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第242話 なんこゲーム
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「じゃあ、さんで」
「私は、にで!」
じゃらっ!!
「に。アシナの勝ち!!」
いえぇぇい!! そしてタネガシマは杯を飲み干す。これでアシナが18杯。タネガシマは21杯飲んだことになる。
しかし、見ている限りアシナのほうがダメージは大きいようだ。やはり飲み慣れてはいないのだろう。しょせんは11才である。
(なぁ、ハルミって酒は強かったか?)
(……ユウほど弱くはないが……)
(そうか。これは出直す必要がありそうだな。次はモナカを連れて来よう。まさかこんなゲームで勝敗を決することになろうとはな」
(まだ私がいますって)
(ハタ坊は酒に強いのか?)
(そこそこ)
そこそこじゃぁなぁ。やはり出直しだな、こりゃ。
そうこうしているうちに、アシナに限界が来た。21杯目であった。
「今度はアシナが先攻だ。いくつにする?」
「ひゃん!」
ダメだ。もう酔ってる。そろそろリタイアさせるか。
「アシナ。もう止めろ。お前はもう限界だ」
「ほんなことないもん。まだへべれけだもん」
「そういうのは、もうって言うんだ! ハルミ、手伝え。退場させる」
「分かった。お前は良くやった、あとは私にまかせろ」
「はふみはん。わはひはもうあひゃひゃひゃひゃ」
「アシナは笑い上戸かだったのか。おい、審判。こちらの負けでいい。宣言してくれ」
「そうか。それではこの勝負。サツマの勝ちとする!」
おおおーーーー!! という怒号が飛び交う。こいつらは声がでかい。図体もでかい。だから、酒の許容量も多いのだろう。
「ハタ坊、こいつの血中アルコールを抜くことできるか?」
「その場所から外に出してね。あの座席には結界が張ってあるみたいで、魔法が使えないの」
「え? そんなものがあるのか?」
「まあ、当然でしょうね。魔法でズルされたら面白くないでしょうから」
「そういうものか。それならハタ坊が魔法で勝つのは卑怯だとか、余計なこと考える必要はなかったな。おい、アシナ、しっかりしろ、ぺしぺしぺし」
「ひゃひゃひゃ、ほっぺがいひゃいあひゃひゃひゃ」
「ハタ坊、頼む」
「はいはい。とはいっても、すでに体内に取り込んだ分は無理だから、血中のアルコール分だけは分解するわね。ほれほれほれー」
「あひゃひゃぁぁぁ。。すぅぅぅぅぴよぴよぴよぴー」
小鳥かよ。寝ちゃったか。このまましばらくそっとしておこう。
そしてハルミの番となった、相手は引き続きタネガシマである。やつとてそうとう飲んでいるはずなのだが、少し顔が赤くなっただけで、酔った雰囲気さえも見せていない。
「それでは、先ほどの続きだ。先攻はハルミで」
「じゃあ、にで」
「むむっ。そう来たか。じゃあ私は、さん!」
じゃらっ!!
「に、だ! ハルミの勝ち!!」
初回はハルミの作戦勝ちであった。自分はひとつも持たずに2を宣言したのだ。タネガシマは自分が2つ持っていたために、それ以下の数字を言うことができなかった。
自分がひとつも持っていないのに、2以上の数字を言うのは勇気がいる。それを逆手に取っての作戦だった。
このとき、タネガシマが1個しか持っていなくても、1を宣言することは難しい。しかし2は先に言われてしまっている。すると3以上しか選択肢が残らないのだ。3個持っていればなおさらである。
これはアシナの戦いぶりを見ながら、俺たちで考えた作戦のひとつであった。この方法は負ける確率の低い手段だ。もちろん、引き分けとなる確率も高い。
しかし、相手も当然こちらの意図にすぐ気がつく。次からは対応してくるだろう。それに先攻後攻は交代なのだから、向こうも同じ手を取れるのである。
そうなると。
このゲームはただの飲み比べと化すのである。つまりは、たくさん飲めるほうが勝つのである。
その後、勝負そのものは互角で進んだ。ハルミが28杯。タネガシマが31杯。しかしタネガシマはその前に20杯以上を飲んでいる。どちらもまだまだ元気である。
挙動が怪しくなってきたのはタネガシマのほうが先であった。しかし、負けたとはなかなか言わない。
「先攻はタネガシマ。いくつにする?」
「ほぇぇ、さんで」
「じゃあ私は、に!」
じゃらっ!!
