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第222話 ぬこの回
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「ぬこの回である」
「ぬこの回、なノか?」
「え? どうして? だって私、ぬこと一緒にホッカイ国にいるのですよ。ユウさんたちはアイヅでしょ?」
「あー、モナカとその眷属には関係ないから、引っ込んでなさい」
「それなのに、ぬこの回なノか?」
「ぬこの回なのだよ」
「だが断る!」
と言われましても?
「我が国では、トラブルが起きたときにすることは決まっているのだ」
トラブルって、そりゃこれだってトラブルには違いないけど? なにがどう決まっているんですかね?
「まあ、そうだとは思いましたわ。アイヅさんですものね」
スセリが分かったようなことを言っているが、俺にはさっぱり分からない。問題ははっきりした。そしてこちらの非は認めた。筋を通して謝罪もした。向こうは謝罪は必要ないとも言った。
それなのに、どうしてミノウ紙で提出してくれと言ったら断られるのだろうか? その上にこれはトラブルであると断言して、その解決策はいつも決まっているという。
それじゃあ、俺はいままでなんの交渉をしていのだ? 解決策が決まっているなら、俺なんか必要なかったじゃないの。なんだそれ? 俺の苦労はただの徒労?
(呼んだか?)
(クドウは呼んでねぇよ! 刀の中からボケを挟むな!)
「ハルミ、と言ったな?」
「はい、そうです。ハニツ様」
「聞けばハルミはまだ14才になったばかり。それなのに、もうクラスチェンジの課題を受けるだけのポイントを稼いだそうだな?」
ほとんどミノオウハルとクドウ仙人の力だけどな。
「はい、その通りです。そのためにここに来ました」
「その課題が、こんな簡単なことで終わってしまってはつまらんであろう?」
「いやいやいや、そんなことはない。課題なんかはさっさと片付けて俺たちは早く帰って」
「その通りです、ハニツ様!!」
だぁぁぁぁ。お前はどういつもりだ!
「そうであろう、それが剣士というものだ。このアイヅではな。トラブルが起きたときは、いつも立ち会いによって解決する習わしなのだ」
なにその野蛮な風習。
「願ってもないことです。ぜひ私にそれをやらせてください!!」
「あら、それなら私もやりたいですわよ。ねぇ。タダミさん」
「あらあらスセリ様、ご指名ですか。それなら引くわけにはいきませんわね」
「うむ。それでこそ剣士である」
なにここ。野蛮なの。未開地なの。俺の存在価値なんかまるでない世界なの。やだもう帰りたい。
「では、まずハルミの剣技力を計らせてもらう。それによって相手を決めるのだ」
「はい。それはかまいませんが、どうすれば良いのですか?」
「すまんが、このまま道場まで足を運んでもらおうか」
俺たちは道場に案内された。そこには道着を来た若い剣士が集まっていた。およそ20人はいるであろう。他国から剣士が来るのは珍しいのか、皆興味津々のようである。
「まずは測定具を装着してもらう。おい、アシナ、手伝ってやれ」
「はい」
アシナは半透明のサポーターのようなものを持ってきて、それをハルミの頭部、両腕、胴回り、太もも、足首に巻き付けた。
それにはたくさんの白いポッチが付いており、遠目にはハルミに虫がたかっているように見える。
「ユウ、こ、こ、怖いことを言わんでくれ」
「お前は虫が苦手だったな。アシナ、それはいったいなんだ?」
「これは、ハルミさんの筋肉の動きを調べて、剣士としての資質や鍛錬具合を判断するための魔道具です」
ここにはそんな魔道具があるのか。俺にはモーションキャプチャーのマーカーにしか見えないのだが。
「それで良い。それではハルミ。あそこに立ててある巻き藁を斬って見せよ。得物は自前のでかまわない」
「はい!」
威勢も思い切りもいいんだな、お前は。あの魔道具でなにをどう測定するのか、そういうことに興味は……あるわけないか。斬ることが楽しくて仕方ないやつだったな。
