異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第241話 勝負はゲームで

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「では3人勝負ということにする。それで良いか?」
「3人? それは先に2勝したら勝ちということか?」

「いや、原則は勝ち抜き戦となる。ただし、勝った者は次の者と交代してもそのまま続けても良い。しかし、負けたものはその時点で抜けることになる。戦える人間がいなくなった時点でそのチームは負けだ」

 柔道の勝ち抜き戦と同じだよな。しかしなんで勝ったほうが抜けても良い、なんてルールが必要なんだろ? 選手の疲労を考えてのことか? 負けると分かっていても、少しでも相手を疲労させておくのが普通だと思うのだが。

「よし! それなら私ひとりで充分だ!」
「待ってください、ハルミさん。相手の様子見も必要です。私が先鋒を務めます。ハルミさんはその後で」
「しかし」

(ハタ坊は治癒魔法は使えたか?)
(もちろんだ。冒険者たちを治してやっていたからな。相当な重傷でも治してやるよ)
(それは心強い。そのときは頼むぞ)

 エルフ薬もたっぷり持っているが、それは小さなキズを治したり体力を回復させる薬だ。大けがを負ったら薬だけでは手に負えないだろう。そのときに、ハタ坊の治癒魔法があるのは心強い。

「そうだな。これは負けられない戦いだ。相手の出方を見ることは重要だろう。アシナ、辛い役目になるが、頼めるか」
「まかせてください!」

「うちで戦えるのは、お前らふたりだけだ。しかし、アシナは本来危険なことをする立場ではない。エルフ薬もたっぷり用意してあるから、ケガをしたらすぐに逃げ帰って来い」
「私だって護衛です。そんな遠慮はしないでください。自分からハルミさんにくっついてここまで来たのです。仕事をせずに帰ったのではハニツ様に会わせる顔がありません。私だってアイヅ剣士ですから」

「それはそうだが。お前に大ケガをさせたら、俺がアイヅ公に合わせる顔がなくなるんだよ。無理はするな。お前の後ろにはエースのハルミがいることを忘れるな」
「はい、それは承知しています」

「で、次鋒、と言えばいいのか、その役はハルミに頼む」
「ああ、まかせておけ」
「それと、3人目はハタ坊。お前だ。その前に人型に戻っておいてくれ」

「勝ち抜き戦なら、私の後ろにはいらないぞ?」
「どろろんぱっ。あら、あたしが先鋒でもいいのに」

「ハタ坊は戦力としては考えていないんだ」
「どうしてよ!!」
「いや、お前が魔法を使ったら、なんか卑怯な気がするんだよ」
「バレないように使うよ?」

「いや、そういうことじゃなくて。ともかく、ハタ坊は3人目として並んでいれば良い」
「戦力として考えていないのに、どうして3人目を出す必要があるんだ?」

「万が一のことだが、ハルミが敵の3人目と引き分けにでもなった場合、ひとり残っていればこちらの勝ちになる。そういうケースを考慮してのことだ。そのために、戦闘要員ではないハタ坊もエントリーしておくんだ」

「万が一なんてことはない!」
「分かっているよ。ハルミのことは信頼している。だが、ここは敵地だ。どんな罠があるとも限らん。なんこという競技だって、ルールさえ良く分からんのだ。これはただの保険だと思ってくれ」

「そうか、それなら仕方ないな」
「つまんないの」

 ハタ坊はダンジョンの経営をできるぐらいの腕前なのである。魔法を使ったら、人間相手なら圧勝してしまうであろう。さすがにそれは気が引ける。てか、それは不正行為かもしれない。

 ハタ坊をなだめていざ決戦に赴く。

「そちらの先鋒は誰だ?」
「私です!」
「名前はなんという?」
「はい。アシナと申します」

「そうか。ではアシナ。そこに座……待て待て。なんで刀を構えるのだ? そんなものしまってそこに座れ」
「え? あ、はい。まず座るのですね」
「まず、というかずっとだがな」

 ずっと座ったまま? それで斬り合いするのか? それじゃ両方ともケガまみれじゃねぇか。そんな危険なことさせられる……あれえ? なんだあれは。

 アシナと対戦相手の間に、30cm角ほどの1枚の木製の板が運ばれてきた。

 木製の板? これをいったい?? これで相手の攻撃から身を守るのだろうか。

 そしてそれぞれに、3本の短い木製の棒が手渡された。手のひらにすっぽり入る長さである。

 なんだこれ。木製の棒なんかどうすんだ? 叩いてかぶってじゃんけんぽん? それにしては短すぎるやろ。

「それではルールを説明しよう。アシナ殿は手が小さいから短めの棒を用意した。それを片手で握ってみてくれ」
「はい? こうですか」
「うむ、それでいい。棒は完全に隠れるな」
「ええ。はい。隠れます……ね」

「それで、まずはじゃんけんをするのだ」

 やっぱり叩いてかぶって……それにしてはなんで棒がいる? それも3本もか。試合はどうなった? 戦いはどこにいった?

