異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第201話 トヨタ家総会 その後

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(エースのやつめ、このワシをダシに使いおって。いつものことながら遠慮することのないやつだ。それがこいつの良いところでもあるんだがな)

 ミギキチは数少ないエースの理解者である。目的を果たすために手段を選ばない人間であることを熟知している。だからこの程度のことで決して不機嫌になったりはしなかった。

 ただし、それは本人は、の話である。ミギキチに仕える者たちはそうではない。

 自分たちの絶対君主に対し遠慮ない話し方をするだけでも気に入らないのに、自分の発表のために総統をダシに使ったなど、到底容認できることではない。

 エースはこの発表で得た名声以上に、もっと多くの不興を買っているのだ。

 しかし、それも折り込み済みである。いままではそういう人たちにも配慮してきたつもりである。しかしもう誰にも遠慮はしないと、心に決めているからである。

 宴会のあともエースの報告は続いたが、酒の入った参加者たちにまともな判断ができるはずもなく、これといった突っ込みもないままにプレゼンは終わった。そして配布された爆裂コーンやポテチに舌鼓を打ってのんびりしていた。

 業績報告に関してはもう仕掛けもなにもなく、ただ今後の展望を述べるだけであったエース側としては、ありがたい中断であった。

 それはこのあと、もっと重大な発表が控えていたからである。

「ということで、来年の利益の柱は小麦、とうもろこしを原料とした食品から、薬、遊戯、そして刃物に鉄という非常にバラエティに富んだものになります。以上、シキ研からの報告を終わります」

 万雷の拍手がエースとレクサスを包んだ。これで今年の義務も終わりだという安心感もあり、政敵と思われる勢力からも拍手があった。

 しかし、それで終わりではなかったのだ。

「最後に、ひとつだけ付け加えさせていただきます」

 おや、まだなんかあるのか。早く帰って、今度は内輪での宴会をやりたいのだがなぁ。女房がなにをねだろうかと虎視眈々と待ち構えているのだが。そんな声が聞こえる中、エースの爆弾発言が起こった。

「私は、本年度一杯で近衛大将の座を降りさせていただきます。同時に、シキ研社長としてミノ国に完全移籍することを決心しました。いままでご協力いただいた方々、ほんとにお世話になりました。私のことは嫌いになっても、トヨタ家のことは嫌いにならないでください」

 どこかのアイドルかよ!! というツッコみは出ない。皆、あっけにとられているのだ。


(そもそも、そういう問題ではないと思うのだヨ?)
(俺たち、ここにはいないんだから、ツッコんじゃダメ)


 完全移籍ってそんな勝手なことできるのか? 人事権は総統にしかないはずだろ。待て、完全移籍って言ったのか? ああ、確かに言ったがそれがどうかしたか。それって、まさか近衛大将を止めるってことか? そう言ってるだろうが。え、どういうこと? お前はアホか。

 それは、エースがトヨタ家の後継者レースから脱退する、という意思表示でもあった。

 寝耳に水であった。ベータにとってもヌカタにとっても、ここにいる全員にとっても。そして総統・ミギキチにとってもである。

「もちろん、引き継ぎはさせていただきます。来年早々にも後継者を選んでください。引き継ぎが済み次第、私はミノ国に移動します。ここに戻ってくるのは、年に1度。ここでの発表のときだけ、ということになりますね」

「エースよ。勝手に決まったかのように話をしているが、ワシはそんな話を認めるとは言っておらんぞ」
「そ、そうですよ! エース。そんなこと認められるはずが」

「それならベータ様も私と一緒に来ませんか?」
「え?」
「ニホン刀の秘密を教えて差し上げますよ」

「行きます!! すぐにでも行きましょう。さぁ、早く行きましょう。いまからでもすぐに引っ越ししましょう。さっさと」

 また即断即決か?! 決断が早いのは良いことだが。

「待てと言うとるだろ!! お前はベータまで持って行くつもりか」
「総統。ベータ様はものではありませんよ」

「そんなことは分かっておる。ともかく、いまの話はペンディング(一時保留)だ。お前の後継者をすぐに探すというのも無理な話だし、ベータはまだ10才だ。教育期間が終わって元服するまではここに残るべきだ」

「総統、そんな悠長なことを言っていたら、時代に遅れます!」

 そう言ったのはベータである。私的には父親であるが、この場では部下のひとりに過ぎない。だからそういう言い方をしたのである。

 意外な人間から反撃をくらって面食らうミギキチであった。

「時代、だと?」
「はい、この刀が世に出た時点でもう、時代は動き始めているのです。ここで遅れたらもう取り返しがつかないことになります」
「時代というものを、お前が一手に引き受ける必要はなかろう」
「あ、ですが、僕には」