ミノ国の剣技で斬るといえば、10cmの丸太が主流だ。しかし、ここでは藁を巻いて棒状にしたものを使うらしい。
丸太に比べれば、藁など柔らかいものだ。しかしその巻き藁は、太さが40cmもある。これがどのくらいの難易度なのか、俺には分からない。
「さぁいつでも良いぞハルミ。完全に斬れなくてもかまわない。お主の太刀筋が分かれば良いのだ。さぁ、やって見せよ」
「えぇっと。ユウ?」
「大丈夫だ。お前は5cmの鉄棒を3本もまとめて斬った斬鉄の剣士だぞ。たかが藁を束ねただけのものなんか、わけなく斬れる。俺たちの『ニホン刀』で斬ってやれ」
と、なにげにニホン刀を使えと指示を出しながら、ハルミにエールを送る。
こんな大勢の前で、ミノオウハルの秘密をばらしたくはない。しかし普通に斬るのであればミノオウハルに勝るものはない。ハルミは迷った。だから俺に確認をしたのだ。
ハニツの言うことが本当なら、見たいのは太刀筋だけだ。巻き藁が斬れるかどうかは問題じゃない。それに、斬れなくて恥をかくのは俺じゃないし。
(久しぶりにゲスい発言を聞いたノだ)
(まだ隠れていろって)
しかし、俺の発言に会場がざわついた。
鉄を? 斬っただと? 5cmもの鉄を? 3本ってそれは3回ということか? まさかまとめてではあるまいな。しかし斬鉄とはいったい? 鉄なんか剣で斬るはずがないだろう。こいつはなにを言っているのだ? 俺たちの聞き違いか?
聞き間違いじゃありませんぜ、皆さん。まあ、そのうち分かるさ。
ハルミはニホン刀を鞘に入れたまま、巻き藁に近づいて行く。今回持ってきたニホン刀はヤッサンとゼンシン渾身の最新作である。斬れ味なら最初のものより30%は向上しているというお墨付きのものだ。
(ほう、この子は抜刀術の使い手か) ハニツのつぶやきである。
(言うまでもなく、抜刀術を教えたのはミノウなノだ。言うまでもなく、それはひてんみつるぎりゅうぅぅぅぅ)
(あれは逆刃刀じゃないから。黙ってろっての)
巻き藁が自分の間合いに入ったのを目視で確認すると、ハルミはぐっと膝を曲げて身体を沈めた。そして柄に当てた手がほんのちょっと動いたかに見えたその次の瞬間。
びゅぅっという風を斬る音が道場に響き渡った。そしていつも通りに振り上げた姿勢のままで固まるハルミ。
しかし、巻き藁はびくともしていない。
空振りしたのか? と誰もがそう思った。そのとき声を上げたのはハニツだけだった。
「うぉぉおお!!!」
なんだ? どうしたんだ? ハニツはなにを驚いている? 俺にはハニツの叫んだ意味が分からなかった。
ハルミはまだ、振り上げたままの姿勢で固まっている。自信のみなぎるその美しい姿勢からは、風格さえ感じられた。
俺はそれを見て、ああ、成功したんだなと確信した。
ハニツには見えたのだろう。ハルミが斬った瞬間が。俺にも、他の剣士たちの誰にも見えなかったものを、ハニツは見たのだ。俺にはいつ抜いたのかさえ見えなかった。やはり、たいしたものだ。
いや、斬ったハルミのほうがすごいのかも知れない。
失敗したくせに、どうしてあの子はあのポーズで固まっているんだ? と、道場内にはそんな嘲笑さえ起こりかけていた。
しかしそれを止めたのは、唐突に起こった次の音であった。
小さな地割れのような音が道場に響いた。ずず、ずずっ。ずずずず。
それは巻き藁崩壊の音であった。地割れの音は道場を包み込みながら、ゆっくりと落ちて行く音に変わった。そして最後に心の奥底に沈んで行くようなドサリという重低音。
この期に及んでようやく皆は気がついた。
余りに見事な斬味であったため、巻き藁が落ちるまでに時間がかかっただけなのだということに。失敗などではなかったのだ。
「「「「「うぉぉおお!!!」」」」」
ハニツから何テンポも遅れて、ようやく道場中に歓声が響き渡った。
歓声? こいつら、ハルミを称賛してくれているのか。俺でも驚いたのだから、こいつらが驚くのは不思議じゃない。
しかし、外からやってきたやつに、すごい剣技を見せられて素直に称賛などできるものだろうか。
もっと悔しがるとか妬むとか、そんなことを俺は想像していた。
(お主がひねくれすぎなノだ)
(ほっときなさいって。自覚してるよ!)
