異世界でカイゼン

soue kitakaze

文字の大きさ
64 / 336

第64話 ええっ、それも斬るの!?

しおりを挟む
 舞台にはゼンシンが上がっている。刀のチェックのためだ。そしてOKの合図とともに刀をハルミに返す。

「これから、この鉄の棒を3本束ねたものを斬ってご覧に入れます」

 まだ先ほどの熱気も覚めやらぬ会場は、ハルミのさらなる発言にざわめきを増す。

 まさか、まだこの上があるのか。3本だって? それはいくらなんでも無謀だろう。5cmが3本ということは何センチになるんだ? 計算ぐらい自分でしろよ。単純な足し算じゃダメだろ。それよりあの剣だ、おかしくないか? ああ、俺も気づいていた。なんであんなに反っているんだろう。失敗作じゃないのか。それに片刃みたいだな。

 よいぞよいぞ。そういううわさ話は大好物だよ。どんどんやってちょうだいませませ。

(ネタが古いノだ)

 オウミ、やかましいよ。うわさ話が広まれば広まるほどに、この刀は神秘のものとなる。そうすると、どんなに金を払ってでもその秘密を知りたいという人が現れるい違いない。そしたら高値で売れるのだ、うっしっし。

 さあハルミ、あと一踏ん張り、頼むぞ。

 舞台に3本の鉄の棒がセットされた。

(ん? ユウ。5cmの鉄の棒が12cmの穴に3本も入るノか?)
(9.33cmの穴* があれば入るよ)
(くっ、この暗算野郎め!)
(伊達にそろばん4段ぐらいの技能の持ち主じゃねぇよ、ふっふっふ)
(なんか悔しいノだ)

 ハルミはゆっくりと鉄の棒に近づく。そろそろ間合いに入ったかな、と思う間もなく再びそれは唐突に始まった。

 ギンッ。という鈍い音が小さな火花を伴って会場に

(もう、それはいいのではないノか)
(我も、もう飽きたのだヨ)

 こらえ性のない魔王たちだなもう。分かったよ、ここはすっとばそう。

 見事に寸断された3本の鉄を、アチラが持って会場の人に見せて回る。

 手に取って見たいという人には手渡しもする。切り口まで見せれば、もうインチキとかマジックだとか、疑う人もいなくなるだろう。

 よくやった、ハルミ。それでいい。もう戻ってきてよいぞ。これから広場に移動してオークションによる即売会……ハルミ? どうした。なんで突っ立ったままだ??? おーい。

「みなの者、聞いてくれ。いま私は鉄を斬って見せた。だが、この中には斬った鉄がニセモノではないかと疑う者もいるのではないか?」

 ないない、いないから、そんなやついないから。なんのために切り口を見せたと思ってんだ。軟鉄ではあっても、あれは正真正銘の鉄だ。中をくり貫いてあるわけでも混ぜ物がしてあるわけでもない。これから顧客になろうって人たちに、わざわざ疑惑を持たせてどうするよ。

 現場のノリで予定外のことすんじゃねぇよ。やめてくれぇ。誰かハルミを止めてくれえぇぇぁぁぁぁ!!

「そこでこちらから提案だ。この中に自分の剣を斬ってみろと思うものはいないか? この斬鉄のハルミがそれもたたき切って見せようではないか」

 もうだめだ、完全に酔ってやがる。自分にだけじゃなくあの刀にもだ。しかも自分のことを斬鉄のハルミとか言ってやがる。ミノウ、あれはお前の責任だからな。

「ユウさん、大丈夫なのでしょうか」
「ゼンシン、俺が知るわけないだろ。俺はアドリブには弱いんだよ!」

 しかし会場の反応はいまいちであった。よく考えれば当然のことだった。

 自分の持つなけなしの剣をこの場に出して、斬ってくださいなんて言えるやつがそうそういるはずがないのだ。

 斬られたらその剣は終わりだ。傷がついただけでも価値は半減だ。そんなリスクを負ってまで、誰が自分の剣を提出などするものか。

 よし、このままでいい。申し出がなかったということで終わりにして、オークション会場に。

「分かった。私の剣を提供しよう」

 おおおっ!! というざわめきが起こる。ひぃぃぃ!! と俺は悲鳴を上げる。止めてくれよ。どこのどいつだ、そんな酔狂なやつは。

 もう会場は完全に暖まったのだ。この温度のまま広場に連れて行き、6本のニホン刀を売りさばけばそれでいいのだ。

 それでいいのに。ハルミのアホにこの酔狂おっさんめ。ところで、誰だこいつ?

「あ、あれは。トヨタ侯爵様だ……」

 じじいが言った。知り合いか。しかし、なんだそのいかにも金を持ってそうな名前のおっさんは。

「知らんのか。となりの領地で一番の資産持ちとされる貴族様だ。超有名人だぞ」
「そんな人がなんでこんな小さなお祭りに来てんだよ」

「もしかすると、金めっきに関係したことかもしれんな」
「え? 金めっきって。そんなにあの話は広がっているのか?」
「貴族の情報伝達は凄まじいものがあるからな」

 ふむ。そうか。これはいい買い手になるかもしれないな。来てくれたことはむしろ好都合だ。だがそれはこの難題をクリアしての話だ。

「たまたまであるが、今ここに1本の剣を持ってきているのだ。それでも良いか?」
「あ、ああ。かまわない。どんな剣だ?」

 大金持ちが持っている剣。それはまずいぞ。いくらニホン刀でも限度というものがある。あの鉄の棒は軟鉄だ。だから簡単に斬れたんだ。相手が炭素鋼なら、斬れるかどうか俺にも分からない。たぶん無理だ。

(どんな剣なのだろう、楽しみなノだ)
(貴族が持っているぐらいだから斬馬とぉぉぉぃぃ)
(いい加減にそこから離れろ!)
(ミノウはそればっかりなノだ。我はロンギヌスのやぁぁぁぁぇぇ)
(それは槍だ!)

 トヨタ侯爵が従者に命じて持ってこさせたのは、とても短い剣であった。しかし、太さが半端ない。

「これはグラディウスと呼ばれる剣なのだが、やってみるかね?」

 さすがのハルミもこれには怖じ気づくだろう。ってか怖じ気づけ。ここで引いても別に恥ではないのだ。それよりこのあとの商売のことを。

「分かった。それも斬って見せよう」

 考え……るわけはなかったね。もうシラネ。



*計算式 √3×2.5 + 2×2.5
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...