異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第39話 アチラ、やらかす

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 さて。包丁ってどうやって作るんですかね?

 なんて誰かに聞いた日には、俺はタケウチ工房をたたき出されるかもしれない。ミヨシなどに知られたら、刺されることまで覚悟しないといけない。

 だから、こっそり現場研修をしよう。ヤッさーん。ちょっと包丁作るとこ見せて。

 そして加熱炉の部屋に入る。

 ……あづい。加熱炉の前の包丁作り現場。というより鉄を鍛える現場か。包丁でも刀でも、工程の始まりは常にここだ。そして、俺が口出しできるのもここだけだ。

 鉄を真っ赤に加熱してハンマーで叩いてまた加熱……あづい。とてもあづい。見ているだけなのにめっさ暑い。汗がだらだた流れて干物になりそう。あづい、しむ。だめだ、こんなことにいられるものか。もう無理、出る。

 3分で退却した。

「根性のないやつなノだ」
「まったくだ、ここまでとは思わんかったぞ」

 ヤッサンにも呆れられてしまった。

「し、仕方ないだろひぃひぃ、俺は机上でのみ能力を発揮するんだよはぁはぁ。現場なんかたまに見るだけだ。あー暑かった」

 と現場でするはずだった打ち合わせを、準備室に戻ってするのであった。

「ユウ、クロムの量を減らすと、焼き入れというのが効果を現すようだぞ。ほら、これは15%ぐらい入れたものだが、焼き入れしたらこの通りものすごく硬くなってるだろ?」
「ふむ。ほんとだ。切れ味もすごく良いな。これで錆びなければ申し分ない切れ味だ。軽く引くだけでまな板までがスパスパ切れるじゃないか」

「私の大事なまな板を切らないで!」

 あ、ミヨシさんそこにいたのね。切るといっても一枚板をすっぱり切るわけじゃなくて、角を少し削っただけだから……すみませんでした。
 なんか試し切りできるもの、どこかにないでしょうか?

「ユウの足の指」

 まな板に傷をつけた仕返しか! まったく、報復処置が露骨なんだからもう。

 じゃあ、これ。と言ってふてくされながら木片をいくつか持ってきてくれた。庭にクロム鋼のための小屋を建てたときに出た木っ端だそうだ。最初からそうしてくれよ。それとほっぺがハムスターになってんぞ。

「硬いのは良いのだが、あまりに脆弱でなこうしてたたきつけるようにすると」

 ぱっこーん。という爽やかな音を残して包丁が割れた。うわお、あぶねぇな。

「こうなっちゃうんだ。これでは落としたら危険だし、硬いものを切っているときに割れたら人命に関わる」
「ふむ、しかし、刃としては優秀ってことだよな?」

「まあそうだが、俺の感覚ではそれほどでもないかな?」
「そうなのか」
「普通の炭素鋼でも、このぐらいの切れ味は出せる」

「炭素鋼レベルの切れ味があって、さらに錆びないとなれば充分商売になると思うが」
「錆びないのが一番の売りなら、この程度でも良いかもしれないな。となると問題は、もろいということだが」

「錆びないだけの包丁は、いずれ安値で売りだそうと思っている。それだって一般家庭なら重宝されるはずだ。だが、今はもっと切れ味をアピールするものが必要なんだ」

「切れ味なら炭素鋼が一番だ。クロムを入れるとどうしても切れ味は犠牲になる」

 ふっふっふ。来た来た、俺のターン。

「なら、鉄を組み合わせてみようじゃないか」
「組み合わせる?」
「そう、鋼を作るときに加熱して叩きまくるだろ? ある程度伸びたらそれを折り曲げてまた叩きまくる。それを10回以上繰り返す」
「現場を見てないくせによく知ってるな。その通りだ。それが?」

「そのときに、硬い炭素鋼と、この柔らかいが焼き入れをすると硬くなるステンレス鋼を重ねて叩いたらどうなる?」
「叩いたあとにくっつけるのではなくて、最初から混ぜてしまうのか?」
「そう、接着するんじゃなくて、ほどよく混ぜちゃおうかなって」