「見事だ。見事であったぞ、ハルミ! とても初級のレベルではない剣技であった。アシナ、それで評価はどうだった? データを読み上げてくれ」
データを読み上げる?
「はい、測定器によりますと総合評価では……すごい! 上級に達しています!! すごいです、私はこんなの初めて見ました。では、内訳を読み上げます」
・総合評価 上級
・HP 870
耐久力(体力)は文句なし上級レベルである。
・SP 800
スキルレベル(剣の技術)もほぼ同等である。
・攻撃 1280
上級の中でも最上位クラスに匹敵する攻撃力である。40cmもの巻き藁がまっぷたつになったのも道理である。
・防御 142
まだ鍛え方が足りないが、初級レベルには達している。
・素早さ 220
初級レベルには達している。
・その他 特殊項目
おちゃらけ度 1,080
いや、おちゃらけ度、と言われましても?
エロエロ度 7,250
突き抜けてダントツである。
「ちょちょっとちょっと。おかしくないですか? おかしいでしょ。おかしいですよね? なんで剣技の試験でエロエロ度なんて項目が出てくるのですか。それはなんかの間違いですよね。間違いです! 間違いに違いありません。ダメ絶対!」
「え、いや。あの、こ、この魔道具は、その人の能力をはじき出すもので、剣技だけじゃなくて、その人の性質とか適正とかまで算出してくれるもの、ですけど……どうしてかしら?」
「うんうん、さすがはハルミだ。エロエロ剣士の面目躍如だな」
「ユウ、やかましい! 誰がエロエロ剣士だ!!!」
「あと、おちゃらけポイントもたいしたものだぞ?」
「おちゃらけたことなんか、一度もないわ!!!!」
自覚がないのか。素であれなのか。なるほど、1,080ものポイントが付くわけだ。
「なあ、俺への従順さ、って項目はないのか?」
「私はお前にだいたい従順ではないか!!」
ここここら! そんな場を凍らせるような発言は慎め! スセリはそこでニヤニヤ笑わない! ユウコはなぜ俺を睨む!?
「と、特殊項目はまあ、どうでも良いであろう。それにこれだけですべてが分かるわけでもない。それよりハルミ。お主はすでに初級レベルではないことは確かだ。それだけの剣士を相手にできる者はここにもそんなにいない。そうだな、タノモ。お前がやってみるか?」
「はい! ぜひやらせてください」
「タノモはここでは師範代を務めているほどの腕前である。ハルミにとっても不足ない相手であろう。では、ハルミ。これからが本番だ。タノモと立ち会ってみるか?」
「はい! もちろんです。お願いします」
タノモは20才ぐらいの男性である。ここでは男女の区別はないようだ。あの魔道具による測定ポイントだけが判断基準となっているのだろう。
魔道具で上級判定が出されたために、ハルミは師範代と勝負することになったのだ。
ハルミとてミノ国では、13才で師範代をやっていたはずだ。それならたいした強敵でもなかろう。ケガがないように適当にやっちゃえ(ハナホジ)。そして終わったら帰ろう。任務完了だ。
と、そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。俺は知らなかったのだ。アイヅ国の剣技におけるレベルの高さを。そして忘れていたのだ。13才で師範代になったハルミだが、そこは児童だけ(最上級生が13才)の道場であったことも。
「それでどうなったノだ?」
「なにがだ?」
「ぬこの回だったのであろう?」
「ああ、ちょうど今回が第222話だったからさ。ぬこぬこぬこの回だろ?」
「それだけのことだったノか。内容は関係ないノか?!」
「まったくない」
「まったくないのにタイトルにしたノか?!」
「これが2月22日にアップできれば言うことなかったのだけど」
「ぬこの回、なノか?」
「え? どうして? だって私、ぬこと一緒にホッカイ国にいるのですよ。ユウさんたちはアイヅでしょ?」
「あー、モナカとその眷属には関係ないから、引っ込んでなさい」
「それなのに、ぬこの回なノか?」
「ぬこの回なのだよ」
「だが断る!」
と言われましても?