「勝ったほうが先行だ。このゲームが初めてなら、ちょっと練習をしておこうか」

 なんだゲームって。この地では立ち会いのことをゲームと呼ぶのか? アイヅよりある意味物騒だな。

「その棒を後ろ手に持って、片手で適当な本数を握って相手に見えないように前に差し出せ」
「はい、こうですか?」

「そうだ。そしてじゃんけんに勝ったほう……練習だからタネガシマを先にやらせるが、差し出された棒の本数を当てるのだ。タネガシマ、数字を言ってみろ」
「はい。じゃあ3本で」

 ???

「次はアシナ。お主だ。ふたりが前に差し出した木の棒は、足して何本あると思う?」
「足して、ですか。えっと全部で6本だから。じゃあ。4本で」

「うむ。後攻は、その数字を言いながら手を開いて板の上に自分の棒を投げ出すのだ。それに習って先攻者も棒を投げる。やってみろ」

 アシナが4本と言いながら手を広げると、じゃらっ、という音が両者から発生した。タネガシマとアシナから木の棒が放たれたのだ。

 そして結果は、アシナが1本、タネガシマは2本。合計で3本であった。

「勝者。タネガシマ!」
「私の勝ちです」」

 なにこの寸劇。それでどうなったらどうなるんだ。いつ、剣を抜く?

「どちらも当たらなかった場合は、先攻と後攻を入れ替えてやり直しとなる。そして負けたほうは、このおちょこに注がれた酒を飲み干さないといけないルールだ」

 はい?

「ルールは分かったな?」
「ちょちょちょちょっと待った。それだけか? それでいったい勝負ってのは?」
「先に飲み潰れたほうが負けとなる」

 はぁぁぁ!? ただの宴会ゲームじゃねぇか!!!!

 ここ、サツマだよな。あの薩摩だよな。示現流っていういかにも荒っぽい流派の薩摩だよな? ただ上から振り下ろすだけの剣技で、あの新選組をもビビらせたという恐ろしい連中の国だよな?

 そんな国で「トラブルが起きたときにすることは決まっている」と言われれば、荒っぽいことだと誰だって思うだろうが。それが宴会ゲームかよ!

 エルフ薬をたっぷり用意して。 意味ねぇぇぇぇ。
 先鋒とか次鋒とか、剣道かよ!  意味ねぇぇぇ。
 そんなことを真面目に考えていた俺たち。 アホみてぇぇぇ。

「あはははは。これは面白そうだ。アシナ、頑張ってやれよ」

 と、のんきなエールを送ったのはハタ坊だ。俺たちの張り詰めた空気は一瞬にして瓦解した。
 酒を飲むだけならケガをすることもない。命にかかわることもないだろう。危なくなる前に俺たちが止めるだけだ。

 しかし、勝負は勝負だ。

「アシナは、酒には強いほうか?」
「どうでしょうか。付き合いで飲んだことはありますが」

 と言いながら満更でもない様子である。何度も書いてきたが、ここには飲酒に関して年齢制限はない。アシナは14才。ハルミと同じだ。ある程度は酒にも耐性があるのだろう。

 タケがこの地に派遣されて、ぐでんぐでんに酔って帰ってきたという事実を、俺はもっと早く思い出すべきであった。
 タケはこのゲームをやったのだ。そして負けたのだ。

 あの酒に強いタケを負かした――そのぐらい飲ませた――のだから、こちらの連中はそうとう酒に強いということを警戒するべきであった。

 そうと分かっていれば、うわばみとも評されるモナカを連れてくることもできたのに。

 このゲームに必勝法はない。ただの勘だけ、というほど単純ではないいが、将棋や囲碁のように強くなるような要素はほとんど見当たらない。ポーカーのように相手の表情を読むなんて技能も意味がない。

 ただただ、酒に強い。それがこのゲームの勝利者の条件だ。

 木の棒はふたりの持ち分を足して最大が6だ。自分が何本持ったのかは分かっている。それに相手が持った本数を推測して足すだけだ。それだけのゲームである。

 特に先攻者の場合、先に答えを言える権利はあるが、ほとんどそれは偶然である。ヤマ勘に近い。後攻者は相手の言った数値がヒントになるが、先に答えを言われているために、当てられる範囲は狭くなる。

 まあ、良くできたゲームである。宴会的にはの話である。

 しかし、俺は気づいていなかった。このゲームには、見事な落とし穴があったのだ。
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