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第221話 アイヅのドン
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フクシマ、フクシマ。フクシマって福島のことか。会津若松のあるところだな。川俣町ってのもあったな。前の世界のときにある事情があって、一度だけ行ったことがある。
こちらではトウホグ地方だったか。以前、誰かに聞いたな。
「よし、じゃあハルミ。そのフクシマに行って試練を終わらせて来よう。オウミ、転送できるか?」
「ダメなノだ。フクシマには行ったことがないから転送できないノだ」
「それなら、私が送って差し上げますわよ」
「そうか。じゃあ、俺とオウミにハルミの3人を送ってくれ」
「それとこの子も連れて行きますわ。ユウコさん、いらっしゃい」
「はーい」
はーいってなんだよ。スセリはなんでユウコを呼んだ? ユウコはすっかりスセリに手なずけられとる。俺の秘書だかボディガードだかだったはずなんだが、もうすっかり色物が板に付いてきたなぁ。
「色物にしないでください!!」
ハルミにいたってはヨゴレだし。
「汚れてないぞ!! 私はまだ清廉な処女だ!!」
……その発言がヨゴレじゃねぇか。
「それじゃ、行きますわよ。あなた、私のいない間に変なことになったらお仕置きですからね。しっかり務めなさいな」
「あ、ああ。分かった。気を付て行ってきてくれ」
「ひょいっ」
転送魔法の呪文である。読者はもう忘れていると思うので、念のため。スセリは何人でも運べますわと豪語した。さすがはニホン国首長の嫁である。
こうして俺たちは、トウホグ文化の中心地・アイヅに着いたのである。
「本日はようこそお越しくださいました。私はお世話係を務めさせていただきますアシナといいます。お疲れのことでしょう。まずはここでおくつろぎください。いま、お茶とお菓子をお持ちします」
転送されてきたのでぜんぜんお疲れではないのだが、それを言ってよさそうな雰囲気ではなかった。ここは黙ってサービスを受けよう。
転送されたのは、アイヅの領主・ホシナ氏が住むというお城の1室であった。スセリが1度だけ来たことのある場所だそうだ。
アシナは、年の頃ならちょうどハルミぐらいだろう。
だが、身長はハルミ以上にあり、金色に輝く長い髪を後ろでツインテールに結び、それが腰まで垂れている。
鍛え上げられた背中はピンと伸びていて、中乳ながらもなかなかに凜とした愛らしい少女である。
「中乳言うな。ユウ、この子は強いぞ。鍛え上げられた体つきを見れば私には分かる」
「え? あ、あり、ありが。とう、ございます」
「良ければ、あとで一手ご教授願いたいものだ」
アシナはそれを聞くなり目を輝かせた。
「はい! それは光栄です。ぜひ、お願いします!」
「そうか、それならすぐにでもや痛いっ」
「では、道場にご案内痛いっ」
「「痛ぁぁぁい」」
「会見が先だ。お前ら立場と状況をわきまえろよ」
あれ? 俺ってば、初対面の女の子をいきなりどついてしまったぞ。なんかハルミの兄弟を見るみたいで、遠慮しなくていい気がしたのだ。
「痛いですぅ。あと、兄弟じゃなくて姉妹と言ってくださいよぉ」
「わ、悪かった、アシナさん。いつもの癖でついな。あとでなんかプレゼントするから許しておくれ」
「え? それ、なんでもいいですか?!」
「なんでもってわけに行くか! それはモノによる。応相談だ」
意外とずうずうしい子であった。なんかいろいろ言いたいこともあるが、俺たちはそのまま会見まで待つことにした。
ホシナは、このトウホグ地方全体のドンとも呼ばれるほどの権力者であるらしい。
だいたいドンなんて呼ばれるやつは、ああいう人だと相場が決まっている。ここにもアイヅ判定なんてものがあるんだろか。なんだか怖い。いざとなったら、ユウコを人質にしてでも逃げようと思う。
そう思ってここにやって来たのだが、いきなりアシナのこの対応であった。こんな対応初めてである。
ホッカイではカンキチだったし、イズモではタケだった。礼儀正しいやつなんて皆無だったのに。
そしてお茶とお菓子が運ばれてきた。
「お待たせしました。下りもの(キョウト産)の玉露です。お茶請けにアイヅ名物の薄皮まんじゅうを用意しました。ただいま会見場の準備をしておりますので、もうしばらくお待ちください。用意ができましたら、お迎えにまいります」
玉露ってのは抹茶の最高級品じゃないか。それにまんじゅうというのは、砂糖の貴重なこの世界では贅沢品である。
アイヅは裕福な土地なのだろうか?