「さん! タネガシマの勝ち!!」
「くっそぉぉ。くいっ。あー、おいしい」
ハルミは喜んで飲んでいるような気がするけど。これは勝負だってこと、分かってやってるんだろうな。
しかし、タネガシマもさすがに連続はきつかったようだ。それは78杯目。つまり合計で100杯を越えたころに起こった、いきなり前方につっぷして動かなくなったのである。
それを見て、審判のシマズが宣言した。
「この勝負、イズモの勝ち!」
わぁぁぁ!! と言ったのは俺たちだけだった。味方がいないのは寂しいもんだな。
しかしハルミは勝ったとは言え、すでに70杯以上を飲んでいる。この先どこまで保つことやら。いっそ、諦めて出直そうかとなんども考えた。
しかし、出直したところで、モナカひとりで勝てるものか? という疑問符がつきまとう。必勝法は無理でも、なにか少しでも勝率を上げる手はないものか。そんなことをずっと考えていた。
今日は、このゲームを見ることに徹しよう。そう考えてこの勝ち目のないゲームを続けることにした。
そして次の対戦相手は、オガサワラという若者であった。タネガシマにオガサワラ。離島コンビかよ。まさか次はオキナワとかじゃないだろな?
オガサワラとの戦いで、ハルミは合計で148杯飲んだところでダウンした。
勝負に負けておちょこを持ち、くいっと飲み干そうとそっくり返ったところで、ひっくり返ったのである。
そしてそのまま大の字になって寝てしまった。お前はもうちょっと恥じらいというものだな……まあ、いまさらか。エロエロ剣士だったっけな。
「審判。こちらの負けを宣言してくれ」
「うむ。良く戦ったな。目が覚めたらハルミに伝えてくれ。大変立派な戦いぶりであったとな」
「分かった。伝えるよ」
「この勝負。サツマの勝ち!!!」
おぉぉぉおおおっ!!! と歓声が上がった。その合間にも乾杯をすることは忘れない。ハルミが勝ってもオガサワラが勝っても、その度に乾杯をしているのだ。どんだけ酒好きだよ、ここの連中は。
「あと、できればパンツは青のしましまにしてくれと」
「やかましいわ!!」
大の字に伸びたために、パンツが丸見えになったのである。だからってパンツの柄に注文を付けるなよ。
「ピンクのしましまのほう良くないか?」
「あんたも注文付けない!!」
ハルミをアシナの隣に寝かせて、いよいよ大将・ハタ坊の出番である。
大将とはいっても、それはただの順番であり、保険であり、おまけであり、恥かきっ子でありごまみそずいである。
「悪かったわね! 最後のほう、なんか変な単語が並んでたわよ?」
本来はここで負けにするつもりだったのである。しかし勝負が立ち会いではなく酒飲み大会なら、まあ出てもいいよな的な感じで送り出したハタ坊である。
「酒飲み大会と言うでない。なんこ大会と言え」
「どうせ勝ち目はない。しかしお前が潰れると治療係がいなくなるから、適当なところで負けてくれていいぞ。とことんが頑張ったりするなよ」
「あたしって、そんなに信頼ないのね」
「信頼はしてるさ。負けて来い」
「それ、全然してないってことよね!?」
もういい。ハルミがこうなった時点で俺たちに勝ち目はない。ここからまだ手強いのが後ろに並んでいるのだろうから。
しかし、俺が予想もしていなかった事態が、ここから起こるのである。
「先攻はオガサワラからだ。いくつにする?」
「じゃあ、さんで」
「あたしは、ご!」
じゃらっ!!
