異世界でカイゼン

soue kitakaze

文字の大きさ
176 / 336

第176話 ワンタッチソロバン

しおりを挟む
 そんな話をしたあと、ほったらかしているレンチョンをほったらかしたまま、俺たち3人はオウミの送迎魔法で宮殿に戻った。

 そこにはオオクニが帰っていたが、それもほったらかしてまずはゼンシンとヤッサンのふたりをオウミに送り返してもらった。ドリルのできあがりが楽しみである。

「「「ひどくないですかっ!!」」」

 あれ? なんで「」が3重なのだろう? レンチョンとオオクニと、誰?

「もうひとりは俺だよ! まったく、いきなり呼び出されたと思ったらその仕打ちか」
「ああ、グースか、おひさ」

「おひさ、じゃないだろ。急いで来いっていうから飛んできたのに、いったいどういうことだ? なんでユウコは縛られている?」

「あぁあん」

「まったくですよ。勝手にツブツブ堂からいなくなるものですから探しましたよ。人に手続きをさせておいて、ほったらかしにしないでください。で、なんでユウコさんはまだ縛られてるんですか」

「あはぁん」

「あちこち回ってソロバンを集めてきましたよ。ちょっと珍しいのも見つけてきたけど……ユウコはなんで縛られてるんだ?」

「あぁぁん、助けてぇぇ、あぁははぁん」

 なにその恍惚の表情。

「これは縄酔いというやつですわ。縛り方が上手だと、誰もがこうなりますのよ」

 うん、ちょっと危険なものを感じる。さすがに許してやるかな。

「じゃあ、スセリ。ユウコをほどいてやってくれ」
「あら、もうですか。残念ね、はい、くるんっ」

 背中の結び目をスセリがちょいっとひねっただけで、はらりと縄が落ちた。めでたくユウコはあっという間に自由の身となった。

「すごいな、おい! どうやったんだ、それ」
「別に魔法とかではありませんわ。縛り方を工夫すれば誰でもできることですわよ」

 SMの女王パネェッす。今度教えてもらおう。

「はぁはぁ。もうだめ、私はもう……きゅん」

 あ、落ちた。おーい。ユウコー? ダメだ返事がない。ただの足踏みマットのようだ。

「さて、まずはオオクニから報告を聞こうか。珍しいソロバンがあったって?」
「その、ユウコを足で踏んでるけどいいのか?」
「ああ、大丈夫。俺は気にしないからふみふみふみ」
「ユウコは大丈夫かと聞いたのだが。ソロバンだけどな、この地域のソロバン生産は、先月は1,800挺だったそうだ」

「たった1,800挺か! 少ないな。ということは日に60挺くらいで珠は7000個か。あの珠作りの最王手の内職では2,000から3,000個と言っていた。平均2,500個として1/3ぐらいをあそこがカバーしているわけか」

「ただ、ソロバンに関してはハリマのほうが盛んでな、そちらは月に10,000挺は作っているとのことだ」
「お、そこまで調べたのか、それはよくやった。月に10,000挺ということは日に330挺、日に4万個近い珠が必要になるということか。とりあえず、それが目標だな」

「今度の計算は大丈夫なノか?」
「やかましいよ。間違っていれば誰か指摘してくれるさ」
「いいノか、それで?!」

「珠の最王手ってサバエさんとこか? 俺も最初に行ったが、あそこはなんだか廃業したそうにしていたな。値段が安すぎるって」
「まあ、それは俺が改善してやるから問題ない。値段に関しては考えているよ」

「そうか、それなら良かった。あそこが止めてしまうとここの生産体制がボロボロになるぞ」
「単価は半分ほどにする予定だがな」

「潰すつもりか!!!!」
「別に潰れてもかまわんが、そうはならないとは思うが」

「おま、お前って奴はいったいなにを考えて……。あれ? みんなは非難しないのか? おかしいだろ? こいつの言ってることって」
「間違ったことは言ってませんわよ?」
「大丈夫ですよ。そのためのカイゼンです」
「問題ないノだ」

「あれぇっ?!! 間違っているの我のほう? いったい我がいない間になにがあったのだ?」
「まあ、それは後回しにして、それより珍しいものってなんだ?」
「あ、そうだった。これだ。これはすごいソロバンだぞ」

