異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第60話 剣士の一分

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「ざくざくざく、まったくお前ってやつはもうなノださくさくさっくさく」
「なんか文句でもあるんかヨわしわしわしわし、しかしうまいなこれわしわし」

 オウミとミノウが、並んでかまくらを掘る小学生になっとる。こうして見ている分には、ほのぼのとして愉快な光景である。このふたりの仲が悪いというのは本当だろうか?

 ふたり目の魔王の襲来? にしばし固まったタケウチ工房の人たちであったが、1時間もするとすっかり打ち解けていつもの食事風景になっている。
 順応性の高さなら、おそらくこちらの世界でも有数であろう。

 ただ、ひとりだけ違うのが。

「ミノウ様。お顔を拭きましょう。ふきふきふき」
「むほほほむほ。よろしい。お前は使えるやつだな、これからも精進するのだヨ」

 なんの精進だよ。

「はい、ありがとうございます!」

 お前もお礼とか言ってんじゃねぇよ。

 自分の食事などそっちのけで、ミノウにつきまとってなにかと世話を焼いているのは、ゼンシンである。

 以前、どこかで会っているらしく、そのときに見たミノウの美しさに惚れ込んでしまったのだそうだ。

 惚れ込む? これに? ふーん。まあ、本人が良いならかまわないけど。
 しかし俺の眷属って、結局誰かに盗られるのね。

「なんだゼンシン。明日はお前の刀のデビューになるわけか、わしわしわし」
「はい、そうです。ハルミさんが振ってくれるんですよ。ミノウ様にも一度見ていただきたいものです」
「わしわしわし、そうか。これを食べたら見てやろう」
「は、はい、よろしくお願いします!」

 ゼンシン嬉しそう。待てよ? 当然、ミノウは当分ここにいることになるのだから、ゼンシンもここを離れようとはしなくなるよな。ってことは?

 ゼンシンをどうやって引き留めるのか、もう考えなくもいいじゃないか。

 ミノウ、GJ!である! あ、それともうひとつある。

「なあ、ミノウ。お前は魔法付与ってことできるか?」
「むほむほ。もちろんできるのだヨ。そんなこと簡単だ。だけど、お主にはしても無駄だヨ」
「俺にじゃねぇよ。刀だ。ニホン刀にだ」

 ぴくっと反応したのはハルミだった。

「なにを言っているのだヨ。そんな物体に魔法を付与したところでなんになる」
「ミヨシ、例の包丁を持ってきてくれないか?」
「はい、ここにありますよ」

 どうしてそんなすぐ出てくるんですかね?

「おおっと驚いた。まさかミヨシ、持ち歩いているのか?!」
「うん。ヤッサンにね、収納する専用の鞘を作ってもらったの。おかげで寝るときも一緒よ?」

 その包丁にどんだけ惚れ込んでんだよ。寝ぼけて鞘を抜いたりしたら、死人がでるんじゃないのか。

「ほほう。これがその包丁……おいおい! こんなことが、こんなことができるものなのか?! 我は初めてみたぞ! これは魔剣……ではないな、魔包丁とでも言うのか、ではないか」

「そうなノだ。それは我が作ったノだぞ」

 間違ってはいないが、それはヤッサンに失礼だぞ、オウミ。それより秘密じゃなかったのかよ。

「ぐっ、なんだと?! どうしてこんなものを、お前なんかが」
「わははははは。悔しいノだな。どうだ、我にはかなうまいわははは」

「それが魔法付与の結果なんだよ。包丁ができる寸前に間違って魔法付与をしたら、刃に魔力が宿ってしまったという偶然の産物なんだ」

「ば、ばらすでないのだユウ! それは我だけの」
「なんだ偶然にできたのか、けっ」
「ユウのバカぁぁぁぁ」

 いや、涙ながらにバカって言われましても。可愛いじゃねぇか。

「だから、それを今度はハルミの剣にやってもらえないかなと思ってな。どうだ、ミノウ。オウミに負けたままじゃ悔しくね?」
「もちろん、魔法付与ぐらいのこと我なら簡単なのだ。まかせてくれヨ」

「我が、我がする予定だったノに……」
「すまん、オウミ。ここは譲ってやってくれ。今度の刀に一番縁が深いのはゼンシンだ。そのゼンシンが慕っているミノウの魔力を付与することが適正というものだろう。ミヨシはお前を慕っていた。だからこそあんなにすごい魔力が宿ったんじゃないか」

「ぶつぶつぶつぶつ。分かったノだ。我慢してやるノだ。その代わり」
「ん?」
「我のニホン刀はなにより優先で作るのだぞ」

「ああ、それは最初の約束だからな。もう構想はまとまっている。剣技大会が終わったらヤッサンに作ってもらうよ」
「それとナイフとフォークも忘れてはいけないノだ」
「それも覚えているよ、大丈夫」

「それから、箸と冬服とカサと魔法の杖あいたっ」 こつん。
「欲張るんじゃないの」
「きゅぅん」

 思わず作ってやると言いそうになる可愛さだが、ここは負けてはいけない。なんだよ、魔法の杖って。

「あ、冬服なら私が縫います。オウミ様はどんなのがお好みですか?」
「おおっ、さすがはミヨシなのだ。いけずなユウとは違うノだ」

 悪かったないけずで。俺は京男子のホームズか。

「色の黒い水着にしてくれ」

 ずるっ。俺だけがコケた。色が変わるだけかよ!! 冬服の意味あんのかそれ。

「分かりました。あとはフリルとかつけましょうか。少しだけ現代風になりますよ」
「うむ? そうなのか。ミヨシにまかせるノだ」

 俺の知らないところで話がついたようだ。

「ユ、ユウ。それはもしかしたらもしかしなくても、それは私の刀のことだよな。あのミノウ様が協力してくるのか? ほんとにそんなことが、ほんとに、そんなうるるるるるる」