「うぅむ。俺たちって納税しろって言いに来たのだが、なんか歓迎されているようで、おもはゆいな」
「私もそのおはもはが良いぞ」
ハルミは無理して難しい言葉を使おうとしないほうがいい。
「なんとまあ、礼儀正しい子でしょうね。ぜひうちに欲しいですわね」
スセリは縛って遊ぶつもりだろうな。
「人に親切にされるなんて、すっごい新鮮ですよ。ちょっと当てが外れた感があるわね」
ユウコはどんな当てをしてたんだよ。
ぱくぱく。おっ、このまんじゅうはうまいな、ぱくぱく。ん? おかしいぞ、これ。うますぎる。
「あら、これすごいおいしいね」
「ほんとですこと。すっごい甘くてステキですわ。お代わりいただけるかしら」
使者がお代わりをするんじゃない! やはりこれは、砂糖を使ったお菓子だ。元の世界で食べたものにすごく近い。こんなうまいお菓子を作るやつがここにいたのか。
そいつを連れて帰りたいものだ。今年も後半になれば砂糖ならいくらでも提供できる。そしたら山のように作ってもらえるのにぱくむしゃぱく。
「お待たせ致しました。準備が整いましたので、こちらにお出でください。アイヅ公爵様がお待ちです」
アイヅって人は公爵なのか。侯爵のエースよりも格上じゃないか。
「お主だってイズモ国の太守なノだぞ?」
「忘れてた」
アシナに案内されて会見場に向かう。最初に案内された部屋もそうだったが、この廊下も壁も隅々まで掃除が行き届き、チリひとつ・汚れひとつ見当たらない。
この隙のなさは、領主の性格だろうか。それともこの土地の人々の特質なのだろうか。
俺がいままでに行ったところとは、なにもかもが違う。調度品も金がかかっているとは言えないが、とても上品で洗練されたものを選んでいる。そしてキレイに磨かれている。管理も良いが審美眼も良いのだろう。あなどれない領地である。
「こちらです」
会見場に入ると、そこには男女の剣士がいた。
いや、俺たちケンカしに来たんじゃないから。話し合いをしに来ただけだから。そんな剣を構えたりしないで。
俺はすでに逃げ腰である。
「よく来られた。私がホシナ家の代表でハニツである。こちらは妻のタダミだ。以後よろしく頼む」
「タダミです。遠いところをようこそ。スセリ様はお久しぶりですね」
「ええ、タダミさんごきげんよう。もう20年ぶりぐらいですわね」
「そうですね。あのときはろくにお話もできなくて残念でした。今回はゆっくりできるのでしょう?」
「それは会見の話次第ですのよ。でも、私も楽しみにしていましてよ」
なんだなんだ? なんだこのふたり。旧知なのは分かったが、なんか殺気が飛びまくっているんだが。
「まあまあ、それはあとの話として。オオクニ様代行のシキミ卿。まずはあなたのお話から伺おうか」
「あ、ああ、いや、その。あれだ。です。はいその。じつは、のののんのん納税の件で、ちょっと尋ねたいことが、ありありありまして」
お、お前ら、そんな目で俺を見るな。明らかに軽蔑のまなこじゃねぇか仕方ないだろ!
俺はこういう場面は苦手なんだよ。もっとざっくばらんに話せる場所じゃないと、緊張して身体中がかしこまってかちこちだよかしかしかし。
(我はけっこう見慣れているノだ)
(ああ、それは良かったね!)
「そんなに緊張せんでも良いぞ。話の内容はだいたい分かっておる。我らの出した質問状についてであろう?」
「あ、ああ、そうそうそう。え? 質問状? だったのですか?」
俺は詰問状と聞いていたのだが、話が違う。
「シキミ卿はまだ見ておらんのか。なら見てみるが良い。これがお主のところから送られてきたミノウ紙? とかいうやつだ」
それは見慣れた1枚の紙であった。そうそう、これこれ。この決算書だ。あれ?
「これだけ? 他になにか説明資料とか付いていませんでした?」
「なかったな」
「「「はぁぁぁぁ?!」」」
これには(スセリを除く)俺たち一同がぶっとんだ。こんなもの1枚を送られて、どうすればいいのか分かるやつがいたらお目にかかりたい。……だけど、ほとんどの領地はこれで提出してるんだよな? そいつらは理解度が高いのか? 他になにか理由があるのか?