「ご。ハタ坊の勝ち!!」
「じゃあ、さんで」
「あたしは、に!」
じゃらっ!!
「に。ハタ坊の勝ち!!」
「じゃあ、いちで」
「あたしは、ぜろ!」
じゃらっ!!
「ぜろ。ハタ坊の勝ち!!」
誰もが目を見張るほど、ハタ坊は勝ち続けた。
「よん。ハタ坊の勝ち!!」
「ぜろ。ハタ坊の勝ち!!」
「に。ハタ坊の勝ち!!」
「さん。ハタ坊の勝ち!!」
「ろ、ろく?! ハタ坊の勝ち!!」
しかし、全勝というわけではなく、10回に1回くらいの割で負けている。しかもそのときは、決まって俺のほうを見て、6回ウインクをするのである。
なんだそれ? 6回? ヘルメット5回ぶつけたら、あ い し て る のサインってそれなら5回だ。6回ってなんだろう?
「ぜろ。ハタ坊の勝ち!!」
「に。ハタ坊の勝ち!!」
「いち。ハタ坊の勝ち!!」
「に。ハタ坊の勝ち!!」
10回勝った。そしてウインク6回。だからなんの合図だよ!? その合図を出すと必ず負けているということは、次は負けるの合図ということか?
つ ぎ は ま け る で6回か、なるほど。やかましいわ!!! なんでわざわざ負けてやる必要があるんだよ!
どうやらハタ坊は必勝法を身に付けたようだ。どうやったのかは、俺にもさっぱり分からない。しかし、相手側は不審に思ったようだ。
「審判、あの子なにかインチキしてないか?」
「うむ、いくらなんでもその勝負はおかしいぞ」
「なんこで、そんな連続して勝ったり負けたりするはずがないだろ」
「魔法を使ってるんじゃないか」
「ずずっ。なにをおっしゃいますやら。こんなに強固な魔法結界を張っておいて、そんなことができるとでも? あー、お茶がおいしい」
嫌疑を掛けられているのに、のんきなやつである。こうならないように、ときどきわざと負けていたのかも知れない。
だがそれにしては、あまりに定期的すぎた。きっちり10回に1回である。しかもそのつど俺にサインを送っていた。だから余計に不審に思われてしまったのだ。
「ハタ坊、審判として聞くのだが、お主はなにか不正なことをしていないか?」
「そう思ったら調べてみれば良いでしょ? 私は逃げも隠れもしないわよ」
堂々としたものである。詐欺師とはすべからく、こうあるべきである。
「誰が詐欺師よ!! あんたはこっち側の人間でしょうが!!」
怒られちゃった。そうでした。あまりに見事なものでつい立場を忘れてしまった。では気を取り直して。
「審判! 不正があるというのなら、その証拠を提示すべきだと思うのだが」
「ふむ。それはそうなのだが、しかし」
「その場では魔法は使えないようにしてあるんだろ? それとも結界がいい加減で、ちょくちょく漏れたりするのか?」
「そ、そんなことはない!! 我が国の専属魔法師が作った結界である。そんな不正など断じて……あっ」
墓穴を掘りやがった。
「では、不正はない、ということでいいな?」
「う、うむ。それは、そうであるな」
「じゃあ、続けてくれ。待ってるこちらは退屈なんだから」
ちぇっすっとぉぉぉぉ!! という勇ましい声があちこちにこだました。悔し紛れの悲鳴であろう。しかし、不正がないのであれば、こちらに遠慮する理由はないのだ。
「ううぅぅむ。仕方がない。勝負を続けよう。オガサワラ、まだ行けるか……オガサワラ?」
オガサワラ氏。おちょこを握りしめたまま、気を失ったようだ。まるで弁慶の仁王立ちのようだ。座ってるから仁王座り? 見事な最期である。天晴れである。
「いや、死んではいないから。寝てしまっただけだから」
「この勝負。イズモ国の勝ち!!」
ぶーぶーぶー。というブーイングばかりが響き渡る。しかし、俺はもちろん、スクナもハタ坊も知らん顔を貫いている。