 不意にハルミがでてきた。お前まで泣くなっての!! いちいちうっとおしいやっちゃなもう。まだできてもいないのに気が早いって。

「こんなに心待ちにしている人がいるので、ミノウ、お祭りが終わったらさっそく頼むよ。ヤッサンには最高のやつを作ってもらうので、最高の魔法付与をしてくれ」

「分かった、任せるのだヨ。でも、聞くところによると、剣技大会は明日だそうじゃないか。そこに間に合わなくていいのか?」

「ああ、大会には普通の……普通じゃないけどな、刀で出場してもらう。そこでは特殊なものを使うわけにはいかないんだ」

「そうか。まあいい。そのときにまた言ってくれ。ところでハルミは剣技大会の準備はもうできているのかヨ?」
「は、はい。練習も積んでます。明日は完璧に斬ってみませますよ。鉄を」

「て、て、鉄を斬るだと? 普通の剣でか?!」
「はい。ニホン刀という片刃の剣です。ユウができるって」

「本当なのか、ユウ。我はそんなこと聞いたことがないぞヨ」
「そういえば、我も知らないノだ。本当に大丈夫なノか?」

「俺も知らない」

 だぁぁぁぁぁぁぁ、と部屋中の人が崩れ落ちた。そういうことは本番前に試技をして確認しておくべきだろ!! と、めっちゃ怒られた。

「まったくあんだけ自信満々に言うものだから、前の世界で経験しているのかと思ってたぞ。経験がないなら試しておくべきだろ」

 ソウの言う通り心配は確かにある。しかし、売り物に傷つけたくなかったのだ。本番で使う1本は仕方ないが、残りの7本は無傷のままで売りたい。

 練習で鉄なんか斬って、試技用の1本に見えないクラックが入るのが怖かったのだ。それが原因になって、本番で折れたりしたら計画が水の泡だからな。

 それなら別の刀で本番、ということにするとその刀まで中古品となってしまう。

 それでも新品がまだ6本ある計算だが、それでは借金の金額ぎりぎりの売り上げにしかならない。
 もちろんそれだって予定に過ぎない。1本100万という数字だって、俺が勝手に設定したものだ。確証なんかない。大切なのはその場のノリだ。

 ハルミが鉄を斬る。おおっという歓声が上がる。で、ここに同じものがあるんですけど? じゃあ俺が買う、いや俺こそ。いや、拙者にこそふさわしい。いやいやそれなら俺が……なんてことになってもらいたいのだ。

 万が一合計売り上げが600万に達しなかった場合、この工房はなくなることになる。それが一番心配なのだ。
 そういう意味で、7本の新品は確保しておきたい。いざとなったらハルミの使った1本だって中古として売ってやるつもりでいる。

「お前らは知らないだろうけど、ニホン刀にとって鉄を斬るぐらい、普通にできることなんだぞ?」

「「「ええええええ!?」」」

 炭素鋼が軟鉄を斬るぐらいのこと、実は簡単なのだ。前の世界でもよく知られていたことである。しかし、それによって斬ったほうの炭素鋼にヒビが入ることはある。

 だから、もったいないから誰もやろうとしないだけだ。

 そのとき、ニホン刀の制作者であるゼンシンとヤッサンが言った。

「僕もそれが心配でした。ユウさんが自信満々だったので黙っていましたが、試技ができるならしたほうがいいです」

「そうだな。制作者としては確認しておきたいところだ。食事が終わったら試し切りをしよう、ユウ。刀は現在8本。材料はあと1本分くらいはなんとかなる。万が一折れるようなことがあったら、明日の朝までに俺たちでまた作ればいいだろ」

 あれだけの刀を作っておいて、そこまで言ってくれますか。

「実は私も不安だったのだ。腕は磨いていたつもりだが、それでも鉄を斬るなんてことやったことないしな。できるのであれば、ぜひ試し斬りをさせて欲しいぞ、ユウ」

「分かった分かった。皆がそこまでいうならやろう。ただし、使うのは一番最初の刀だ。あれが品質的には一番劣ると思われるからな」

「ありがとうユウ。それからミノウ様、私の剣技になにか問題がないかも見ていただけませんか」

 ん? ミノウってそういうのが得意なのか?

「分かった、見てやるヨ。この土地では、ずっと前から優秀な刀工を輩出しておる。剣の達人もたくさんいたからな。さすがに鉄を斬るなんて発想は誰にもなかったが、それができたらすごいことだ。斬鉄のハルミ。その名前はこの土地に永遠に残ることだろうヨ」

 こらミノウ。そこまで言うな。そんなことを言ったら、

「え……永遠に残る、……私の名が……永遠に、斬鉄のハルミ、なんてステキな、鉄を斬った最初の美少女女剣士として…名前が残る、のか。そんなことが、本当に」

 ほらみろ、またおかしなスイッチが入ってしまったじゃないか。

「なにげに美少女という一文を忘れずに入れているようだヨ」
「ある意味、剣士の一分なノだ」

 だれがうまいこと言えと。
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