いくらこの世界に書類文化がないといっても、これは酷すぎるだろ。アホのオオクニめ。それに。
「おい、スセリ!」
「なななな、なんですの?」
「お前は知ってたんだろ? なんでお手紙ぐらい付けなかったんだよ」
「わわわわわたしくはなにもしりませんわよ!!」
全部ひらがなで逆ギレすんな!
「それでこの意味を知りたくて、質問状を送ったと、そういうことでしょうか?」
「その通りだ。説明してもらえるか」
その紙はミノウ紙といって、ウソを書くことができない紙で、そこに去年度の収入と支出を書いて提出してもらいたい。それで税率が決まる。ってなことを説明した。
「ほぉ。そんな便利なものがあるとは、ミノウ様とはすごいスキルの持ち主なのだな。それでは今後は、細かい決算書などはいらないということか?」
「ええ、不要になります。いままで出していたのですか?」
「もちろんだ。貸借対照表と損益計算書、それに領収書や請求書などの控えもすべて添付していた。最近ではキャッシュフロー計算書も付けている。それが不要ということなら、こちらはどんなに助かることか」
なにその現代日本の決算書。そんなことまでしているとこ、初めて聞いたぞ!?
「そ、そうですね。楽になります。これからはそうしてください」
「分かった。しかしひとことそう言ってくれれば良かったのだがなぁ」
「それについては、明らかにこちらが悪いです。帰ったらきっちり反省させるので、許してやってください」
「ああ、別に怒ってはおらん。意味が分からないものが1枚だけ来たものでな、どうしたら良いのか途方に暮れたのだ。そういうことなら、問題はない。むしろ楽になって助かるよ」
いままできっちり決算書を提出していたアイヅからすれば、あんな紙1枚で済むはずがないと思って当然だろう。
他の領地ではもともとがいい加減であったものだから、違和感なく受け入れられたということのようだ。これは明らかに行政の怠慢。
「だぞ。スセリ」
「す、すまぬな。なにしろこちらも文官がいなくて、手紙の書けるものが皆無ですのよ。それに今回はミノウ紙に変更すると決まってから紙を送るまでの時間も短かったし」
「ということのようです、ハニツ殿。こちらの不手際はわびましょう。それでは改めてこの紙に書いて再提出していただけますね?」
「だが断る!」
「はぁぁぁぁ??!!」
こちらではトウホグ地方だったか。以前、誰かに聞いたな。
「よし、じゃあハルミ。そのフクシマに行って試練を終わらせて来よう。オウミ、転送できるか?」
「ダメなノだ。フクシマには行ったことがないから転送できないノだ」
「それなら、私が送って差し上げますわよ」
「そうか。じゃあ、俺とオウミにハルミの3人を送ってくれ」
「それとこの子も連れて行きますわ。ユウコさん、いらっしゃい」
「はーい」
はーいってなんだよ。スセリはなんでユウコを呼んだ? ユウコはすっかりスセリに手なずけられとる。俺の秘書だかボディガードだかだったはずなんだが、もうすっかり色物が板に付いてきたなぁ。
「色物にしないでください!!」
ハルミにいたってはヨゴレだし。
「汚れてないぞ!! 私はまだ清廉な処女だ!!」
……その発言がヨゴレじゃねぇか。
「それじゃ、行きますわよ。あなた、私のいない間に変なことになったらお仕置きですからね。しっかり務めなさいな」
「あ、ああ。分かった。気を付て行ってきてくれ」
「ひょいっ」
転送魔法の呪文である。読者はもう忘れていると思うので、念のため。スセリは何人でも運べますわと豪語した。さすがはニホン国首長の嫁である。
こうして俺たちは、トウホグ文化の中心地・アイヅに着いたのである。
「本日はようこそお越しくださいました。私はお世話係を務めさせていただきますアシナといいます。お疲れのことでしょう。まずはここでおくつろぎください。いま、お茶とお菓子をお持ちします」
転送されてきたのでぜんぜんお疲れではないのだが、それを言ってよさそうな雰囲気ではなかった。ここは黙ってサービスを受けよう。
転送されたのは、アイヅの領主・ホシナ氏が住むというお城の1室であった。スセリが1度だけ来たことのある場所だそうだ。
アシナは、年の頃ならちょうどハルミぐらいだろう。
だが、身長はハルミ以上にあり、金色に輝く長い髪を後ろでツインテールに結び、それが腰まで垂れている。
鍛え上げられた背中はピンと伸びていて、中乳ながらもなかなかに凜とした愛らしい少女である。
「中乳言うな。ユウ、この子は強いぞ。鍛え上げられた体つきを見れば私には分かる」
「え? あ、あり、ありが。とう、ございます」
「良ければ、あとで一手ご教授願いたいものだ」
アシナはそれを聞くなり目を輝かせた。
「はい! それは光栄です。ぜひ、お願いします!」
