異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第61話 剣の天才

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 試技をするこの部屋の中央には、金属製の筒が埋め込んである。そこには12cmの穴が開いており、普段はそこに10cmほどの丸太を差し込んで試し斬りを行うのだ。

 今回は直径5cmで長さが2mほどの鉄棒を突き刺す。そしてぐらつかないように周りに木の杭を打ち込んで固定する。とんかんこんかん。

「よし、これでしっかり固定された。本番では3cmにするが、これでも充分切れるはずだ。ハルミ、やってみろ」

 ハルミはよっしゃーー、と大声で気合いを入れる。そしてニホン刀を上段に構えて正面に立つ。こういうときにハルミは躊躇をしない。えー、ちょっと待ってぇわたし、こんなのあぁぁちょちょっとまってよ、えぇぇほんとにやるのぉ。あぁぁあぁちょっとちょっとあぁぁぁ!!

 とかいうアイドルのバンジージャンプとは違うのだ。比べるのが失礼なぐらい思い切りのいいやつなのである。

 セイヤァァァァというかけ声と共にハルミが斜め下45度の角度で振り下ろす。いわゆる、斜め振りというやつである。

 ギンッ。という鈍い音が小さな火花を伴って部屋中に響き渡る。振り抜かれた切っ先は直線を描いて地面を向く。ハルミはその姿勢のままで固まっている。

 それから、ゆっくりと時間をかけて滑るように半分になった鉄の棒が落ちてゆく。成功である。

「わああぁぁぁ、すごいすごいすごい。さすがハルミね。私の自慢の姉よ」

 と言いながら飛びついたのはミヨシだった。そして安堵のため息とともに全員が拍手を送る。

「お見事だ、ハルミ」
「本当に鉄が切れるんだな。我もちょっと感動したノだ」
「よかった、よかった。これでウチの工房も安泰だ」

 いや、それはどうだか。

「まさかこんな試技を見られるとは思わなかったぞ。ハルミ、見事であったヨ」

 2番目にハルミに駆け寄ったのはゼンシンである。

「ハルミさん、お見事でした。その刀を見せてくれませんか」

 まだ自分のしたことの感動に浸っているハルミは、黙って刀を渡す。そしてヤッサンと俺も一緒になって刀の観察会である。

「どうだ?」
「見た感じだが刃こぼれはないようだ。すごいな。本当にこれが鉄を斬った後の刀か」
「まったくだ。キズひとつないな。ゼンシン、曲がりはどうだ?」
「曲がっている様子もありません。でももう少しじっくり見させて下さい」

 あとは専門家のふたりにまかせて、俺は振り返って皆に明日の予定をここで打ち明ける。

「ハルミ、見事だった。これなら同じ刀で、明日の剣技大会に挑めそうだ。明日も頼むぞ」

 まだ興奮さめやらぬハルミが答える。

「あ、ああ、やるとも。すごかった。最初ガツンという抵抗があったんだ。その瞬間は失敗かと思った。だが、それがすぐにすぅっと抜けて、気がついたら私は足下を見つめていた。そのとき斬れたと確信した。すごかった。こんな快感、いままで味わったことがない。すごい、こんなこと、毎日でもやりたい」

 ちょっとちょっと。変なほうに行かないで。戻ってきてー。

「それでは、明日の予定を話す。さっきも言ったが明日は3cmの鉄の棒を使う。まずはそれを今のように切断する。そしたら、次はそれを3本束ねたやつを設置して、それも斬ってもらう。この分なら充分いけるだろう」

 ざわ。ざわ。

「これはギャンブルマンガではないので勘違いしないように。そこまでやったら今度はミヨシとアチラ。ふたりに仕事をしてもらいたい」

 はい? と疑問の目を向けるふたりに俺の説明は続く。

「剣技大会での試技はそれで完了だ。そのとき、今の俺たちのように観客は感動の渦の中にいるはずだ。その後、間髪を入れずにこう言ってもらいたい。

「お集まりの皆さん。たった今お目に掛けましたのは、タケウチ工房で作り始めた『ニホン刀』という刀です。ご覧の通り、鉄さえも斬ってしまうほどの斬れ味抜群の剣です」

「あ、意味が分かっちゃった。そうやって宣伝するのね」
「それはすごい宣伝になるな。そんなことを考えていたのか」
「神聖な剣技大会をそんなことに使うなんて」

「一部の人(じじい)うるさいよ。だけどそれだけじゃない。そして、これと同じものをタケウチでは6本制作しました。もし、興味のある方が見えましたら、このあと隣の広場でオークションを実施しますので、ぜひご参加ください」

 ってな。

「「「オークションってなに?」」」

 ああ久しぶりの異文化コミュニケーション。

「オークションが通じないのか。こちらにはない文化なのか……それなら競り、って言えばわかるのか?」
「ああ、競りか。競りなら競りって言わんか。ユウはいつも格好つけて難しいことを言いたがるんだから」

