異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第305話 適正のあるその人の名は

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 7つの領地に決算書を出させるという仕事を終えた俺は、オウミだけを連れてイズモの神殿にやって来た。
 アメノミナカヌシノミコトから報酬をもらうためである。オウミだけを連れてきたのは、その報酬をもらう際にスクナを立ち会わせたくなかったのである。

「ということで、ちょっと予定より押したが設定された全領地を回って来たぞ、アマチャン。ヒダ国とミノ国を除けば、もう決算書は出ているはずだ」

「ああ、もう来ておるよ。ほんとに全部出させるとは、たいしたものじゃな」
「なんだ、無理だと思ってたのか?」

「タケの話では、取りつく島もなかったという話だったからのう」
「ああ、サツマか。今後あそこには酒の強いやつを厳選して行かせるべきだろう」

「タケも弱いほうではないのだが。分かった。覚えておこう」
「タケを使うなら、アイヅに行かせるのが良いだろう。あそこはなんでも武力で解決したがる土地柄だ」
「そうなのか、それも覚えておこう、めもめもめも」

「感心だな、メモをするようになったのか」
「財政が持ち直したので、紙が買えるようになったのじゃよ。ワシ専用のメモ帳だ、ほれほれ。キレイなもんじゃろ?」

「メモ帳ぐらいが自慢かよ! それ、オオクニも持っているんだろうな?」
「うむ、それが」
「持たないのかよ。もう本当にあいつら追放したらどうだ?」
「いや、そこまではさすがに」

「そこまでしなくても、時間の問題という気がするけどな。いずれ政権交代に」
「物騒なことを言うでない。ここは言霊の国だぞ」

「そうだったな。ここは縁起の悪い言葉、という言葉が普通に通用する国だ」
「なんだ、分かっているではないか」

 「死ね!」とか「(受験生に)滑る、落ちる」とか。そういうことを言うと、

「そんな縁起の悪い言葉を言ってはいけません!」

 と叱られたことがある人は多いだろう。これは日本特有(だけとは言わないが)の考え方で、それによって悪いものを引き寄せると考えられているのである。

 死ねと言ったところで、その人が死ぬことなどあり得ない。バナナの皮で滑ったといって、受験に落ちるわけじゃない。それが合理精神というものである。

 しかし、日本では死ねと言うと死ぬ(と思っている)し、滑ると言うと滑る(と思っている)のである。だから口に出してはいけないのである。

 これを言霊信仰と言う。その結果として「縁起の悪い言葉」という言葉ができてしまうのである。

 昨今流行のヘイトとは、本質の意味で似て非なる言葉である。いつものまめち。

「ヒダは、これこれあれこれそういうわけで、イリヒメを監査役にすることで、ハクサン家の存続を許した。なにか問題はあるか?」
「ふむ。我が国最初の監査役というわけだな。お主が選んだのなら文句はない。ハクサン家についても、しばらく様子を見ることにしよう。オオクニの監督不行き届きも原因のひとつじゃからの」

「また問題が出るようなら言ってくれ。ヒダ国はミノ国にとって他人ではないからな。俺のできることなら協力する」
「ほぉ」
「なんだよ?」

「いや、お主はイズモの太守なのに、気持ちはやはりミノ国にあるのだ、と思ってな」
「そういやそうだ。ミノ国は最初に飛ばされた地だ。どこに行くにせよ、あそこが俺のベース基地となっている。それにイズモは腰掛けのつもりだ。ここの経済が好転したら、オオクニに返すつもりでいる」
「そうか。オオクニにもそう言っておこう。喜ぶだろう」

「それじゃ、報酬をもらおうか」
「いきなりだな、おい」

「第5章の冒険者編も、そろそろ終わりだからな。まとめに入らないと」
「うむ、いいだろう。お主の働きは報酬にふさわしいとワシは判断する」
「よろしく頼むよ。で、適正のあるものはいたか?」

「うむ。お主の関係者で、識の魔法に適正のある者は、ひとりだけいた」
「たったひとりか! それは誰だ?」
「まあ、焦るでない。それと、識の魔法を得ることのできる者が、ふたりいる」

「なんだそれは?」
「得ることが可能というのは、最良の選択ではないが、一応取得できる、というレベルだと思ってくれ」
「どう違うんだ?」

「完全適正ではないから、将来なにかと制限が出る可能性がある。しかもここで識を選んでしまうと、他の特性に移ることはできないということじゃ」

「なんだかややこしいな。識はただの属性だろ? そもそも属性ってのは移ることができるものなのか?」
「ある程度は可能じゃよ。たとえば、土なら、土生金(どしょうきん)と言って金と相性が良いのじゃよ。だから移ることができる。水なら、水生木(すいしょうもく)と言って木に移ることができる。だが、その逆はダメじゃ」