「そうか、それならすぐにでもや痛いっ」
「では、道場にご案内痛いっ」
「「痛ぁぁぁい」」
「会見が先だ。お前ら立場と状況をわきまえろよ」
あれ? 俺ってば、初対面の女の子をいきなりどついてしまったぞ。なんかハルミの兄弟を見るみたいで、遠慮しなくていい気がしたのだ。
「痛いですぅ。あと、兄弟じゃなくて姉妹と言ってくださいよぉ」
「わ、悪かった、アシナさん。いつもの癖でついな。あとでなんかプレゼントするから許しておくれ」
「え? それ、なんでもいいですか?!」
「なんでもってわけに行くか! それはモノによる。応相談だ」
意外とずうずうしい子であった。なんかいろいろ言いたいこともあるが、俺たちはそのまま会見まで待つことにした。
ホシナは、このトウホグ地方全体のドンとも呼ばれるほどの権力者であるらしい。
だいたいドンなんて呼ばれるやつは、ああいう人だと相場が決まっている。ここにもアイヅ判定なんてものがあるんだろか。なんだか怖い。いざとなったら、ユウコを人質にしてでも逃げようと思う。
そう思ってここにやって来たのだが、いきなりアシナのこの対応であった。こんな対応初めてである。
ホッカイではカンキチだったし、イズモではタケだった。礼儀正しいやつなんて皆無だったのに。
そしてお茶とお菓子が運ばれてきた。
「お待たせしました。下りもの(キョウト産)の玉露です。お茶請けにアイヅ名物の薄皮まんじゅうを用意しました。ただいま会見場の準備をしておりますので、もうしばらくお待ちください。用意ができましたら、お迎えにまいります」
玉露ってのは抹茶の最高級品じゃないか。それにまんじゅうというのは、砂糖の貴重なこの世界では贅沢品である。
アイヅは裕福な土地なのだろうか?
「うぅむ。俺たちって納税しろって言いに来たのだが、なんか歓迎されているようで、おもはゆいな」
「私もそのおはもはが良いぞ」
ハルミは無理して難しい言葉を使おうとしないほうがいい。
「なんとまあ、礼儀正しい子でしょうね。ぜひうちに欲しいですわね」
スセリは縛って遊ぶつもりだろうな。
「人に親切にされるなんて、すっごい新鮮ですよ。ちょっと当てが外れた感があるわね」
ユウコはどんな当てをしてたんだよ。
ぱくぱく。おっ、このまんじゅうはうまいな、ぱくぱく。ん? おかしいぞ、これ。うますぎる。
「あら、これすごいおいしいね」
「ほんとですこと。すっごい甘くてステキですわ。お代わりいただけるかしら」
使者がお代わりをするんじゃない! やはりこれは、砂糖を使ったお菓子だ。元の世界で食べたものにすごく近い。こんなうまいお菓子を作るやつがここにいたのか。
そいつを連れて帰りたいものだ。今年も後半になれば砂糖ならいくらでも提供できる。そしたら山のように作ってもらえるのにぱくむしゃぱく。
「お待たせ致しました。準備が整いましたので、こちらにお出でください。アイヅ公爵様がお待ちです」
アイヅって人は公爵なのか。侯爵のエースよりも格上じゃないか。
「お主だってイズモ国の太守なノだぞ?」
「忘れてた」
アシナに案内されて会見場に向かう。最初に案内された部屋もそうだったが、この廊下も壁も隅々まで掃除が行き届き、チリひとつ・汚れひとつ見当たらない。
この隙のなさは、領主の性格だろうか。それともこの土地の人々の特質なのだろうか。
俺がいままでに行ったところとは、なにもかもが違う。調度品も金がかかっているとは言えないが、とても上品で洗練されたものを選んでいる。そしてキレイに磨かれている。管理も良いが審美眼も良いのだろう。あなどれない領地である。
「こちらです」
会見場に入ると、そこには男女の剣士がいた。
いや、俺たちケンカしに来たんじゃないから。話し合いをしに来ただけだから。そんな剣を構えたりしないで。
俺はすでに逃げ腰である。
「よく来られた。私がホシナ家の代表でハニツである。こちらは妻のタダミだ。以後よろしく頼む」
「タダミです。遠いところをようこそ。スセリ様はお久しぶりですね」
「ええ、タダミさんごきげんよう。もう20年ぶりぐらいですわね」
「そうですね。あのときはろくにお話もできなくて残念でした。今回はゆっくりできるのでしょう?」
「それは会見の話次第ですのよ。でも、私も楽しみにしていましてよ」
なんだなんだ? なんだこのふたり。旧知なのは分かったが、なんか殺気が飛びまくっているんだが。
「まあまあ、それはあとの話として。オオクニ様代行のシキミ卿。まずはあなたのお話から伺おうか」
「あ、ああ、いや、その。あれだ。です。はいその。じつは、のののんのん納税の件で、ちょっと尋ねたいことが、ありありありまして」
お、お前ら、そんな目で俺を見るな。明らかに軽蔑のまなこじゃねぇか仕方ないだろ!
