異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第248話 イズナの魔鉄

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 ハンドグラインダーなど、モーターがあれば簡単にできるのだ。しかしこの世界でそれはとても望めない。
 電気もごく一部にしか普及しておらず、モーターどころか電灯さえないのだから。

 だがベアリングさえあれば、なんとかなるはずだ。そう考えた。回転機ならろくろがある。それを使おう。

 そこで、こんなものを考えた。

 太めの鉛筆のような鉄製のボディ。その中にはベアリングを仕込んで良く回転するようにしておく。

 先端にはウエモンが作った砥石を差し込める穴を開ける。そして尻にも穴が開いていて、そこにろくろの回転軸を当てると、中のベアリングがびよぉぉぉんと回転するのだ。

 ベアリングが回転すれば、装着した先端の砥石も回転する。そういう仕組みである。

 充分回転数が上がったら取り出して、それでガラス加工をするぐぃぃぃぃん。ベアリングの滑らかさが、ある程度の時間、回転を続けてくれるだろう。

 そして加工しているうちに別のハンドグラインダーをろくろにセットしておけば、回転力が弱まったら交換すればいい。それを繰り返せば生産性も上がるはずである。

「という計画なのだが」
「ベアリングって、なんですか?」

 あぁん、そこからか。

「ビー玉って知ってるか?」
「ええ、ありますね。よく遊びました」

 よかった。それはあるんだな。ビー玉は本来ラムネという炭酸飲料の栓になっていたものである。しかし、製造技術が未熟なその当時は、狙った通りの玉が作れずに、規格外れ(B級品)というものが存在した。それを遊び用として売り出したのが当たったのである。だからB球なのだ。マメ知識。

「それを下に並べて上に板を乗せると、ころころと転がるだろ?」
「転がりますね」
「それを利用する」
「はぁ」

「ハンドグラインダーの回転を妨げるのは、摩擦抵抗だ。これはそれを減らす工夫なんだ」
「なるほど。ということは、回転軸の回りにそのガラス玉を並べれば良いのですね」

「ガラスではおそらく強度が持たないと思う。割れたら意味がないしな。それと、玉をランダムに入れては逆効果だ。かえって抵抗が増えてしまう。だから、玉の直径よりもちょっとだけ薄い枠に入れて、玉を固定する必要があるだろう」

「玉よりもちょっとだけ薄い枠、ですか。あれ、ちょっと待って下さい。それをあの細い鉛筆の中に入れるわけですか?!」
「その通り。難しいか?」

「すると、そうとうに小さな玉を作らないといけませんね。ガラスでは到底無理です。ステンレスならできますが、それを、完全な玉にしないといけませんよね?」

「ああ、真球に近いものを作らないと、それだけ摩擦抵抗は逆に増えることになる。さらにこの場合、潤滑油などを入れないでもらいたいんだ」
「え! オイルなしですか?!」

「ダメだ。ハンドグラインダーを使っている途中でオイルが漏れてきたら面倒なことになる。玉だけで摩擦を減らすことを考えてくれ」

「だいたいの玉ならいくらでも作れますが、どうやって真球にするか、それが難題ですね」
「それは回転させながら削る、という作業が必要になるな」

「回転させながら削る? ですか」
「固い材料でできた溝に玉を入れて、圧力を掛けながらぐるぐる回転させるとだんだん削れて行くだろ? その溝の幅より小さくなると出口から出てくる。そのときには真球に近いものになっている、という理屈だ。ちょうどソバ粉や小麦粉を挽くのと同じ理屈だ。そして溝の寸法をだんだん小さくして、何度も繰り返せばそれだけ真球に近づくことになる」

「そうなると、まずはその型を作るところから始めないといけませんね」
「そういうことになるな。今回はまだ最初だ。型はひとつだけでいい。それでどこまで真球に近づけるか、やってみてくれないか」

「そうか。型が必要か……あっ!?」
「どうした?」

「あのじつは、魔鉄がいま、大量に余ってまして」
「はあ?! 魔鉄ってイズナが作ったやつか? 余るほど作ったのか?」

「ええ、そうです。イズナ様に魔法をかけていただいたとき、魔鉄が5キログラムほど取れたんです」
「そんなにか?! ほとんど、普段の銑鉄並の量じゃないか」
「ええ、それでナイフとフォーク、それに小型のニホン刀を作ったのですが、全部で1Kgにもならなくて」

「それで4Kgも魔鉄が余っているわけだ。それがどうして型に使えると?」
「今回は、どういうわけかその魔鉄さんが、僕の想いを取り込んでしまったようなのです」

「魔鉄さんって、それは俺の創作話な。それになんだ、ゼンシンの想いって?」
「イズナ様から聞いたのですけど、魔鉄を作るときに、魔法を掛けた魔王様が誰のことを思っていたかによって、魔鉄に性質が生まれるとか。その人の想いが魔鉄に乗り移るらしいのですが」

 ああ、それは俺とオウミの説が混ざってるな。オウミが魂が宿るとか言ったのは、ただの思いつきだったと白状してたし、俺の説にしてもただの擬人化だ。それが正しいという証拠はいまのところない。