 そう言いながらオオクニは1挺のソロバンを取り出した。形は際だって変わっているところはない。ただ、全体がうっすらと光っていた。まるで蛍光塗料を塗ったように。

「なんだ、これ。金属……じゃないよな。かしゃかしゃ。普通のソロバンと重さも感触も同じくらいだ」
「ああっ、これ。魔木でできてるわ!!」

 いきなり起き上がったユウコが、足跡だらけの顔で叫んだ。また魔木かよ。それがどうなるんだ。声を読み取って自動で計算してくれるのか。それならすごいが。

「これ、刺激を与えると初期状態に戻るやつでしょ?」
「なんだ初期状態って? 計算はしてくれないのか」

「そんなことできるはずないでしょ。この木は私の里にもあるわよ。暑さに弱いから寒い地方でしか生えない木なの。この葉っぱつまんで手で刺激を与えると、ピクッてなるのよ。それが面白くてよく近所の子と遊んだものよ」

「それなんてオジギソウ?」
「ネコジタって言うのよ?」

 なるほど。だから暑さに弱いのか、やかましいわ!

「なんだエルフの里で生えている木が材料だったのか。ここにはこれが3挺だけあって、ソロバン名人が家宝にしていると聞いたんだ。だからそこまで行って無理に分けてもらったのだが、もしかしたらいくらでも作れるものだったのか? 1挺だけ手に入れるために、大枚はたいてしまったが良かっただろうか」

「俺が許可したんだからかまわないぞ。そんなに高かったのか?」
「ああ、高かった。勝手に買ってしまってすまなかった。しかし、どうしてもこれは見せたかったものでな」

「気にするな。買ってこいと言ったのは俺だからな。多少の出費は覚悟の上だ。いざとなったら、また予算の増額をしてもらえばいいさ。それに見本がなければマネして作ることもできんだろ」

 レンチョンが、え? という顔をした。2度あることは3度あるんだよ、と表情で言っておいた。

「それでいくらした?」
「3,240円!」
「あ……そ、そうか。それはよくやった。あとでその人の口座に振り込んでおこう。しかしえらく半端な値段になったものだな」

 レンチョンのホットした顔が見えた。ここの物価水準を忘れていた。

「3時間にわたって値段交渉したからな。少しでも安く買おうと思って、その家で皿洗いと便所掃除までしてきたぞ」

 いや、そこまでするほどの値段では……まあ、いい。その努力は認めよう。

「それで、そのソロバンのなにがすごいんだ? ユウコが言うように計算途中でぴくっとなったりしたら、それまでの苦労が水の泡じゃないか」

「そのために、魔法陣が書かれてるんだ。ほら、枠の左上のところ」
「これは汚れじゃなかったのか。魔法陣だと?」

 なんか急に異世界ものみたいになってきた。

(いままでなんだと思っていたノだ?)

「そこに指をあててみろ」
「こうか? びくっ。おおっ?! いま、ビクってなったぞ!」
「ね、なったでしょ?」

 ただのピクッではなかった。それによって珠の初期状態「ご破算で願いましては」が一気にできたのだ。これは素晴らしい。こちらの世界でのワンタッチソロバンだ。

 本来、ソロバンのリセット(ご破算で願いましては)というものは、

① ソロバンを手前に立てて、珠を全部下に揃える。(パシャッという音がする)
② 平らに戻したら次に、人さし指を桟に沿って横に動かすことにより、降りている5珠を上げる(じーーという音がする)。

 この2セットが必要である。

 これを強くやりすぎると珠が下に戻ってしまうし、4珠に指がかかると形がくずれて、パシャッからやり直しとなる。ソロバンあるあるである。

 それがこの方式ならその心配が皆無となる。そのうえ早い。ワンタッチでリセットができてしまうのだ。

 これは大きい。特に競技会のように時間制限があるような場合には、ものすごい武器となるだろう。

「これはいい。魔法を使わなくてもできるのが素晴らしいな。これ、うちで作れないか?」
「その権利を持っているものの許可がいるノだ」

「あ、そうか。そういうものだったな。よし、許可を貰いに行こう。特許料も払っていい。で、誰の発明だこれは?」

「「「さぁ?」」」

「言い方を変えよう。どうやって調べればいい?」
「「「さぁ?」」」

 同じかよ!

「俺のとうきょときょきょかきょきょ だかなんだかは、ミノウやオウミが承認してくれたんじゃなかったか?」
「そうなノだ」
「それならもう一度言い方を変えよう。これを承認したやつって……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...