騒いだところで、こちらの観客は俺とスクナしかいないのだ。どちらもボディガードを失って騒ぐわけには行かない、という事情がある。声量で勝てるわけがない、という理由もある。
ともかく、ここは毅然とした対応が必要なのである。
「ずずっ、このお茶、おいしいね、ユウさん」
「ずずずっ。ああ、良い茶葉を使ってるな、スクナ。もう酒は抜けたか」
「ずずず。ああ、これ、大陸ものの発酵茶葉ですわよ。私の魔法が効いたのね」
そんな俺たちののほほんぶりを見て、ますますいきり立つサツマの連中なのであった。ちぇっすとーーー。わははは、ざまぁ。
「で、では、次の者。センカク、ここに出よ」
そっちか!? オキナワ飛び越えてそっちに行っちゃったか。
「これで、大将同士の戦いということになる。これに勝ったほうのチームが勝者となる。それでは、先攻は」
「ちょっと待った! ひとつ確認させてくれ」
「おっと、なにかねイズモ公?」
「俺たちがこれに勝ったら、決算書をあのフォーマットで再提出してくれる、それでいいな?」
「ああ、その通りだ」
「で、俺たちが負けたらどうなるんだ?」
「そのときは」
「「「ごくりっ」」」
「決算書をあのフォーマットで再提出しよう」
「はぁぁぁ?!」
「私は、にで!」
じゃらっ!!
「に。アシナの勝ち!!」
いえぇぇい!! そしてタネガシマは杯を飲み干す。これでアシナが18杯。タネガシマは21杯飲んだことになる。
しかし、見ている限りアシナのほうがダメージは大きいようだ。やはり飲み慣れてはいないのだろう。しょせんは11才である。
(なぁ、ハルミって酒は強かったか?)
(……ユウほど弱くはないが……)
(そうか。これは出直す必要がありそうだな。次はモナカを連れて来よう。まさかこんなゲームで勝敗を決することになろうとはな」
(まだ私がいますって)
(ハタ坊は酒に強いのか?)
(そこそこ)
そこそこじゃぁなぁ。やはり出直しだな、こりゃ。
そうこうしているうちに、アシナに限界が来た。21杯目であった。
「今度はアシナが先攻だ。いくつにする?」
「ひゃん!」
ダメだ。もう酔ってる。そろそろリタイアさせるか。
「アシナ。もう止めろ。お前はもう限界だ」
「ほんなことないもん。まだへべれけだもん」
「そういうのは、もうって言うんだ! ハルミ、手伝え。退場させる」
「分かった。お前は良くやった、あとは私にまかせろ」
「はふみはん。わはひはもうあひゃひゃひゃひゃ」
「アシナは笑い上戸かだったのか。おい、審判。こちらの負けでいい。宣言してくれ」
「そうか。それではこの勝負。サツマの勝ちとする!」
おおおーーーー!! という怒号が飛び交う。こいつらは声がでかい。図体もでかい。だから、酒の許容量も多いのだろう。
「ハタ坊、こいつの血中アルコールを抜くことできるか?」
「その場所から外に出してね。あの座席には結界が張ってあるみたいで、魔法が使えないの」
「え? そんなものがあるのか?」
「まあ、当然でしょうね。魔法でズルされたら面白くないでしょうから」
「そういうものか。それならハタ坊が魔法で勝つのは卑怯だとか、余計なこと考える必要はなかったな。おい、アシナ、しっかりしろ、ぺしぺしぺし」
「ひゃひゃひゃ、ほっぺがいひゃいあひゃひゃひゃ」
「ハタ坊、頼む」
「はいはい。とはいっても、すでに体内に取り込んだ分は無理だから、血中のアルコール分だけは分解するわね。ほれほれほれー」
「あひゃひゃぁぁぁ。。すぅぅぅぅぴよぴよぴよぴー」
小鳥かよ。寝ちゃったか。このまましばらくそっとしておこう。
そしてハルミの番となった、相手は引き続きタネガシマである。やつとてそうとう飲んでいるはずなのだが、少し顔が赤くなっただけで、酔った雰囲気さえも見せていない。
「それでは、先ほどの続きだ。先攻はハルミで」
「じゃあ、にで」
「むむっ。そう来たか。じゃあ私は、さん!」
じゃらっ!!