「イズナ様は、最初のときはウエモンのために、という気持ちで魔法を掛けたそうですね。それであの不思議なバイトができました」

「そうだったな。じかし呪文がなにやらおかしなことになって、数キログラムもの銑鉄を使ってたった数百グラムのバイトが1本できただけだった」

「ええ、今回もそうなるのかと思っていたのですが、5キログラムの魔鉄がまるまるできてしまいました。しかも今回イズナ様には、呪文をかけるときになぜか僕のことを考えてしまったようで」

「ほう。かつてミヨシの思いを汲んだ魔鉄が、オウミヨシになったように、今度はゼンシンか」
「ええ、そうです」

 ついでに言えば、ハルミの意を汲んだ魔鉄が斬鉄刀・ミノオウハルになり(その後さらにややこしく進化したが)、ウエモンの意を汲んだ魔鉄は、あの鉄さえもさくさく刻む魔バイトになった。

 しかし現状ではその法則が実証されたとは言い難い。ただ、他に説明もつかないし反論するだけの根拠もないから、とりあえず信じて置こうという暫定真理に過ぎないのである。万有引力の法則などと同じである。マメ知識。


「それで、ゼンシンの意を汲んだその魔鉄には、どんな機能がついたんだ?」
「そのとき、僕はずっとタングステンのことを考えてました」

 あっ、そういえば、タングステン鉱が見つかってたんだったな。それでなにかを作れるはずだ、とまで考えた記憶がある。なんだっけか?

「そういえばあったな、そんなことが」
「タングステン鉱石からの粉末を取ることは簡単でした。ミノウ様に見ていただいたところ、どうやら純度もかなり高いようです。しかし、それを冶金? でしたっけ。成形する方法が分かりませんでした。炭化タングステンは鉄の硬度の2倍もあると言うことをユウさんに聞いてから、ずっとそのことを考えていたんです」

「なんか分かってきたぞ。まさか、その魔鉄」
「ええ、そうなんです」
「固いのか」
「僕が望んだように、めっさ固い魔鉄となりました。それなのに」
「なのに?」
「僕には簡単に加工ができてしまうという」

 ああ、なんて便利な魔鉄さんだこと。今度はそうなったか。やはり人の思いを反映する鉄ができるってのは、真実なのかもしれない。ああ、ファンタジー万歳。

 それなら俺がきれーなおねーちゃんになれと思ったら、その意を汲んだ魔鉄ができるのだろうか?

 ……これがほんとの鋼鉄のガールフレンド。やかましいわ。

 それはともかくである。ってことは?

「じゃあ、イズナの刀はお前が打ったんだな?」
「はい、そうです。その魔鉄はやっさんにも打てませんでした。いくら加熱しても叩いても、僕が作った鉄の塊から少しも変化しなかったのです」
「だけど、ゼンシンには簡単に加工ができたのか。素手で削れたりして?」

「さすがにそこまで柔らかくはありません。ただ、僕にとってはごく普通の軟鉄でした。それでイズナ様用にニホン刀を作りました。それで、オウミ様やミノウ様とチャンバラ遊びをしたら、相手のめっきをぼろぼろにしちゃったそうです」
「あらあらあら」

「それでもニホン刀本体にキズが付かなかったは幸いでした。アチラさんにニッケルと金のめっきをやり直しをしてもらって、いまでは元以上にキレイなめっきが付いています」

 うむ、ニッケルを下地にする技術が向上しているなぁ。しかし、さすがは相手も魔鉄の端くれである。本体までは被害が及ばなかったようだ。
 しかし、表面を覆ってるに過ぎないめっきは、衝撃で簡単に剥がれてしまったのだろう。あれは消耗品だから仕方ない。

「魔王どもがチャンバラごっこをする限りは、めっきはどのみち禿げる運命けどな」
「それはそうですね。で、その鉄がまだ4キログラム以上も余っているのですが」

「でもゼンシンはそれで、冶金用の入れ物を作るつもりじゃなかったのか?」
「ええ、そうしたかったのですが、ユウさんの許可が必要なので、未着手なのです」

 ああ、そうだった。魔鉄作りは俺がとうきょときょきょかきょきょ(合ってるのか、これ?)とかいうものを持っているんだったな。それは魔鉄を使った製品にも適用されるのであった。

「分かった。じゃあ、許可しよう。だが、その前にその魔鉄で玉の加工用型も作ってくれないか」
「はい! ありがとうございます!! すぐにやらせていただきます」

「おーい、ゼンシン。そろそろ銑鉄が出てくるころじゃないか?」 ヤッサンである。
「ああああっ!! しまった。すぐ行きます! ユウさん、こっちが片付いたらすぐに型を作ります。それまで待っててくださいっ」

 ダッシュして灼熱の部屋に飛んでった。そんなに慌てなくてもいいよ、しゃくしゃく。うまいうまい。

「お主のそういう態度を見るたびに、なんか釈然としないものを感じるノだ、しゃくしゃくしゃく」
「まったくなのだヨ。いつも口だけで、自分ではなにもしていないヨざくざくざっく」
「ウエモンの足の爪の垢でも、煎じて飲ませると良いのゾヨ、むしゃむしゃむしゃ」

 お前らが言えた義理かよしゃくしゃくしゃく。
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