「我が国では、トラブルが起きたときにすることは決まっているのだ」
トラブルって、そりゃこれだってトラブルには違いないけど? なにがどう決まっているんですかね?
「まあ、そうだとは思いましたわ。アイヅさんですものね」
スセリが分かったようなことを言っているが、俺にはさっぱり分からない。問題ははっきりした。そしてこちらの非は認めた。筋を通して謝罪もした。向こうは謝罪は必要ないとも言った。
それなのに、どうしてミノウ紙で提出してくれと言ったら断られるのだろうか? その上にこれはトラブルであると断言して、その解決策はいつも決まっているという。
それじゃあ、俺はいままでなんの交渉をしていのだ? 解決策が決まっているなら、俺なんか必要なかったじゃないの。なんだそれ? 俺の苦労はただの徒労?
(呼んだか?)
(クドウは呼んでねぇよ! 刀の中からボケを挟むな!)
「ハルミ、と言ったな?」
「はい、そうです。ハニツ様」
「聞けばハルミはまだ14才になったばかり。それなのに、もうクラスチェンジの課題を受けるだけのポイントを稼いだそうだな?」
ほとんどミノオウハルとクドウ仙人の力だけどな。
「はい、その通りです。そのためにここに来ました」
「その課題が、こんな簡単なことで終わってしまってはつまらんであろう?」
「いやいやいや、そんなことはない。課題なんかはさっさと片付けて俺たちは早く帰って」
「その通りです、ハニツ様!!」
だぁぁぁぁ。お前はどういつもりだ!
「そうであろう、それが剣士というものだ。このアイヅではな。トラブルが起きたときは、いつも立ち会いによって解決する習わしなのだ」
なにその野蛮な風習。
「願ってもないことです。ぜひ私にそれをやらせてください!!」
「あら、それなら私もやりたいですわよ。ねぇ。タダミさん」
「あらあらスセリ様、ご指名ですか。それなら引くわけにはいきませんわね」
「うむ。それでこそ剣士である」
なにここ。野蛮なの。未開地なの。俺の存在価値なんかまるでない世界なの。やだもう帰りたい。
「では、まずハルミの剣技力を計らせてもらう。それによって相手を決めるのだ」
「はい。それはかまいませんが、どうすれば良いのですか?」
「すまんが、このまま道場まで足を運んでもらおうか」
俺たちは道場に案内された。そこには道着を来た若い剣士が集まっていた。およそ20人はいるであろう。他国から剣士が来るのは珍しいのか、皆興味津々のようである。
「まずは測定具を装着してもらう。おい、アシナ、手伝ってやれ」
「はい」
アシナは半透明のサポーターのようなものを持ってきて、それをハルミの頭部、両腕、胴回り、太もも、足首に巻き付けた。
それにはたくさんの白いポッチが付いており、遠目にはハルミに虫がたかっているように見える。
「ユウ、こ、こ、怖いことを言わんでくれ」
「お前は虫が苦手だったな。アシナ、それはいったいなんだ?」
「これは、ハルミさんの筋肉の動きを調べて、剣士としての資質や鍛錬具合を判断するための魔道具です」
ここにはそんな魔道具があるのか。俺にはモーションキャプチャーのマーカーにしか見えないのだが。
「それで良い。それではハルミ。あそこに立ててある巻き藁を斬って見せよ。得物は自前のでかまわない」
「はい!」
威勢も思い切りもいいんだな、お前は。あの魔道具でなにをどう測定するのか、そういうことに興味は……あるわけないか。斬ることが楽しくて仕方ないやつだったな。
ミノ国の剣技で斬るといえば、10cmの丸太が主流だ。しかし、ここでは藁を巻いて棒状にしたものを使うらしい。
丸太に比べれば、藁など柔らかいものだ。しかしその巻き藁は、太さが40cmもある。これがどのくらいの難易度なのか、俺には分からない。
「さぁいつでも良いぞハルミ。完全に斬れなくてもかまわない。お主の太刀筋が分かれば良いのだ。さぁ、やって見せよ」