「に、だ! ハルミの勝ち!!」
初回はハルミの作戦勝ちであった。自分はひとつも持たずに2を宣言したのだ。タネガシマは自分が2つ持っていたために、それ以下の数字を言うことができなかった。
自分がひとつも持っていないのに、2以上の数字を言うのは勇気がいる。それを逆手に取っての作戦だった。
このとき、タネガシマが1個しか持っていなくても、1を宣言することは難しい。しかし2は先に言われてしまっている。すると3以上しか選択肢が残らないのだ。3個持っていればなおさらである。
これはアシナの戦いぶりを見ながら、俺たちで考えた作戦のひとつであった。この方法は負ける確率の低い手段だ。もちろん、引き分けとなる確率も高い。
しかし、相手も当然こちらの意図にすぐ気がつく。次からは対応してくるだろう。それに先攻後攻は交代なのだから、向こうも同じ手を取れるのである。
そうなると。
このゲームはただの飲み比べと化すのである。つまりは、たくさん飲めるほうが勝つのである。
その後、勝負そのものは互角で進んだ。ハルミが28杯。タネガシマが31杯。しかしタネガシマはその前に20杯以上を飲んでいる。どちらもまだまだ元気である。
挙動が怪しくなってきたのはタネガシマのほうが先であった。しかし、負けたとはなかなか言わない。
「先攻はタネガシマ。いくつにする?」
「ほぇぇ、さんで」
「じゃあ私は、に!」
じゃらっ!!
「さん! タネガシマの勝ち!!」
「くっそぉぉ。くいっ。あー、おいしい」
ハルミは喜んで飲んでいるような気がするけど。これは勝負だってこと、分かってやってるんだろうな。
しかし、タネガシマもさすがに連続はきつかったようだ。それは78杯目。つまり合計で100杯を越えたころに起こった、いきなり前方につっぷして動かなくなったのである。
それを見て、審判のシマズが宣言した。
「この勝負、イズモの勝ち!」
わぁぁぁ!! と言ったのは俺たちだけだった。味方がいないのは寂しいもんだな。
しかしハルミは勝ったとは言え、すでに70杯以上を飲んでいる。この先どこまで保つことやら。いっそ、諦めて出直そうかとなんども考えた。
しかし、出直したところで、モナカひとりで勝てるものか? という疑問符がつきまとう。必勝法は無理でも、なにか少しでも勝率を上げる手はないものか。そんなことをずっと考えていた。
今日は、このゲームを見ることに徹しよう。そう考えてこの勝ち目のないゲームを続けることにした。
そして次の対戦相手は、オガサワラという若者であった。タネガシマにオガサワラ。離島コンビかよ。まさか次はオキナワとかじゃないだろな?