 またまたやかましいよじじい。たまに発言すると文句ばっかりだな、ぐぬとでも言ってやがれ。ぐぬぬぬぬ。

 競りという文化があってよかった。別に格好つけて言ったわけではない。俺にとっては普通の単語だったんだ。前の世界ではネットオークションに熱くなったものだ。

「じゃあ、その競りのことだと思ってもらえればいい。シングルオークション形式というのだが、最初はこちらで値段を言う。その値段で買う人が複数いた場合は、高い値段を付けた方に買う権利が与えられる。もっと高くても買うという人が現れれば買う権利はそちらに移る。そういうことを繰り返して、それ以上の金額の人が現れなくなった時点で落札だ」

「つまり、一番高い値段をつけた人に売るということよね」
「そうだ。それを6回やる。そのMC……は通じないよな、仕切りをミヨシにやってもらいたい。アチラはその手伝いだ」

「競りなら、毎日市場で見てるからだいたい分かるわよ。刀がなるべく高く売れるように、私がみんなを扇動すればいいのよね」

 え? ま、そ、そうかな。そうだな。ニュアンスがちょっと違うかもしれないが、それでいいか。

「最低落札価格は100万を希望している。そうじゃないと借金が返せないからな。しかしオークションは生き物だからそこまでいくとは限らない。それだけに現場の盛り上げが大事だ。ハルミの試技、そしてミヨシの仕切り。これに、タケウチ工房に存続がかかっている」
「分かった。責任重大なのね」

「ちょっと待ってもらいたいのだヨ」
「どうした? ミノウ」

「そういう話なら、ハルミの剣技はもっと派手なほうが良いのだろう?」
「なんだ派手って。それより堅実なほうがありがたいぞ。今は失敗が許されない状況なんだよ」
「いや、派手というか、もっと格好良い斬り方があるのだヨ」

 格好いい斬り方? なんだそれ? 今のハルミは充分カッコ良かったけどな。
 俺は剣道なんかやったことないので、斬り方なんかまるで知らない。ここは聞いてみる価値があるだろうか。

 しかし、今ここであまり見当違いのことを言われてもハルミが困るだけだ。それに、新しい斬り方なんてことを、こんな直前に教えてもらってすぐに習得できるものなのか。
 今のところ予定通りいっているので、邪魔はしてほしくないのだが。

「それは具体的には、どんな斬り方ですか、ミノウ様」

 お前は興味津々かよ! 格好良いってだけでつり込まれてんじゃねぇよ!

「それはな、抜刀術というのだヨ」

 あぁぁあ、あれね。あれか。ネットで見やがったな。動画は見られるって言ってたもんな。お前、あれだろ。あれをハルミにさせるつもりだろ。

「ひてんみつるぎりゅうおうぎ、あまかけるりゅうの 痛っっ」

 ひっぱたいてやった。

「お前、その単語を言ってみたかっただけだろ、中二病かよ」
「いただだだだ。ゼンシン、ユウがひどいことしたのだぁぁぁ」

 千年以上も生きてる魔王のくせに、11才のゼンシンに泣きついてんじゃね……ゼンシン? そんなに俺を睨まないで。ただのギャグだから。しかもそれ、嘘泣きだから。お前騙されているから。

「今、ミノウ様はなんて言いました?」
「抜刀術って言ったな。居合いのことだ」

「「「いあいってなに?」」」

 ああもう、ここにはそれもないのかよ。

「居合いとは、鞘に収めた刀を抜くやいなや相手を斬るという剣技のことなノだ」

 オウミもあのアニメを見た口か。魔王のネット環境恐るべし。

「俺も聞いたことがある。座った状態から立ち上がると同時に刀を抜いてそのまま斬る。そういう動作が完全に一体になっているという剣技のことだろう」

 ヤッサンもアニメを……見ているわけはないな。ということはこちらにある技術なのか。それほど知られていないというだけか。

「座った状態からする? どんな風に?」
「抜刀術は座る必要はないヨ。ハルミ、まず刀を鞘にしまうのだヨ」
「はい、しまいました」
「そして、膝をおとしてツカに手をかける」
「はい、かけした」

「そして、刀を抜くと同時に斬……」

 ギンッ。という鈍い音が小さな火花を伴って部屋中に響き渡る。振り抜かれた切っ先は直線を描いて天井を向く。ハルミはその姿勢のままで固まっている。

 それから、ゆっくりと時間をかけて滑るように1/4になった鉄の棒が落ちてゆく。

「ほとんどがコピペなノだ」
「いいじゃないか、同じなんだから」

 このとき、俺たちは初めて認識したのだ。ハルミが剣の天才であることを。
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