異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第304話 ハクサン家存続の危機

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「監査役を置くなんて、そ、そんな、こと」
「なんだ嫌なのか、それならこの話はこれで」
「監査役ってなに?」

 どどどどどっ。分かってなかったんかーい!!

「俺がオオクニに提案したんだ。各国に監査役を置けと。貴族を無能にさせない方策が必要だと」


 以下は第166話のユウさんの発言です。

「貴族がちゃんと働いたかどうかチェックする機能がない」

「悪質なやつには、一定の期限を決めて貴族の権利を剥奪する、というぐらいの罰則も必要だ。血筋だけで君臨できるなどと思うな、という強い姿勢を見せつけてやるんだ」



「ということだ。ハクサン家という血筋だけで君臨できると思うな?」
「え? ということは、イリヒメが監査? をしてくれるなら、私はまだこの国にこのままでいていいの?」

「俺の見る限り、これだけの無能集団でありながら、それでも国としての体面を保っているのは、その政治力のたまものだと思う。俺はそういうのは嫌いだが、現実問題として顔を突き合わせればどうしても情ってものが生まれるのだろう。俺はそういうの嫌いだけど、それがメリットになることもある。それが得意ならそれを生かせばいい。俺は嫌痛いん」

「いちいち『俺は嫌い』を挟まなくてもいいから」
「そ、そうか。そういうわけで、決算に限らずこの国がすること全般に目を光らせて指導をする役。それが監査役だ」

「ふぅん。お目付役ということね。それで今回の件を見逃してくれるのなら願ってもないことだわ」
「誰が見逃してやると言った。決算は正しいものを出す。それは当然のことだ」

「そ、それじゃ、シロトリがやったことが!」
「まったくの無駄になる。当然だろ? 無駄なことをやっていたのだから」

「ナガタキ、ここはユウの提案に乗るべきだと思うノだ」
「お主が助かる方法は、これしかないと思うヨ」

 ミノウ、助かるのはあんたも同じよね。

「監査役、がいればいいのね? それなら他の人だって」
「ダメだ、それは認めない。これはイリヒメの能力を見込んでの提案だ。他のものでは俺が認めない。それと」

「まだあるの?」
「イリヒメに監査役を頼む交渉は自分でやれ」
「はぁ!?」

「得意分野だろ? 監査役には、国から補助金が支給されることも伝えろ。分かったか?」
「分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば!」

「おう、やればいいんだよ。イリヒメに受けてもらえなければハクサン家の権限はすべて剥奪する。分かったらさっそく行って来い」
「分かったわよ。いちいち命令されなくても行くわよ。スク姉、ついて来てくれない?」

「え? 私? どうしよう、ユウさん」
「もうスクナに危害を加える心配はないだろう。付き添ってやってくれ。ただし、交渉自体には口を挟まないようにな」
「分かった。それなら行ってくる」


「ということなのです、イリヒメ。大恩あるあなたに言いにくいことではありますが、監査役をお願いできませんか」
「ナガタキ様に頭を下げられては、断るなんてできませんわ。私は研究だけをしていたかったのですけど、ユウさんにも恩義がありますしね。その役、引き受けました」
「そうですか。ああ、良かった。ありがとうございます! これでハクサン家は存続できます!」

「ただし、私の監査はかなり厳しいですから覚悟しておいてください」
「えっ?」

「えっ? じゃないでしょ。私は一度投資に失敗しています。その主な原因は、私の見通しの甘さでした。その一部始終を知っていて、なお私にそんな重大な業務を委託してくれるユウさんの信頼を裏切ることはできません。お米1粒、お金1円たりとも無駄遣いなどさせませんからね」

「……はい。私たちには、そのぐらいの厳しさが必要だと思います。厳しくご指導しただけますよう、私からもお願い致します」

 まるでどこかの舞台を見ているような。この人たちは私の知っている人じゃない感が満載だ。

「ではまず決算書の作成。それが私の最初のお仕事ですわね。すぐに始めましょう。資料を全部集めてください。それから資料作りに関わった人も全員集めてください。私がひとつひとつチェックして事情も聞きます。きちんと応えられないような人は、解雇・降格などの処置を取ります。過去に功績のある人といえど、区別しません。いいですね」
「はい。それで結構です。ご案内致します」

「それで、スクナさん」
「は、はい。なんでしょうか?」
「私の報酬はいかほどで?」

 一番気になるのはそこかい! それも大事だけど!!