「えぇっと。ユウ?」
「大丈夫だ。お前は5cmの鉄棒を3本もまとめて斬った斬鉄の剣士だぞ。たかが藁を束ねただけのものなんか、わけなく斬れる。俺たちの『ニホン刀』で斬ってやれ」
と、なにげにニホン刀を使えと指示を出しながら、ハルミにエールを送る。
こんな大勢の前で、ミノオウハルの秘密をばらしたくはない。しかし普通に斬るのであればミノオウハルに勝るものはない。ハルミは迷った。だから俺に確認をしたのだ。
ハニツの言うことが本当なら、見たいのは太刀筋だけだ。巻き藁が斬れるかどうかは問題じゃない。それに、斬れなくて恥をかくのは俺じゃないし。
(久しぶりにゲスい発言を聞いたノだ)
(まだ隠れていろって)
しかし、俺の発言に会場がざわついた。
鉄を? 斬っただと? 5cmもの鉄を? 3本ってそれは3回ということか? まさかまとめてではあるまいな。しかし斬鉄とはいったい? 鉄なんか剣で斬るはずがないだろう。こいつはなにを言っているのだ? 俺たちの聞き違いか?
聞き間違いじゃありませんぜ、皆さん。まあ、そのうち分かるさ。
ハルミはニホン刀を鞘に入れたまま、巻き藁に近づいて行く。今回持ってきたニホン刀はヤッサンとゼンシン渾身の最新作である。斬れ味なら最初のものより30%は向上しているというお墨付きのものだ。
(ほう、この子は抜刀術の使い手か) ハニツのつぶやきである。
(言うまでもなく、抜刀術を教えたのはミノウなノだ。言うまでもなく、それはひてんみつるぎりゅうぅぅぅぅ)
(あれは逆刃刀じゃないから。黙ってろっての)
巻き藁が自分の間合いに入ったのを目視で確認すると、ハルミはぐっと膝を曲げて身体を沈めた。そして柄に当てた手がほんのちょっと動いたかに見えたその次の瞬間。
びゅぅっという風を斬る音が道場に響き渡った。そしていつも通りに振り上げた姿勢のままで固まるハルミ。
しかし、巻き藁はびくともしていない。
空振りしたのか? と誰もがそう思った。そのとき声を上げたのはハニツだけだった。
「うぉぉおお!!!」
なんだ? どうしたんだ? ハニツはなにを驚いている? 俺にはハニツの叫んだ意味が分からなかった。
ハルミはまだ、振り上げたままの姿勢で固まっている。自信のみなぎるその美しい姿勢からは、風格さえ感じられた。
俺はそれを見て、ああ、成功したんだなと確信した。
ハニツには見えたのだろう。ハルミが斬った瞬間が。俺にも、他の剣士たちの誰にも見えなかったものを、ハニツは見たのだ。俺にはいつ抜いたのかさえ見えなかった。やはり、たいしたものだ。
いや、斬ったハルミのほうがすごいのかも知れない。
失敗したくせに、どうしてあの子はあのポーズで固まっているんだ? と、道場内にはそんな嘲笑さえ起こりかけていた。
しかしそれを止めたのは、唐突に起こった次の音であった。
小さな地割れのような音が道場に響いた。ずず、ずずっ。ずずずず。
それは巻き藁崩壊の音であった。地割れの音は道場を包み込みながら、ゆっくりと落ちて行く音に変わった。そして最後に心の奥底に沈んで行くようなドサリという重低音。
この期に及んでようやく皆は気がついた。
余りに見事な斬味であったため、巻き藁が落ちるまでに時間がかかっただけなのだということに。失敗などではなかったのだ。
「「「「「うぉぉおお!!!」」」」」
ハニツから何テンポも遅れて、ようやく道場中に歓声が響き渡った。
歓声? こいつら、ハルミを称賛してくれているのか。俺でも驚いたのだから、こいつらが驚くのは不思議じゃない。
しかし、外からやってきたやつに、すごい剣技を見せられて素直に称賛などできるものだろうか。
もっと悔しがるとか妬むとか、そんなことを俺は想像していた。
(お主がひねくれすぎなノだ)
(ほっときなさいって。自覚してるよ!)
