異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第51話 鉄を組み合わせる

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「お主には、人に同情するとか、あるいは感動に浸るとか、そういうのはないノか?」
「ないわけあるかい。さっきもそれだ!って、感動の発言をしたばかりじゃないか」

「硫黄が不純物でどうたらこたら、のときのことなノか?
「そうそう」
「そのひと言で終わってしまったノだが?」

「終わったよ?」
「終わったよ、で済ますな。もう、お前はそれでも人間なノか」
「魔王に言われたくねぇよ」


 そして準備室である。ゼンシンは精力的に鋼の生産をやっているが、しょせんは11才の少年である。体力には限度がある。

 休憩という名目で、準備室で打ち合わせをするのである。ゼンシンにとってはちっとも休憩になっていないと誰もが思うことであろう。その通りである。

「刀の構造は、内側に炭素含有量が少なくて柔らかい鋼、そして外側には炭素丸含有量の多い硬い鋼を使って包み込むようにする。3層構造だ。これを一体化させることで、強靱で鋭い刃を持つニホン刀ができるんだ。ただ、鉄を打つだけじゃなくて接合させないといけないので、いっそう叩き方が難しくなると思う」

「なるほど。相手を斬る部分には硬い綱、それを支える内側には柔らかい綱にする、ということですね?」

「その通りだ。できるか?」
「えっと……」

「どうした? なにか問題があるか?」
「柔らかい鉄を中に入れるということは、あの錆びないというステンレスが内側に入るということですよね。それではステンレスの意味がないのでは?」

「あ、そうか。まあ、今回作るのは刀だからな、錆びないという特性を前面に押し出す必然性はないだろ。大事なのは切れ味だ」
「それはそうですけど。もし、もしですよ。どうせ鉄を組み合わせるのなら、こんな風にしたらどうでしょう?」

 ゼンシンは自分で考えるということを知っている。ただ、やれと言われたことを律儀に守るだけの作業者ではないのだ。自分で考えて創意工夫をする、そういうことができる人間だ。

 俺はそんな人材を、あやうく作業者にしてしまうところだった。反省せねば。

「そういうとこは、反省するノだな」

 やかましいよ。

「どういうことだ? 内側の鉄にはステンレスを使う必要はないということか?」

「確かに内側にはステンレスは必要ありませんね。内側は炭素が少な目な柔らかい鉄でいいと思います。でもせっかく錆びないという特性のあるステンレスがあるのだから、外側にそれを使いましょう。そして先端だけ固い炭素鋼にするわけです。刀ですからよく斬れる部分というのは先端だけで良いですよね?」

 えっと。んっと。そんなややこしいことを言われるとは思っていなかった。えーーーと、えーーえ?

「えーが長いノだ」
「柄が長いほうが汲みやすいんだよ!」
「古典落語を使ってキレるでないノだ」

「つまり、どゆこと?」
「つまりですね、刀の先端だけ硬い鉄、その後ろに柔らかい鉄、それを挟み込むように外側には錆びないステンレという組み合わせがいいのでは、ということです。これだと4層構造になりますが」

「そういうことか。確かに斬れるのは先端だけでいい。だけど、先端だけ硬い鉄にするなんてできるのか?」

「できると思います。鍛錬にかなり熟練がいるかもしれませんが、あのヤッサンなら」
「ふむ。刀だから刃だけが硬ければいいか……あ? 待て。それでは全体の強度が落ちることはないか?」

「え? あぁそうか。全体の強度ですか。そうですね、忘れていました。本体の大半が柔らかい構造では、ぶつかった瞬間に力を受け止めた部分が曲がってしまう可能性があります。それじゃ刀としての機能を満たしませんね。ややこしいなあ、これ」

「やっぱりそうだよな。先端だけ硬い鋼にするというのは、それがデメリットだ」

「それなら、これでどうでしょう。先端は一番硬い鋼、中央は柔らかい鋼、その左右を中間の硬さのステンレス鋼で挟む、というのは?」
「なんか構造がややこしくなってきたぞ。でもそれなら刀の強度を保ちつつ、先端は鋭く粘りもある刀ができるか。しかし、言うのは簡単だが、そういう材料を用意するだけでも大変そうだ」

「打つときにも相当厳密にやらないと、刀になったときにその構造が崩れてしまいそうです。鍛錬はもっとやっかいですね。でも、それだけにやりがいもあります」
「ゼンシンのやる気はよく分かった。じゃあ次は、中間の硬さになる鋼をどう作るか、という問題になりそうだ」

「そうですね、それはいろいろ試してみます」
「そこはまかせよう。ニホン刀を作るという意味で、ゼンシンのアイデアの方向は間違っていないと思う」

 俺がそう言うとゼンシンは嬉しそうに笑った。自分の意見を受けいれてもらえた喜びだろう。これは俺にも覚えがある。クリエイターにとって、自分の感覚はなによりも大切だ。それだけに、それが他人に認められたときの喜びは筆舌に尽くしがたい。

 だから、読者も遠慮なくこの作品を褒めるべきなのであるよ?

「おいっ、なにを読者に強要しているノだ」

 ちょっとしたシャレですよ、シャレ、えへ。

「じゃあ、その方向で進めてくれ。そうなると、鋼は3種類必要になるのかな。ますます面倒な作業になりそうだ」

「そうですね。あの鋼の塊は、叩くと簡単に割れてしまうものと、全然割れないものとが混ざっているんです。おそらくは炭素濃度の違いだと思います。そうやってふたつに選別して使おうと思っていましたが、それを3つに選別する方法を考えないといけませんね」

「そうだな、ぜひやってみてくれ。おっと。でもそれって、ふたつを混ぜて合金のようにしても良いのではないか?」
「ああっ、そうか。そうでした。そのほうが簡単かもしれません。選別が難しいようならそうしてみます」

「その辺はまかせた。とりあえず、完全なものでなくて良いので早めに1本作ってくれないか。ハルミの剣技の練習用に使いたいんだ」
「分かりました、急いで作ります。それと、焼き入れ? という工程のときはまた相談にのってください」

「ああ、そのときは呼んでくれ。できればこの部屋でお願いしたい」
「はい、暑いのに弱いんですね」

 寒いのもなー。

 そんなこんなで打ち合わせは終わった。つまり、それは俺の仕事が終わったことを意味する。あとはゼンシンとなれヤッサンとなれ、である。

 さて、ナツメでも食べようっと。さくさくさく、うまいうまい。

「さくさくさく、うまいうまいノだ」

 お前も食べてんのか。

「さくさく、ユウ、我の顔を拭くノだ」
「ぽいっ」
「うわっぷ。タオルを投げるな! 拭いてくれと言っているノに!!」
「怒れた義理か! 自分のことは自分でやれ。ミヨシがいないからって俺に甘えるんじゃねぇよ」

 それにしても、である。最初は、すぐに現金化ができると思ったから金めっきの開発を優先した。ところがその代金は3ヶ月後にしかもらえないときた。

 それなら、と思って今度はステンレス包丁とダマク・ラカス包丁を開発して現金化を図った。そしたら剣と防具の注文が殺到してそれらの作成は延期となった。

 俺のやっていること、当てが外れてばっかりでちっとも現金にならないなぁ。
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