 それまでカッコ良かったのが台無しだ。

「えぇと。ユウさんからは、このぐらいだと。こそこそこそ」
「あら、思ったより少ないわね。これこれこのぐらいは欲しいと伝えてください」

 しかもちゃっかりしてるし! でも、そのぐらいじゃないと、経営ってのはできないのかな。執事なら、そのぐらいの経営感覚が必要よね。私も頑張らなきゃ。


 そして帰って来て報告である。

「ユウさん、イリヒメは監査役を引き受けてくれました」
「そうか。それじゃ、とりあえずはハクサン家は存続という方向で、オオクニに進言しよう」

「我からも進言するのだヨ。ミノ国の決算もやってもらっていた恩義があるのだヨ」
「それなんだが、ミノウ。ミノ国はお前がいるということで、3割ほどの減免処置をしてもらっているそうだな」
「そうだヨ」

「それ、来年からなくなるからな」
「ふぁぁぁぁぁ!? どうしてヨ。ご無体ヨ。カックラキン大放送よ!」
「最後のはなんだよ! ヒダにある野口五郎岳(実在の山ですまめち。ここから芸名を取った歌手がいますね)の連想シャレか! だが、心配すんな。ミノ国には俺がいるんだぞ?」

「そりゃいるだろヨ?」
「去年からの半年で、ミノ国の税収は10%も増えたんだ。今年は倍増させる……ぐらいの勢いで行くぞ」
「勢いだけなのかヨ。でも分かった。もともとどうして減免してくれていたのか、我にも分かってないのだヨ。お主にまかせるヨ」

 分かってなかったんかい! そう言われれば不思議なことよね。本来なら魔王がいる地域は納税の義務はないはずなのに。

 3割じゃなくて全額なくしても、オオクニさんは文句が言えないのではないかしら? これ、なにかの交渉のときに使えそうね。覚えておこうっと。

 ハクサン家は、決算関連で無能をさらけ出した失態と、私たちに散々ついたウソ。それに加えて私への横暴行為(たいしたことはなかったけど)をしたことによって、ユウさんを心底怒らせた。

 ハクサン家は政治力はあっても、計算に強いものがいないのだ。だからいい加減な決算も通ってしまっていた。

 しかしその政治力(ひとたらし能力)は捨てがたいので、計算に強いイリヒメを監査役にすることで、ハクサン家の統治を認めるという裁定を下したのであった。

 しかしそれも、今後の統治結果次第という制限つきである。今度やりやがったら俺の領地にしてやるからな、とユウさんはうそぶいていた。そんなつもり、毛頭ないくせにね。


 これにて、ヒダでのトラブルの数々について、カイゼンはすべて完了であります。


 さて、ここから余談(貯めていたのに使い損なったネタの数々を一挙放出)です。

・ユウとシロトリ
「最初、イッコウを妖狐と言っていたのはなぜだ?」
「対外的にはそうしていました。魔ネコよりも、そのほうがプレミアムっぽいからです」

「そのほうが高く売れるからということか。しかし、そのウソがバレたらどうなるか、それは考えなかったか?」
「そ、それは……申し訳ございません」
「ウソをつくときは、それが発覚したときのことを考えてからつけ。誤魔化せないようなウソならついてはダメだ」


・ネコウサとユウとスクナ
「ネコウサは、あのダンジョンに君臨するようになって、もう長いのか?」
「えっと、もう10年か200年ぐらいになるモん」
「いい加減な数字だな、おい!」
「べ、別にいいだろモん。お前なんかに関係ないだろモん!」

「ユウさん、ネコウサに細かい数字を聞いても無理よ」
「全然細かくないと思うんだが」
「ダンジョンではボクはラスボスだ。大物なんだぞ。失礼だモん!」
「けっ。小物界の大物ボソッ」
「なんだと、こら!」
「やんのか!!」