「かなって、と言われてもなぁ。そんなことすると、どうなるんだろ?」
「なんかうまくいく気がするんだ」
「気がするだけかよ!」

 いろいろ条件を振って試験をしている余裕は今はない。最悪は再現できなくても良いし、ベストでなくてもかまわない。

 この世界にあるどの包丁よりも丈夫でよく切れてしかも錆びない。そうアピールするための奇跡の1本が欲しいのだ。

 クロム鋼の不純物が特定できない今、俺のあやふやな知識とヤッサンの腕とカンにかけるしかない。

 2種類の鉄を重ねて延ばして折り曲げて、そしてまた伸ばして折り曲げて、また伸ばして打ってまたまた伸ばして打ってと、むすんでひらいてのようなことを繰り返すと、2種類の鉄は混ざりに混ざって複雑で多様な層を作り出す。ミルフィーユよりもっと複雑怪奇な層だ。

 それは硬度は低いが粘りのある鉄と、粘りはないが硬度の高い鉄とが混ざり合った層である。俺のいた世界では、ダマスカス綱と呼ばれていた。ただし、それが本来のダマスカス綱であるかどうかははっきりしない。ダマスカス綱の技術はすでに失われており、ロストテクノロジーなのだ。

 とてつもなく強度(硬さ+粘り)が出るのと、見た目が似ているというだけだ。それを、こちらの世界で再現しようというわけである。

 もちろん、重ねて打つということだけがノウハウなわけがない。本にも載らない秘術があるはずだ。その(一番困難部分は)ヤッサンの腕まかせである。俺は机上の天才だからな。

 それができたら、まずはミヨシにテストをしてもらう。それが合格レベルなら、ミヨシが毎日行く市場に持っていくのだ。

「私が持っていくの?」
「そう、いつもお世話になってます。これ、ウチで作った新作包丁なの、プレゼントするから使ってみてよ、とかなんとか言ってもらいたい」

「えぇぇ、せっかく作ったのをあげちゃうの?」
「そうだ。そこは客の目の前で魚をさばいてくれるんだろ?」

「うん。大きいのはいつもさばいてもらっているよ。たくさんさばくのは大変だもの。そこもそういう実演をすることで人気を呼んでいるってのものあるしね」

「ということは、ウチの包丁をそこで使ってもらうとどうなる?」
「え? そりゃ、多くの人が見ることに……あっ!」

 まあ、そういうことである。1本をサンプルにして、それをひと目に晒そうという魂胆である。それが宣伝になる。

 ただし!

「それには、本当によく切れてしかも錆びない包丁である、ということが条件なわけだな?」

 ヤッサン、その通りです。

「どうなるか分からんけど、やってみよう。まずは、包丁のための鋼作りをしよう」

 と言ってさっそく酷暑の部屋に入って行った。俺はがんばってとささやいて見送るのみであった。とんかんとんかん。

 結局、包丁を作る工程はぜんぜん分からないままである。まあいい、言うべきことは言った。あとはヤッサンに任せておこうっと。

 そこへコウセイさんがアチラを連れてやってきた。

「ここだったかユウ。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

 なんだどうした?

「ニッケルめっきなんだが、こいつが電流設定を間違えてしまってな、普段の倍以上の電流を流してしまったんだ」
「おやおやおや」

「すぐに気がついて止めたそうなんだが、このまま進めて良いものかどうか、と思ってな」
「その倍の電流を流したのは、何分ぐらいだ?」

「えっと、2分あったかどうか、だと思います。ユウさんすみません。俺が悪いんです。それで4本もニッケルめっきしちゃいました。お客さんから預かった大切な剣なのに、もう死んでお詫びを」

 待て待てコラ。そんなことぐらいで死んでたらこの国の人口がなくなるぞ。

「その現物はどこにある?」
「1本だけ持ってきた。これだ」

 俺は、めったに使わないやつが持っていたって仕方がないだろとじじいを脅して取り上げた(貸しただけだ!! byじじい)拡大鏡でそれを観察する。

「ふむ。普通に薄いニッケルめっきがついてるな。別に問題ないように見えるが、やってみないと分からん。もう一度前処理からいつもと同じ条件でニッケルめっきをつけてくれ。その後にまた観察しよう」

 そしてニッケルめっきも金めっきも終わった。外観ではそれほど変わったようには見えなかったので、これでやっちゃえということになった。

 しかし、その後。大変なことが判明するのである。
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