異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第65話 斬鉄の剣士誕生

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「分かった、それも斬ってみせよう」

 と、勝手なことを言ったハルミであったが、話はそう簡単ではない。

 剣を穴に固定するのが困難なのである。柄の部分を穴に押し込めばいいようなものだが、そうすると剣の柄は傷だらけになる。戦場で使う剣ならまだしも、芸術価値のあるものならそれで価値はなくなる。

 斬れても斬れなくても、それは剣の持ち主に対してあまりに気の毒というか失礼ではないのか。そういう逡巡が俺たちにあった。

 そのことを真っ先に察したのはトヨタ侯爵であった。

「そうか、剣の場合はそこに固定するのが困難であったな。よろしい、それではハルミ殿。私と立ち会ってもらいましょう」

 えぇぇぇぇぇ? おいおい。それはいくらなんでも。

「分かった、そうしよう」

 誰かこいつを黙らせて! ソウ、お前が飛んで行ってキスでもしてやれ! なんでもいいから口を塞げ。まんなんらいふを口に10個ぐらい突っ込んでやれ! のどが詰まるぐらい我慢させろ!

 もう俺の予定なんかぐじゃぐじゃだ。どうすりゃいいんだよ。

(なんか、面白いことになってきたノだ)
(こういう楽しいことがあるから、人間社会に住むのが止めらないのだヨ)
(なノだ、なノだ。魔王はぼっちでつまらん)
(それなー)

 ふたりとも、あとで羽根をむしってやるからな。

「それでは、私も少しだけ準備をさせてもらう」

 そう言って侯爵は上着を脱ぎ従者に渡すと、袖をまくった。

 改めて侯爵を見ると、態度に貫禄があるわりには年齢は若いようだ。前の世界の俺より少し若いぐらいではないだろうか。
 しかし、筋肉のつきかたがまるで違う。胸板は厚く二の腕の太さなど俺の倍はありそうだ。

(3倍ぐらいありそうなノだ)
(ちょっとぐらいさばを読ませろよ)

「トヨタ侯爵は剣の達人と聞いている。ハルミにとってこれは良い経験になるであろう」

 じじい、にまにま笑いながら見てんじゃねぇ。キモいっての。今は良い経験を積んでいる場合じゃないだろ。これであの剣が斬れなかったら、今までの苦労が台無しじゃねぇか。ニホン刀が売れなかったらどうするつもりだよ。

「ちょっと待っていただけませんか、侯爵様」

 そこで不意に声をあげたのはゼンシンだった。観客を含めた全員がこちらを向く。なんか照れちゃうな。

(お主を見ているわけではないノだぞ)

「本日は、その刀――ニホン刀といいますが――を使った剣技を見せる日です。ハルミさんにとっての晴れ舞台です。立ち会いをするような用意がなにもできていません」

 ゼンシンなりに心配しているのだろう。ゼンシンにとっても晴れの舞台のはずだ。自分の作った刀の、だけど。

「分かっておるよ。この剣をそのニホン刀? と言ったか、それで斬れるかどうかを試すだけだ。そうだよな、ハルミ殿」
「その通りだ。しかし、どうやってそれを……?」

「立ち会う、と言ってしまったので誤解を生じたようだ。訂正しよう」
「と言われますと?」

「ハルミ殿は左下から上に向かう太刀筋のようなので、それを私が左上から下に向かって振ることで迎え打つ、ということでどうかな?」
「うむ、それなら刀同士が真正面からぶつかることになる。弱いほうが折れるという力勝負というわけだな。願ってもないことだ」

 願えよ! 当たらないように願えよ!!

(これだけ動揺するユウを見るのは初めてなノだ)
(意外と、小心者なのだヨ)

 おまいらやかましい。あとで羽根をクリップで留めて天日干しにしてやるからな。早く乾くように塩もふってやる。

 俺の意向などお構いなしに、ハルミはうっきうきで侯爵の提案に乗った。自分と刀の能力を誇示したくて仕方ないのだ。

「しかし私ではハルミ殿がいつ剣を抜いたのか分からない。誰かかけ声をかけてはくれないか。いち、に、さん。という具合に」

 じゃあ、僕がやります。とアチラが申し出た。

 あーあ。もうどうなることやら。

(わくわくするな。しかし、ハルミが負けることはないから心配するなヨ)
(うんうん、なノだ)

(え? なんでそんなことが分かるんだよ)

(あのグラディウスはただの飾り物だヨ。硫黄やリンなどの不純物が多量に入っている。あれを錆びないように手入れする担当者は大変であろうヨ)

(不純物? ミノウ、なんでそれが分かるんだ?)
(ん? シャーマンスキルを使ってちょちょいっとのぞいたのだヨ)
(なんだシャーマンって?)
(無機物などと交信するスキルのことだヨ。我は属性が土であるから、もともと土の中にあったものなら大抵のものと交信可能なのだヨ)

(え? なにそれ怖い)
(別に怖いことはないヨ?)
(だって、鉄のキモチが分かってしまうんだろ? 俺たちはその鉄を熱して溶かして固めたあとさらに叩いて伸ばしてんだぞ?)

