングステンの硬度は鋼の2倍ぐらいある」
「ええええっ!?」

 だいたいの知識だけどな。

「ユウ、それならニホン刀の刃にもなるじゃないか?!」
「それはどうだろう? そんな硬いものを打つことができるだろうか? それと刀の機能を果たすほどに銑鉄とくっついてくれるだろうか?」
「うぅむ。それはやってみないと分からんな」

「とりあえずゼンシンは炭化タングステンを作ってくれ。あれは確か粉末にしかならないはずだから、その後の加工はいろいろ工夫が必要だと思う」

「ユウ、タングステンというのは粉末なのか? 鉄のように塊にはならないのか?」
「ヤッサン、純粋なタングステンは融点がものすごく高いんだ。とても溶かして固めるということはできないと思う」
「じゃあ、どうするんだ?」

「冶金(やきん)という技術を使う」
「労働基準法に違反するノだ?」
「夜勤じゃねぇよ、って1,400才の魔王が言うな! 粉末を成形してから焼結させる技術のことだ」

「その冶金というのをすると粉末を棒状にできるのですか?」
「そういう技術があるということだけは知っているが、詳しいことは分からない。粉末のままでは固まらないから、バインダーというのを入れて成形させていた記憶がある」

「バインダー? ってなんですか?」
「早い話が接着剤だ。それで固めて棒状に成形する。その後、熱をかけて焼結させるんだ」
「のりのようなものですね?」

「そう。ただバインダーになにを使えばいいのか、残念ながら覚えていない。樹脂なんてこちらにはないしなぁ」
「おい、ゼンシン。それならアレは使えないか?」
「アレ? ってなんですか?」

「ニホン刀で使っている、あの接着用の銑鉄だ」
「あぁ、あれですか。え? 鉄をのりの代わりにしてタングステンに入れるということですか……僕はまだ見分けられないのですが、鉄なら1,500度くらいで溶かせる。ちょうどタングステンを炭化させる温度だ。溶かしてどうする? 粉末を混ぜるにしても入れ物がいる……。融点の高い入れ物か? それで棒状にできる入れ物となると……なにがある?」

「待った待った。思考に沈むのはその辺にしておいてくれ。そこから先はゼンシンとヤッサンにまかせるよ。言い出した俺が悪いんだが、タングステンの話はちょっとおいとこう。優先は今回削るカバノキだ。まずはステンレス鋼でいいからドリルを何本か作ってくれ」
「了解した」

「でもどちらにしても、魔鉄は必要です。作って良いのですか?」
「ちょうどいい機会だ。イズナ用の魔刀を作ってやるという約束をここで果たそうと思う」

「イズナ様にも刀を作るのですか?」
「ああ、そういう約束だ。ちょこれいと作りのご褒美のつもりだったが、なかなかうまくいかないようなので、先払いしてやるということにして魔鉄を作らせよう」

「自分の都合なのにイズナに恩を売るノか?!」
「嫌なら別にいいんだよ? って言えばやってくれるだろ」
「お主ってやつはもう、お主ってやつなノだ」

「分かってもらえて嬉しいよ。そのついで――こっちが本命だが――に金属加工用のノミも作ろう。魔法のかけかたは、オウミがまた教えてやってくれるか」
「教えるのは別にかまわないノだが、我にはなにもないノか?」

「ないよ?」
「ないよシレッ、ではないノだ。なんか我にもくれるべきだと思うノだ」

「お前にはもういろいろ作ってやっただろ。これ以上魔王を甘やかすのは良くないと思うんだ」
「ぐぬぬぬぬぬノだ」

((魔王を甘やかす人間っていったい……??))

「それじゃふたりとも、よろしく頼む」
「分かったが、ちょっと整理をしよう。最初にすることは魔鉄作りだな。それで俺がドリルというものを加工するためのノミを作ると。そのついでにイズナ様用のニホン刀とナイフとフォークか?」

「それは後でいい。まずはステンレス鋼でドリルを作ってくれ」
「ついで、の意味が違っている気がするノだが」

「魔鉄ができたら、ゼンシンはろくろの改造に入る。横型にするのと縦型にするのとのふたつか。できるか?」
「ええ、もうだいたいの構想はできてます。機構が大きく変わるわけではないので、2,3日あればできると思います」

「じゃあ俺は、まず魔鉄でノミを作る。次はその魔ノミを使ってステンレス鋼のドリルとかいうのを作るわけだな。ステンレス鋼はいくらでもあるからそれを棒状に加工して先端に刃をつける。そしてこの図のような螺旋をつけるわけか。作業としてはゼンシンより楽だが、未知の部分が多いな」

「横型ろくろとドリルの両方ができたら、ミノウに運んでもらってくれ。片方だけあっても使い道がないからな。縦型は後日でもいい」

 まずはここの仕事改善が優先だ。だが、ドリルができて、さらにそれがタグステンを使った超硬ドリルに進化したら。

「もうなんでもできちゃいそうだ」
「じゃあ、我の魔法の杖をきゅぅぅぅ」

 どんだけ魔法の杖に憧れてんだよ!
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