オガサワラとの戦いで、ハルミは合計で148杯飲んだところでダウンした。
勝負に負けておちょこを持ち、くいっと飲み干そうとそっくり返ったところで、ひっくり返ったのである。
そしてそのまま大の字になって寝てしまった。お前はもうちょっと恥じらいというものだな……まあ、いまさらか。エロエロ剣士だったっけな。
「審判。こちらの負けを宣言してくれ」
「うむ。良く戦ったな。目が覚めたらハルミに伝えてくれ。大変立派な戦いぶりであったとな」
「分かった。伝えるよ」
「この勝負。サツマの勝ち!!!」
おぉぉぉおおおっ!!! と歓声が上がった。その合間にも乾杯をすることは忘れない。ハルミが勝ってもオガサワラが勝っても、その度に乾杯をしているのだ。どんだけ酒好きだよ、ここの連中は。
「あと、できればパンツは青のしましまにしてくれと」
「やかましいわ!!」
大の字に伸びたために、パンツが丸見えになったのである。だからってパンツの柄に注文を付けるなよ。
「ピンクのしましまのほう良くないか?」
「あんたも注文付けない!!」
ハルミをアシナの隣に寝かせて、いよいよ大将・ハタ坊の出番である。
大将とはいっても、それはただの順番であり、保険であり、おまけであり、恥かきっ子でありごまみそずいである。
「悪かったわね! 最後のほう、なんか変な単語が並んでたわよ?」
本来はここで負けにするつもりだったのである。しかし勝負が立ち会いではなく酒飲み大会なら、まあ出てもいいよな的な感じで送り出したハタ坊である。
「酒飲み大会と言うでない。なんこ大会と言え」
「どうせ勝ち目はない。しかしお前が潰れると治療係がいなくなるから、適当なところで負けてくれていいぞ。とことんが頑張ったりするなよ」
「あたしって、そんなに信頼ないのね」
「信頼はしてるさ。負けて来い」
「それ、全然してないってことよね!?」
もういい。ハルミがこうなった時点で俺たちに勝ち目はない。ここからまだ手強いのが後ろに並んでいるのだろうから。
しかし、俺が予想もしていなかった事態が、ここから起こるのである。
「先攻はオガサワラからだ。いくつにする?」
「じゃあ、さんで」
「あたしは、ご!」
じゃらっ!!
「ご。ハタ坊の勝ち!!」
「じゃあ、さんで」
「あたしは、に!」
じゃらっ!!
「に。ハタ坊の勝ち!!」
「じゃあ、いちで」
「あたしは、ぜろ!」
じゃらっ!!
「ぜろ。ハタ坊の勝ち!!」
誰もが目を見張るほど、ハタ坊は勝ち続けた。
「よん。ハタ坊の勝ち!!」
「ぜろ。ハタ坊の勝ち!!」
「に。ハタ坊の勝ち!!」
「さん。ハタ坊の勝ち!!」
「ろ、ろく?! ハタ坊の勝ち!!」
しかし、全勝というわけではなく、10回に1回くらいの割で負けている。しかもそのときは、決まって俺のほうを見て、6回ウインクをするのである。
なんだそれ? 6回? ヘルメット5回ぶつけたら、あ い し て る のサインってそれなら5回だ。6回ってなんだろう?
「ぜろ。ハタ坊の勝ち!!」
「に。ハタ坊の勝ち!!」
「いち。ハタ坊の勝ち!!」
「に。ハタ坊の勝ち!!」
10回勝った。そしてウインク6回。だからなんの合図だよ!? その合図を出すと必ず負けているということは、次は負けるの合図ということか?
つ ぎ は ま け る で6回か、なるほど。やかましいわ!!! なんでわざわざ負けてやる必要があるんだよ!