(ややこしい言い方をするでないのだヨ。無機物に感情はないぞ。その性質が分かるだけだヨ)
(あ、そういうことか。じゃあ安心し……待て!? ということは、お前は物質の成分が分かるってことか?)
(完璧にでなければ、分かるのだヨ。それがどうした?)

 ああ、神よ。よくぞこの手下を俺の元に授けてくださいました。感謝します。

(なんかデジャブなノだ)
(いったい、なにがあったのヨ?)

 俺は、タダで元素分析ができるアイテムを手に入れていたのだぁぁぁぁ!!

(タダでとかアイテムとか、止めて欲しいのだヨ)
(こやつは我にもそう言ってたノだ)

 そうこうしているうちに、舞台の上での準備は整った。

「じゃあおふたりとも、準備はいいですか」
「「ああ、いいぞ」」

 ハルミはニホン刀を鞘に入れ、腰を落として柄を握る。そして侯爵はグラディウスを中段に構えた。どちらの型もとても決まっている。
 達人というのはみなこういうものなのか。年齢を考えると、ハルミの剣技は称賛されるレベルなのかもしれない。ただの馬鹿力女とかいってすみませんでした。

「それでは、さんと言ったら初めてください。いきます。いち」

 静まる会場。ことの成り行きについて行けず、ミノウになにを分析させようかばかりを考えている俺。両手を胸の前で結んで祈るミヨシ。可愛い孫娘を溺愛の目で見つめるじじい。あと、いろいろなその他大勢。

(((おいっ!)))

「にい。さん!」

 キン、という意外と小さな音と共に、恐ろしいほどの火花が会場に舞った。それはあっというまに夜空を焦がす雷神の閃光となって、会場中のあらゆる人々に降り注いだ。その光景に人々は我を忘れた。

 俺を除いては。

 あぁぁぁ、か、刀が、ニホン刀が折れた。折れてしまったぁぁぁぁぁ。俺のニホン刀がかかか。

(こやつはいつもこうだ。ここは先に感動する場面なノだ)
(うむ、ユウには人間として大切なものが欠けているな。それと、どさくさ紛れに自分の刀にしてるしヨ)
(まったく、油断も隙もあったもんじゃないノだ)

(お前らさっき、大丈夫とか言ってなかったか?)
「あ、いや、我は言ってないノだ。言ったのはミノウなノだ)
(あ、お前、我に責任を押しつけてずるいぞ。さっきは同意してたじゃなないかヨ)

(そんなこと言ってないノだ、オウミこそ嘘をついてぼかぼかぼか)
(いや、我はちゃんと聞いたヨ。うんうんと言ってたではないかこのやろこのこのぼか)

(痴話げんかは止めろ!!)
((きゅぅぅぅぅぅぅ))

 やっぱり、こういうとこは同じか。

「まいったな、これは」
「折れちゃった。私のニホン刀が……」

「いや、そちらの刀はすでに試技を2回、そして4本分の鉄棒を斬ったあとだ。それなのに折れたとはいってもまだ繋がっているではないか。しかし私の剣は新品だというのに」

 事前に2本斬ってるから、計4の6本だけどな。

 侯爵の剣は折れたというよりも、根元から粉々に砕け散っていた。

「ふたりとも、そこを動かないでください!」

 そう言って乱入したのはアチラとゼンシンだった。

 競技者は素足でと決められている。そのふたりが、刃の破片が飛び散った舞台の上で動くと危険だとそう判断したのだ。

 ゼンシンの場合は、折れたニホン刀が気になって仕方なかったのかもしれない。

 侯爵の従者も交えて破片拾いにいそしむ中、侯爵は言った。

「私の負けです、ハルミ殿。このグラディウスは、当家のお抱えの刀工が特別に強化したしたものだったのです。4、5回は打ち合えると思っていたのですが、たった1回でここまで完璧にバラバラにされるとは。いやはや恐れ入りました。刀だけではありませんね。貴女は斬鉄の剣士の称号にふさわしい方だ」

 侯爵が自ら敗北を宣言してくれた。それを聞いた会場からは歓声があがり、ふたたび熱気に包まれた。一番助かったのは俺たちだ。これでニホン刀を高値でさばける。いろいろあったが結果オーライである。

 そしてここに、新たな伝説が生まれた。ハルミがよくやるいつもの自画自賛ではない。魔王のその場限りのおべんちゃらでもない。

 公の場でトヨタ侯爵ほどの名を持った人が命名してくれたのだ。この言葉には、痛みに耐えてよく戦った、感動した。ぐらいの波及効果がある。

「斬鉄の剣士・ハルミ」の誕生である。
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