「やめなさい!!」
「「ほ、ほーいモん」」

・ミノウとスクナ
「スクナ。今回は大活躍だったヨ」
「いえ、私はユウさんについて行っただけで」
「ハクサン家を救ったのは、お主がいたおかげだと我は思っているヨ。だけどいろいろ嫌な思いをしたのはお主ばかりだヨ。あのダンジョンの入り口とか、拘束されたこととか」

「確かにアレはすごい嫌だったけど。でもどうしたのミノウ。なんかおかしいよ。頭でも打ったの? まだ魔力が酔いが直ってないの?」
「それは直っているヨ。だから、スクナにプレゼントをしたいのだヨ」

「私にプレゼントを? なにかしら?」
「自転車ヨ」
「じ……自転車って、あの、水晶でできたやつ?! なんなものどうしろって?」
「自転車だと言っているのだヨ。乗ればいいヨ」

「まさか、あれって。乗れるの!?」
「もちろんだヨ。ただし、そのネコウサが必要ヨ」
「ネコウサ、あんた自転車に乗れるの?」
「自転車ってなんだモん?」

「あの自転車はネコウサの生成物で作ったヨ。だからネコウサの魔力を受けるとあれが走るのだヨ。ちょっとやってみるのだヨ」
「へぇ。そんなことが。ネコウサ、やってみる?」
「うん、スクナのためならやるモん。これが走るようにすればいいモん?」

「倒れないように、ネコウサがバランスを取るのだヨ」
「分かったモん。そういうのは得意だモん」

「ネコウサにも得意な分野があったのね。じゃ、またがって……あらら、あらら。あららあっらほららへらら。ほんとだ! 立っている。ちょっとペダルをこいでみるね。あらららら、走るじゃないの!? ミノウ!! ほんとにいいの、これをもらっても?」

「我には動かせなかったのだヨ。ネコウサならもしや、と思ったらその通りだったヨ。それはもうスクナのものヨ」
「もしかしてミノウ、いらないものを私に押しつけたんじゃ?」
「ぴゅーーーー」

 私は廃品回収係か! 最初から態度がおかしいと思ったんだ。でも、良いものもらったから許してあげる。それにしてもネコウサ、あんたすごいね。これホッカイ国で使おう。
 もしかして、これがカネマルさんが言ってた「お主は良いものを眷属にしたぞ(298話)」に通じるのかしら?


・スクナとイリヒメとネコウサとナガタキ
「ところで、スクナさん?」
「イリヒメさん、なんでしょう?」
「そのペットみたいなのってもしや?」
「あら。この子を知っているんですか?」

「サルイヌキジですよ、イリヒメ」
「桃太郎か! タッキーはいい加減なボケを挟まないの! ネコウサイタチですよ。私が眷属にしました。ホシミヤダンジョンの元・管理者です」

「え? ホシミヤの管理者っていえば、サルトラヘビのことでしょう!? あなたが、スクナが退治したのですか?! その子はいま、愛らしい姿に化けているわけですね」

「いや、化けているというか退治したっていうか。ラスボスだったから、そういえば退治したことになっちゃったって言うか」
「退治されたモん」

「ひぇぇぇぇぇ。これまで多くの冒険者たちを葬ってきたあのサルトラヘビを、退治したあげくに眷属に?! スクナってそんなすごい人だったのですか!?」
「あ、いや、それほどの、ことでもなかった、ような」

 なにしろアレをナニして入ったらそこが裏庭(うろん部屋)で、そこにこの子が転がっていただけだもの。

「ということは、あそこにはもうサルイヌイタチはもう出ませんのね?」
「イリヒメさん、混ざってる混ざってる。サルトラヘビでしょ。この子の妹が新しい管理者になっています。入り口の管理をしていただくことで、この子たちとも友好関係が築けます。よろしくしてあげてください。こちらが危害を加えようとさえしなければ、なにもしない大人しい魔物ですよ」
「そりゃ、もちろん、なにもしませんわ。私なんかの手に負える魔物じゃありませんもの」

 あんたのほうが遥かに強いけどね。そう思っていて下さい。そのほうがお互い幸せです。


・ユウとシロトリ
「なあ、シロトリ。ナガタキは小さいころ身体が弱かったそうだが、性格もあのままだったのか?」
「いえ、そんなことはありません。気の毒な程に人に気を使う、大変可愛らしいお嬢様でした。ああいう自が出せるのは、スクナ様とユウ様だけですよ」