どうやらハタ坊は必勝法を身に付けたようだ。どうやったのかは、俺にもさっぱり分からない。しかし、相手側は不審に思ったようだ。
「審判、あの子なにかインチキしてないか?」
「うむ、いくらなんでもその勝負はおかしいぞ」
「なんこで、そんな連続して勝ったり負けたりするはずがないだろ」
「魔法を使ってるんじゃないか」
「ずずっ。なにをおっしゃいますやら。こんなに強固な魔法結界を張っておいて、そんなことができるとでも? あー、お茶がおいしい」
嫌疑を掛けられているのに、のんきなやつである。こうならないように、ときどきわざと負けていたのかも知れない。
だがそれにしては、あまりに定期的すぎた。きっちり10回に1回である。しかもそのつど俺にサインを送っていた。だから余計に不審に思われてしまったのだ。
「ハタ坊、審判として聞くのだが、お主はなにか不正なことをしていないか?」
「そう思ったら調べてみれば良いでしょ? 私は逃げも隠れもしないわよ」
堂々としたものである。詐欺師とはすべからく、こうあるべきである。
「誰が詐欺師よ!! あんたはこっち側の人間でしょうが!!」
怒られちゃった。そうでした。あまりに見事なものでつい立場を忘れてしまった。では気を取り直して。
「審判! 不正があるというのなら、その証拠を提示すべきだと思うのだが」
「ふむ。それはそうなのだが、しかし」
「その場では魔法は使えないようにしてあるんだろ? それとも結界がいい加減で、ちょくちょく漏れたりするのか?」
「そ、そんなことはない!! 我が国の専属魔法師が作った結界である。そんな不正など断じて……あっ」
墓穴を掘りやがった。
「では、不正はない、ということでいいな?」
「う、うむ。それは、そうであるな」
「じゃあ、続けてくれ。待ってるこちらは退屈なんだから」
ちぇっすっとぉぉぉぉ!! という勇ましい声があちこちにこだました。悔し紛れの悲鳴であろう。しかし、不正がないのであれば、こちらに遠慮する理由はないのだ。
「ううぅぅむ。仕方がない。勝負を続けよう。オガサワラ、まだ行けるか……オガサワラ?」
オガサワラ氏。おちょこを握りしめたまま、気を失ったようだ。まるで弁慶の仁王立ちのようだ。座ってるから仁王座り? 見事な最期である。天晴れである。
「いや、死んではいないから。寝てしまっただけだから」
「この勝負。イズモ国の勝ち!!」
ぶーぶーぶー。というブーイングばかりが響き渡る。しかし、俺はもちろん、スクナもハタ坊も知らん顔を貫いている。
騒いだところで、こちらの観客は俺とスクナしかいないのだ。どちらもボディガードを失って騒ぐわけには行かない、という事情がある。声量で勝てるわけがない、という理由もある。
ともかく、ここは毅然とした対応が必要なのである。
「ずずっ、このお茶、おいしいね、ユウさん」
「ずずずっ。ああ、良い茶葉を使ってるな、スクナ。もう酒は抜けたか」
「ずずず。ああ、これ、大陸ものの発酵茶葉ですわよ。私の魔法が効いたのね」
そんな俺たちののほほんぶりを見て、ますますいきり立つサツマの連中なのであった。ちぇっすとーーー。わははは、ざまぁ。
「で、では、次の者。センカク、ここに出よ」
そっちか!? オキナワ飛び越えてそっちに行っちゃったか。
「これで、大将同士の戦いということになる。これに勝ったほうのチームが勝者となる。それでは、先攻は」
「ちょっと待った! ひとつ確認させてくれ」
「おっと、なにかねイズモ公?」
「俺たちがこれに勝ったら、決算書をあのフォーマットで再提出してくれる、それでいいな?」
「ああ、その通りだ」
「で、俺たちが負けたらどうなるんだ?」
「そのときは」
「「「ごくりっ」」」
「決算書をあのフォーマットで再提出しよう」
「はぁぁぁ?!」
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初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
一流冒険者トウマの道草旅譚
黒蓬
ファンタジー
主人公のトウマは世界の各地を旅しながら、旅先で依頼をこなす冒険者。
しかし、彼には旅先で気になるものを見つけると寄らずにはいられない道草癖があった。
そんな寄り道優先の自由気ままなトウマの旅は、今日も新たな出会いと波乱を連れてくる。
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