俺はこういう場面は苦手なんだよ。もっとざっくばらんに話せる場所じゃないと、緊張して身体中がかしこまってかちこちだよかしかしかし。
(我はけっこう見慣れているノだ)
(ああ、それは良かったね!)
「そんなに緊張せんでも良いぞ。話の内容はだいたい分かっておる。我らの出した質問状についてであろう?」
「あ、ああ、そうそうそう。え? 質問状? だったのですか?」
俺は詰問状と聞いていたのだが、話が違う。
「シキミ卿はまだ見ておらんのか。なら見てみるが良い。これがお主のところから送られてきたミノウ紙? とかいうやつだ」
それは見慣れた1枚の紙であった。そうそう、これこれ。この決算書だ。あれ?
「これだけ? 他になにか説明資料とか付いていませんでした?」
「なかったな」
「「「はぁぁぁぁ?!」」」
これには(スセリを除く)俺たち一同がぶっとんだ。こんなもの1枚を送られて、どうすればいいのか分かるやつがいたらお目にかかりたい。……だけど、ほとんどの領地はこれで提出してるんだよな? そいつらは理解度が高いのか? 他になにか理由があるのか?
いくらこの世界に書類文化がないといっても、これは酷すぎるだろ。アホのオオクニめ。それに。
「おい、スセリ!」
「なななな、なんですの?」
「お前は知ってたんだろ? なんでお手紙ぐらい付けなかったんだよ」
「わわわわわたしくはなにもしりませんわよ!!」
全部ひらがなで逆ギレすんな!
「それでこの意味を知りたくて、質問状を送ったと、そういうことでしょうか?」
「その通りだ。説明してもらえるか」
その紙はミノウ紙といって、ウソを書くことができない紙で、そこに去年度の収入と支出を書いて提出してもらいたい。それで税率が決まる。ってなことを説明した。
「ほぉ。そんな便利なものがあるとは、ミノウ様とはすごいスキルの持ち主なのだな。それでは今後は、細かい決算書などはいらないということか?」
「ええ、不要になります。いままで出していたのですか?」
「もちろんだ。貸借対照表と損益計算書、それに領収書や請求書などの控えもすべて添付していた。最近ではキャッシュフロー計算書も付けている。それが不要ということなら、こちらはどんなに助かることか」
なにその現代日本の決算書。そんなことまでしているとこ、初めて聞いたぞ!?
「そ、そうですね。楽になります。これからはそうしてください」
「分かった。しかしひとことそう言ってくれれば良かったのだがなぁ」
「それについては、明らかにこちらが悪いです。帰ったらきっちり反省させるので、許してやってください」
「ああ、別に怒ってはおらん。意味が分からないものが1枚だけ来たものでな、どうしたら良いのか途方に暮れたのだ。そういうことなら、問題はない。むしろ楽になって助かるよ」
いままできっちり決算書を提出していたアイヅからすれば、あんな紙1枚で済むはずがないと思って当然だろう。
他の領地ではもともとがいい加減であったものだから、違和感なく受け入れられたということのようだ。これは明らかに行政の怠慢。
「だぞ。スセリ」
「す、すまぬな。なにしろこちらも文官がいなくて、手紙の書けるものが皆無ですのよ。それに今回はミノウ紙に変更すると決まってから紙を送るまでの時間も短かったし」
「ということのようです、ハニツ殿。こちらの不手際はわびましょう。それでは改めてこの紙に書いて再提出していただけますね?」
「だが断る!」
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