「ますますややこしくなったな。それ四柱推命の五行に似てないか?」
「四柱推命というのは知らないが、五行と言うのならおそらくは似たようなものであろう。じゃが、識だけはそこから離れた独立属性じゃ。どの属性にも変更は利かない」

「それでなにか困ることがあるのか?」
「それは本人次第だが、つまりは現状が白紙なのじゃよ。どの色にも形にでもなるが、まだ素材として確立していないということじゃ」
「うむ、もし将来に識の適正がないと分かったとき、そのどの能力も充分発揮されない、そういうことだな」

「そういうことだ」
「あれ? ということは、そのふたりって、すごく若いということじゃないのか?」
「ふたりとも、お主ぐらいかそれ以下の年齢じゃの」

「もったいぶるのは止めよう、名前を言ってくれ」
「うむ、そうしよう。ひとりは」

「どこどこどこどこどこどこどこどこどこ」
「タケ、やかましいわ!! 気分を盛り上げるためのドラムロールなんかすんじゃねぇ!」

「でもこれ、アメノミナカヌシノミコト様のリクエストで」
「あまちゃん!?」
「良いではないか。文字数が稼げて」
「二度とすんな!! さっさと言え!」

「ワシ、良かれと思ったのにな、くすん」
「いいから早く言えっての」
「スクナとアルファじゃよ」

 ぐっ。と俺は言葉に詰まった。スクナが入っていて良かった……のか悪かったのか、どっちだろう。俺が安心したのは確かだが、スクナの将来に関わる問題だと思うと、喜んでばかりもいられない。

 俺が識の魔法を切望していることを、スクナは良く知っている。私が識の魔法使いになるから、とまで言ってくれたぐらいだ。しかし、そこにこんな罠が待ち構えていたとは。

 俺はスクナになんて言えばいいのだろう。この話を伝えれば、スクナはきっと識の魔法を選択するだろう。それはスクナにとって本当に良いことなのか。それより、もう少し様子を見て、本当に適正のある魔法を学習したほうが良いのではないか。

 まあいい。それは後で考えよう。最後のひとりの名前を聞いてからだ。

「では、適正があるというのは誰だ?」
「ちょっと待てユウ、スクナを思いやる気持ちはよく分かったが、アルファのことはスルーなノか?」

「ああ、アルファってベータの兄ちゃんだったな。別に興味ないよ? むしろ、なんでそいつが俺の関係者なのか不思議に思っているぐらいだ」

「ユウ・シキミの縁者、というキーワードで検索して、引っかかったものすべてをスキャンしたのじゃ。たまに、意外な者が引っかかることがあるのじゃよ」

「そ、そうなのか。それはご苦労であった。で、最後のひとりだが」
「だからアルファのことは良いのか?」

「俺は会ったこともないからな。別にどうでも」
「あの者、ナガタキと同じ病だとワシには思えるのじゃが」

「ナガタキの病? アルファってやつは、そんなエロ好きなのか? 策略好きなのか?」
「そういうことじゃないと思うノだ」

「性質の話ではない。病気の話だ。アルファも幼少の頃から熱を出して良く寝込んでいたのであろう?」
「オウミ、知ってるか?」

「聞いたことがあるノだ。そう言われると症状が同じなノだ」
「ということは、あまちゃん。そのアルファってやつもあのダンジョンで飼えば、イッコウになる痛いっ」

「なるわけないじゃろ! 魔力の暴走を抑えるのに、好素が重要な役を果たす可能性があるという話じゃ」

「痛たたた。まさかあまちゃんにツッコまれるとはな、ちょっとしたギャグだったのに。で、そいつも治せるということか?」
「まだ可能性の話じゃよ。ナガタキにしても偶然治っただけかも知れん。それにアルファの年は、すでに幼少とは言えんからのう」

「手遅れの可能性もあるわけか。で、最後のひとりはだだだだだだ」
「その前にアルファを助けてやるノだ!」

「オウミにまでツッコまれると、俺の立場がないだろ! 分かったってば。この話が終わったら、ベータに伝えてやるよ。それで良いだろ」
「それなら良いノだ」

「相変わらずだな、お主らは。で、最も適正のある者の名前だが」

 ごくり、と喉を鳴らしてアメノミナカヌシノミコトの言葉を待つ俺である。



 ここで続くノか?
 いいヒキだろ?
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