「ベータ様。そんなにお急ぎにならないでください。ベータ様にはまだまだ学習していただければならないこともたくさんあります。剣技も経営もまだまだ未熟ですぞ」
「ヌカタ卿……」

「しかし、エース殿の言われることには私は賛成です。トヨタ家はこれからニホン全土にその勢力を広げてゆくべきです。その足がかりとしてミノ国に目を付けたことは、極めて慧眼であります。ミノ国を足がかりにいずれはヤマトまで覇を広げてゆく。それこそトヨタ家の野望にかなうことでありましょう」

 エースを追い出せるなら、なんでも良かったのだ。ヌカタ卿は、このぐらいの屁理屈はいつでも出せる。そういう人間である。

「ヌカタ卿。ありがとうございます。総統。それではベータ様のことは諦めますから、私のミノ行きだけは承認してくださいませんか」

 今度はベータをやむなく諦めるフリをして、自分の主張を通そうという魂胆である。そこに友から声がかかった。

「おいおい、エース。お主は短慮に過ぎるのではないか。ミノに行くのはともかく、ここから出て行くようなことまで言う必要はないであろう?」

 友を失いたくない一心による、スガノ卿の妥協案である。本人は落としどころを探ったつもりであろう。

「スガノ卿。ありがたいお話ですが、私はもう心に決めております。総統のご同意がいただけなければ、トヨタ家の人間としてではなく、一介の武人に戻ってシキ研に採用していただく所存です」

「そんなことをしたら、お主はあのユウという少年の下で働くということになるのではないか?」
「はい、その通りです。彼はそれだけのものを持っている人間です。それで後悔はしません」

「待て、エース殿! それではシキ研が、トヨタ家が費用を出しながらそのユウという少年のものになってしまいかねないぞ? それは認められん。それなら投資話はすべてなくさないといけない」

「ヌカタ卿。先ほど報告した通り、もうすでに事業は動いております。いますぐトヨタ家が資金をすべて凍結したとしても、それは来年4月からということになります。それではシキ研はさほど被害を受けません。業績拡大にかかる時間が少し延びるだけです。すでに膨大な利益の出る商品をいくつも持っているのです。それに、私にも私財というものがあります」

「それはそうでしょうね。ここで資金を凍結したら、トヨタ家はそれまでに投資した分だけ大損ということになります」
「得られるはずの利益を捨ててまで、資金凍結などできることはありませんな」

「お主ら、ちょっと待て。いまはエースの処遇の話だ。シキ研についてはいままで通り投資を行う。ワシはそれを止めるつもりはない。話を混ぜるでない」
「それでは私の移籍の話は」
「だからそれも待て。そんな急に大事な決断はできん。近衛大将の後継者も選ばねばならん」

「それはヌカタ卿でよろしいかと思います」
「お、おい、エース殿。そ、それは」
「ああ、それなら私も納得しますな」

 スガノ卿が同意を示すと、場の空気はすっかり変わった。エースの移籍承認、近衛大将の後釜にはヌカタ卿。そういう空気である。

 それで重要なコマはすっぽりと盤にはまったのである。

 ヌカタ卿に異論があるはずもない。これでアルファ様を次期総統に迎えるための形ができるのだから。

 トヨタ家は武門の家である(何回目?)。そのために、トヨタ家で一番尊敬を集めるのが近衛大将という役職なのである。

 それまではエース派がそれを独占していた。しかもこれといった失策もなく、それどころか手柄が増えるばかりであった。引きずり下ろす方法も見つからなかったのである。それを自分から手放してくれるというのだ。

 このままでは本当にエースが総統になってしまう。反エース派の人々はそれを心底心配していた。

 その心配を、この人事が通れば一気に払拭できるのである。その先頭に立つヌカタ卿が、これに乗らないはずなかった。しかし、それを自分で言い出すことはできない。その逡巡のうちに、また別の議論が沸き起こった。

「ベータがダメなら、僕がミノ国に行きます!」

 そう宣言したのは、それまで黙って聞いているだけであった、跡取り候補の1番手・長男のアルファであった。


「「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 これにはエースを含め、会場にいる全員が度肝を抜かれた。

 まさか、あの大人しいアルファ様が? 病弱でベッドから起き上がることのできる日が月の半分ほどしかないアルファ様が? 総統の言うことはなんでも聞いてきたアルファ様が?



「あの、僕ってそういうキャラなんですか?」
「アルファ、まだそう決めた訳じゃない。それにしてもいきなり思い切ったこと言い出しやがって、物語を考える作者の身にもなりやがれ」

「結構面白いと思ってやったのだヨ?」
「バラすなよ」
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