「俺には気を使え、と言っておいてくれ」
「あはは。分かりました、そう伝えます。従ってくれるとは言ってない」
「はぁ?」

「あ、いえ。なんでもないです。私もあの子の中に、まさかこんな傍若無人……天真爛漫な性質が隠れていようとは思ってもいませんでしたよ。それだけでも大きな発見でした」
「あの子だけは、まっすぐ育てちゃいけない。昔に戻してくれ」


・スクナとナガタキ
「それでタッキー。まだ決着がついていないのだけど」
「スク姉、なんのことですか?」
「私の胸のことよ」

「貧乳なんか気にしないでいいってば」
「だから、発展途上と言いなさいよ!!」
「じゃ、ブリックスで」
「やかましいわ! 誰が新興市場銘柄よ。それってシロトリ?」
「あ、私が教えました」
「シレっといってんじゃないわよ。タッキーも意味が分からないまま使わないの!!」


・マッドサイエンティストたちとネコウサ
「それで牧場での教育についてだが、それをダンジョン内でやって本当に大丈夫か?」
「じつはね、ちょっと心配していることもあるのよ」
「というと?」
「魔ネコ牧場ではね、言葉の他にツンデレの仕方も学ぶの」
「な、なんだそりゃ」
「シロトリさんがしてくれた市場調査ではね、ツンの強い個体ほど高く売れる傾向があるのよ」
「激しくどうでもいいわ!」

「それよりイリヒメ、ここにおかしな実験結果が出ているな」
「どれどれ? ああ、それね。魔ネコにあの生成物を食べさせたらどうなるのかなってやつ。ちょっとした思いつきでやってみたの」
「そんな怖いこと、思いつきでさせないで欲しいモん」
「しかし、結果は良くなかったと」
「ええ。生成物に特に変化は見られずでした」
「良かったモん。そんなこと、もう止めるモん」

「だけど、イリヒメ」
「なんです?」
「まだ、ネコウサイタチに食べさせたことはないんだよな?」
「ないですわね。この試験は魔ネコだ……ああっ!?」
「むしゃむしゃむしゃ」
「ちょっと、ウサネコ! 実験計画の紙を食べないで!?」

 ネコウサに紙を食べさせる試験をやってしまった。紙も有機物である。結果は3日後に確認する。イリヒメが。

「なんで私が?!」


・ナガタキとシロトリ
「ふぅ。なんとかイッコウの配送も終わったわね」
「ええ、ようやく片付きました。これもユウ様とその眷属の皆様のおかげですよ」

「ユウって子は意外と大物だったのね、驚いたわ」
「アメノミナカヌシノミコト様のことまで親しげに呼んでいましたし、相当な権力の持ち主なのは間違いないですね」

「なんとか懐柔したかったのだけどなぁ」
「それでも、ここを救ってくれました。それだけでも感謝しないと。私も肩の荷が下りた気分です」
「もうつじつま合わせに奔走しなくて良くなったものね」
「ええ、あんなこと、もうゴメンですよ、ナガタキ様」
「……ゴメン。ちょっとしたイタズラ心だったのよ。鼻毛の至りってやつ?」

「若気、です。そんな適当な動機で決算を誤魔化さないでください。なにをするにしても、まずは私に相談してください」
「そうね。私なんかが小手先でなんかしても、ダメだってことは痛感したわ。これからは真面目に頑張りましょう。イリヒメという相談役もできたしね」

「イリヒメ様は、監査役ですよ」
「大丈夫よ、そこは私のスキルでちょいちょいってね」
「ああ、そうでしたね。しかし、それはそれで問題のような」


・ベータとレクサス
「レクサス、ユウさんからの依頼に、今回はやけに早くOKを出したな?」
「ベータ様、私も学習したのですよ」
「学習?」
「ええ。ユウさんが行く先々で、なにかの仕事を拾ってくるに違いないと」
「なるほど」

「それで先回りして、先々の情報を集めてました。サツマ切子は想定外でしたが、イッコウやヤサカの里に関しては予想していましたので、あらかじめ計算させておいたのです。だから即決が可能でした」

「エースは良い執事を持ったものだなぁ」
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