「見事だ。見事であったぞ、ハルミ! とても初級のレベルではない剣技であった。アシナ、それで評価はどうだった? データを読み上げてくれ」
データを読み上げる?
「はい、測定器によりますと総合評価では……すごい! 上級に達しています!! すごいです、私はこんなの初めて見ました。では、内訳を読み上げます」
・総合評価 上級
・HP 870
耐久力(体力)は文句なし上級レベルである。
・SP 800
スキルレベル(剣の技術)もほぼ同等である。
・攻撃 1280
上級の中でも最上位クラスに匹敵する攻撃力である。40cmもの巻き藁がまっぷたつになったのも道理である。
・防御 142
まだ鍛え方が足りないが、初級レベルには達している。
・素早さ 220
初級レベルには達している。
・その他 特殊項目
おちゃらけ度 1,080
いや、おちゃらけ度、と言われましても?
エロエロ度 7,250
突き抜けてダントツである。
「ちょちょっとちょっと。おかしくないですか? おかしいでしょ。おかしいですよね? なんで剣技の試験でエロエロ度なんて項目が出てくるのですか。それはなんかの間違いですよね。間違いです! 間違いに違いありません。ダメ絶対!」
「え、いや。あの、こ、この魔道具は、その人の能力をはじき出すもので、剣技だけじゃなくて、その人の性質とか適正とかまで算出してくれるもの、ですけど……どうしてかしら?」
「うんうん、さすがはハルミだ。エロエロ剣士の面目躍如だな」
「ユウ、やかましい! 誰がエロエロ剣士だ!!!」
「あと、おちゃらけポイントもたいしたものだぞ?」
「おちゃらけたことなんか、一度もないわ!!!!」
自覚がないのか。素であれなのか。なるほど、1,080ものポイントが付くわけだ。
「なあ、俺への従順さ、って項目はないのか?」
「私はお前にだいたい従順ではないか!!」
ここここら! そんな場を凍らせるような発言は慎め! スセリはそこでニヤニヤ笑わない! ユウコはなぜ俺を睨む!?
「と、特殊項目はまあ、どうでも良いであろう。それにこれだけですべてが分かるわけでもない。それよりハルミ。お主はすでに初級レベルではないことは確かだ。それだけの剣士を相手にできる者はここにもそんなにいない。そうだな、タノモ。お前がやってみるか?」
「はい! ぜひやらせてください」
「タノモはここでは師範代を務めているほどの腕前である。ハルミにとっても不足ない相手であろう。では、ハルミ。これからが本番だ。タノモと立ち会ってみるか?」
「はい! もちろんです。お願いします」
タノモは20才ぐらいの男性である。ここでは男女の区別はないようだ。あの魔道具による測定ポイントだけが判断基準となっているのだろう。
魔道具で上級判定が出されたために、ハルミは師範代と勝負することになったのだ。
ハルミとてミノ国では、13才で師範代をやっていたはずだ。それならたいした強敵でもなかろう。ケガがないように適当にやっちゃえ(ハナホジ)。そして終わったら帰ろう。任務完了だ。
と、そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。俺は知らなかったのだ。アイヅ国の剣技におけるレベルの高さを。そして忘れていたのだ。13才で師範代になったハルミだが、そこは児童だけ(最上級生が13才)の道場であったことも。
「それでどうなったノだ?」
「なにがだ?」
「ぬこの回だったのであろう?」
「ああ、ちょうど今回が第222話だったからさ。ぬこぬこぬこの回だろ?」
「それだけのことだったノか。内容は関係ないノか?!」
「まったくない」
「まったくないのにタイトルにしたノか?!」
「これが2月22日にアップできれば言うことなかったのだけど」
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